セシアンルート 序章
第四章 〆
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【セシアン√】
後夜祭のパーティーを抜け出したオレは、一人夜道を散歩していた。
夜は静かでいい。
魔眼に群がる女の相手をしなくて済むから。
しばらくぶらぶらと時間を潰していると、背後から鈴のような透き通った声に名を呼ばれた。
心地いいその声の持ち主の姿を想像して、表情が和らぐ。
「リルちゃん!」
振り返れば想像通りの可愛い人物が、街灯の灯りで照らし出された。
「どうしたの?こんな所で」
不思議そうに首を傾げる彼女が可愛らしくて、自然と笑みが溢れた。
「んー、夜風に当たりにちょっとね。そーゆーリルちゃんは?」
「貴方と一緒。抜け出して来たの」
「あはは、リルちゃん、人気者だったもんねぇ」
交流祭では学園代表として、自身の力を存分に証明したベリル。
後夜祭のパーティーでは、言わずもがな彼女は大衆の注目の的で。
今まで散々攻撃してきた相手を、次の瞬間にはもう祭り上げている始末。
そんな奴らに、心底虫唾が走った。
彼女はそんな奴らが軽々しく接していい存在ではない。
彼女のことを皆に認めさせたかった。その願いは叶ったのだが────
(ちょっとまずったかもなぁ。こうも早く余計な虫が群がってくるなんてね。……まぁ、これでベリルの力はダイヤ生にふさわしいと証明できた。これで少しは、女どものくだらねぇ言いがかりも減ってくれるといいんだけど)
ベリルと他愛のない話をしながら夜道を歩く。
相変わらず、彼女はオレを好きにはならない。
(最初はそれが心地よかったけど……今は───)
───オレは、女が嫌いだ。
いとも簡単に魔眼に惑わされ、皆理由もなくオレに好意を寄せてくる。
オレに向けるねっとりとした甘い視線も、あの甲高い声も、キツい香水の匂いも───全てに吐き気がする。
それにあの、集団で〝標的〟を追い詰めるようなやり方も。
群れで行動し、孤立させた相手を突き堕とす。それでいて、その責任は自分ではない誰かに押し付け合い、自分を正当化しながら再び仲間を作っていく。
特に貴族の女はプライドも高く、女特有の上下関係が顕著に現れた。
だからオレは、魔眼に魅了された貴族の女を平等に相手した。
オレのせいで次の〝標的〟を作りたくない。オレはアイツらの正当化の理由になりたくないから───。
オレは嫌悪しながらも笑顔を振りまいた。
我ながら、最低な男だと思う。
だがこれが、オレにとっても相手にとっても最善だったのだ。
────しかし、例外がいた。
彼女は───彼女だけは、魔眼に魅了されなかった。
その時、すぐに分かった。彼女は自分より魔力量が高いのだ、と。
オレは魔眼のおかげで人より少し魔力が多いため、皆魔眼の力を跳ね除けることができず魅了にかかっていくのだ。
それで彼女が自分の能力を偽っていると気が付いたのだが、その時そんなことはどうだってよかった。
初めてオレ自身を見てくれる女性がいた。
最初は魔眼の効かない子に興味があっただけ。けれど次第に、彼女への気持ちがどんどん大きくなり溢れていった。
それと同時に、魔眼に魅了された子たちへの罪悪感が押し寄せた。
こんなに尊い気持ちを、魔眼の力で強制的に植え付けてしまうのだから。
「やっぱり、オレなんかが好きになっちゃ……いけないよな」
「え?」
「……あ、やべ。オレ……今声に出てた?」
「ええ。えっと、何が?」
「あ〜、寮の近くにいる野良猫のことなんだけどさぁ、これがまた可愛くって。全然懐いてくんねーんだけど!」
「ふふ、猫ちゃんのことね」
オレが適当に誤魔化したことを知る由もない彼女は、無邪気に笑う。
彼女にも、オレを好きになってもらいたい。
なんて───
(魔眼の力も効かないベリルが、オレを想ってくれるわけ、ねぇのにな)
オレは無意識に彼女へと伸ばした手を、ぎゅっと握りしめた。
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