予期せぬ事態
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休憩時間が終わり、いよいよ、交流祭最後の試合が幕を開ける。
「───いよいよだね。僕たちも観客席で見ているから。二人とも、ベリルを頼んだよ」
「お任せを。彼女には指一本触れさせません」
「もしかしたら、ベリルの出番ねぇかもなぁ?」
「す、少しくらい出番を残しておいてね? ただでさえさっきの試合、何もしていなかったんだから……」
「ふ……緊張しているかと心配したが、そんなことはなさそうだな」
「リルちゃん、無理はしないでね! みんなで応援してる!」
「ええ!」
みんなの応援を背に、私はレドとシェナと共に演術者の入場口へと向かった。
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相手チームは、対面の入場口にいるはず。
そこに姉様がいるのか、それはまだ分からないけれど……きっと、戦うことになる。
入場口手前で会場係が演術者のエントリー確認を行っている。
私たちが入場口を通過しようとすると、それを会場係の女性に止められた。
「───お待ちください。これより先、非演術者の同行は禁止されております。お見送りはここまででお願い致します」
会場係が入場を止めたのは、三人ではなく、レドとシェナだった。
「は? 見送り?」
「我々も彼女同様、演術者としてエントリーしていますが?」
レドが言うと、会場係は怪訝な顔をしながら首を横に振った。
「いいえ? 失礼ですが、魔導学園の三試合目代表者はベリル・エーデルシュタイン様のみと伺っております。皆様からお預かりした演術者登録票にも、そのように記載されておりますので」
「え……?」
「いえ、そんなはずは────」
係から確認しろ、と渡された紙には、三試合目の出場者は私の名前のみが記入されていた。
「ふ、ふざけんな! なにかの手違いだろ! ルデンが書いた登録票は俺たち全員も確認して────は? お、おい、この字───」
「これは……ルデン様が書かれた文字ではありません。登録票が……すり替わっています」
「ど、どういうこと? 何故、そんなことに───」
困惑する私たちをよそに、会場係は時間を確認するとコホンッと咳払いをした。
「───そろそろ三試合目が始まりますので、同行者様はお引取りを」
「お、おい待てよ! 俺らが渡した登録票には、ちゃんと俺とレドの名前も書いてあっただろッ!!」
「いかなる状況であろうと、出場者の変更は受け付けられません。これ以上ここでお騒ぎになられるようでしたら、魔導学園には棄権していただくことになりますが」
会場係は人を呼ぶと、レドとシェナの前に立ち塞がった。
「くそ……っ、どうなってんだ!」
「……仕方ありません。ベリルさん一人を出場させるくらいなら───棄権しましょう。ルデン様もお許しになるはずです」
「……っ。───ああ、そうだな。ベリル、さっさと運営に棄権の報告を───」
「…………」
私は、二人に向けて静かに微笑んだあと、入場口へと歩みを進める。
「……っお前、まさか一人で出るつもりじゃねぇだろうな!?」
「そんな……! おやめください、ベリルさん!!」
「レド、シェナ。私、行ってくる。こう見えて、私の魔法は戦闘向きなの」
「ッそういう問題じゃ───」
「貴方たちに私自身のことを打ち明けてから、なかなかそのタイミングがなかったのだけれど……化け物だと言われた力を、まだ全部、真に見てもらっていないから。私の姿を見て、尚、共にいてくれるのなら───私は姉様の前に、堂々と立つことができる。みんなの役に立てるのなら、私は〝化け物だって構わない〟と、そう……言えるから!」
私は二人に、とびきりの笑顔を見せた。
「ルデンたちにも伝えて。〝私が負けることはありえない〟って」
私は二人に背を向けると、そのまま振り返ることなく入場口へと向かった。
二人が私を呼び止める声は、心配しているような、それでいて少し怒っているような。そんな声だった。
(これ……たぶん勝ってもみんなに怒られるコースね)
けれど、迷いはない。
ここでスピネル姉様と戦わなかったら、真の意味で、前には進めない気がしたから。
(自分のためでもあるけれど……この力は、みんなのために使いたい)
スゥ──と呼吸を整え、会場アナウンスと共に決戦の場へと足を進めた。
魔術学園の入場で、会場全体が歓声に包まれた。
それに対して、私には歓声とは程遠いざわめき。
それもそうだろう。
元より私は、魔導学園の学生からも代表者として歓迎されていないし、また相手学園も一般の観客も、まさかこちらが一人で出場してくるとは誰も思うまい。
対峙した魔術学園の代表は、一人で登場した私に少しばかりの同情の眼差しを向けた。
「……ふん、まさか一人で出てくるとはね」
「……いいんですの? これなら早く決着がつきそうですわね」
「…………」
姉様は何も言わずに、私を見据えていた。
「……姉様」
(やはり、出場してきたわね)
これで予想が外れていたら、悲惨だった。
(今こうしてこの場にいることが無駄になるところだったもの)
姉と戦うことが出来る。
私は自分を鼓舞するように、口元に孤を描いた。
その様子が気に入らなかったのか、スピネルは眉間に皺を寄せた。
「……随分、舐められたものね。私たちを倒すのは、貴女一人で十分だということかしら」
姉の声には、明確な怒りがあった。
「……どう捉えていただいても結構です。私は〝化け物〟ですので」
「……。…………そう」
姉様は一瞬、何か言いたそうに口を開きかけたけれど、その先の言葉を発することはなかった。




