表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
第四章 〜過去〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/147

最終戦


※次回エピソードで〝シナリオ〟の分岐があります。

会話の内容が変化するため、目次から

〝一番好感度の高いキャラクター〟

のシナリオ(エピソード)に飛んでください。



 


 ───互いに開始位置へとつく。


 審判を務める王宮魔導師の男が、両者の中間に立ち、声を張上げた。


「それでは────初め!」


 声が会場全体に響き渡る。

 その声を合図に、試合は始まった───。


「ふん、のこのこと試合に出てきたからには覚悟があるんだろうなァ! キミが女性だろうと関係ない! 遠慮なく行かせてもらうぞッ!」


 姉様の左側にいた男性が、手に持つ杖を私に向けて突き出し炎の魔術詠唱を始める。


「たかが一人、スピネル様のお手を煩わせるまでもありませんわッ」


 同様に、右側の女性も水の魔術詠唱を始めた。


(同時───いえ、左側から先に攻撃が来るわね)


「くらえェ!!」



「「「ベリルッ!!!」」」



(ん? なんだか今、みんなの声が聞こえたような────)


 そんなことを考えながら、飛んできた炎を片手で軽く受け流した。追撃の水魔術も同様に。


「なっ!?」


「……へっ!?」


 スピネル以外の代表学生が驚きの声を上げた。


「……っ!」


 スピネルはというと、驚きよりも、「やはり、」といった、まるでこの結果が当たり前で、分かっていたというような表情でその場に立っている。



 ───────────────────



 一方、ルデンたち観客席では、食い入るようにベリルの姿を目で追っていた。

 ルデンは今起こったことがにわかには信じがたいと目を見開き、その状況を言葉にした。


「か、かわした!? ───いや、あれは……()()()()()……のか?」


 レドも主人と同様に目を丸くしている。


「え、ええ────分かりづらいですが、攻撃が当たる直前で、優位性の取れた魔法を相手の魔術にぶつけて、相殺しています……!」


「予備動作が全くなかった……まさか───無詠唱、か……?」


「ふはっ……! すげぇなベリル……!」


「な、なんかよく分からないけど……! リルちゃんが無事でよがっだぁ〜〜」



 ───────────────────



 無論、対峙する代表学生もそのカラクリを理解するのにそう時間はかからなかった。


「む、無詠唱……!? ど、どういうことですの!?」


「な、なぜ攻撃が当たらないッ! クソッ! クソォッ!!」


 炎には水を、水には氷を、風にはより強い風を─────。

 次々に相手の魔術を打ち消していく。


 錯乱しながら闇雲に魔術を打ち込む二人に、スピネルは声を張上げ制止させようとしている。


「お、落ち着きなさい二人とも! 無闇に魔術を放つのは魔力の無駄です! これでは相手の思う壺───」


 そんなリーダーの制止も聞こえていないのか、男の方が杖を高く頭上に掲げた。


「ええい! ではこれならどうだ! 〝業火よ、我が名に従う炎の精よ! 焼き尽くせ!〟」


(……へぇ、上級魔術も使えるのね。学園代表に選ばれるだけの実力はある、ということね)


「ま、待ちなさい! それは殺傷魔じゅ────」


「くく……ふはは……!! くらえええええ!!!」


 叫ぶ男に、私はため息をつきながら手をかざした。


「声が大きい」


 上級魔術を放とうとしていた男の上に、大量の水魔法を上からかける。

 炎は水と合わさり小規模な水蒸気爆発が起こった。


「きゃあっ!?!」


「ぐわぁっ───!!!」


「……っ」


(姉様は───すんでのところで防御壁(シールド)を張ったようね……さすがの判断だわ)


「ねぇ、そんなに大きな声で詠唱したら、相手にどの魔法を使うかバレてしまうわよ? まぁどちらにせよ、無詠唱でもない限り魔術の発動を見てからでも対策は取れるのだけれど」


「……っ! っは!」


 私が近付こうとすると、スピネルは氷の魔術で茨の道を作った。

 だがそれも、私が指をパチンと鳴らせば一瞬にして砕け散る。

 徐々に、彼らとの距離が近付いていく。

 さらに姉様の攻撃は続いたが、その全てを受け流してみせた。


「ひっ……!」


 女子学生は膝を震わせながらその場にへたりこんだ。


「ばっ、化け物……!!」


 男子学生も尻もちをつき後ずさろうとしている。


(もう、まともに戦えているのは姉様だけね)


 誰が見ても、私と相手との力の差は、歴然だった。

 どうやら姉様以外の二人は、圧倒的な力を前に腰が抜けてその場から動けないようだ。

 姉様も、そんな彼らを庇うためか防御魔術に専念していて、攻撃に手が回っていない。


「────姉様」


 一歩、また一歩───前に進むたび、姉様が造り上げた防御壁(シールド)を正面から砕いていく。

 そして今、最後の術を破って彼女の前に立った。


「……っ」


 私のトドメを警戒した姉様は、杖を構えながら仲間を庇うように片膝を地面についている。

 姉様は攻撃魔法を放たれると思っていたようだが、実際私がしたのは、言葉をかけることだった。


「姉様。私は……()()()から、前に進めずにいました」


「……」


 あの日、と曖昧な表現をした私だったが、姉様は察したようだった。


「自分を偽ることで、自分を守っていました。それが正しい方法だ、って───傷つけずに済むと、傷つかずに済むと、信じていたから」


 私は()()の方に一瞬だけ視線を送る。


「だけど───それは間違っていました。私は……ただ、あの日のことから目を逸らし、逃げ続けていただけ。私が、私自身が一番、自分の力を疎み許せないでいました。でも、そんな私にも、〝仲間〟と呼べるかけがえのない存在ができたのです。彼らが信じていてくれる限り、私は〝化け物〟のままでいい」


 私は、手の平を頭上に掲げ、自分ができる最大級の魔法を展開する。


「貴女になんと思われようと、あの日、貴女を庇い前に立ったことに後悔はありません。今でも私は、貴女を───姉様をお慕いしています」


「……っ!」


 何重にも広がる魔法陣は、その光と大きさで周囲を圧倒させた。

 私が今、放とうとしているのは───〝光魔法〟。

 その全てが最上級魔法と分類されるそれは、私が最も得意とする魔法であり、私の精霊から授かった唯一の魔法。

 その詠唱式は────。


「────原初の光(ダイヤモンド)


 その瞬間───宙に浮かんだ魔法陣が砕け散り、この場に一筋の光が走った。

 その光を直に浴びた相手代表者は、姉様以外その場に倒れ込んだ。


 しばらく呆気にとられていた審判が、ハッと意識を現実へと戻し、慌てて駆け寄ろうとしてきた。


「……ご安心を。彼らは気絶しているだけです」


 魔法自体は派手ではあるが、それを食らった学生たちの身体や服にも、一切傷はなかった。

 姉様は片足を地につけたまま、力なく俯いた。


「……身体に力が入らない。体内の魔力を全て吸い取られたのね……」


「───はい。己の魔力を一定量犠牲にする代わりに、光に包まれた対象者の魔力を空にする魔法です」


「…………ふっ」


(え……姉様が……笑って…………?)


「……(わたくし)は、貴女の才を超えるため努力を続けてきました。魔術学園に入って魔術を極めれば、あるいは貴女を超えることができるかもしれない、と。……けれど、(わたくし)()()貴女に負けてしまったのですね」


「……」


「───(わたくし)も、あの日のことを忘れたことは一日だってありませんわ。あの日───魔物の前に立たなくてはいけなかったのは、(わたくし)の方だった。本来であれば、姉である(わたくし)が貴女を守らねばならなかったというのに……。情けない姿を晒した挙句、妹に助けられた(わたくし)は、貴女と、そして(わたくし)自身に腹が立ち、ついに……(わたくし)は貴女に、取り返しのつかない〝言葉〟を浴びせてしまった。自分の才能がいとも簡単に追い越されていく恐怖と嫉妬……そんなくだらないプライドに囚われ、何年も……貴女に謝罪することができなかった……。そんな(わたくし)を……貴女はまだ、姉と慕ってくれるのですね」


 姉様は声を震わせていた。

 悔恨と自己嫌悪────そんな感情が入り交じったような笑みで私を見上げた。


「───魔術学園(わたくしたち)の負けです。見事な戦いでしたわ」


 姉様は、その勝敗が自分たちにとって残念な結果に終わったにもかかわらず、清々しい表情で高らかに声を上げた。

 魔術学園の降参宣言を合図に、会場中が歓声に包まれる。

 姉様の降参宣言を受けて、魔導学園の勝利が決まったのだった。


 熱い歓声を一身に受け戸惑う私に、姉様は最後に一言だけ言葉を残した。


「次は負けませんわよ───ベリル」


「!」


 姉様はそう言い残すと、自力で立ち上がり、係と共に倒れている二人を連れてこの場から立ち去った。


(今はまだ、ギクシャクしてしまうけれど……いつか、また────)


 去っていく姉の後ろ姿をぼーっと眺めながら、いつかまた来てほしい───いや、来るであろう未来を想像しながら、少し照れくさい気持ちを胸に抱き微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ