第一・第二試合
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「─────で、初戦は敗北、と」
ピシャリ、と。
気まずい空気を切り裂くように、容赦のない事実をラルドが口にする。
「本っっ当に!! 申し訳ございませんでした!!!」
「き、気にしなくて全然大丈夫だから! ほら、だから土下座なんてしなくていいから! ね!?」
控え室にて。
セシアンは帰ってくるなり、開口一番に謝罪と、それを表現するポーズで猛省していた。
それを慌ててルデンが慰めている、というのが今の状況である。
「ふふ、これほど綺麗な土下座が見られるとは」
「あんなに意気揚々と出て行って、まさか負けるとはな」
容赦のないラルドの言葉は、まるで宝刀のような斬れ味で。
「ゔッ……(死)」
小さくなっていたセシアンが更に落ち込んで、ペチャっと完全に床に伏せてしまった。
これが……いわゆる〝土下寝〟というやつなのだろうか。
「…ククッ……死体蹴りやめて差し上げろ……ププッ」
その様子に、シェナは懸命に笑いを堪えている。
堪えられていないのだけれど。
「し、仕方ないわよ。だって、お相手も男性だったのだし、審査員の王宮魔導師様も……まさかの全員男性だったのだし……」
(まさか本当に、ラルドが危惧した通りになるとは……)
……つまり、セシアンの魔眼は全くの無意味と化したのである。
「それに、負けてしまったとはいえ1点差だったじゃない。惜しかったわ! セシアンの魔法もすっごく綺麗だったもの! 気を落とすことなんてないわ!」
「うん……ありがとう……。でも純粋な勝負に負けた悔しさが……ゔぐぐ……」
「まぁ、相手は学生の身でありながら魔術一座で活躍する、魅せの魔法の現役だったからな。正直今回は相手が悪かった。それよりも次に切り替えろ。次取られたら本当に負けが確定する」
ラルドはセシアンに対して厳しい発言もするが、なんだかんだラルドもセシアンを慰めてくれていた。
こういうところが二人の良き関係であり、良きバランスなのだろう。
シェナもしゃがんで、地に伏せるセシアンの背中を慰めるように叩いた。
「ま、次はいけるだろ。なんてったって全員出場なんだからな! お前の魔眼も今度こそ出番あるだろ」
「うん……みんなありがとう。次こそ役に立ってみせるから……!」
「その意気ですよ、セシアンさん。……と、そろそろ二試合目が始まりますね。移動しましょうか」
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────二試合目、擬似空間(森)。
「へぇ……二試合目は擬似空間で行うのね」
擬似空間とは、魔法によって再現された、現実には存在しない創り出された空間のこと。
ちなみに、旧魔術邸の一件で私たちが過ごしたあの世界も、擬似空間に分類される。
巨大な四角い箱の中に創る、巨大な箱庭のようなものである。
したがって、箱の端まで行けば景色が繋がっていてもその先に行くことはできない。
今回の擬似空間は森をテーマに創られているようだ。
宙に浮いている水晶が私たちの映像を色々な角度から記録し、その映像が大聖堂の巨大水晶版に投影されるという仕組みらしい。
「はっ、森林戦ならギルドの依頼で飽きるほどやってるからな! 楽勝だろ!」
シェナは余裕そうな表情で、両の手の拳を合わせる。
「確かに……思えば私たち、森で戦うこと多いわよね……」
依頼もしかり、旧魔術邸で竜種と対峙した時もそうだった。
慣れている、と言えばそうなのかもしれない。
「で、これが俺たちが守らなくてはならない宝石を模した結晶か。……予想より大きいな」
「ルデン様、先程この空間の地図を係から預かっていましたよね? それと、何やら魔導具も」
「うん、どうやらこの地図はマップ上に宝石の位置が写し出される特殊な紙のようだね。これを見ながら、今与えられた15分間で両陣営作戦を立てろ、ということかな。それと、この魔導具は耳につけるものらしい。なんでも、今王宮魔導師たちが開発している魔導具のサンプルだとか。遠く離れた位置にいても、互いの声が聴こえるんだって」
「へぇ、便利だな。前衛と後衛の意思疎通ができるってわけか」
試しに魔導具を装着し、「『あー、あー』」と声を出してみると、本当に離れた位置にいても会話ができてしまった。例えるなら、距離無制限の糸電話、と言ったところか。
「ルデン、少しマップを見せてもらえるか?」
「もちろん。───ラルドはどう思う?」
「ふむ……。今がこの位置だとすると……ここだと四方を警戒しなくてはならないのか。防衛には地の利が悪いな……」
私もチラリと広げられた地図を覗き込む。
「マップ上には地形と宝石の位置……」
(ということは……動くのかしら、コレ)
物は試し、と地面に鎮座する宝石に触れ、浮遊魔法をかけてみる。
「あ、浮いたわ。この宝石動かせるわね!」
「あ、ほんとだー。……。…………て、えええええええ!!?!?!!」
「……おい、セシアン! うるさいぞ!! こちらは真剣に考えて────……は?」
「見て、みんな! 浮いたわ〜」
上下にふよふよと動かしてみせる。
「……なっ!?」
ルデンとシェナの声が綺麗に重なる。
「……!」
レドも珍しく表情を変え驚いている。
ラルドはというと口をパクパクとさせながら、宝石を指さす手を震わせている。
「なっ、え、おま、なんで───い、いやそれより一旦置け! そんなに上下させて割れたらどうする!」
「だ、大丈夫だと思うけれど……そうね、万が一があるものね、ごめんなさい……」
しゅん……としながら、宝石を地面にそっと降ろす。
「ベリルさん……浮遊魔法が使えるのですか?」
「ええ、あまり得意ではないけれど……」
「お、お前、図書館や時計塔でよく高いところに置いてある本や物を、背伸びしながら懸命に取ろうとしていただろう! その度に何故近くにいる者に声をかけないのかと思って───い、いや、今はそのことはいい。あの背伸びは一体なんだったんだ!」
「えっ、見ていたの!? は、恥ずかしいわね……」
「人目があるから、使用を避けていたのですか?」
「それもあるけれど、基本的に一人でいる時も使わないわね」
「えっなんで? 超便利じゃん!」
「何でと言われましても……昔からそうとしか……。魔法がなくても、不便はあるけれど不自由はないから、かしら?」
「「!」」
私の言葉に、ラルドと、何故だかルデンまでもが弾かれたような表情をした。
「えと……ま、まぁごくたまに、自分の身体を数ミリ浮かせて階段の昇り降りを楽しようとした時期も……あった気はするけれど」
「数ミリ浮く……なんかそんな猫型ロボットがいたような……」
「て、そんな話は後にしようぜ! この試合、浮遊魔法使えんじゃねぇか!?」
「ん〜、ルール上、宝石の位置を動かしてもいいのかな?」
「う、うん、たぶん大丈夫だと思う。出場者への直接的な攻撃───例えば相手に炎魔法をぶつけるとか、剣で斬りかかるとか、そういう殺傷性の高い魔法や手段に規制がかかっていただけだ。むしろ───わざわざ宝石を森の中から探させるのではなくマップ上に写していることから、宝石の場所を移動させるというのが正しい戦い方なのかもしれない……」
「お、じゃあさっさと防衛しやすい所に移動させようぜ!」
「待て。ルデン、相手の宝石の位置は変わっているか?」
「いや、動いていないよ」
「相手は……まだ宝石を動かせることに気づいていないのかしら?」
「なら、こちらも動かすのはまだだ。できるだけ時間ギリギリまでここに置く」
「そうですね。恐らくお相手も今こうして我々と同様にマップを確認しながら作戦を立てているはずですからね。この事実は一つのアドバンテージですから、慎重にいきましょう」
「あ〜なるほどね。時間ギリギリで急に場所が変わったら相手の作戦も変わるし、相手にも宝石の場所を変える時間をなるべく与えないようにするってわけか」
「ああ、そうだ。だから今は移動先の場所だけ決める。ベリル、宝石の重量は分かるか?」
「ん、たぶん4人がかりで持てば動かせるくらいだと思うわ。あ、でも物質軽量魔法を使えば2人くらいでいけるかも」
「では運ぶ時間、距離を考えると、お相手の移動先は……この辺りでしょうか」
レドがマップに印をつける。
「そうか、そうだな。それを踏まえ、我々の移動先は───この辺りとか、どうだ?」
ラルドはマップ上でいくつかの場所の候補を指さした。
ラルドの案を元に、ルデンが思考を巡らせる。
「うーん、そこだとまだ3箇所から攻められるから……ここがいいかな。こっちの道を予め罠とかで潰しておけば、防衛は一本道だけ気にしていればいいはず」
「! なるほど、そこは盲点だった」
「……」
「……」
「……」
私と、セシアン、シェナは揃って沈黙してしまう。
「なんかオレら……暇だね」
「そうね」
「ま、難しい話は頭切れる組に任せようぜ」
「それ自分諸共オレらのこともバカにしてるよね? つーかそれを言ったらリルちゃんは向こう側だろ」
「ベリル、お前単体で敵陣に乗り込むとしたらどんな作戦で行く?」
「一人で? うーん、裏手に回って背後を取るのも面倒だし……正面から殴りに行った方が早いわね!」
「……な?」
「……あぁ、あはは、確かにこっち側かも……」
なんて会話を残った三人でしていると。
「───ベリル、そろそろ宝石を移動させようと思うのだが、行けるか?」
「あ、了解。場所、どこになった?」
ラルドにご指名いただき、再び〝頭切れる組〟の輪に入れていただいた。
「マップでいうと、この辺がいいかなって。運べそう?」
「ええ、問題ないわ」
「つーかそもそも、その石ずっと空に浮かせとけばいいんじゃねぇの?」
「そうしたいのだけれど……私の力だと、運ぶのが限界なの。魔力量的にはずっと浮かせておけるのだけれど、あまり高く上げられなくて。ごめんなさい」
「いいえ、浮遊魔法は人間が使えるだけでも稀なのです。ましてや長時間の浮遊など……驚きました」
「ふふ、練習しておいてよかったわ」
「んで、オレらは何すればいいの?」
「僕たち前衛は、開始と同時に道に罠を仕掛けて、それからラルドの指示で相手の宝石を破壊しに動くよ」
「マップは俺が見ているから、その情報を逐一魔導具を通じて報告する」
「おー! 司令塔! ぴったりじゃん!」
そこで、ちょうど試合開始の鐘が森全体に響き渡った。
「あ、始まった。……わっ、映像水晶ついてくる〜! やっほ〜!」
浮遊しながら映像を記録しているとみられる水晶に、セシアンはウインクしてみせる。
今にも水晶の向こうから、女性の悲鳴に近い歓声が聞こえてきたような気がした。……幻聴なのだが。
浮遊魔法を発動させ、宝石を連れながら少し歩き、私たちは新たな防衛地へと到着した。
「よし、手筈通りにこっちの道は潰して行くから、この正面だけ警戒をよろしく頼むよ!」
「ええ、分かったわ。みんなも気を付けてね!」
前衛組を見送ったあと、私たちも周辺に防御壁を展開させる。
マップを確認しているラルドが、不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ、想定通り、あちらも宝石の移動に気が付いたな。レドの予測した地点に移動を開始している。そのまま川を迂回したルートで進んでくれ」
「『了解!』」
しばらくして、ルデンたちからそろそろ敵陣に到着するという報告を受けた。
「ということは……お相手もそろそろこちらに着く頃────」
────ドカーーンッ!
───ドゴッッ!
────ズサーーッ!
私が言い終わる前に、前衛組が仕掛けたと思われる罠が発動した音がした。
遠くで土煙が上がっている。
「お、かかったな」
「冷静に言っているけれど……だ、大丈夫なの? この音……。死傷者が出ててもおかしくない派手さなのだけれど……」
「大丈夫だろう。ルデンやレドがそんなミスをするわけがないからな」
「そ、そうだけど……」
(試合が中断されていないから……大丈夫なのだろうけれどね? ……今頃地雷原にいるお相手前衛は大変ね)
心の中で彼らに少し同情した。
しばらくして、試合終了の鐘が鳴る。
ルデンら前衛組が、早くも相手陣営の防衛を突破し宝石を砕いたらしい。
「私たち、何もしなかったわね。なんだったら暇でさえあったわ」
(だって、乗り込んできた敵は全て罠が処理してくれるのだもの)
本当に、ただラルドの横でぼーっとしていたら終わってしまった。
「いいんじゃないか? お前は三試合目もあるのだしな。体力温存は大きいぞ」
「そうね……」
(ただ宝石を運ぶ係で終わってしまったけれど、みんなが優秀なのが悪いわ、うん!)
───二試合目は魔導学園が勝利を収め、最終的な勝敗は三試合目の結果次第となった。
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─────魔術学園、控え室にて。
「クソッ! なんなんだアレは! 宝石の場所を移動させるなど……ッ、ルール違反ではないのかッ!」
「うぅ……目の中にまだ砂が入っている気がします……! なんて卑劣な罠を!」
皆口々に不満をぶつける中、リーダーであるスピネル・エーデルシュタインだけが冷静さを保っていた。
「皆、落ち着きなさい。今回は相手の方が上手だった。ただそれだけですわ。相手も一試合落としているのです。慌てる必要はありませんわ」
「く……っ」
「スピネル様……」
「皆、次に切り替えましょう。三試合目は対人戦。そこで勝てば問題ありませんわ」
「そ、そうですわよね! 三試合目はスピネル様が出場なさるのですもの、きっと勝てますわ!」
誰かが口にした言葉で、皆の表情が安堵へと変わっていく。
「……」
スピネルは尚も一人、優雅に紅茶をすすっている。
スピネルの元に、一人の代表選手の男が声をかけにきた。
スピネルと三試合目でチームを共にする男だ。
「……少し外の空気を吸ってまいります」
「……ええ」
スピネルは短く答えると、男の離席を許した。
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─────会場にて。
男は周囲を気にしながら、人目のつかない死角に会場係を呼び寄せた。
「───魔導学園の三試合目の出場者は」
男が尋ねると、会場係は身を低くして答えた。
「……はっ、こちらに」
手渡された情報を確認すると、男は満足そうに口角を上げた。
「……フッ、ではこれを」
男は札束を係の胸ポケットに忍ばせる。
「……はっ、手筈通りに」
「……くく! 念には念を、だ。これで、我が学園の勝利が確かなものに────」
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