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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
第四章 〜過去〜

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決断

 

 ───────────────────



「───これが、私が平凡になろうと思ったきっかけよ……」


「…………」


 皆が私の昔話を、沈黙したまま聞いていた。


「……あの日、私は化け物なんだと知ったの。自分が普通じゃないことにもようやく気が付いた。何故周りの人間が私を遠ざけるのか……それは私が異質だったから。……皆、私に怯えていたから。それに気が付いてからは、私は自然と周りのレベルに合わせるようになっていったわ……。私がみんなと()()になれば───普通の子になれば、私を化け物だとは呼ばないはずだって……そう思ったから」


 彼らは今、どんな表情をしているのだろう。

 目の前の私に恐怖しているのだろうか。

 それとも憐れんでいるのだろうか。

 ……怖くて、顔が上げられなかった。


 少しの沈黙の後、一番初めに口を開いたのはルデンだった。


「……だから、君はいつも〝平均点〟を取っていたんだね」


「ふん。やはり、()()()平均を取っていたか」


 ラルドの言葉にレドはクスッと笑う。


「ええ、予想通りでしたね」


「へぇ、器用なもんだな」


「すごくない? 取ろうと思ってもなかなか全体の平均点なんて叩き出せないよ? それも毎回! どうやんのそれ!?」


「…………え?」


(予想通り……? 器用? それに……なんでみんな、そんなに明るい声で────)


 顔を上げると、そこには恐怖も憐れみもない、いつも通りな彼らがいた。

 本当に、拍子抜けしてしまうくらい、いつも通りな────


「人間観察……だけで全体の平均が分かるものなのか……?」


 ラルドが首を捻ると、その問いに対しレドが冷静な分析を始める。


「1番上と1番下のレベルを計って大体の平均を割り出したとしても……なかなか取れませんよね。さすがです」


「それにしても、ベリルはそんな小さい頃から魔法が使えたんだね! 詠唱文を覚えるのにも未だに苦労するというのに、すごいじゃないか!」


「はぁ……ちっちゃいリルちゃんとか可愛かったんだろうなぁ……天使だったんだろうなぁ……!」


「それ以上はやめておけ。犯罪臭がするぞ……」


「は……? お前ガキもいけるのか……? 守備範囲ひろ───ハッ! ガキ……???」


「なんで身の危険感じてんの!? お前に興味ねーから!! つーかロリコンでもねーから!?」


「あはは、さすがの僕でもそれは庇いきれないなぁ」


「ルデンまで乗ってくるの!? だから違うってば!!!」


 そんな彼らのやり取りで、場に笑いが起こる。

 これも、普段の日常と何一つ変わらない。


「みんな……どうして……」


「ん? どうしたそんなポカンとした表情して。ははっ、珍しいな、お前のそーいう表情(かお)


「だっ、だって! 今の話を聞いて……なにも思わなかったの……? 子供が魔物を殺すほどの力を持っているなんて、明らかに異質じゃない……」


「うん? だからすごいなって───」


「そ、そうじゃなくて! 気味が悪いと……思わないの?」


「うん、思わないよ?」


 あっけらかんと答えるルデン。


「思いませんね」


 冷静に微笑むレド。


「そうだよ、すごいことじゃん!」


 明るく無邪気に褒めてくれるセシアン。


「強い力を持っていて何が悪い」


 ふん、と鼻を鳴らし開き直るラルド。


「あぁ、お前はお前の武器を持ってるってだけだろ。お前はその力で守りたい奴を守ってみせたんだ! 誇っていいと思うぜ」


 力強く背中を押してくれるシェナ。


「……っ」


 再び、涙が溢れた。


「ごめ……ごめん、なさ……」


 涙が溢れて、伝えたい言葉が上手く口に出せない。

 彼らは私を受け入れてくれた。

 ありがとう、って言いたいのに、伝えなくちゃいけないのに。


「泣かないで、ベリル。話しづらかったよね……ごめんね」


「…ちが、う。謝るのは、私……。わた……し、わたし……みんなのこと、ずっと……騙して……」


 ───平凡を偽った。

 ずっと、ずっと、彼らを騙してきた。


(彼らの信頼を、私はずっと、裏切っていたんだ……)


 裏切られたくない、なんて────本当に裏切っていたのは、私の方なのに。

 そんなことにも、気付けないでいた。

 自分の事ばかり……私は自身のことしか、考えていなかったんだ……。


「そんなこと、全然気にしなくていいのに。ね!」


「ええ、セシアンさんの言う通り、貴女が気に病む必要はありません。お姉様とそのようなことがあったのです。能力を偽るという選択は、貴女の心を守る上で必要な事だったと思います。こういった言い方は少々語弊がありますが……貴女らしい、賢い選択だったと思いますよ」


「……そうだな。初めは、能力を偽るなど理解できないと考えていたが……姉君の言葉がお前を平凡に縛っていたのだな。身近な人間に、自分を否定される痛みは……俺でも少し、分かるつもりだ」


「おう、気にすんなよ。これから変わっていきゃいいじゃねぇか。ここに、あんたを否定する奴は誰もいねぇんだから。だから、もう泣くなって」


「そーだよ、リルちゃんにそんな表情似合わないしね!」


 セシアンの言葉を肯定するように、皆うんうんと頷いた。


「わたし……みんなのとなりに、立っていてもいいの? もう、自分を偽らなくても、いいの?」


 震える声で尋ねると、彼らは顔を見合せクスッと笑った。

 そして、声を揃えて───


「「「 いいに決まってる!」」」


 ───そう、口にした。


「……っ、みん、な……」


 彼らの笑顔がまぶしくて、温かくて……しばらく涙が止まらなかった。

 私がだらしなく、子供みたいに声を上げて泣いても、その涙が止まるまで、彼らは皆優しい表情で待っていてくれた。


 しばらくして落ち着いた私は、ずっと伝えたかったことを口にした。


「私……みんなに出会えて、良かった。ありがとう……私を、受け入れてくれて。信じてくれて、ありがとう……! 私……みんなのことが、大好きよ!」



 この瞬間、心の奥に渦巻いていた(もや)が晴れた気がした。

 ()()()に寄り添ってくれた彼らに、心から感謝した。



 もう、自分を偽るのは、やめにする。

 だって、私はもう、独りじゃないって知ったから。

 周りの人間が私を疎ましく思っても、畏怖しても、私は私であることをもうやめたりしない。

 堂々と、彼らの隣に立てるように。

 彼らが肯定してくれた私のまま、彼らの隣に立っていたい。

 心からそう願うことができたのも、彼らのおかげだ。


「……私、みんなと一緒に、交流祭に出たい」


「えっ……いいの!? オレらとしては嬉しいけど……でも……」


「お前の姉も演術に出るのだろう? 大丈夫なのか?」


「先日、名前を聞いただけで顔色が真っ青になっていましたよね。その理由は分かりましたが……」


「……正直、まだ姉様と顔を合わせるのは怖いけれど……でも、私はみんなと一緒に前に進みたいから。姉様と会わなきゃいけない。これが私なんだって、姉様にも知ってもらいたい。例え……また拒絶されても。私はもう、立ち止まったりしないから」


 俯いたら、背中を押してくれる仲間がいる。

 心が折れそうになったら、一緒に支えてくれる仲間がいる。

 私には、心から信頼出来る仲間がいる。居場所がある。

 だからもう、諦めたりはしない。


 決意を胸に、改めて彼らと向き合う。

 迷いのない私の瞳は、彼らを真っ直ぐに捉えた。


「……ベリルは強いね。うん、僕たちもそばにいるから、きっと大丈夫だよ。何があっても、今度こそ、君を守るから」


 ルデンは私の手の上に、自分の手を重ねた。

 その手の温もりが、心強かった。


「おう! お前が立ち止まっても、俺らが背中を押してやれるしな!」


 シェナは励ますように、ポンっと軽く私の背を叩いた。


「ふふ、いっぱい寄りかかってしまうかもしれないけれど、その時はよろしくね」


「あぁ、任せろ!」


 シェナと同意見だ!と言わんばかりに、皆力強く頷いてくれた。



 ───────────────────



 ────交流祭で演術者として参加することに決めた私は、その旨をゲルド理事長にも報告した。


「───そうか。ふっ、いい顔つきになったね。今の君になら、安心して代表を任せられるよ」


 と、快く了承してくれた。

 私が学園代表演術者として出場することを、やはり他の学生は良しとせず反感は絶えなかったけれど、アッシュはとても喜んでくれた。

 彼らに聞いたところ、アッシュが私たちの仲を取り持ってくれたようで、彼女にその感謝と自分自身のことを打ち明けた。

 私が平凡に囚われていることを彼女は知っていたし、能力を偽っていることにも何となく気付いていたのだと思う。

 アッシュは一言、「馬鹿ね」と呟いて、私を優しく抱きしめてくれた。

 彼女の優しさに、私はまた彼女の腕の中で泣いてしまうのだった。




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