決断
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「───これが、私が平凡になろうと思ったきっかけよ……」
「…………」
皆が私の昔話を、沈黙したまま聞いていた。
「……あの日、私は化け物なんだと知ったの。自分が普通じゃないことにもようやく気が付いた。何故周りの人間が私を遠ざけるのか……それは私が異質だったから。……皆、私に怯えていたから。それに気が付いてからは、私は自然と周りのレベルに合わせるようになっていったわ……。私がみんなと同じになれば───普通の子になれば、私を化け物だとは呼ばないはずだって……そう思ったから」
彼らは今、どんな表情をしているのだろう。
目の前の私に恐怖しているのだろうか。
それとも憐れんでいるのだろうか。
……怖くて、顔が上げられなかった。
少しの沈黙の後、一番初めに口を開いたのはルデンだった。
「……だから、君はいつも〝平均点〟を取っていたんだね」
「ふん。やはり、狙って平均を取っていたか」
ラルドの言葉にレドはクスッと笑う。
「ええ、予想通りでしたね」
「へぇ、器用なもんだな」
「すごくない? 取ろうと思ってもなかなか全体の平均点なんて叩き出せないよ? それも毎回! どうやんのそれ!?」
「…………え?」
(予想通り……? 器用? それに……なんでみんな、そんなに明るい声で────)
顔を上げると、そこには恐怖も憐れみもない、いつも通りな彼らがいた。
本当に、拍子抜けしてしまうくらい、いつも通りな────
「人間観察……だけで全体の平均が分かるものなのか……?」
ラルドが首を捻ると、その問いに対しレドが冷静な分析を始める。
「1番上と1番下のレベルを計って大体の平均を割り出したとしても……なかなか取れませんよね。さすがです」
「それにしても、ベリルはそんな小さい頃から魔法が使えたんだね! 詠唱文を覚えるのにも未だに苦労するというのに、すごいじゃないか!」
「はぁ……ちっちゃいリルちゃんとか可愛かったんだろうなぁ……天使だったんだろうなぁ……!」
「それ以上はやめておけ。犯罪臭がするぞ……」
「は……? お前ガキもいけるのか……? 守備範囲ひろ───ハッ! ガキ……???」
「なんで身の危険感じてんの!? お前に興味ねーから!! つーかロリコンでもねーから!?」
「あはは、さすがの僕でもそれは庇いきれないなぁ」
「ルデンまで乗ってくるの!? だから違うってば!!!」
そんな彼らのやり取りで、場に笑いが起こる。
これも、普段の日常と何一つ変わらない。
「みんな……どうして……」
「ん? どうしたそんなポカンとした表情して。ははっ、珍しいな、お前のそーいう表情」
「だっ、だって! 今の話を聞いて……なにも思わなかったの……? 子供が魔物を殺すほどの力を持っているなんて、明らかに異質じゃない……」
「うん? だからすごいなって───」
「そ、そうじゃなくて! 気味が悪いと……思わないの?」
「うん、思わないよ?」
あっけらかんと答えるルデン。
「思いませんね」
冷静に微笑むレド。
「そうだよ、すごいことじゃん!」
明るく無邪気に褒めてくれるセシアン。
「強い力を持っていて何が悪い」
ふん、と鼻を鳴らし開き直るラルド。
「あぁ、お前はお前の武器を持ってるってだけだろ。お前はその力で守りたい奴を守ってみせたんだ! 誇っていいと思うぜ」
力強く背中を押してくれるシェナ。
「……っ」
再び、涙が溢れた。
「ごめ……ごめん、なさ……」
涙が溢れて、伝えたい言葉が上手く口に出せない。
彼らは私を受け入れてくれた。
ありがとう、って言いたいのに、伝えなくちゃいけないのに。
「泣かないで、ベリル。話しづらかったよね……ごめんね」
「…ちが、う。謝るのは、私……。わた……し、わたし……みんなのこと、ずっと……騙して……」
───平凡を偽った。
ずっと、ずっと、彼らを騙してきた。
(彼らの信頼を、私はずっと、裏切っていたんだ……)
裏切られたくない、なんて────本当に裏切っていたのは、私の方なのに。
そんなことにも、気付けないでいた。
自分の事ばかり……私は自身のことしか、考えていなかったんだ……。
「そんなこと、全然気にしなくていいのに。ね!」
「ええ、セシアンさんの言う通り、貴女が気に病む必要はありません。お姉様とそのようなことがあったのです。能力を偽るという選択は、貴女の心を守る上で必要な事だったと思います。こういった言い方は少々語弊がありますが……貴女らしい、賢い選択だったと思いますよ」
「……そうだな。初めは、能力を偽るなど理解できないと考えていたが……姉君の言葉がお前を平凡に縛っていたのだな。身近な人間に、自分を否定される痛みは……俺でも少し、分かるつもりだ」
「おう、気にすんなよ。これから変わっていきゃいいじゃねぇか。ここに、あんたを否定する奴は誰もいねぇんだから。だから、もう泣くなって」
「そーだよ、リルちゃんにそんな表情似合わないしね!」
セシアンの言葉を肯定するように、皆うんうんと頷いた。
「わたし……みんなのとなりに、立っていてもいいの? もう、自分を偽らなくても、いいの?」
震える声で尋ねると、彼らは顔を見合せクスッと笑った。
そして、声を揃えて───
「「「 いいに決まってる!」」」
───そう、口にした。
「……っ、みん、な……」
彼らの笑顔がまぶしくて、温かくて……しばらく涙が止まらなかった。
私がだらしなく、子供みたいに声を上げて泣いても、その涙が止まるまで、彼らは皆優しい表情で待っていてくれた。
しばらくして落ち着いた私は、ずっと伝えたかったことを口にした。
「私……みんなに出会えて、良かった。ありがとう……私を、受け入れてくれて。信じてくれて、ありがとう……! 私……みんなのことが、大好きよ!」
この瞬間、心の奥に渦巻いていた靄が晴れた気がした。
私自身に寄り添ってくれた彼らに、心から感謝した。
もう、自分を偽るのは、やめにする。
だって、私はもう、独りじゃないって知ったから。
周りの人間が私を疎ましく思っても、畏怖しても、私は私であることをもうやめたりしない。
堂々と、彼らの隣に立てるように。
彼らが肯定してくれた私のまま、彼らの隣に立っていたい。
心からそう願うことができたのも、彼らのおかげだ。
「……私、みんなと一緒に、交流祭に出たい」
「えっ……いいの!? オレらとしては嬉しいけど……でも……」
「お前の姉も演術に出るのだろう? 大丈夫なのか?」
「先日、名前を聞いただけで顔色が真っ青になっていましたよね。その理由は分かりましたが……」
「……正直、まだ姉様と顔を合わせるのは怖いけれど……でも、私はみんなと一緒に前に進みたいから。姉様と会わなきゃいけない。これが私なんだって、姉様にも知ってもらいたい。例え……また拒絶されても。私はもう、立ち止まったりしないから」
俯いたら、背中を押してくれる仲間がいる。
心が折れそうになったら、一緒に支えてくれる仲間がいる。
私には、心から信頼出来る仲間がいる。居場所がある。
だからもう、諦めたりはしない。
決意を胸に、改めて彼らと向き合う。
迷いのない私の瞳は、彼らを真っ直ぐに捉えた。
「……ベリルは強いね。うん、僕たちもそばにいるから、きっと大丈夫だよ。何があっても、今度こそ、君を守るから」
ルデンは私の手の上に、自分の手を重ねた。
その手の温もりが、心強かった。
「おう! お前が立ち止まっても、俺らが背中を押してやれるしな!」
シェナは励ますように、ポンっと軽く私の背を叩いた。
「ふふ、いっぱい寄りかかってしまうかもしれないけれど、その時はよろしくね」
「あぁ、任せろ!」
シェナと同意見だ!と言わんばかりに、皆力強く頷いてくれた。
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────交流祭で演術者として参加することに決めた私は、その旨をゲルド理事長にも報告した。
「───そうか。ふっ、いい顔つきになったね。今の君になら、安心して代表を任せられるよ」
と、快く了承してくれた。
私が学園代表演術者として出場することを、やはり他の学生は良しとせず反感は絶えなかったけれど、アッシュはとても喜んでくれた。
彼らに聞いたところ、アッシュが私たちの仲を取り持ってくれたようで、彼女にその感謝と自分自身のことを打ち明けた。
私が平凡に囚われていることを彼女は知っていたし、能力を偽っていることにも何となく気付いていたのだと思う。
アッシュは一言、「馬鹿ね」と呟いて、私を優しく抱きしめてくれた。
彼女の優しさに、私はまた彼女の腕の中で泣いてしまうのだった。




