過去
※共通ルート
※
彼らの言葉を受けて、再び心が大きく揺れ動いた。
心の奥底で押さえつけられていた想いが、魔力が、熱を帯びて燃えているように。
彼らは私を心から信頼してくれていた。
───なら、私は?
彼らにここまで言わせておいて、私が彼らを信じきれずどうするのか。
もう独りにはなりたくない。
化け物だと言われたくない。
でも、もし───私を受け入れてくれる人がいたなら。
それがもし、彼らなら。
────もう一度だけ、信じたい。
「私、は─────」
心臓の音が耳まで響く。
今を逃したら、もう、打ち明けるタイミングはこないだろう。
(彼らの作ってくれたきっかけを、無駄にするな────)
「私は────化け物なの」
───────────────────
───あれはいつだったか。
私がまだ小さな子供だった頃。
すべては、私が精霊から宝石の加護を受けたあの日から始まった────。
「ほら、ベリルっ、早くきて!」
「まって、ねえさまっ」
騎士の父と魔法使いの母の元に生まれた私には、一人、スピネルという姉がいる。
姉は私をとても可愛がってくれていた。
姉は私と2才しか変わらなかったが、私から見る姉はとても大人びていて、憧れだった。
そんな姉の後ろを私はいつもついて回っていて、姉も私を色んな場所に連れて行ってくれた。
「ほら見てベリル、花畑だよ! キレイでしょー!」
「わぁー! きれいだねっ、ねえさま!」
姉は私よりもずっと早くに精霊から加護を受けており、子供では難しいとされる日常魔法もすでに使いこなすほど、魔法の才能に溢れていた。
「ここね、わたしのお気に入りの場所なの! 父さまでも母さまでもなくて、ベリルを一番につれてきたかったの!」
「ねえさまありがとうー! だいすきー!」
「うんっ、わたしも大好きよ!」
私は優しい姉が大好きだったし、自慢だった。
当時はスピネル姉様も……私を好いてくれていたはず。
しかし───そんな私たち姉妹の仲は、私に魔力が宿ったことで、脆く壊れてしまうことになる。
私に加護を授けた精霊は、姉の精霊よりも遥かに位の高い上位個体だった。
そのせいで、魔力量はもちろんのこと、魔法の技術も姉の才を超すのにそう時間はかからなかった。
それでも初めは、姉も両親と共に私を褒めてくれていた。
いくら周囲の人間から疎まれても、友人だと思っていた人間に恐れられても、姉だけは私の味方でいてくれる。
それだけで私は自分の加護に自信が持てた。
それに、姉の加護は私のものに劣るとはいえ、姉が優秀なことに変わりはなかったため、私はずっと彼女を慕っていた。
───だが、今思えばそんな私の無邪気さが、姉を苦しませていたのだと思う。
姉がいくら努力しようと、私の才能ばかりが前へと出る。いつもついて回っていたはずの妹が、今は自分の遥か前を歩いている。
いつしか姉は、私を避けるようになった。
それは劣等感からなのか、私と共にいることで友人を失うからなのか───あるいはどちらもか。
屋敷の中でも、外でも───姉にとっての私は〝他人〟となっていた。
そんな日々が続く中、ある日、両親の友人の結婚パーティーに招かれた。両親と共に私たち姉妹も同行することになったのだ。
もしかしたら、両親は私たちの仲を取り持つため、わざと一緒に同行させてくれたのかもしれない。
久々に顔を合わせた姉は、私と口をきくどころか目も合わせてくれなかったけれど……それでも、私はその日が姉と仲直りをするチャンスだと思っていた。
────けれどその日、悲劇が起きた。
新郎新婦の屋敷の庭でパーティーが開かれ、皆が談笑していた時。
───突然、魔物が出現した。
本来魔物は森など人の立ち入りの少ない場所に湧く。
屋敷が比較的森に近い位置にあるからなのか、あるいは誰かが魔物を持ち込んだのか……今となっては真偽は不明。だが、あの日確かに魔物は現れ、パーティーは騒然となった。
父様は剣を取り、母様も魔法で魔物の相手をしている中、姉は咄嗟に私の手を取りその場から一緒に逃げようとしてくれた。
姉が手を取ってくれた瞬間、前の優しかった姉が戻って来てくれたと思い、喜びで私から魔物への恐怖心はなくなっていた。
───しかしその時、運悪く逃げた先に魔物の残党が流れてきた。
「……ひっ!!」
対峙した魔物のおぞましさに、姉は悲鳴をあげていた。
「!? ッ逃げろ!!!!」
「……っ!? スピネル! ベリル! 逃げなさい!!」
遠くで父と母の悲痛な声が聞こえる。
姉は私の手を強く握ったまま、腰を抜かして動けそうになかった。
魔物は私ではなく、姉を見ていた。
「……ぁ、……ぁあ……いや…………たす、け──」
魔物に言葉は通じない。姉の命乞いなど分かるわけがない。
いや、分かったところで結果は変わらない。魔物にとって姉はただの獲物。捕食対象でしかないのだから。
容赦なく、魔物の鋭い刃が姉を捉えた。
「いやぁぁぁあぁああ!!!!」
───その瞬間、辺りに悲鳴が響き渡る。
誰もが想像した。少女の身体が真っ二つに切り裂かれる瞬間を。地面に広がる真紅の色を。
───だがしかし、そんな最悪は訪れなかった。
なぜなら────
「ねえさまっ、だいじょーぶだよ!」
「………………え────」
小さな少女が、自分の何倍もの大きさの魔物を、片手で食い止めている。
その状況に、その場にいた誰もが唖然としただろう。姉もその一人だった。
私は魔法で魔物の体を切り裂いてやった。
魔物から青い液体が吹き出る。
それを盛大に被ってしまったけれど、そんなのはどうだっていい。
私は姉をこの手で守れたことが嬉しくて堪らなかった。
これで、やっと姉と仲直りができる。
そんな風に思いながら意気揚々と振り返った私の目には、震えながら怯えた目を向ける姉の姿が映った。
「ねえさま、どうしたの? コワイのはもういなくなったよ!」
そう、最初は魔物に怯えているのだとばかり思っていた。
「……っ!!!!」
「……ねえさま?」
……だけど、違った。
姉が怯えていたのは、魔物じゃない。
彼女が恐怖していたのは────私だった。
魔物の青い血に塗れた私を。
魔物を殺して魅せた私を。
「ねえさま……?」
「……け……もの」
「え……?」
「……っ、化け物」
「ねえ、さま……?」
「────この化け物! わたくしに近付かないで!」
────あの瞬間、彼女が私に言い放った言葉と、表情。
そして周りの人間が私に向けていた、異質なものを見る、あの目。
それが、脳裏に焼き付いて、消えない───。




