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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
第四章 〜過去〜

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過去


※共通ルート



 


 ※


 彼らの言葉を受けて、再び心が大きく揺れ動いた。

 心の奥底で押さえつけられていた想いが、魔力(ちから)が、熱を帯びて燃えているように。


 彼らは私を心から信頼してくれていた。

 ───なら、私は?

 彼らにここまで言わせておいて、私が彼らを信じきれずどうするのか。

 もう独りにはなりたくない。

 化け物だと言われたくない。

 でも、もし───私を受け入れてくれる人がいたなら。

 それがもし、彼らなら。

 ────もう一度だけ、信じたい。


「私、は─────」


 心臓の音が耳まで響く。

 今を逃したら、もう、打ち明けるタイミングはこないだろう。


(彼らの作ってくれたきっかけを、無駄にするな────)


「私は────化け物なの」




 ───────────────────



 ───あれはいつだったか。

 私がまだ小さな子供だった頃。

 すべては、私が精霊から宝石の加護を受けたあの日から始まった────。



「ほら、ベリルっ、早くきて!」


「まって、ねえさまっ」


 騎士の父と魔法使いの母の元に生まれた私には、一人、スピネルという姉がいる。

 姉は私をとても可愛がってくれていた。

 姉は私と2才しか変わらなかったが、私から見る姉はとても大人びていて、憧れだった。

 そんな姉の後ろを私はいつもついて回っていて、姉も私を色んな場所に連れて行ってくれた。


「ほら見てベリル、花畑だよ! キレイでしょー!」


「わぁー! きれいだねっ、ねえさま!」


 姉は私よりもずっと早くに精霊から加護を受けており、子供では難しいとされる日常魔法もすでに使いこなすほど、魔法の才能に溢れていた。


「ここね、わたしのお気に入りの場所なの! 父さまでも母さまでもなくて、ベリルを一番につれてきたかったの!」


「ねえさまありがとうー! だいすきー!」


「うんっ、わたしも大好きよ!」


 私は優しい姉が大好きだったし、自慢だった。

 当時はスピネル姉様も……私を好いてくれていたはず。


 しかし───そんな私たち姉妹の仲は、私に魔力が宿ったことで、脆く壊れてしまうことになる。


 私に加護を授けた精霊(ティターニア)は、姉の精霊よりも遥かに位の高い上位個体だった。

 そのせいで、魔力量はもちろんのこと、魔法の技術も姉の才を超すのにそう時間はかからなかった。


 それでも初めは、姉も両親と共に私を褒めてくれていた。

 いくら周囲の人間から疎まれても、友人だと思っていた人間に恐れられても、姉だけは私の味方でいてくれる。

 それだけで私は自分の加護(まほう)に自信が持てた。

 それに、姉の加護は私のものに劣るとはいえ、姉が優秀なことに変わりはなかったため、私はずっと彼女を慕っていた。

 ───だが、今思えばそんな私の無邪気さが、姉を苦しませていたのだと思う。


 姉がいくら努力しようと、私の才能ばかりが前へと出る。いつもついて回っていたはずの妹が、今は自分の遥か前を歩いている。


 いつしか姉は、私を避けるようになった。

 それは劣等感からなのか、私と共にいることで友人を失うからなのか───あるいはどちらもか。

 屋敷の中でも、外でも───姉にとっての私は〝他人〟となっていた。

 そんな日々が続く中、ある日、両親の友人の結婚パーティーに招かれた。両親と共に私たち姉妹も同行することになったのだ。

 もしかしたら、両親は私たちの仲を取り持つため、わざと一緒に同行させてくれたのかもしれない。

 久々に顔を合わせた姉は、私と口をきくどころか目も合わせてくれなかったけれど……それでも、私はその日が姉と仲直りをするチャンスだと思っていた。


 ────けれどその日、悲劇が起きた。


 新郎新婦の屋敷の庭でパーティーが開かれ、皆が談笑していた時。

 ───突然、魔物が出現した。

 本来魔物は森など人の立ち入りの少ない場所に湧く。

 屋敷が比較的森に近い位置にあるからなのか、あるいは誰かが魔物を持ち込んだのか……今となっては真偽は不明。だが、あの日確かに魔物は現れ、パーティーは騒然となった。


 父様は剣を取り、母様も魔法で魔物の相手をしている中、姉は咄嗟に私の手を取りその場から一緒に逃げようとしてくれた。

 姉が手を取ってくれた瞬間、前の優しかった姉が戻って来てくれたと思い、喜びで私から魔物への恐怖心はなくなっていた。

 ───しかしその時、運悪く逃げた先に魔物の残党が流れてきた。


「……ひっ!!」


 対峙した魔物のおぞましさに、姉は悲鳴をあげていた。


「!? ッ逃げろ!!!!」


「……っ!? スピネル! ベリル! 逃げなさい!!」


 遠くで父と母の悲痛な声が聞こえる。

 姉は私の手を強く握ったまま、腰を抜かして動けそうになかった。

 魔物は私ではなく、姉を見ていた。


「……ぁ、……ぁあ……いや…………たす、け──」


 魔物に言葉は通じない。姉の命乞いなど分かるわけがない。

 いや、分かったところで結果は変わらない。魔物にとって姉はただの獲物。捕食対象でしかないのだから。

 容赦なく、魔物の鋭い刃が姉を捉えた。


「いやぁぁぁあぁああ!!!!」


 ───その瞬間、辺りに悲鳴が響き渡る。

 誰もが想像した。少女の身体が真っ二つに切り裂かれる瞬間を。地面に広がる真紅の色を。


 ───だがしかし、そんな最悪は訪れなかった。

 なぜなら────


「ねえさまっ、だいじょーぶだよ!」


「………………え────」


 小さな少女が、自分の何倍もの大きさの魔物を、片手で食い止めている。

 その状況に、その場にいた誰もが唖然としただろう。姉もその一人だった。


 私は魔法で魔物の体を切り裂いてやった。

 魔物から青い液体が吹き出る。

 それを盛大に被ってしまったけれど、そんなのはどうだっていい。

 私は姉をこの手で守れたことが嬉しくて堪らなかった。

 これで、やっと姉と仲直りができる。

 そんな風に思いながら意気揚々と振り返った私の目には、震えながら怯えた目を向ける姉の姿が映った。


「ねえさま、どうしたの? コワイのはもういなくなったよ!」


 そう、最初は魔物に怯えているのだとばかり思っていた。


「……っ!!!!」


「……ねえさま?」


 ……だけど、違った。

 姉が怯えていたのは、魔物じゃない。

 彼女が恐怖していたのは────私だった。

 魔物の青い血に塗れた私を。

 魔物を殺して魅せた私を。


「ねえさま……?」


「……け……もの」


「え……?」


「……っ、化け物」


「ねえ、さま……?」


「────この化け物! わたくしに近付かないで!」



 ────あの瞬間、彼女が私に言い放った言葉と、表情。

 そして周りの人間が私に向けていた、異質なものを見る、あの目。

 それが、脳裏に焼き付いて、消えない───。



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