ベリルとアシュリー
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交流祭の話は、瞬く間に学園中に広がった。
ベリル・エーデルシュタインが、演術の代表に選ばれたという噂も一緒に。
交流祭は王宮魔導師に自分をアピールする数少ない貴重な機会でもある。
そのため、今回は女子学生だけでなく男子学生からも反感の的になっていた。
それはそうだろう。成績上位者はルデンたちだけではないのだから。
彼らにとって私はさぞ忌々しい存在だろう。
自分より劣っている女が何故、と。
誰もいない講義室で帰り支度をしていると、廊下からバタバタと盛大な足音がこちらへ近づいてくる。
(誰かがものすごい勢いで廊下を走ってきている……?)
そしてすぐに、講義室のドアがバンッと開き、その人物の答え合わせが出来た。
「ベリル……っ、平気!?」
「アッシュ?」
血相を変えて走ってきたアッシュは、額に汗を滲ませながら肩で息をしている。
彼女は首を傾げる私を上から下まで確認すると、ホッと息をついた。
「だいじょ……うぶみたいだけど……さっき階段から突き飛ばされたって聞いて……」
「突き飛ば……? あー……あれね。突き飛ばされてはいないから、大丈夫よ。後ろから水魔法が飛んできただけ。避けたから問題ないわ。けれどそれで少し騒ぎになってしまって……」
「なっ!? 問題しかないじゃない!! 当たってたら落ちてるわよそれ!!」
しかもずぶ濡れで!!と付け足すアッシュ。
確かに、初めは遠目からヒソヒソと嫌味を言われるくらいだったが、日に日にエスカレートしてきている気がする。
(私だけならまだいいのだけれど……これがもしアッシュや彼らにも矛先が向いたら────)
アッシュは心配そうに私の頬に触れた。
「顔色悪いわね……平気? そんなことがあったら具合が悪くもなるわよね……」
「あ……本当? 最近あまり眠れてなくて」
「……そう。これだけ騒がれちゃ仕方ないわよ」
(それも少しあるけれど……一番は、彼らに後ろめたさがあるせい)
彼らに平凡でありたいと伝えて以降、顔を合わせづらくなってしまい、あれから一度も会っていない。
日が経つにつれ、何を話していいのか、普段は何を話していたのか……彼らとの距離感が分からなくなってしまった。
「にしても、毎度毎度アイツらやり方が陰湿なのよ。聞こえるよーーに遠くでチクチクチクチク嫌味言ってきたり! かと思えば直接文句言ってくる奴は誰もいないし!! ほんっと貴族はろくな奴がいないわ」
「ふふ、アッシュが怒ってくれるから、私はそれで救われてる」
「はぁ? 怒るでしょ!!ベリルが怒らなさすぎなの! あの王子たちだって、助けてって言えばあんたを助けてくれると思うわよ」
「ええ……彼らは助けてくれるでしょうね。けれど、迷惑かけたくないの。本当はアッシュにも……って、今迷惑かけてるから、あまり説得力はないけれど」
ふにゃりと笑うと、アッシュは眉を下げ少し困ったような優しい表情を浮かべた。
「迷惑だなんて思ってないわよ。前にも言ったけど、あたしは好きであんたと一緒にいるの。この親友の座は、あの王子たちにだって渡さないんだから」
アッシュは悪戯っぽく言いながらニコッと笑った。
「それで? 最近彼らとちゃんと話せてるの?」
「……いいえ。なんだか顔を合わせづらくて」
「ふーん?」
「アッシュには前に言った通り、私は交流祭に出るつもりはないから、今回の騒ぎが収まるまで距離を置こうと思って」
「それも、迷惑かけたくないから?」
「ええ」
「(あの人たちも迷惑だとは思わないと思うけどなぁ。だってあの人たちがベリルに向ける視線は────)」
「あ、そうだわ……私、時計塔に講義の資料を置き忘れたままだったの。取りに行かなきゃ。……ふわぁ、眠い。少し仮眠して帰るからアッシュは先に帰っていてね」
「ちょ、一人で行く気なの? あんなことがあったばかりなのに。あたしも行く」
「ふふ、平気よ。いざとなったらまた避けるから」
「あんたねぇ……」
「でも心配はありがとう。それじゃあね」
これ以上アッシュを心配させないように、わざと明るく振る舞う。
そんな私の様子にアッシュはたぶん気がついているのだろうけれど。
私はアッシュを残し、時計塔へと急いだ。
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