疑念
Side:Boys
───────────────────
「私、そろそろ行くわね」
「あっ、待ってベリル……!」
ルデンが呼び止めるも、ベリルは振り返ることなく去ってしまった。
少しの沈黙の後、遠くなったベリルの背を目で追いながらセシアンが呟いた。
「……リルちゃん。オレらがいないところで、いつもあんな風に言われてるのかな……」
「チッ、アイツら知りもしねぇで勝手なことほざきやがって!」
「シェナさん、落ち着いてください。今は人目がありますから」
「……っ、なんであいつを庇ってやらねぇんだよ! 俺はともかく、お前らなら周りの人間に何か言って変えられるんじゃ───」
怒りをあらわにするシェナに対し、なおも冷静な態度でレドは諭した。
「今ここで、我々が彼女を庇い口添えすることは簡単ですが、それにより更に立場が悪くなるのも彼女です。私たち────特にルデン様は良くも悪くも絶大な影響力がありますから、更なる嫉妬を煽るだけでしょう。それでも……周りの令嬢方の言動は目に余りますが。ルデン様も、くれぐれも冷静に」
ルデンはその場で俯いている。
彼も冷静を装っているものの、その拳はきつく握られていた。
「……すまない。……シェナも」
「……俺のことはいい。今に始まったことじゃない」
「慣れていると言えば……ベリルも動揺したようには見えなかった。日頃からあのようなことを言われ慣れている、といった風にも見えたが───いや、恐らく実際その通りなのだろうな」
「うん……リルちゃん、全然何とも思ってないような表情してたよね。オレらの前だから強がってるってわけでもなさそうだったし……」
シェナの話題が出た時だけ、ベリルは一瞬令嬢たちを一瞥したが、その程度の変化しか悟らせなかった。
自分への悪意に対しては、なんの関心も持っていないように感じた。
シェナは腕を組み眉間に皺を寄せる。
「そもそもなんであいつの能力が評価されないんだ? あいつの能力が平均なんかじゃないのは、俺らが一番よく分かってるだろ」
「……それは僕も疑問に感じていた。共にギルドの依頼をこなしてきて、ベリルが僕たちと同等に戦えていることは確かだ。自分を棚上げするようでなんだけど、並の魔法使いじゃダイヤ生にはなれない」
「じゃあ……成績評価の仕方に問題があるとか? 本当は良い点数取れてるけど、採点ミスされてる……とか」
「毎回そんなことが起こるか? 仮にそうだったとしても、あいつ自身何故それを訂正しない?」
「そうだよねぇ……オレも言ってて無いなって思ったけどさー。ホントなんでなんだろう。あ、いっそ理事長に直接聞いてみる? リルちゃんをダイヤ生に選んだのは理事長なんだし。なんでダイヤ生に選んだのかってことだけでも聞けるっしょ」
「そうだね……。理事長の時間の空いたタイミングを見計らって、聞きに行ってみようか」
───────────────────
────理事長室にて。
ベリル以外のダイヤ生が一堂に会し、重要な話があると前置きをされた理事長ゲルドは、不安を抱きつつ彼らの対応を行った。
「何故ベリルをダイヤ生に選んだのかって? 何か問題でも起きたのかい?」
ゲルドが尋ねると、ルデンは少し複雑な表情を浮かべた。
「いえ、そういうわけではないのですが……ただ、僕たちの選考理由は理解できますが、彼女は例外だったようなので。それで今、彼女は周囲から反感を買っているのではないか、と……」
自分を訪ねてきた彼らの要件におおよそ察しがついたゲルドは、ふむ、と考え込むように椅子に深く座り直した。
「……やはり反感をなくすのは難しい、か。はぁ……良い意味でも悪い意味でも、魔法使いは皆プライドと向上心の塊だからね。ベリルをダイヤ生に選んだ当初から、彼女への妬み嫉みがあったことは事実だ。彼女をやめさせようと、嫌がらせをする学生もいたと報告を受けている。……まぁ、彼女の口から報告を受けたことは一度もないんだけど」
「あいつ……やっぱ前から色々されてたのか……。クソ……っ、なんでそれを言わねぇんだ!」
拳を強く握り、声を荒らげるシェナ。
ラルドは静かに首を振った。
「……言わないだろう、あいつは」
「一度その事に関して彼女に困っていないか聞いたことがあったんだが、言いたい奴には言わせておけばいい、と言われてしまってねぇ。大人の対応といえばそれまでだが、自分への侮辱は心底気にしていないような口振りだったかな。……と、それでベリルを何故ダイヤ生に選んだか、だったね?」
ルデンは「はい」と真剣な眼差しで頷いた。
「簡潔に言えば、彼女には学園での成績以上の能力があると判断したため。これはもう君たちも既に感じていることかな。それともう一つ、単純に彼女の真の実力が見てみたかったから、かな。つまりただの好奇心! あんな逸材、滅多にいないしね。彼女が魔法使いとして有名になってくれたら、我が学園にとっては良い看板になるだろう? ははは」
「ははは、て……。めちゃくちゃゲスい考えしてんじゃん」
「ふふ、後者が本命ですかね」
「まぁ、学園もビジネスだからねぇ。君たちが思っているより経営は大変なんだよ? ここにいる君たちにも学園の看板は背負ってもらっているからね。期待しているよ」
ニコニコと笑うゲルド。
そんな彼をセシアンは手をヒラヒラと振りあしらうと、今後の方針について切り込んだ。
「ま、とにかく。理事長もリルちゃんの実力は認めてるってことだし、それをみんなにも分かってもらえれば誰も文句言えないよね!」
「いや、そう簡単にはいかないだろう。理事長が認めているから認めろ、という言い分は俺たちが口添えするのとそう変わらない。むしろ、理事長が肩入れしていると思う者が出てきて逆効果だ」
「ラルドさんの言う通りだと思います。他人からの言葉だけでは納得する者も少ないでしょう」
「何か……皆がベリルの能力を知る機会があれば───」
皆が考えを巡らせていると、最後のルデンの一言からゲルドがひとつ心当たりを閃いた。
「皆が知る機会か……あぁ、それなら、ちょうど絶好の機会を用意することができると思うよ。彼女が参加するかは、分からないけれどね」
「絶好の機会?」
ゲルドの言葉に首を傾げるルデン。
ゲルドは楽しげに口元に弧を描きながら、まるでイタズラを思いついた子供のような表情で言葉を続けた。
「ふっ、詳しい話はまた後日。例の件が正式に決まったら君たちを呼ぶことにしよう」
「「「?」」」




