日常
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楽しかった長期休暇も終わりを迎え、学園が再開し、学生も皆日常へと戻っていた。
隣を歩くアッシュは、盛大なため息をもらしながら頭を抱えている。
「はぁーあ……長期休暇が終わったばかりだってのに、なんで毎回この時期に試験開催するかねぇ」
私とアッシュは先日行われた試験の結果を確認すべく、試験結果が貼り出されている講堂前へと向かっているところだ。
「んー、休暇中どれだけ遊び呆けていたか確認するため……とか?」
「休暇中まで勉強漬けになるクソ真面目がいるなら是非とも会ってみたいわ」
貼り出された成績順位表を確認して、ゲンナリしたアッシュはまた大きなため息をついた。
「……うわぁ。500人中430位……見なきゃ良かった……。一応聞くけど、あんたは?」
「246位かな」
(今回は結構攻めたつもりでいたけれど、250位のピッタリ賞はなかなか取れないわね……)
「ちっ、これだからベストオブ平均点は……。あんたも今回の休暇は遊んでたはずなのにー!」
「ふふ、それを言うなら彼らもよ」
上位陣の名前を指差しながら苦笑いを浮かべる。
成績上位者の中には見慣れた5人の名前があった。
「ひえーホントだ。あんたたちいつ勉強してんのよ? 王子と従者は満遍なくできてるって感じだし、眼鏡に関しては筆記試験オール満点なんですけど!? あのチャラ男と獣人くんも実技試験で筆記の分カバーしてるし……く、やりおる……。見た目馬鹿そうなのに……」
「あ"? 誰が馬鹿だって?」
ドスの効いた声が頭上から降ってくる。
驚いたアッシュはビクッと肩を震わせてから飛び退いた。
「うげっ!?」
「あら、シェナ」
アッシュはそそくさと私の後ろに身を隠し、私を盾にするかのようにシェナの元へと献上した。
「今、ちょうど貴方たちのことを話していたの。今回も上位おめでとう」
「その割には馬鹿がどうとか言ってなかったか???」
「ふふ、気のせいよ。シェナも順位表を確認しに?」
「あぁ、セシアンに見に行かねぇかって誘われて、仕方なくな」
「セシアン? いないけど……一緒じゃないの?」
「アイツなら途中で女に囲まれて足止めくらってたから置いてきた」
「あはは……」
そんな話をしていると、シェナの背後からため息混じりの声が聴こえてきた。
「はぁ、あの女の塊はやはり奴か。まったく、騒がしくて敵わん」
シェナの後ろからやって来たのはラルドだった。
「あら、ラルドも来ていたのね」
「おう、お前も順位とか見に来んだな」
「それはこちらの台詞だが───まぁ一応は」
シェナは再び順位表に目を移し、ラルドの順位を確認し、呆れたように短く笑った。
「今回も優秀なこって」
「優秀? どこがだ。実技試験の点数が前回と比べ0.5点も下がっているのだぞ。これは由々しき事態だ……やはりシーラでの休暇を満喫し過ぎたせいか……」
その言葉を聞いたアッシュは、ギョッとした表情で口を開けている。
「(0.5……????? 勉強漬けクソ真面目、ここにいたわ)」
「相変わらずストイックだな」
ラルドも交えて軽く雑談をしていると、遅れてセシアンの姿も見えた。
「おいシェナぁ〜〜置いてくなよなぁー」
「テメェが道草食ってるからだろ。あの女どもはどうしたんだよ」
「隙を見て撒いてきました! て、リルちゃんじゃーん!! 会いたかったよ〜。あ、後ろにいるリルちゃんのお友達もこんにちは〜」
「どーも。あ、そうそうベリル、あたしこの後教授の手伝いに駆り出されてるから、先に戻ってて平気?」
「あ、なら私も手伝うわ」
「ううん、すぐ済むと思うからたぶん平気、ありがと。終わったら直帰するから、先帰ってて。(……と、あんたたち結構仲良くなってんじゃない? ちょっと安心した! よかったわね!)」
最後は小声で言い残し、アッシュはヒラヒラと手を振り去って行く。
(アッシュ、ずっと心配してくれていたものね……)
彼女を見送ってしばらくすると、突然、女子学生の色めき立つ声や歓声が上がった。
「見て! ルデン様だわ! 今日もお美しい……」
「きゃ、今レド様とも目が合いましたわ!」
「いいえ、わたくしと目が合いましたのよ!」
ルデンたちを一目見ようと、周囲から続々と人が集まってくる。
その様子にセシアンが「はえ〜」と感嘆の声を漏らした。
「うわ、すご……ルデンたち毎回こんな感じなの?」
「お前のそれとは別格だな」
「そこ、オレを比較対象にしないでよ」
シェナもセシアンと彼らを交互に見てから、挑発的な表情でセシアンに言う。
「ルデンとレドの場合、老若男女問わずだからな。少なくともお前は男から嫌われるタイプだろ」
「わーっはは! 男の嫉妬とは醜いものよ〜」
「そういうとこだろ」
呆れるシェナとラルド、そしてケラケラと笑うセシアン。
そこへ、歓声の波を渡ってきたルデンとレドがやってきた。
「……あ、みんな! 奇遇だね、みんなも順位表を見に来たのかい?」
「活動拠点以外で皆が揃うのも、なかなか珍しいですね」
ルデンたちが合流すると、周囲にいた学生たちは自然と道を開け、私たちは学生らに囲まれる形となる。
ルデンに限らず、ダイヤ生の彼らは言わずもがな、学園では有名人。
周囲の視線全てと言っても過言ではないくらい、私たちに突き刺さっている。
例えそれが私には向けられていなかったとしても、気になることに変わりはない。
(……いえ、彼女らの視線の少しは私に向けられているわね。睨まれているだけだけれど)
耳を済まさずとも聞こえてくる、周囲の声。
「皆様、今回の試験も優秀な成績を収められていますわよね。さすがダイヤモンド生ですわ!」
「……ちょっと。そうでない方も混じっておりますわよ」
「あら、本当ですわ」
私たちを遠巻きに見ながら、ヒソヒソと噂する声が聞こえる。
(いや、話す内容がハッキリと聞こえるのだから、ヒソヒソではないか)
彼らにも聞こえるようにわざとそうしているのだろう。
(まぁ、ダイヤ生に選ばれてから周囲は基本的にいつもこんな感じだし、別にいいのだけれど)
私が咎めないのを良いことに、彼女たちは更に調子づいた様子だった。
高飛車なご令嬢が数人前に出てきて、あからさまに大きな声で会話を始めた。
「何故このような方が皆様と行動しているのかしら」
「皆様との実力差は明確なのに、恥ずかしくないのかしらね? 足を引っ張っているのが分からないのかしら。今回の成績も平均だし、こんな方が学園の代表組織に入っているだなんて、わたくしたちの質も落ちますわ」
「けど質というならあちらの獣人の方も相応しくないのでは?」
「それはそうだけど……ルデン様とご一緒なのだから、躾はされているでしょ。それにお顔は整っていますし、見た目が良ければ多少許せますわ」
(…………これは、イラッとするわね)
自分のことはどう言われても構わない。
が、シェナを侮辱されるのは我慢ならない。
彼女らに視線を向けると、口元を手で隠しクスクスと嘲笑した。
「シッ、声が大きいですわよ」
それに関しては今更である。
とはいえ私のせいでシェナにまで矛先が向いてしまった。
放っておいたら更に他のメンバーにも難癖を付けられるかもしれない。
(これ以上の余計な飛び火は避けたいし、私はこの場にいない方がいいわね)
「私、そろそろ行くわね」
それじゃあ、と彼らの返事を待たずにこの場を去る。
背中に私を呼び止める声が聞こえていたけれど、振り返ることはしなかった。




