サプライズ
ギルドの門の前で、ちょうど受付嬢らしき人物が冒険者と話をしていた。
「───はい、依頼書の確認完了です! こちらの依頼報酬はギルド内で対応いたしますので、中でお待ちくださーい」
冒険者の対応を終えた受付嬢は、次に私たちの存在に気がついた。
「…………あら、学生さん? こんにちは、冒険者ギルドへようこそ! 何かご依頼ですか?」
そう尋ねられた私たちは、軽く会釈をした後、代表してルデンが口を開いた。
「こんにちは。ヘリオドール王立魔導学園から依頼を受けてやって来たのですが」
「魔導学園……っああ! 例の! お待ちしておりました! いつもギルドへのご貢献、大変感謝しております!」
「いえ。……それで、今回の依頼内容の詳細な説明を受けたいのですが」
それを聞いた受付嬢は、ポカンとした表情で答えた。
「へ? 依頼? そういえば依頼を受けてやって来たとおっしゃっていましたが……どなたかの依頼をお引き受けなさったのですか?」
「え……?」
私たちはルデンと同様、困惑した表情で顔を見合わせる。
「どなたかも何も、貴女方ギルドがシーラへの視察を我々に依頼したという話ではなかったのか?」
ラルドの問いに対しても、受付嬢は首を横に振る。
「? いえ、そのような依頼はお出ししていませんよ?」
「え、どゆこと? シーラが魔物の被害を受けてるって話は?」
「??? そのような被害報告は受けておりませんが……。シーラは今日も平和そのものですよ! それもこれも、冒険者の方々が定期的に魔物の駆除をなさってくださるおかげです!」
「話が噛み合わねぇ」
「ええ、そうですね……。では我々への依頼は一体……」
「えと……皆さんに依頼書はお出ししていませんが、シーラへの招待状ならお出ししましたよ! 日頃、ギルドへの多大なるご貢献の感謝の気持ちということで、この美しい海上都市シーラでの観光を満喫していただきたく! ちょうど学園が長期休暇に入るとのことでしたので、少しでもお休みいただけたらなぁと思いまして。ギルドマスターが皆さんをご招待致しました!」
「え!?」
「あぁそれと、こちら、ゲルド様よりお預かりしていたお手紙です」
「手紙……」
ルデンが受け取った手紙を皆で覗き込む。
手紙にはこんな事が綴られていた。
『この手紙を読んでいるということは、無事シーラに到着したんだね。ふふ、さぞ混乱しているだろう。サプライズは成功かな? 実は君たちには内緒で、ギルドマスターと今回のサプライズを計画してね。ほら、数ヶ月前の旧魔術邸の一件から休む間もなく依頼を出してしまっただろう? さすがに我々も、学生である君たちに無理をさせすぎていると気がかりでね。旧魔術邸の一件、そしてその後の活躍のお礼として、私とギルドからささやかな旅行のプレゼントを。シーラでの滞在が、君たちにとって素敵な旅になれば嬉しい。旅での費用は全て我々が持つので、心配せずゆっくりくつろいでくれたまえ。…………追伸、あまり派手な豪遊をされると私とギルドが破産するので、程々に頼むよ』
手紙を読み終えた私たちは、再び顔を見合せた。
「え……サプライズ?」
思わず驚きを口にする。
シェナもガシガシと頭をかいた。
「……はっ、まんまと理事長にやられたな」
「えっえっ、マジで!? タダでシーラ観光できるとか嬉しすぎるんですけど!」
「あらあら、サプライズだったのですね!」
「すみません、混乱させてしまって……」
ルデンが受付嬢に謝ると、彼女は人懐っこい笑顔を向けた。
「いえいえ! 今ギルドマスターからお預かりしている荷物を持ってくるので、少々お待ちください!」
しばらくすると、荷物を抱えた受付嬢がギルドの中から出てきた。
「申し訳ありません、お外でお待たせしてしまって。今の時間帯は冒険者の方々の出入りが多く、ごたごたしていまして……」
「問題ありませんよ」
「ご理解感謝いたします。あ、こちらが皆さんの通行証になります」
そう言って渡されたのは、ギルドの紋章とギルドマスターの名が刻まれた透明なプレートだった。
「レストランや雑貨店等でのお会計の際、こちらのプレートを店主にお見せください。支払いはすべてギルドマスターの〝付け〟となりますので! じゃんじゃんお買い物しちゃってください! それと、このプレートは首にかけられる仕様になっておりますので、お出かけの際は忘れずに携帯してくださいね。あ、ただこちらのプレートは市場や露店での使用ができませんので、そちらでお買い物の際はこちらのコインでのお支払いをお願いいたします」
受付嬢はコインの入った袋を人数分配った。
「うわ、重っ! 人数分、こんなに貰っちゃっていいの?」
「はいっ! もちろんですよ! 皆さんのご貢献に比べたら足りないくらいです!」
「ご配慮ありがとうございます」
「ま、連日ギルドからの依頼ばっかやってたもんな」
「やったー! 観光するぞー!」
「なら、一度荷物を置いた方がいいんじゃないか?」
「ラルドさんの言う通りですね。宿泊施設も手配してくださった……のですかね」
「あー……えっと、大変申し上げにくいのですが……富裕層向けの宿泊施設に連泊となると、さすがにギルドが潰れかねないので、ギルドが来客用に改装した民家を宿泊施設としてご利用いただくという形になってしまうのですが……」
「構いませんよ。みんなも大丈夫だよね?」
「ええ、もちろんよ」
「こんな色々やってくれたんだもん、そんなことで文句言わないよ、おねーさん♪」
セシアンがウインクすると、受付嬢はボンッと顔を赤くする。
「そ、そそそそそう言ってくださると助かります〜! この地図に印した建物が宿泊施設となっていますので、ご自由にお使いください! 鍵、お渡ししておきますね……!」
「ありがと〜」
「本当に見境ないな」
「……ベリル、こっち来い」
シェナに腕を引かれ、何故か彼の後ろに隠される形になる。
「(セシアンとできるだけ離れた位置にベリルを連れて来て、と……)」
「?」
「コホン。それでは、僕たちはこれで」
「は、はい! 何かあればギルドにお立ち寄りくださいね! 良い休暇を!」




