後日談
──────────────────────────
────そして、数日の調査を経て。
私たちはルデンにより、時計塔へと招集された。
「まず、僕らと共に元の世界に帰ってきた人たちだけど、皆元の生活に戻りつつあるようだよ」
「おー! よかったね、何ともないよーで!」
行方不明とされていた彼らは、皆家族の元へ帰れたようだ。
数年、数十年とあの屋敷に囚われていた者もいたようで。
目覚めた彼らは、皆涙を流してお礼の言葉を口にしていた。
「次にカルミア家だけど、爵位剥奪、土地や財産の没収という処罰に決まったそうだ。元凶であるカルミア家の領主はすでにこの世にはいないが、代わりに領主の娘はまだ生きているからね。彼女にも相応の罰が下るだろう」
「今回の依頼者の母親にあたる人物ですね。彼女は当時のことを知っている唯一ですから、細かな事情聴取を受け終わった後、王国が彼女を正式に裁くことでしょう。残りの人生は牢の中で送ることになるはずです」
「元はと言えばそいつの我儘が最初の原因だからな。よかったんじゃねぇか」
シェナはフン……と鼻を鳴らした。
「とはいえ、血縁者は少し災難ね。自分たちに直接関わりがないのに、これから路頭に迷うことになるのでしょう?」
「今回の我々への依頼者である、家を継いだ息子は詳細を知っていたのか?」
「どうだろうね。 一応、知らないの一点張りだったらしいけれど」
「事実を知っていたら、ギルドに依頼は出しづらい気もしますが……単純に、そこまで頭が回らない知能レベルだったのかもしれません」
レドの言い回しに、セシアンはアハハと笑った。
「もうそこはストレートに馬鹿って言ってやりなよ」
「だが本当に何も知らなかったとして……君は彼らに同情するかい?」
言いながら、ルデンがこちらに視線を移した。
彼は代表して私の意見を聞きたいようだ。
私はニコリと微笑みながら、素直な考えを口にした。
「私? いいえ、全く」
その答えを聞いて最初に反応したのはシェナだった。
「ふはっ、そんないい笑顔で言ってやるなよ。くく、ほんと……面白いのな、あんた」
「結果的に屋敷を出られたからいいものの……それは結果論だもの。あのまま閉じ込められたままだった可能性も十分あったわ。それに彼らは今までバーベナの功績を自分の物にして良い暮らしをしてきたのでしょう? そんなの、いくらなんでもバーベナが報われないわ」
「その通りだ。一からやり直せるだけマシだろう」
「ほんっと、その馬鹿息子のせいで散々な目にあったわ〜。けどまぁ今は、そのおかげでリルちゃんの可愛い笑顔が見られるようになったからいいか、って思えるけど♪」
「ふふ、そうだね」
セシアンの言葉に、ルデンも優しい笑顔を浮かべた。
「……私、そんなに笑っている?」
「うんうん♪ オレらがくだらねーやり取りしてても、ニコニコ〜って見守っててくれてたり!」
「それは苦笑いではないのか? 単に呆れているだけだろう」
「ちなみにオレらってのはお前も含まれてるからね?」
「なっ!?」
「笑顔と言えば、シェナさんの雰囲気も随分柔らかくなりましたよね」
「そうだね。僕も今のシェナの方が活き活きしていて良いと思うよ」
「…………ふん、知るかよ」
照れ隠しなのか、シェナは鼻を鳴らすと顔を背けてしまった。
(シェナ……尻尾が揺れているわよ……)
ルデンは再び、改めて皆と向き合った。
「みんなとこうして話せるようになったのも、あの屋敷で過ごした日々があったからだ。結果論にはなってしまうけれど、それでも、旧魔術邸調査の依頼を引き受けることができてよかったと思うよ。これからもきっと、色んな依頼を引き受けることになると思うけれど……改めて、みんなよろしくね」
彼は優雅に、けれど自然に、私たちへ微笑みかけた。
釣られて、皆の表情も柔らかくなる。
「うんうんっ、よっろしくー!」
「……よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「……よろしく」
最後に、5人の視線が私と交わる。
それに答えるように、私は微笑みながら───
「こちらこそ、よろしくね」
───そう答えた。
─────こうして、ようやく今回の依頼は終わりを迎えたのだった。
たった15日間の出来事。
けれどその15日間は、私にとって、そしてきっと彼らにとっても、とても濃密な時間だった。
いつかこの依頼を、思い出話にする日がくればいいなと切に思った。
「…………と、いい感じに締めようとしてるとこ悪ぃけど、そろそろ幼児化しそうだから帰っていいか?」
シェナの言葉に不意をつかれ、皆吹き出した。
「ぷっ……おま……っ、このタイミングで……!? あはははっ!」
「仕方ねぇだろ、なっちまうもんはなっちまうんだから」
「ふふ、そうだね、そろそろ帰ろうか」
「あっ、そーだ! せっかくだしみんなで帰ろーよ!」
「帰りに魔道書館へ寄ろうと思っていたんたんだが」
「いいだろー、いつも行ってんだから今日くらい!」
「はぁ……仕方ない。付き合ってやる」
「いいね、みんなで帰るのは初めてだ」
「リルちゃんもいいよね?」
「ええ、もちろん」
オレンジ色に染った空の下を、並んで歩く。
みんなが私の歩幅に合わせてくれることが嬉しかった。
「…………でも、やっぱりこのメンバーといると目立つわね」
「ん? どうかしたかい?」
「なになに〜? どーしたのリルちゃんっ」
「なんでもないわ。私がどこかのご令嬢に刺されたら、貴方たちのせいって話」
「何でもない話なのか、それ」
「ふふ、そうなる前にそのお相手を排除しますよ」
「あぁ、護衛は任せろ」
「それ火に油だから……」
「よく分からないけれど……何かある前にちゃんと僕らに話すんだよ?」
「そうそう! なんだったら毎日エスコートするよ」
「毎日はちょっと……」
「ガーン!!!」
「ふふっ、気が向いたらお願いするわ」
他愛もない話をしながら帰るこの時間は、私の考えていた平凡にはないものだったけれど。
(ダイヤ生の任期が終わるまでは……)
こんな時間も案外悪くないなと思ったのだった。




