竜種討伐
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シェナとレド、そして縄で繋がれた使い魔たちが出発し少し経った頃、遠くの方でズシン、ズシンと地面の鳴る音が響いてきた。
「上手く誘導できたみたいだな」
「罠の具合は?」
ルデンの後ろにいた私は、彼の代わりに穴の中に目をやった。
「大丈夫、まだ固まっていないわ。ただ、たぶんあの大きさの竜が穴に落ちたら、少なからず周りに液体が飛び散ると思うから、離れていた方がいいと思う」
「そうだね、一応念の為落とし穴の周囲に防御層を張っておいたけれど、完璧に防げるかは分からないからね」
ズシンズシンという地響きが徐々にこちらに接近してくる。
「あ、来た!」
「待て、想定より蝕竜の移動が速い! あのペースだと穴を飛び越えるぞ!」
「く、それだけ空腹だということか! いいかい、みんな。蝕竜の体が穴の頭上に差し掛かったら、上から奴に重力魔法をかける! やれるかい……!?」
「任せて。私たちが彼らのスピードに合わせれば問題ないわ」
「……! 頼もしい限りだ!」
「(やはりお前は───……いや、今は他のことを考えている暇などないな)」
ラルドは短く息をつくと覚悟を決めたように頷いた。
「タイミングは任せる。俺も合わせよう」
「オレも同じく!」
「距離的に合流は……30秒……20秒……10……」
3人に合わせるように、私も魔法の詠唱を開始する。
使い魔2匹を連れた2人が、後ろに蝕竜を引き連れ猛スピードで走ってくる。
2人は地面を強く蹴り、マグマ入りの穴を軽々と飛び越えた。
数秒遅れて、蝕竜の体が穴の上で平行になる。
「────今ッ、重力魔法ッ!」
ルデンの掛け声に合わせて魔法を放つ。
4つの魔法陣が蝕竜の体に絡みつき、蝕竜はバシャンッと盛大にマグマへ落下した。
その瞬間、森に蝕竜の咆哮が響き渡る。
マグマに落ちてなお、蝕竜は上へ上へと這い上がろうとしていた。
4人がかりで押さえつけているのにも関わらず、押し返す力が尋常じゃない。
「なんて……力だ……!」
「く……っ、魔力の減りが激しい……!」
「っ〜〜〜!!」
(……っ、これが竜種……! いえ……竜種でなくても、相手も生きるために必死なのだから、当然、よね……! けれど、それは私たちだって、同じこと!)
私は重力魔法の扱いを片手に切り替え、もう片方の手を天に伸ばす。
蝕竜の頭上に炎の矢が落ちるよう魔法を発動させ、何度も炎を蝕竜に撃ち込んだ。
その度に悲痛な声を上げ苦しむ蝕竜。
苦しむ声を聞く度、思わず目を背けたくなるけれど、それはしてはならないことだと理解している。
私たちは見届けなくてはいけない。他でもない、私たちの手で殺すのだから。
(この子は人間の傲慢な理由で森へ放たれただけ。そんな貴方を、人間の勝手な理由で殺すこと、どうか許して……)
私は心の中で何度も謝りながら、それでも、魔法を止めなかった。
───しばらく聞こえていた蝕竜の声は、いつしか聞こえなくなっていた。
息絶えた竜は、ゆっくりとマグマに沈んでいく。
皆、息を切らしながらも、竜の最期を目に焼きつけた。
「……これでよかった、のよね」
「……ああ。僕らが元の世界に帰るためには、蝕竜を葬る他なかった。苦しませずに倒す……なんて、そんな甘い考えでは、この竜を倒すことはできなかっただろう。真っ向から攻撃を仕掛けたら、僕らはきっと無事ではすまなかった。僕らはまだまだ未熟なんだと……痛感したよ」
「…………そうだな」
「……蝕竜倒したら、もっと達成感あると思ってたけど、あの声聞いちゃったらね……素直に喜べないよな。ごめんな、殺すことでしか、楽にさせてやれなくて」
「…………」
「───ルデン様、皆さん、ご無事ですか?」
「…………お疲れ」
「レド……シェナ……。二人も、無事で良かったわ」
「うん、二人もお疲れ様。よくやってくれたね」
「誘導、見事だった」
「……いえ、皆さんのアシストなしでは失敗に終わっていました」
「あー、使い魔ズは?」
「途中で気絶した」
「あーーー……まぁあんなのに追われちゃーね、仕方ないか」
「二人も疲れているのに、抑え込むのを手伝ってくれていたね、ありがとう」
「いえ。蝕竜の走る速度が想定よりも速く、身体強化を上書きしながら走り続けていたので、魔力不足により皆さんのお力になれるほどの補助はできませんでした……申し訳ありません」
「……悪い、鍛錬不足だった」
「そんなことないよ。僕らだけじゃ抑えられなかったさ。それにベリル、君にも助けられたね。上級魔法を使いながら更に魔法を追加で放てるなんて……」
「…………私は────」
─────グラッ。
突然、地面が大きく揺れる。
この揺れは……そう、この空間に飛ばされた際のものと同じ揺れだ……!
あの時と同じく自力で立っていることが困難になり、近場の木に掴まりながら揺れに耐えた。
森の草木や、地面、空───この空間がゆっくりと金色の光の粒子に変わっていく。
私たちの身体も、手先から順に透けているようだ。
『───時空消滅、実行完了。返還者、6名』
(この声は……コウモリの使い魔?)
次の瞬間、辺りは一面真っ白な世界へと変化する。
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『謎を解いてくれて、ありがとう』
過去は変えられないのかもしれない。
だが、私の創り上げたこの平行世界だけは、救われた。
この並行世界で、この森は生き続けることができる。
全て君たちのおかげだ……感謝する。
これで私も、妻や娘と同じ所へ行けるよ。
君たちや、他の者たちを巻き込んだこと、申し訳ないと思っている。
当然、許されないことだと理解している。
だが、それについて後悔するつもりはない。
私は死してなお、私の愛したこの森を、私の妻や娘が愛したこの森を、守りたかったんだ。
私の願いを叶えてくれた君たちには、本当に、感謝してもしきれない。ありがとう。
……そんな君たちを見込んで、もう1つだけ────頼みを聞いてくれないだろうか。
図々しいことは承知の上だ。
だから、無理強いはしない。しかし、謎を全て解き明かした君たちなら、もうすでに、分かっているはずだ。
『この厄災を引き起こした真の元凶を─────』
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