作戦決行
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───翌朝。
いつもより少し早く起きた私たちは、軽めの朝食を済ませ、装備を整えるとさっそく森へと移動した。
そして、早くも作戦決行の時である。
湖付近の道に罠を仕掛けるため、身体強化したシェナが思い切り地面を叩いた。
(いえ、あれは叩くと言うより割るとか砕くとかの表現が適切かしら……)
岩魔法等で地面に穴を掘るのかと思っていたら、ただ助走をつけて高く飛び上がり、着地と同時に両手を振り上げ地面に叩きつけたのだ。それだけで地面に穴が空くとは思うまい。
そんなわけで、今はシェナが作った地面の穴を整える作業と、魔術道具の調整を行っている。
「よかった……魔術道具は正常に機能するみたいだ」
「これで動かなかったら昨日までの猛勉強、マジで無駄になるからね……。そうならなくてよかったわー」
「勉強が無駄になることより、この空間から完全に出られなくなることの方が問題だろう。昨夜ルデンも言っていた通り、正直この作戦が失敗したら次の手を考えている暇はない。俺たちの命運はこの魔術道具にかかっている」
魔術道具を調整していたレドが、パタパタと両手を叩く。
「魔法陣の設置も完了しました。いつでも行けますよ」
「よし、起動してみよう」
皆、順に魔術式の詠唱に入る。
勉強の成果もあって、詠唱は無事成功し魔法陣も問題なく作動した。
地面に置いた魔法陣が赤く光り出すと、それと共鳴するように魔術道具の装飾も輝きを放った。
穴の縁に置かれた魔術道具は、魔法陣の力で穴の真ん中まで浮き上がり、ティーポットの注ぎ口のような所から、穴の中にオレンジ色の液体を垂らしていく。
しばらくして、穴は半分以上がオレンジ色の液体で満たされた。
「…………はぁ。まずは第一関門突破だな」
「マグマっつーからもっと粘り気があるもんだと思ってたが、案外サラサラしてんだな」
「穴に近づいてもあんま熱くないんだけど、これって成功してんのかね? 念の為耐熱魔法をルデンにかけてもらったけど、そのせいで熱さを感じてないとか?」
「いや、マグマほど高温の液体の側に近付いたら、いくら耐熱魔法で防御していてもかなりの熱さを感じるはずだ」
「え!? じゃあ失敗!?」
「まずは試しに何か中に投げてみましょうか」
「ええ、そうね。この葉っぱ付きの木の棒とかでいいかしら?」
ポイッと穴の中に投げ入れる。
すると枝は液体に浸かる前に、ジュッと音を立てて消し炭になった。
「え……」
今起こった事象に、思わず目を丸くしてしまう。
「蒸発、した?」
信じられん、といった様子で今度はラルドが小石を投げた。
しかし、結果は変わらなかった。
小石も枝と同様にすぐに消えてしまったので、試しにもう一度、今度は少し大きめの岩を転がし入れてみた。
すると岩は液体に浸かると徐々に小さくなって溶けていく。
「もしかしなくても……この液体、ちゃんとすげぇ熱いのかも……」
「ああ、ちゃんと成功していたようだね。今のところ大丈夫そうだけど、あまり長時間ここに置いておくと液体が凝固する可能性があるから、早く次の作戦に移行しようか」
「そうだな。セシアン、準備できてるか?」
「あったりまえよ〜! よーし、出番だぞ〜使い魔ども〜」
「ワクワク!」
「((ガクブル))」
「そういえば、誘き出し作戦は具体的にどうすることになったの?」
私の問いに対し、セシアンは「フッフッフ……」と不敵な笑みを浮かべた。
「ハイ、ではまず、コイツらを縄で縛って動けなくします」
「…………キュ? (何故?)」
「その縄をシェナにパスして……ルデンに、シェナとレドを身体強化魔法で強くしてもらいます」
「……───はい、かけたよ。これでいいのかい?」
「完璧! で、次にラルドくん、蝕竜の居場所をどーぞ!」
「蝕竜の大きさと移動速度、行動範囲を踏まえると、根城にしているのは地図で言うとこの北西の洞窟だろう。ここからそう遠くはない」
「よーし、では使い魔どもにオレが昨日徹夜で作った蝶の触覚と可愛い羽をつけて〜、よしよし、似合ってんじゃん! お手軽蝶々の完成! と、いうことで、この使い魔を囮に、身体強化組二人が蝕竜を洞窟からここまで連れて来ます」
「ピ、ピンク色! 話ガ違ウ! 我ラ利用スルノカ!」
「話が違うも何も、この作戦内容伝えたの今だし? お前、昨日頑張るって言ってくれたじゃん? だからせいぜい頑張ってほしいなって! 囮役をさ♪」
「ピンク色悪魔ッ! 我ラ喰ワレル!? 嫌! 嫌!」
「嫌がるって分かってたから言わなかったんだよ〜。ふよふよ飛べるのお前らくらいだし、虫役が他に思いつかなくてさ〜」
「我ラ虫違ウ! スグ! バレル!!」
「((高速で頷く))」
「それに関しては問題ねぇ。あの蝕竜、たぶん今すげぇ腹減ってるから、虫っぽい見た目してたらすぐ食いつくはずだ。なんてったって、ここら辺の餌は奴が食い尽くしてるからな。奴が頻繁に湖を行き来してるのは、喉の乾きからじゃなく、腹を満たすためだ。だが水だけじゃ、あのデカさを補うエネルギーになるわけがねぇ。だから奴は今、できるだけエネルギーを使わないように根城でじっとしている。そこに虫の見た目をした何かが入ってきたらどうなる?」
「この機会を逃すまいと、追ってくるだろうな」
「なるほど……」
「小娘、関心シテル場合違ウ! 我ラ速ク飛ベナイ! スグ追イツカレル!」
「あぁ、だからシェナとレドが縄で引っ張るんだね……」
「ハッ!? コノ縄ソウイウコト! 嫌ー! イヤー! 喰ワレル怖イーー!」
「嫌がってる割にコイツら表情変わんねぇからシュールだよな」
「ピンク色悪魔ー! 嫌イー!」
「ちなみに発案者はこちらのレド先生です♪」
「えっ、そうなの?」
(意外だわ……)
「黒イノ!? ナンデー!!」
「あなた方はルデン様を、そして皆さんを危険な目に合わせた訳ですからね。これくらい頑張っていただかないと。───ところで……私が焼いたスコーンのお味、いかがでしたか?」
「スコーン……………………………………」
「食べましたよね、全て」
ニコリ、と。
レドは優雅な笑みを浮かべた。
いつもの笑みと大した変わりは無いはずなのに、笑顔の圧、というのだろうか……少なくとも使い魔たちはその笑顔に恐怖を感じているようだ。
緑色の使い魔は、震えながらも全力で首を横に振っている。
「((紫コウモリを指差す))」
「おや、あなたは食べていないのですか? けれど残念ながら、連帯責任ということで」
「((絶望))」
「ク、黒イノ、ツマミ食イ……オ、怒ッテル?」
「いいえ? そんな、つまみ食いごときで怒るはずないじゃないですか、つまみ食いごときで」
「(ア、凄ク怒ッテル!)」
「あなた方が蝕竜に食べられないよう、縄は持っていて差し上げますが……もし暴れられたら、うっかり手を離してしまうかもしれません。蝕竜に食べられてしまうの、嫌ですよね? であれば、しっかり羽を動かして飛んでくださいね」
「(黒イノガ、一番怖イ……)」
「((大きく頷く))」
「(小娘……助ケテ……)」
(何だか助けてほしそうにこちらを見ているけれど……)
私は静かに微笑んでからそっと目を逸らした。
「じゃ〜作戦開始ってことで! つってもオレらは待ってるだけなんだけど」
「地図は頭に入っているな?」
ラルドが尋ねると、シェナとレドはハッキリと頷いた。
「あぁ」
「手筈通りに」
「気をつけて。姿が見えたら僕らもアシストするから」
「頼む」
「キュー……」
使い魔2匹も、諦めて手(片羽)を振っている。
───ついに、蝕竜討伐の始まりである。
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