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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
第二章 〜仲間〜

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現状報告

 


 談話室にはラルドたちが調べたのであろう沢山の書物が、床や机に重ねられていた。


「散らかっていてすまない、後で片付けるから」


「平気よ。そっちも何か分かった?」


 私が言うと、セシアンもうんうんと頷きながら「そういえば、」と言葉を続ける。


「あ〜なんか調べたいことがあるとか言ってたよな?」


 私たちの問いに対して、ラルドは涼しい顔で答えた。


「ああ、ここ数日でこの屋敷にある本には全て目を通したが───」


「待った、全部読んだの?? あの量を???」


「? ああ。それがどうした」


 当然だろう、と言わんばかりの表情で言うラルドに、ルデンとレドも苦笑いを浮かべた。


「……僕もそれを聞いた時驚いたよ」


「ええ、相当な量ありましたからね」


(すごいわ……。ずっと書斎に篭っているとは思っていたけれど、まさか全て読破したなんて)


「それで?」


 シェナが脱線しかけた話を戻す。

 夜になり小さくなったシェナは、身体だけではなく、声も昼の低音と比べるとより高く聞こえるので幼さを感じるのだが、的確な相槌や冷静な言葉が、なんだか大人びた子供を相手にしているような感覚になる。


「コホン……話を戻すが、こちらの収穫としては、まず一つ、この屋敷の()()()について分かったことがある。この旧魔術邸は()()バーベナという魔術師のものだということ。つまり、我々をこの屋敷に閉じ込めた犯人はバーベナだ」


「バーベナ……確か村のお爺さんも魔術師のことをバーベナ様と言っていたわ」


「村でもバーベナの話題が出たんだね」


「ええ」


 にしても、ラルドの言い回しにはなんだか違和感がある。


(魔術師邸の、本来の所有者……?)


「私たちに───というよりギルドにですが、この屋敷の調査を依頼した人物の名を覚えておいででしょうか?」


「あ〜、なんだったっけなぁ。確か、有名な魔術師家系……って話だったっけ?」


 セシアンが首を捻ると、ラルドは「そうだ」と頷いた。


「ああ、その魔術師の家名は、〝カルミア〟。元々この依頼はカルミア家からのものだ」


「あー! そうだったそうだった! あれ……カルミアって今日どっかで聞いたような?」


「領主の名前……じゃなかったかしら」


「あ、そうそう! 確か村の爺さんが言ってたよな、領主カルミア様って。でも……待てよ? なんで依頼者はバーベナ家からじゃなくてカルミア家からなの?」


「問題はそこだ。バーベナのものと思われる手記には度々領主カルミアの名が登場する。村での証言も踏まえ、この時代の領主がカルミアなのは間違いないだろう。だが……」


「うん、僕たちのいた時代の歴史では、この森を管理していた領主はバーベナ家だとされているんだ。つまり……どこかで魔術師のバーベナ家と、領主のカルミア家が入れ替わっていることになる」


「入れ替わってる……? 何故そんなことに……」


「その理由は2つ目の収穫に重なるのですが、魔術師バーベナはとある病と森の腐敗の関連性について調べていたようなのです。そして、バーベナ自身も病に侵され最期を迎えています」


「病……確か村の連中も今、流行病にかかってると爺さんが言ってたな。隣村は病で全滅したらしい」


「なるほど……では例の怪物の話もお聞きになられましたか?」


 レドから尋ねられ、私たち村調査組は一瞬言葉に詰まった。


「聞いたも何も……ねえ?」


 こちらに話を振らないで、とセシアンに言う間もなく、彼はあさっての方向に視線を移した。

 シェナも気まずそうに、だがいち早くそっぽを向いたことを私は知っている。

 結局、この場は私が事実を述べるしかなさそうだ。

 はぁ……と小さくため息をついてから覚悟を決める。

 覚悟、というのは勿論、怒られる覚悟である。


「……ええ。実際にその怪物を見てきたわ」


 私の言葉を聞いた瞬間、ラルドとルデンはほぼ同時に声を上げた。


「見てきた、だと!?」


「な、なんて無茶なことを……!」


 二人からものすごい勢いで詰め寄られたが、先程私を売ったセシアンも、フォローはしてくれるらしい。


「ま、まあまあ! 危険はなかったから! ね!」


 もちろんそんな言葉でルデンが納得するはずもなく、私たち三人は彼からこってりと絞られることになった。

 その間、ラルドは何やら散らばった本の中から何かを探しているようだったが、そのうち目的の本を見つけたのか、古びた図鑑のような大きな本を開くと、見てくれと私たちへ差し出した。


「奴はこんな姿だったか!?」


 そこに描かれていたのは巨大なトカゲのような竜種だった。


「あ! そうそう、コイツ! なんで知ってんの!」


 そうか……と再び図鑑に目を落としたラルドに代わり、レドが冷静に口を開いた。


「バーベナ氏は死の間際までこの竜種───蝕竜(しょくりゅう)について研究していたようなのです。先程申し上げた、病と森の腐敗にはこの蝕竜が関わっていると結論付けたようで。しかし、対処方法を見つけ出す前に命尽きてしまったようですが」


「実際の奴はどんなだった」


「んー、姿はその図鑑のまま。でっかいトカゲって感じ。大きさ……っつーか長さ? は、だいたい大人シェナ三人分くらいで、陸竜だね。翼はなかったから飛竜ではないと思うよ。……ま、背中から生えてこなけりゃ、だけどね」


 最後に、ボソッと不穏なことを言うセシアン。

 だが彼の言う通り、その可能性もゼロではない……。


 続いて、シェナが補足を加えた。


「それと、人間は襲わねぇって話だ。現に俺らの存在を気にとめてなかったからな。餌は昆虫。虫型の魔物も喰ってるっぽい。動きは遅いが餌を捕まえるだけの技は何か持ってるだろうな」


「そうか。こちらで集めた情報と概ね一致するな……」


「あ、そうだ、村のお爺さんから地図をもらったの。印が付けられている地点で姿を確認したわ。この地図はラルドに渡しておくわね」


「助かる。すぐにこちらのものと参照する」


 さっそく作業に取り掛かるラルド。


「んで、この竜が入れ替わりとどう関係してるわけ〜?」


 セシアンは調子のいい様子でルデンに笑顔を向ける。

 先程彼にこってりと怒られたことなど忘れた!というように。

 その様子に、ルデンは本当に反省しているのか疑問を浮かべたようだったけれど、最後は仕方ない……と息をつき、説明を引き継いだ。


「その件なんだけど……どうやら蝕竜を森に放したのは領主のカルミアだとバーベナ氏の手記には書かれているんだ」


「あぁ、村の爺さんもそう言ってた」


「じゃあこれも真実なんだね……。今から述べることは僕らの推測だけど、両家が入れ替わったのは、カルミア家がバーベナ家に全ての罪を着せるためなのではないかということ。森に放った竜のせいで大勢の人間が犠牲になり、森の環境に被害が出たとなると、その罪はとても大きなものとして裁きが下されるだろう。それを恐れたカルミア家が魔術師家と入れ替わるという暴挙に出て、まんまと隠れ蓑にされたというわけさ」


「いや……でもさ、自分たちの領主が別人に変わってたら誰だって不審に思うはずじゃねー?」


「本来であれば、有り得ぬ事でしょう。しかし、村で病が流行し、隣村はすでに全滅したとのことでしたよね」


「……あー、そういうこと」


 レドの言葉で、セシアンは何かを察したらしい。

 その様子を見たシェナは首を傾げた。


「どういうことだ」


「爺さんがいたあの村も、病で全滅するってことだろ。バーベナ家もその病で一家全員亡くなった。となると真実を知る人間は領主だけだ。入れ替わりに気付く人間は領内にはいなくなるってこった」


「なら別に入れ替わらなくてもいいだろ。魔術師バーベナが犯人だと証言した方が入れ替わりよりバレるリスクは少ねぇ」


 ……確かに。

 シェナの言うことももっともだ。


「高いリスクを犯してまでやる価値があったということよね。カルミア家には何か他にも後ろめたいことがあったのかしら?」


「その通りだよ。領主には元々横領疑惑があったそうだ。それが事実だとすると、横領の罪ごとバーベナに被せることができる。まさに死人に口なしと言ったところだろうね」


「うーわ、クズじゃん。つーか、領民の証言がないってだけで、領主が入れ替わったことに誰も気付かねーってことある!? 仮にも領主なら名前くらい誰か把握してなかったの? 領土の管轄の大元は王家だよな?」


「この魔獣の森の領土がヘリオドール領に入ったのはつい最近のことなのですよ。当時はこの辺境の地を治める領主の名など、あってないようなものだったのでしょう」


「……とは言っても、当時の管理があまりにもずさんすぎる。帰ってから調べ直す必要があるだろうね」


「ふーん……。領主はこうなることが分かってて竜を森に放したのかねぇ」


「どうかしら。ただ単に娘の我儘を叶える親バカなだけだったんじゃない? ずる賢いだけでしょう」


「娘の我儘? ベリル、その話を詳しく教えてくれるかい?」


「領主の娘は大の虫嫌いだったらしくて、森の虫を駆逐するために竜を放ったらしいわ」


 作業をしていたラルドが手を止め、呆れたように口を開いた。


「そんなくだらない理由で竜種を扱っただと? 馬鹿か?」


「馬鹿なんでしょ〜よ。じゃなかったらこんなことになってないって」


「俺らが探索で得た情報はこんなもんか?」


 頷きながら、ハッと、一つ思い出した。


「あ、もう一つ。昼の森でまたあの例の声を聞いたの」


「あ、そうだった。日記を屋敷に置いてくるだの言ってたんだけど、なんかなかった?」


「日記とは……これのことでしょうか。中身が白紙の真新しい日記が人数分、食堂の廊下の床に散らばっていたんです。それに気が付いたのは昼過ぎだったのですが、その間ルデン様とラルドさんは資料集めをなされていて、誰もこの日記について身に覚えがなく不思議に思っていたのです。ついでにお茶菓子用に焼いたスコーンもなくなってしまって……」


「それは誰かが食ったんじゃねーの?」


「僕は食べていないけれど……」


「同じく」


「ふーん? けどこの部屋からスコーンの匂いするけどな」


「おかしいですね……談話室には持ち込んでいないのですが……」



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