朝食
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レド、シェナと共に食堂へ降りると、他の皆はもう席についていた。
レドは私とシェナの朝食を運んでくれるようで、厨房へと入って行った。
セシアンは私の姿を確認すると、ひらひらと手を振って自分の隣へ座るよう招く。
「おっはよー、リルちゃん♪」
「おはよう。あら、今日はラルドもいるのね」
「……まぁ、たまにはな」
「お! シェナの身体元に戻ってんじゃん!? よかった〜、心配してたんだよー」
「おはよう二人とも。シェナ、もう熱は大丈夫なのかい?」
ルデンもシェナの姿を確認するとホッと安堵したようだった。
「……ああ。…………その。………………心配かけて、悪かった」
「「「!?!!?」」」
ルデン、セシアン、ラルドは同時に、そして全く同じ表情を浮かべた。
唖然とした表情というのは、まさに今の彼らのような表情を言うのだろう。
「あ、熱でおかしくなったとか、そういう……?」
セシアンの推理にラルドとルデンもどこか納得したように眉を下げた。
「そんなに酷い熱だったのか……? いや、でもそうか……身体が縮むくらいの熱なら人格ごと変わっても不思議ではないか……?」
「し、シェナ、まだ本調子でないなら休んでいた方が……」
彼らの反応に、シェナは呆れたように息をついた。
「テメェらな……」
「ふふっ」
そんな彼らのやり取りがなんだかおかしくて、思わず吹き出してしまう。
すると、4人は驚いたように私に視線を向けた。
(……? 何故みんなして私を見るの?)
「…………なにかしら」
「オレ、リルちゃんがこんな楽しそうに笑うの、初めて見たかも!! 」
「うん、ベリルは笑顔が似合うね」
「ふん…………」
「まぁ……悪くねぇんじゃねぇの?」
「???」
私が首を傾げていると、厨房から出てきたレドが二人分の朝食を運んできてくれた。
「皆さん、随分盛り上がってらっしゃいますね。あ、こちらベリルさんとシェナさんの分のスープです。冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがとう。せっかくみんな揃ったのだから、レドも一緒に食べない?」
「そーだよ! 今日は珍しくラルドとシェナもいるしさ、一緒に食べよーぜ」
いつもレドは片付けを優先し、私たちと共に食事は取らないのだが、せっかくの機会だ。
「そう……ですね。では私もご一緒させていただきます」
断られてしまう心配もあったが、セシアンの援護もあり、了承を得ることができた。
初めて全員が揃った食事の場。それを一番喜んでくれたのはルデンだった。
レドの食事も用意できたところで、待ってました!とセシアンが先陣を切った。
「じゃーみんな揃ったところで、いただきまーす♪ ん〜! 今日も美味〜」
私の右隣に座るシェナも、スープを口に含むと尻尾をユラユラと動かした。
「……美味い」
「ええ、今日も美味しいわ、レド」
「ふふ、ありがとうございます」
レドの料理は本当にどれも美味しく、さらに見た目も美しい。
有名店にも引けを取らないレベルだ。
テーブルの真ん中に置かれたバスケットの中には、焼き立てのパンがいっぱいに入っている。
毎朝手作りで焼いてくれているようで、今や私たちの毎日の楽しみとなっている。
かなり早くから起きて料理の仕込みをしてくれているにも関わらず、おそらく就寝は一番遅い。
一体どれだけ睡眠が取れているのかと心配なのだが、当人はなんでもないように全て完璧にこなしてしまうので、そこはさすが第二王子の従者といったところだ。
セシアンもパン入りのバスケットに手を伸ばす。
しかし、ほぼ同時に伸ばされた手がセシアンよりも先にパンを手にした。
「だーっラルド! それオレが狙ってたチーズパン!!」
「……うるさい、どれも一緒だろう!」
「一緒じゃねーの! それが一番チーズ入ってて美味そーだったのに!」
いがみ合う二人をルデンがまぁまぁ、と宥めている。
朝から賑やかだなぁなんて呑気に見物しつつ、チラリとシェナの方を覗くと、彼もパンを頬張っていた。
(チーズパン……ではないみたい)
「シェナのそれは何のパンを食べているの?」
「……ん、これか? わからん。なんか甘い」
シェナのざっくりとした説明にレドはクスっと笑うと、補足してくれた。
「今日はナッツとベリーをパン生地に混ぜ合わせてみました」
(美味しそう……!!)
バスケットの中にまだ残っているだろうか……。
「ふっ、半分食うか?」
「えっ、いいの?」
「ほら」
シェナは自分のパンを二つに割り、当然のように大きい方を私に差し出した。
「ありがとう……! ん、美味しい!」
私が微笑むと、シェナもフッと優しい表情をみせた。
その様子を見ていたセシアンが、ひょこっと顔を覗かせる。
「え? なになに、二人して半分ことかしちゃってんの? シェナ〜オレにも一口ちょーだい♪」
「てめーにはやらん」
「なんでだよ!」
ピシャリと言い捨てられ、セシアンが盛大にツッコミを入れる。
一連の流れを私の向かいの席で見ていたルデンは、堪えきれずといった感じで笑った。
「……ふふっ」
「? どうしたの、ルデン?」
私が問いかけると、彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「いや、食事ってこんなにも楽しいものなんだなって。こんな風に友人たちと食事するのは初めてで。もちろんベリルやセシアンと食べていた時も楽しかったけれど、一度でいいからみんなで食べたかったんだ」
「ルデン様……」
「……殿下」
「(……友人、か)」
レド、ラルド、シェナは少し申し訳なさそうに彼の言葉を聞いていた。
「でも意外だな〜。殿下って友達多そうなのに。夜会とか食事会とか、参加する機会多そうだし?」
セシアンが言うと、ルデンは少し困ったように苦笑した。
「そういう場では、どうしても王族として振る舞わなければならないからね。気兼ねなく食事できる相手は滅多にいないんだ」
その言葉に、レドもええ、と頷いた。
「食事の場は毒なども混入させやすい状況ですしね。今も昔も、毒は暗殺にはもってこいですから」
「そういえば、あんたは王子だったな」
「おい───って言いたいところだけど、忘れそーになる気持ち分かるわ〜。本当だったらオレらなんかが気軽に話せるような相手じゃねーんだけどなぁ」
「気軽に話せるような相手じゃない、か……やっぱり、難しいのかな。身分を気にせず友人になるのは」
そう言って、寂しそうに笑うルデン。
その笑みは、私たちを気遣ってか、はたまた遠慮してか……そんなふうに感じた。
「……でも、今こうして私たちと話しているルデンは、王族として振舞っているわけではないのでしょう? ルデンがルデン個人として接してくれているのなら、少なくとも私は、王子ではないルデン個人を知っていきたいと思っているけれどね」
「ベリル……」
「あー……そうだよな。ごめん、オレの言い方が悪かったわ。オレも殿下のこと───いや、もういいよな! オレもルデンのこと、もう友達だと思ってるんだぜ? つーかそれはここにいる全員に言えることなんだけど。そー思ってるのがオレだけだったら悲しーから、言わなかっただけで。オレもみんなのこと、もっと知って、もっと仲良くなっていきたい。───あ、特にリルちゃんと♪」
「…………はぁ。最後にふざけなければ多少は響くんだがな」
「それでも多少かよ。ラルドくんは人の心がないんですかねぇ。つーか最後のも至って真面目なんですけどー」
「えっと……ありがとう? 私もみんなのことを知っていきたいと思っているわよ」
「ベリル。あまりこいつを甘やかすな。付け上がる」
「手厳しいなぁ、母さんは」
「わかったわ、……えっと、お母様?」
「誰が母親だ!」
セシアンと共にラルドに怒られてあげる。
そんな私たちのやり取りを呆れた表情で見ていたシェナは、やれやれと首を横に振った。
「騒がしい奴ら……」
「ははっ、いや、こういう雰囲気が僕は好きだよ」
「……はぁ。ともあれ、殿下がそう言うのであれば、俺も今後は遠慮なく」
「俺は元より人間に気なんて遣ってないからな。これまで通りにさせてもらう。それが例え王族だろうとな」
「オレはいつお前が不敬罪で捕まるかヒヤヒヤしてたわ」
セシアンが言うと、シェナはフン……と鼻を鳴らした。
皆の言葉に、ルデンは心から嬉しそうにふにゃりと微笑む。
普段の王子様スマイルも綺麗だが、やはりこちらの屈託のない笑顔の方が素敵だと思った。
「みんな……ありがとう。正直学園で友人ができるとは思ってなかったから、すごく嬉しいよ」
「私も、友人になれるとは思っていなかったわ」
「リルちゃんも、最初の雰囲気とだいぶ違うよな」
「え、私?」
「よく話すようになってくれたし、よく笑ってくれるようになったな〜って」
「そ、そうかしら?」
(完全に無意識だったわ)
「以前はルデン様にも、皆さんにも、興味すら持っていなさそうでしたからね」
「もしかしたら、ベリルが変わったというより、こうして僕たちがベリルのことを知る機会があったからかもしれないね」
「一応聞くけど……リルちゃんはオレたちのこと、嫌いじゃないんだよね?」
「ええ。最初から嫌ってはいないわ」
「えっ、そうなの?」
セシアンが本気で驚くものだから、こちらも急に申し訳ない気持ちになった。
「そ、そう見えてしまっていたのね、ごめんなさい。最初は貴方たちと関わることで私の平凡が崩れるんじゃないかって思っていたから、そういう態度に見えてしまっていたのかもしれないわね……」
「平凡?」
シェナに聞き返され、ハッとする。
「あ、いえ、なんでもないわ。とにかく、今は貴方たちと友人になることができて私も嬉しいから」
「そっか……ありがとうベリル」
私が微笑むと、ルデンも優しく微笑み返してくれた。
他のみんなも、同様に優しい表情を向けてくれている。
「そっかそっか!よかった〜! と、そうだ! 変わったと言えばさ、シェナの身体が縮んだの、あれなんだったの? 聞いていい感じ?」
「それは俺も気になっていた」
「僕もだ」
「私もです。ベリルさんはもうお聞きになられたのですか?」
「いいえ、まだよ。でも───」
シェナに視線を移すと、彼は覚悟を決めたというようにコクリと頷いた。
「───ああ。話すつもりでここに来た」
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