Select3:厨房に行く (レド)
【選択肢】
▶︎ 厨房に行く (レド)
───────────────────
(一人で6人分作るのは大変そうだし、一応、手伝いはいるか聞きに行こう)
───────────────
そう考えた私は、早速レドのいる厨房へと足を向けた。
少し迷ってしまったが、屋敷の一階奥に両開きの扉があり、その先が食糧庫となっていて、その中に隣接する形で厨房はあった。
厨房は吹き抜けとなっていて、入口から中の様子を伺うと、レドはすぐに私の気配に気がついた。
「ベリルさん? どうなさいましたか?」
「何か手伝うことはあるかしら?」
「ああ、手伝いに来てくださったんですね。ありがとうございます。ですが、今のところ大丈夫そうです。お気遣い感謝いたします」
「そう? 分かったわ。人手が必要になったらいつでも呼んでくれて構わないから」
「ええ。…………」
私がそそくさと厨房を出ようとすると、レドは私を呼び止めた。
「すみません、やはり……少し手伝っていただけますか?」
急な心境の変化でもあったのだろうか。
ともあれ、何もせずにいるのも忍びなかったので、こちらとしても好都合だ。
「分かったわ。何をすればいい?」
「そうですね……では、この食材を洗っていただけますか?」
「ええ、任せて」
レドからジャガイモやニンジンなどの野菜を手渡される。
その野菜はどれも新鮮そのものだった。
「土がついてる……まるで収穫したてみたい」
「不思議ですよね。私も最初に見た時は驚きました」
野菜についた土を、丁寧に水魔法で洗い流していく。
このくらいの魔法ならば生活魔法の範囲なので、魔法を扱える者であれば誰でも使うことができるだろう。
なので、彼の前で使っても問題はない。実に平凡だ。
「…………」
「…………」
(なんだか視線を感じるのだけど……)
さっきからレドの視線がとても気になる。
この視線は気のせいではないだろう。
理由を探っている中で、ある一つの結論に辿り着く。
(あぁ、もしかして……)
「───心配しないで。毒なんて入れないから」
「……」
レドはとても驚いたような顔をしている。
「出会って間もないし、警戒して当然よね」
「何が、でしょう?」
あんなに熱心な視線を送っておいて、とぼけるつもりなのだろうか。
まぁ……本人には言いづらい内容ではあるが。
「……貴方は王子の従者だから。食材に何か細工しないか、てっきり監視しているのかと。貴方の目を盗んで何かできるとは思っていないから。安心して」
私が言うと、レドは一瞬目を見開いてから、堪えきれずという感じで吹き出した。
「…………っふ、ふふ」
意外な反応が返ってきて、こちらも驚いてしまう。
「…………どうしたの?」
「貴女は聡明な方なのですね。ご安心ください、私も疑ってなどおりませんよ。改めて見ると本当に、人形のように美しい方だなとつい見惚れていました」
「………………」
はぐらかすにしても、もう少しまともな言い訳はなかったのか……思わずジト目でレドを見ると、彼はふふっと静かに微笑んだ。
「おや、その顔は信じていませんね? 本当ですよ。学園でも貴女の噂はよく耳にしていましたから」
「……噂?」
「ええ。容姿はもちろん、立ち振る舞いも美しく、まるで人形のようだと」
(……たぶんそれ、表情が変わらないから皮肉を込めて人形だと言っているんじゃないかしら)
「皆、貴女のことが気になっておられるようですね。───あぁ、もちろん私も含めて」
「…………。それで、実際関わってみてどう? 印象は変わったかしら? 皆が言うほど特徴もない、ごくごく普通の、平凡なつまらない人間だったでしょう?」
「任命式の時も、貴女はご自分を平凡な人間だとおっしゃっていましたね。私にはそうは思えませんが」
彼の言葉を聞き、思わず眉をひそめてしまう。
「……何故?」
「そうですね……勘、です」
根拠がなかったことに安堵しつつ、それを悟らせないように私はふいっと彼から視線を逸らした。
「……その勘は残念ながら外れているわね」
「ふふ、そうなんでしょうか? ともあれ、実際関わってみて印象が変わったのは確かです。貴女は聡明で、周りをとてもよく見ている。そして何より───何かを恐れているようです」
「…………」
彼は、どこまで見抜いているのだろうか。
出会って間もないはずなのに、彼には全て見抜かれているような気になってくる。
確かに……私は、ずっと怯えているのかもしれない。
平凡でない力を知られてしまうことが、怖くてたまらない。
知られてしまったら、私はまた1人になってしまうから。
「……ふふ、貴方の方がよく周りを見ていると思うわ。……貴方の言う通りね。私は、自分が思っている以上に、臆病な人間なんだと思うわ」
「……。臆病、というのは決して悪いことではないと思いますよ」
「え?」
「臆病なのは、それだけ慎重に物事を考えることができる、ということではありませんか? この行動で未来にどんなことが起こるのか、事前に結果を予測することは身を守る上でとても重要なことです。未来の結果を予測し、それで動けなくなってしまう者もいるでしょうが、少なくとも貴女は違う。貴女の臆病は、転ばぬ先の杖のように感じます。予測した悪い結果にならないよう、貴女は事前に準備を怠らない。その臆病さを活かして、貴女は自分を守っている。臆病さは決して、デメリットだけではないはずですよ」
「…………」
(そんな考え方、したことなかったわ)
考えてもみなかった答えが返ってきて、少しだけ、気持ちが軽くなったような気がする。
レドは空気を変えるように、さて、と切り出した。
「食材は洗い終わりましたね」
「え、ええ。はい、これ」
「ありがとうございます。……おや? 頬に土がついてしまいましたね」
「え、本当? どこ?」
私は指摘された方の頬を手で払う。
「あぁ、汚れが広がってしまいますので、私が拭いますよ」
そう言って、彼はポケットからハンカチを取り出し水で濡らす。
「手間をかけさせてしまってごめんなさい、ありがとう」
「いいえ」
レドの綺麗な顔が、私の顔に少し近づいた。
(レドもすごく整った顔をしているわよね。どこを見ていたらいいのか分からなくなるわ)
視線を合わせたままなのは気まずいので、少し逸らす。
そこで、今まであまり見ていなかった彼の耳に目がいった。
「その耳……」
(先の方が尖っている?)
「ん? ああ、これですか? そういえば言っていませんでしたか。私は人間と魔族の混血なのですよ」
「そうだったの?」
人間と他種族との間に産まれた子は、混血と呼ばれる。所謂ハーフというやつだ。
「申し訳ありません」
「? なぜ謝るの?」
「この髪色と目の色は魔族に多いので、気味が悪いと思う方も多いのですよね。貴女にも不快な思いをさせてしまいました」
確かに、人間と魔族は昔敵同士だった。
終戦して何百年も経つのに、今でも魔族を嫌う人間が多くいるのは事実。
けれど────
「不快な思いなんてしていないわ。混血だろうと貴方は貴方だし、気にする必要はないでしょう? それに私は貴方の髪も、瞳も、とても綺麗だと思っているのよ?」
思ってもいない言葉を返されたのか、彼はとても驚き、私の頬を拭くハンカチを止めた。
「そんなことを言う人間は初めてです……」
「そうなの? その人たちには見る目がないわね。こんなに綺麗なのに」
「あ、ありがとう、ございます……。貴女のその白銀の髪も、紅の双眸も、とてもお綺麗ですよ」
「ふふ、ありがとう。そうだ、私たち瞳の色が一緒ね! お揃いで嬉しいわ」
「っ!」
レドは弾かれたように目を見開く。
そして、私から少し離れると口元に手をやり視線を逸らした。
(ん……? なんだろう、動揺している?)
普段の彼はあまり表情を変えないので、動揺した姿はとても珍しく新鮮に思った。
「レド?」
(私、何か気に触ることを言ってしまったかしら……)
「────いえ。ああ、頬の土は拭き取れましたよ」
心配に思ったが、彼はすぐにいつもの彼に戻った。
「ありがとう、レド」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。お手伝いも、助かりました。長々と付き合わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。私も、貴方と話せてよかったわ」
「はい、私もです」
目を細め微笑むレドに、私も小さく笑みを返す。
(深く関わるつもりはなかったけれど、案外、みんなと話してみるのも悪くないのかもしれないわね)
レド 好感度+20




