Select3:地下の部屋に行く (ルデン)
【選択肢】
▶︎ 地下の部屋に行く (ルデン)
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(私もまだあの部屋が気になるし、地下の部屋に行ってみよう)
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地下の部屋を覗くと、ルデンは机の上にあった手記を読んでいるようだった。
「ルデン」
驚かせても悪いので、一応一声かけてみる。
呼び声につられて振り返ったルデンは、私の存在を認識すると少し驚いたように首を傾げた。
「ん、ベリル? どうかしたのかい?」
「私もまだこの部屋が気になって。邪魔じゃなければ、私も少し部屋を見ていていい?」
「もちろんだよ」
ルデンは軽く頷き、微笑んだ。
「ありがとう」
了承を得た所で、私は先程確認できなかった棚を念入りに観察してみる。
(うーん、魔術的には貴重な物なんでしょうけれど、やっぱりこの状況と結びつく物はここにはないわね……。あっちの棚の本も見てみたいけれど、今はルデンがそちらにいるし───)
ルデンの方を見ると、バチッと視線が合う。
どうやらこちらを見ていたようだが、その視線はすぐに逸らされてしまった。
「えっと……何かしら?」
「あ、ああ、すまない。何か僕に話があったのかと思って」
「話? 別にないけれど……」
(何かあったかしら?)
首を傾げると、彼はそんな私を見て小さく笑った。
「ふふ。本当に、君はこの部屋が気になったから来ただけなんだね」
「? そうだと言ったはずだけど……」
「いや、ごめん。そっか、そうだよね」
「???」
よく分からないが、ルデンはなにやら嬉しそうだった。
「ごめんね。僕はてっきり、君もレドのいない隙を見計らって〝話〟をしに来たのかと思ってしまったんだ」
「? どういうこと?」
「今まで僕と関わろうとしてくれた人は、僕に、ではなく、王族の……第2王子としての僕しか見ていない人ばかりで。特に女性は……その。〝そういう目的〟で話しかけて来る子が多くて」
(そういう目的……ああ、なるほど)
何となく察した。
彼は王族で、彼に取り入り気に入られたら、側室として迎えられるかもしれない。
そんな打算的な考えで彼に近づく者も多いのだろう。
ルデンは儚げに瞼を伏せた。
「少し話すようになった友人ができても、友人だと思っていたのは僕だけで。皆、僕の地位に縋り、取り入ろうとする者がほとんどだった」
「それは……人間不信になりそうね」
「そうだね。まぁそれは、昔からそうだから慣れているし、僕にはレドがいたから孤独ではなかったけれど。……ただ、僕と対等にあろうとしてくれた人はいなかった」
(そうね……レドはルデンの従者だから。主従関係があるうちは、対等とは呼べないわよね)
「だから、君みたいな存在は僕にとってとても貴重なんだ。出会って間もないけど、君は今、僕を王族として扱わない」
「それは……貴方がそうしてほしいと言ったから。それに、セシアンやシェナも貴方に気軽に接しているように思うけれど」
「うん。でもね、君は僕を名前で呼んでくれただろう? 殿下ではなく、ルデンと。それが僕にとって───君が、君だけは、僕自身を見てくれているように感じて、すごく嬉しかったんだ」
「……」
「……だけど同時に、怖くもあった。君にも皆と同じように裏切られるのかと思ったら。僕はまた誰かに、無意識のうちに期待を寄せてしまったんだって、後悔する。まぁ裏切られたと思うのは、僕が勝手に相手を信じてしまっているだけだから、相手は全然悪くないんだけど」
へにゃりと笑うルデン。
それは、いつもの彼の笑顔とは全然違っていて。
笑っているのにすごく切なくて。
私まで、やるせない気持ちになった。
そこまで話して、彼はハッとした表情を見せる。
そして、私に気を遣うように声を明るくし続けた。
「あっ、ごめんね? 急にこんな話されても困るよな……。なんでだろうね、今までこんなこと誰かに話したことなかったのにな。つい余計なことまで話しすぎてしまったみたいだ」
忘れてくれ、と彼は言う。
(…………)
少し悩んだが、私は思っていることを素直に伝えてみることにした。
「……私は貴方ではないから、同情することはできない。私は王族ではないし、これからも王族にはならないから、貴方が感じたものを、真に私が理解することはできないわ」
ルデンが欲しいのは、きっと、同情や慰めではない。
「…………」
「けれど────。貴方に信じてもらった分くらいなら、返すことはできる」
「?」
「さっき、君にも裏切られたら、って言っていたわよね。それって私の事、信じてくれているってことでしょう? なら私も、貴方が信頼を寄せてくれた分だけ、貴方に返す。貴方が望むなら、気兼ねない友人として、貴方の隣に立つわ」
「……!」
私が言うと、彼は目を見開いた。
「少なくとも1年間は同じダイヤ生の……仲間、なんだし。ならせめて、この1年だけでも、貴方が余計なことを考えないで済む人間になるわ」
初めは……ルデンを含め、彼らなんてどうでもいいと思っていた。
(関わる気なんてさらさらなかったけれど。でもどう足掻いてもこの1年は組織を抜けられないのだし、きっとこの先も依頼で一緒になる。なら仲間でも友人でも変わらない……わよね)
「それが私なりの信頼の返し方。どうかしら?」
「ど、どうって……! それは願ってもないことだけど……。今なら君は僕に取り入ることができる状況なんだよ? 王族になれるかもしれないのに……君はそれを蹴ってまで僕と友人になろうとしてくれるのかい?」
「蹴るもなにも、そもそも王族になんて興味無いわ。だって面倒くさそうじゃない。全然平凡じゃないし。私はいつだって平凡に生きていたいの。今は……まぁ、平凡とはかけ離れてしまっているけれど」
(ダイヤ生に選ばれたり、変な空間に閉じ込められたり。本当、一生の不覚だわ)
「でも、僕と親しくしていたら、学園で孤立してしまうかもしれない。その……特にご令嬢たちにはよく思われないだろうし……。それでも、本当に……?」
(ご令嬢たち……というのは、現在私を遠巻きにコソコソと噂している彼女らのことを言っているのかしら?)
「自慢じゃないけれど、すでに孤立しているわ。元より、爵位でしか人を見ることができない人なんて、こちらから願い下げよ」
私は口元に弧を描き、ニコッと微笑んでみせる。
(アッシュもそういう考えの人だから、すごく合うのよね。あぁ、早く帰りたい……アッシュに会いたいー)
「……く、ふはっ! あはは!」
いつも静かに微笑むタイプの彼が、楽しそうに声を上げ笑った。
その姿に少し戸惑ってしまう。
「な、なに? どうしたの?」
「ふっ、ふふ、ごめ、あまりにハッキリ言うものだから、不意をつかれたっていうか! 君は僕が思っていた人とは少し違うようだ。ああ、もちろん良い意味でね?」
「……ちなみにどんな風に思っていたの?」
「初めは物静かで、感情はあまり表に出さない子なのかなって思っていたけれど、君は自分の考えをしっかり持っていて、なによりとても優しく、魅力的な人だ」
「……あ、ありがとう?」
「それと……」
「ま、まだあるの?」
ルデンは私の手を取り────
「笑顔の君をもっと見てみたい、かな?」
そう言って、彼はいつものように優しく微笑んだ。
(………………。ああ、これじゃあ勘違いしてしまうご令嬢がいても頷けるわ。そのお顔でそれは反則級だもの)
「ベリル?」
どうしたの? と首を傾げる彼。
……ともあれ。彼にいつもの笑顔が戻って良かったと思う。
「……なんでもないわ。私はそろそろ戻るわね。もうすぐ夕食ができる頃合いだし」
「そうだね、僕も戻ろうかな」
心做しか、来た時よりもこの部屋の空気が少し軽くなった気がした。
私たちは地下の部屋をあとにし、談話室へと戻った。
ルデン 好感度+20




