アクシデント
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───脇道に沿ってしばらく歩くと、森を抜けた。
「……!」
「なっ!」
レドに次いで先を歩いていたルデンとラルドが息をのむ。
───冒険者や賊ではない。
森を抜けた先にあったのは───小さな村だった。
「どうして村が……」
目の前に広がる光景に、私も思わず言葉を漏らした。
ここは、魔獣の森。
今は運良く魔物に出くわさずに進んでこられたが、本来は多くの魔物の住処となっているため、人間が住めるような環境では無い。
それ以前に───。
「いややっぱおかしいって! 来た時こんな村なかったよな!?」
「転移石に記録された座標はここだ。だけど……」
「どうした」
言い淀むルデンに対しシェナが聞くと、彼は難しい顔をしながら口を開いた。
「転移石が、起動しない」
「は?」
「え、まさか壊れた!?」
「いや、転移石自体は機能している。けど問題は座標の方だ。学園側の座標が存在しない」
レドは「ふむ……」と口元に手を当てる。
「確か、一度設定した座標の変更はできませんよね?」
「ああ。だから座標が変わってしまった、という可能性はない。ましてや消失するなんてこと、あるはずないんだ。例え学園の土地が丸々消えたとしても、性質上、記録された座標だけは残るのだからね」
だとしたら、どうして転移石は反応しないのか。
皆、俯き頭を悩ませる。
とにかく、現状を……現在地だけでも確認しなくては。
そう思い、一つ提案してみることにした。
「……ねぇ、とりあえず上から辺りを見て今いる方角を確かめない? 魔獣の森からでも王城は見えるはずよね? 5人いれば浮遊魔法なしでも風魔法で人一人くらいなら持ち上がるでしょう」
「確かに! リルちゃんナイスアイデア!」
セシアンがパチンっと指を鳴らす。
表情を見るに、他のメンバーもその提案を受け入れてくれるようだ。
「そうだね、さっそくやってみよう」
「浮かせることを考えると体重的に、最も軽いのはベリル・エーデルシュタインだが────」
「おまっ、リルちゃんにそんな危険なことさせられるわけねぇだろ!! お前はどこまで外道なんだよ、この鬼畜眼鏡!!」
「うるさいギャンギャン騒ぐな! 俺とて女に危険な真似を押し付けるつもりはない! だから、別の奴が良いだろうと提案しようとしていたんだろうが!!」
「あ、そうだったの? ならよし!!」
「あの、私が確認役をするつもりで提案したのだけど……」
「駄目に決まってんでしょ!! リルちゃんスカートなんだよ!? みんなに下からパンツ見られちゃうでしょ!?」
「そこじゃないだろ!!!!!! (い、いや、そこも配慮すべきだが……)」
「……コホン。とにかく、僕も反対だ。ベリル以外で決めよう」
「俺が行く。万が一失敗しても、俺ならどうにかなる」
「そうですね……シェナさんの身体能力は屋敷での探索時に見せていただけましたから、彼なら問題ないかと。まぁ、私たちが失敗する可能性は万が一にもありませんが」
「シェナ、本当にいいのかい? 恐らくかなり高度を上げなくてはならないが」
「平気だ」
「分かった。よろしく頼むよ」
シェナを中心に、ルデン、レド、セシアン、ラルド、そして私は等間隔に立ち、彼を囲む。
「準備はいいかい?」
ルデンがシェナに問うと、シェナは短く「あぁ」と答えた。
「みんな、合図をしたら発動させてくれ! いいかい、木の上くらいまでの高さになるよう加減するんだ!」
ルデンの指示の元、風魔法の詠唱をしながら頷き合う。
ルデンが詠唱を終えたタイミングで、彼は大きく声を張った。
「いくよ! せーーの!」
私たちは寸分たがわぬタイミングで風魔法を発動させる。
ふわり、ふわりとシェナの身体は宙へと浮き上がっていき、みるみる森の木々を追い抜かしていく。
今の高さはちょうど、木の上を越えたくらいだろうか。
「シェナー! 高さ平気ー!? 見えたー!?」
セシアンが声を張ると、頭上からシェナの声が降ってきた。
「あぁ! 問題ね、ぇ…………けど、」
シェナは風の上でバランスを取りながら、何度も周囲をキョロキョロと確かめているようだった。
「おい! どうした────、っ!」
少し様子がおかしいシェナを不審に思ったラルドが声をかけたその時。
「おわっ!?」
────突然、森に突風が吹き抜ける。
シェナの身体は強い風にあおられバランスを崩した。
「っまずい! シェナッ!」
ルデンが声を張り上げる。
「……っくそ!」
シェナは落下しながらも近くの木の枝に手を伸ばす。
しかし非情にも、枝は彼の体重に耐えきれずバキッと盛大な音をたて折れた。
(落ちる……!)
皆、早口で風魔法の詠唱を始めるが───
(詠唱じゃ間に合わない! それにバラバラに風魔法を撃ってもパワーが足りない!)
「っ!」
シェナが落下する直前で、私は彼に浮遊魔法をかけた。
彼を助けるにはこれしかない。
例え、それが〝平凡〟ではないと分かっていても。
シェナの身体が地面スレスレで一瞬ピタリと止まった。
「っ!?」
その一瞬を彼は見逃さず、空中で身をひねる。
そして素早く体勢を立て直し、地面に見事着地した。
(この魔法を自分ではない誰かに使ったことはなかったから、ぶっつけ本番のほぼ賭けだったけれど……成功、したみたいね)
「…………?」
レドは小さく眉をひそめたが、一瞬のことだったため誰もその様子は気に留めなかった。
ルデンは真っ先にシェナの元へ駆け寄って行く。
「シェナ! 怪我はないか!?」
「(なんだ……? さっき不自然に身体が空中で止まった気が……)」
「っはぁー、焦ったー。よくあの体勢から立て直せたな!? 獣人の身体能力なめてたわー……。ナイス着地!」
「いや……俺は……」
「まったく……ヒヤヒヤさせるな」
「とにかく君が無事で本当によかった。無理をさせてすまない」
「別に……あんたの謝罪は必要ない」
「って、シェナ手怪我してんじゃん!?」
「あぁ? ……さっき枝を掴んだ時に切っただけだ。問題ねぇ」
皆シェナを囲んで話をしているが、誰も先程の魔法に言及してこない。
(あれ……浮遊魔法のこと、気づかれてない? よかった、みんなシェナが身体能力でカバーしたと思っているみたい。好都合だからそのまま勘違いしていてもらいましょう)
ひとまずシェナの怪我の手当てを済ませ、その場が落ち着いたところでレドが口を開いた。
「ともあれご無事で何よりです。それで、周囲の様子は確認できましたか?」
「……」
レドの問いに、シェナは黙り込んでしまう。
「シェナ?」
どうしたのかとルデンが首を傾げると、シェナはしばらく考え込んでから息を吐いた。
「王城が見えなかった」
「……は?」
思わず、といったように言葉を漏らしたラルド。
「ここは……ヘリオドールの森じゃねぇ」
「ど、どういうことだ……? お、お前、城を見逃したんじゃないのか!?」
ラルドの疑問はもっともだった。
ヘリオドールの王城は各国と比べても大きく、連なる塔は高さもある。
魔獣の森から城が見えない、なんてことは本来有り得ないことなのである。
それは、シェナも重々承知しているようで。
「あぁ!? 何度も見回したっての! 俺だって信じられねぇんだよ! くそっ、だから突風にも気が付けなかった! チッ、普段なら突風くらい吹く前に風の匂いで分かるってのに!!」
「すげー、鼻も効くんだなぁ。さすが狼獣人〜」
「言ってる場合か!!!」
ラルドに突っ込まれてしょんぼりとしているセシアンを横目に、ルデンはもう一度転移石を確認した。
「ヘリオドールの森じゃないって……それはおかしい。転移石の座標は、確かにヘリオドール領内の魔獣の森を指している。今いる場所はヘリオドール領内の魔獣の森で間違いない」
(……どういうこと? 今いる場所は魔獣の森なのに、その森から見えるはずの城は見えない?)
「シェナさん、他には何か見えましたか?」
「いや……ここら辺一帯は森が続いているだけだった」
「そうですか……。転移石が使えない今、闇雲に考えを巡らせても仕方がありません。ひとまず、一度屋敷に戻るか、学園方向に歩いてみませんか? 後者の場合、時間はかかりますが学園に帰ることはできるでしょう」
「ん〜あの屋敷に戻るのはちょっとなぁ? 急に地震が起きて倒れるわ、廃墟が綺麗になってるわで気味悪いっしょー。リルちゃんも怖いよな?」
「え……まぁ、気にはなるけれど」
最終的な判断は、ルデンに一任することとなった。
彼はしばらく考えたあと、よし、と頷いた。
「わかった、それじゃあ、休憩を挟みながら学園まで歩こう」




