変化した屋敷
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嗚呼、この森はもうダメだ……。
豊かだった森の草木は、もう見る影もない……。
どうして森は朽ちた?
どうして病が蔓延った?
全てはあの████のせい。
嗚呼、何故忘れてしまった…… ████とは一体誰だ?
奴らのせいに、違いないというのに。
森は死んだ。村の者たちも死んだ。
……そして、最愛の妻と娘も。
───許さない。
──────許サナイ。
お願いだ。
全ての元凶を断ってくれ。
どうか、森を救ってくれ。
そしてどうか、奴らに制裁を……。
────死シテナオ、憎シミニ囚ワレタ主ヲ、屋敷ニ縛ラレタ主ヲ、ドウカ救ッテ。
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「ん……、」
目を覚ますと、そこはどこかの屋敷の中だった。
ここは……談話室だろうか。
どうやら私は床に倒れていたらしい。
(何か……夢を見ていた気がするのだけど……)
とても重要な夢……だった気がする。
目覚める直前まで見ていたはずの夢は、もう思い出せない。
「ここは……」
身体を起こし辺りを見回すと、そこには私と同じように今目覚めたであろう5人の姿もあった。
「う……」
「ル、デン様……ご無事、ですか?」
「あ、ああ……。みんなは?」
ラルド、シェナ、セシアンも頭を押えながら起き上がった。
「身体は……問題ありません」
「一体何が起きたんだ……」
「いててて、良かったー生きてるー。……んで、ここどこよ? 屋敷の談話室?」
「先程まで廃墟にいたはずだが……」
ラルドの言う通り、私の最後の映像も、荒廃した旧魔術邸で間違いない。
けれど……。
「廃墟にしては綺麗すぎねぇ? 蜘蛛の巣もなければ埃ひとつ無いし。家具もまるで新品なんだけど」
……そう。セシアンが言うように、ここは先程の廃墟とは似ても似つかない。
しかも、暖炉の中には誰かが薪をくべたのだろうか、揺らめく炎の中でパチパチと薪が燃える音がしている。
「ではここはあの屋敷ではないと?」
レドの疑問も可能性の一つであろう。
しかしその疑問は、ルデンによって否定された。
「いや……置いてある家具や間取りは旧魔術邸のものと同じだ」
それを裏付けるように、シェナも頷く。
「……あぁ、あんたの言う通り、ここはさっきまでいた屋敷で間違いねぇ。匂いが同じだ」
「……狼獣人のシェナさんが言うのであれば、そう、なのでしょうけど……。一体屋敷の中で何があったというのですか?」
「あぁ……実は─────」
ルデンは屋敷の中で起こった出来事を、細かく説明した。
「────つまり、私たちより前にこの屋敷に入った者がいて、その者が残したと思われるメモによると、我々もこの屋敷に閉じ込められた……ということですか?」
「…………」
「ふざけんじゃねぇ! どうなってやがんだ!」
「オレたちだって分かんねーよ……」
「……っ!」
シェナは勢いよく立ち上がると、そのままの勢いで談話室を出ていこうとする。
「あっ、おい! シェナ! どこ行くんだよ!」
「本当に閉じ込められたのか確かめに行くんだよ! まだ誰も確認してねぇんだろ!?」
「ま、まだ確認してねぇけど────」
セシアンが言うが早いか、シェナは談話室を出て行った。
「僕たちもシェナを追おう。どちらにせよ外に出られるかどうか確かめなくてはならないからね」
私たちも、勢いよく部屋を飛び出して行ったシェナの後を追った。
シェナが乱暴に入口扉に手をかける。
そしてそのまま勢いよくバンッと扉を開けた。
……開けた。そう、扉は開いたのだ。
「…………え? 開くじゃんフツーに」
セシアンが目を丸くしながら言うと、シェナもホッとしたように息を吐いた。
「…………なんだよ。ハァ……焦らせんな」
「開いた……のか!?」
ラルドも同様に、驚きと安堵の表情を浮かべた。
「閉じ込められた……わけではなかったのですね」
「そうか……よかった。真っ先に確認すれば良かったな。すまない」
謝罪するルデンに対し、ラルドがいち早く「いいえ」と首を横に振った。
「殿下が謝る必要はありませんよ。あのメモがデタラメだっただけですから」
「そーだよ、なんなんだよあのメモ! びっくりさせやがってさー。ただのイタズラかよ!」
(でも……なんだろう、何かが引っかかる。本当に悪戯なの? 手が凝りすぎているわ。それに……屋内同様、庭もそこまで荒れていない。……この妙な胸騒ぎは、気のせいであってほしいのだけれど)
「念の為、屋敷の調査と片付けは後日にし、今日は学園へ戻ろう。魔導書や魔術道具を持ち出すのも後だ。いいかい?」
ルデンの提案にレドとラルドは「はい」と頷く。
「日が暮れる前に戻れるなら文句はない」
シェナもそれに同意しているようだった。
「オレも〜。なんかどっと疲れたわ。……ん? リルちゃんどったの?」
「…………」
「ベリル?」
ルデンが私の名を呼び、はっとする。
考え事をしていてボーッとしていたようだ。
「……え、あ、ごめんなさい。なに?」
「今日はこのまま学園へ戻るけど……どうかした?」
「い、いえ。分かったわ」
「やっぱリルちゃんも疲れちゃったよなー? オレが抱えて帰ろっか♪」
「……歩けるから、大丈夫」
「あらら、ざーんねん」
私たちは一旦、屋敷を後にすることとなった。
帰りも行きと同様転移石を使用するため、今は転移石の座標へと向かっている。
(けれどこの森、こんなだったかしら……)
屋敷へ来た時と同じ道を通っているはずなのに、なんだか違和感を覚える。
(森の中なんてみな同じようだし確かな違いなんて分からないけれど、なんて言うか……地味に景色が違うような? しかも───)
「……なぁ、なんかここさっきも通った気ぃするんだけど、オレの気のせい?」
そう、セシアンの言う通り、先程から同じ場所をグルグルと回っている気がするのだ。
「……気のせい、だろ。方向は合っている」
そう言うラルドもその異変に気がついているようだ。
自分にも言い聞かせるように、気のせいだということにしている。
「ああ、転移石の座標もこの辺りで間違いないんだけど……」
「ええ。ただ気になるのは……行きで付けた目印が消えています」
「あ、目印付けてたんだ?」
さっすが~!とレドを労うセシアンに、彼はにこりと微笑んだ。
「迷うことは無いと思いましたが、念の為。ですがどうして……」
「……! この先、人間の匂いがする」
突然立ち止まったシェナが、警戒心を顕にする。
それもそのはず、ここは魔獣の森。一般人の立ち入りはないと言っていいだろう。
よって、シェナが感じた人間の気配は、森へ入った冒険者か賊の可能性が高い。
後者の可能性もある以上、慎重に進むべきだろう。
「この先? あれ……こんなとこに脇道なんてあったっけ?」
ルデンは「いや……」と首を横に振り、「だが、」と続けた。
「転移石の座標はその脇道の先だ」
「行ってみましょうか」
皆レドの意見に賛同し、彼の後に次いで歩を進める。




