【シェナ5-9 HAPPYEND√】月光
シェナルート 【HAPPYEND】
条件:シェナの好感度が50以上であること。
※共通ルートシナリオも少しだけ入ってます。
【HE√】
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彼の身体は、今もなお、魔獣化が進んでいた。
「シェ……ナ…………シェナ!」
溢れる涙が頬を伝う。
もう私の声は、彼には届かない。
「シェナ……私、まだ貴方に伝えたいことがいっぱいあるの……」
一歩、また一歩。彼へ歩み寄る。
「───シェナに『好き』って言ってもらえて、嬉しかった」
「…………」
「───キスしてもらえて、嬉しかった」
「…………」
「───貴方の隣にいる時間が、何より幸せだった」
彼の前へ立つ。
低く唸り続ける彼の頬へ、そっと手を添えた。
「どんな姿になっても、私が貴方を想う気持ちは変わらない。…………でも────」
涙が、止まらない。
「でも……やっぱり……! 私は貴方に触れてほしい! 微笑みかけてもらいたい! 名前を呼んでもらいたい! 貴方の愛を……もっと、もっと感じていたかった!!」
「……っ」
獣の瞳が揺れる。
ほんの一瞬だけ、”シェナ”が、私を見つめ返した気がした。
「お願い……っ。目を覚まして───シェナぁぁぁっ!!!」
私は精一杯背伸びをして、彼へ口づけた。
その瞬間────。
堰を切ったように膨大な魔力が私の身体へ流れ込む。
喉が焼け、肺が裂けてしまいそうな痛みも、彼を想う気持ちがかき消した。
(お願い……戻ってきて)
やがて暴れ狂っていた魔力が、少しずつ静まっていく。
そっと唇を離した、その時。
「んっ!?」
ぬるり、と温かな感触が唇を割って入り込んできた。
「ん……っ、ぁ……」
後頭部を優しく支えられ、深く口づけられる。
息が苦しくなり、私は胸を軽く叩いた。
「……んっ! ぷはっ……!」
大きく息を吸い込む。
目の前には────。
「ふっ……苦しかったか?」
「……シェナ?」
優しく笑う彼がいた。
「悪ぃ。でも……好きな女からあんな風に求められたら、止まれる男なんていねぇよ」
「……っ」
安心した途端、涙が止まらなくなった。
「よかった……っ。よかったぁ……っ……シェナぁ!!」
勢いよく抱きつく。
そのまま彼を押し倒すように地面へ倒れ込んだ。
「おわっ!?」
「もう……置いていかないで……っ!!」
力いっぱい抱き締める。
生きている。ちゃんと温かい。ちゃんと、ここにいる。
シェナは少し驚いたように目を丸くしたあと、優しく私の背中へ腕を回した。
「……森で魔女に魔法を解いてもらった辺りから記憶が曖昧なんだが……。そうか、俺……魔獣化したのか」
少しだけ苦笑する。
「ベリルが助けてくれたんだな。ありがとう。また、お前に助けられちまった」
「ううん……助けられたのは私の方……ありがとう。でももう……私を一人にしないで……!!」
「……ベリル」
私は涙を拭い、彼を真っ直ぐ見つめた。
「シェナ。私……貴方が好き。ずっと、ずっと伝えたかった」
「……っ。あー、その。それって仲間として───」
返事の代わりに、私は彼へもう一度キスをした。
「!!」
「仲間としても好き。でも、それ以上に……貴方を愛してる」
彼は何も言えず、ただ目を見開く。
やがて私の頬を両手で包み、額をそっと重ねた。
「……夢みてぇだ。お前も……俺と同じ想いだったなんて」
少し震えた声で笑う。
「……もう一回。言ってくれねぇか?」
嬉しさを隠し切れない尻尾が、左右へゆっくり揺れている。
思わず笑みがこぼれた。
「……愛してるわ、シェナ」
「───もう一回」
「ふふ。好きよ、シェナ。愛して────」
最後まで言い切る前に、再び唇が重なる。
今度は、お互いの想いを確かめ合うような優しい口づけだった。
夜空には、二人を照らす大きな満月。
その光はまるで、これから歩む未来を祝福しているようだった。
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───こうして、獣人誘拐事件は幕を閉じた。
囚われていた獣人たちは全員無事に保護され、それぞれ家族の元へ帰ることができた。
ルデンたちの作戦も順調に進み、事件に関わった組織は壊滅。
王国中に張り巡らされていた誘拐組織も、この事件を境に大きく勢力を失うこととなる。
ちなみに、例の魔女はというと───。
魔術具を賊に奪われ、悪用されたこと。
悪意がなかったとはいえ、危険な試作品を持ち歩いていたこと。
さらには現場を盛大に混乱させたこと。
その全てをまとめて怒られ、王宮魔導師の資格を数年間停止。
その間は城で無給奉仕を命じられ、
「ブラック企業だぁぁぁぁぁ!!」
と城中に響く声で嘆いていたらしい。
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※
────それから月日は流れ、私たちは無事に、ダイヤ生の任期を終えた。
組織に入った当初は、なんて所に入れてくれたんだという気持ちでいっぱいだったけれど、今となっては、ゲルド理事長には感謝してもしきれない。
(ダイヤモンドでの当初の任期は一年間という話だったのに、結局三年もこき使───ではなく、活動してしまったものね)
───こんなに素敵な居場所ができるなんて。
───こんなに大切な友人ができるなんて。
───こんなに、愛しい人ができるなんて。
昔の私には、想像もつかなかっただろう。
───そして、今日、この日。
私たちは王立魔導学園の卒業を迎えた。
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学園最後の卒業パーティー。
賑やかな音楽と笑い声を背に、私はシェナと二人、そっと会場を抜け出した。
向かった先は、何度も彼と訪れたお気に入りの森。
夜に来るのは初めてだったけれど、月明かりに照らされた木々は昼間とはまるで違う表情を見せ、幻想的な世界が広がっていた。
「シェナ、見せたいものがあるって言っていたけれど……もしかして、この景色? とっても綺麗ね」
「はは、これも見せたかった景色の一つだ。でも、本命はもう少し先なんだ」
そう言うと彼は、ひょいっと私を横抱きにする。
「わっ……!」
軽やかに木から木へ飛び移るシェナ。
もう何度も経験しているはずなのに、そのたび胸が高鳴る。
「ふっ」
「なあに?」
「いや。最初はこの抱き方だけで真っ赤になってたお前が、随分慣れたなと思ってさ」
「だ、だって……事あるごとに抱えてくれるんだもの。さすがに慣れてしまうわ。……それに」
少しだけ視線を逸らす。
「シェナに触れてもらえるの、嬉しいし」
「……………………」
彼はぴたりと動きを止めた。
「……シェナ?」
大きく息を吸う。
「スゥーーーーーー……よし。耐えた。(昨日は無理させたからな……今日は休ませねぇと)」
「?」
やがて辿り着いたのは、小高い丘だった。
視界を遮るものは何一つない。
夜空いっぱいに広がる星々と、大きな満月。
「わぁ…………!」
思わず息を呑む。
「前に森を歩いてた時、偶然見つけた場所なんだ。お前、星とか月とか好きだろ? だから、いつか一緒に来たいって思ってた」
「ええ、すごく綺麗! ありがとう、シェナ」
二人並んで腰を下ろす。
その時、私は満月を見上げ、小さく彼を見つめた。
「……身体は平気?」
あの日以来、彼が幼児化することはなくなった。
けれど、月の力で魔力が増え続ける体質までは消えていない。
では何故、彼は今魔獣化せず体内の魔力を制御できているかというと────。
「あぁ。今は落ち着いてる」
彼は私の頬へ触れる。
「お前が定期的に魔力を引き受けてくれるからな」
そう言って、軽く唇を重ねた。
「!」
ほんの一瞬、それだけで彼の魔力が私へと流れ込む。
彼の増えすぎた分の魔力を私に流すことで、体内の魔力が溢れ出ることを防いでいるのだ。
これは、元々膨大な量の魔力を保つことができる、私にしかできない彼を救う唯一の方法なのだった。
「……これでよし」
「ふふ。便利なのか、不便なのか分からない方法ね」
「俺は結構気に入ってる」
「どうして?」
「好きな女に堂々とキスできる理由になる」
「…………もう」
照れて俯く私を見て、彼は楽しそうに笑う。
(この力があって、本当によかった)
昔は何度も呪った、この膨大な魔力量。
けれど今は違う。
この力があるから、私は彼と生きていける。
私はそっと彼の肩へ寄りかかった。
「今日は甘えん坊だな」
「今日は……じゃないわ。いつも甘えてばかり」
「そうか? 俺はもっと甘やかしたいけどな」
彼は指を絡め、私の手を握る。
「お前を、俺なしじゃ生きられねぇくらい甘やかしてぇ」
真っ直ぐな瞳。
その熱に胸が高鳴る。
私は少し照れながら笑った。
「……もうそうなってるわ」
その一言だけで、彼の尻尾が嬉しそうにゆらりと揺れる。
「……この先も、ずっと、俺を隣に置いてくれるか?」
私は彼の肩へ頭を預けた。
「ふふ。貴方こそ……私を隣にいさせてくれる?」
言葉の代わりに、唇が重なる。
月明かりだけが、静かに私たちを照らしていた。
「愛してる」
「……私も」
何度重ねても足りない口づけ。
その温もりを確かめながら、私は静かに目を閉じる。
これから先も。
どんな未来が待っていても。
私はずっと、彼と共に生きていきたい。
そう願いながら───。
【HAPPY END / 月光】
〆




