【シェナ5-7】因縁の魔女と呪いの真相
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《side ベリル》
「─────ベリ……ル…………」
「……シェナ! 目が覚めたのね、よかった……」
ゆっくりと身を起こしたシェナを支え、その頬へそっと手を添える。
「熱は───もう下がってるわね」
「……お前の手、冷たくて……気持ちいい」
「!」
熱を帯びた瞳で見つめられ、心臓が大きく跳ねた。
シェナは私の手に自分の手を重ねると、そのまま愛おしむように指先でそっと撫でる。
「シェナ……」
「ベリル…………」
「……………………あのー。二人の世界に入ってるところ大変申し上げにくいんですけど、ワタシの存在も忘れないでほしいかなー!」
「!」
「………………チッ。誰だ、あんた────……ッ!?」
シェナは魔女の姿を見た瞬間、言葉を失った。
驚愕に目を見開き、次の瞬間には怒りを露わにする。
「お前……っ……!?」
「やぁー、久しぶりだネ! ワタシのこと覚えてる〜?」
「お前……ッ、あの時の───呪いの魔女!!!!!」
「え、呪い? ───って、わーーー!!! ナニナニナニナニ!? 初手で胸ぐら掴まれるとは思わなんだ!?」
「あ、シェナ! 待って!」
「こいつは……ッ、俺に幼児化の呪いをかけた魔女だ!! 間違いねぇ!! 鮮明に思い出した……! このふざけた顔! この話し方!! ずっとテメェを探してたんだッ!!」
「あぁ!? なんだとクソガキャー!! 『ふざけた顔』はライン越えだぞ!!! いくらケモ耳相手でも許せねぇもんってのがなァ───」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!! さっさと俺にかけた呪いを解きやがれ!!!」
「聞けや話をーー!!!!!!」
「二人とも落ち着いて!!!!!!!」
「っ!?」
「うわっ!? びっくりした……ベリルちゃん、そんな大声出せたの……」
「シェナ、彼女がシェナの熱を身体から抜いてくれたのよ」
「……コイツ、が…………? そういえば……満月なのに、身体が軽い…………」
「キミの魔力を一時的に弱める魔法をかけたからね。しばらくは保つだろーさ。ふんっ!」
「ベリル、こいつは────」
「ええ。彼女から話は聞いたわ。昔、彼女はシェナに魔法をかけたことがあるって」
「それじゃあ……っ、なんで止めるんだ! コイツは俺の────」
「因縁の相手。それも分かってる。でもね……全部、勘違いだったの。彼女がシェナにかけたのは呪いじゃない。貴方を助けるための魔法だったの。───彼女は、貴方の命の恩人だったのよ」
「……は?」
呆然とした声が牢の中へ響く。
私は静かに頷き、彼を見つめた。
「十年以上前───。獣人領を旅していた彼女は、森で月の力に呑まれたシェナを見つけたの」
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その日は、ちょうど今日のように最も大きな満月───〝スーパームーン〟が夜空を照らしていた。
通常の満月よりもはるかに強い月の力。
その影響でシェナの魔力は急激に増幅し、ついに身体が耐えきれなくなってしまった。
魔力を持つ者は、精霊の加護を受けたその瞬間から、体内に蓄えられる魔力量がおおよそ決まっている。
コップ一杯分しか蓄えられない人もいれば、バケツ何百杯分もの魔力を蓄えられる人もいる。
けれど、その許容量を超えてしまえば、自分では魔力を制御できなくなる。
コップ一杯の水しか入らない器へ、無理やりバケツ一杯の水を注げば溢れてしまう。
それと同じで、月の力で増幅された魔力が身体の限界を超え、溢れ出した魔力が熱となって身体を蝕んでいく。
そして、その暴走が限界を超えると───魔獣化してしまうのだ。
────魔女が森でシェナを見つけた時には、すでに魔獣化は始まっていた。
本当に、あと一歩遅ければ手遅れだった。
彼女の魔法が間に合わなければ、シェナは完全に魔獣となり、もう元には戻れなかったらしい。
───魔女は、善意で魔法を行使した。
獣人の子を救う、ただ、その一心で力を尽くしたのだ────。
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「彼女が処置を施さなければ、シェナは魔獣になっていた。……彼女がいなければ、私はシェナと出会うことすらできなかったの」
「うむ! その通りだ若者よ!」
「…………」
「ま、当時のキミは熱で錯乱してたし、ほとんど意識もなかったからネ! 覚えてなくても無理ないヨ」
「…………そう、だったのか。悪い……俺は、お前に何かされたってことしか覚えてなくて────」
「いーよいーよ! ワタシも完全に体質を治せたわけじゃないし。それに、妙な魔法までセットでかけちゃったのは事実だし……?」
「妙な魔法?」
「あー……ほら。ベリルちゃんがさっき言ってたけど、キミ、夜になると幼児化するんでしょ? それね、魔力制御の魔法をかけた時に、若返りの魔法まで一緒に混ざっちゃったみたいなんだよネー。アハハ」
「……………………」
「……………………」
「当時まだ学園を卒業したばっかりの新米魔女でして……。それで……うっかり? えへっ?」
「………………」
「助けてくれたことには感謝してる。……が、それはそれとして殴っていいか? このポンコツ」
「……いいと思う」
「わーー!!待って待って、ごめんって!! ちゃんと元に戻すから! ね!? 許して!」
「…………」
シェナはしばらく葛藤するように眉を寄せていたが、やがて大きく息を吐いた。
「……お前に助けられたのは事実だ。元に戻せるなら、それで許してやる。ただし早急にな。できれば今すぐ」
「ありがとー友よー! あ、親愛の証に耳と尻尾モフモフしていい?」
「触ったら噛み殺す」
「こっわ…………。冗談ですやん兄貴……。あ、ちなみに今すぐ魔法を解くと、魔力制御の魔法まで一緒に解除されるから、それはやめた方がいいヨ。キミの魔力、今も相当ギリギリで保ってる状態だから……今解除したら、今度こそ確実に魔獣化する」
「……チッ、分かった。熱が引いただけでも良しとするか。とりあえず、ガキどもを連れてここを出るぞ」
「ええ。でも、この人数の子供たちを連れて正面突破するのは危険すぎるわ。私一人なら賊の相手は問題ないけれど、子供たち全員を守りながら戦うとなると、安全なルートを選びたい」
「ワタシも戦闘はからっきし。今のシェナくんも、戦闘力だけなら他の子供たちと大差なし! つまり、まともに戦えるのはベリルちゃんだけだ!」
「そんな堂々と言われると、いっそ清々しいわね……」
「…………悪い、ベリル。俺はお前の護衛として選ばれたのに……結局、何も───」
「ううん、そんなことない。私は、シェナがいるから戦えるの。守りたい人がいると強くなれるっていう言葉……あれは本当だったのね」
「……ベリル」
「ふーむ。正面ルートは却下、と。じゃあ裏口からだね。ワタシが侵入したのも裏口だから道は分かるヨ。あ、ついでにワタシの魔術具も取り返してくれると嬉しい」
「みんなを逃がしてから、余裕があったらね」
「よろしく〜」
「それじゃあ────」
私は牢の隅で身を寄せ合っていた子供たちへ、優しく声をかけた。
「みんな、待たせてしまってごめんなさい。今から、一緒にお家へ帰りましょう。……歩ける?」
念のため、一人ひとりへ治癒魔法をかける。
子供たちは小さく頷き、ゆっくりと立ち上がった。
「みんな、偉いわ。もう少しだけ、頑張りましょうね」
私は鉄格子へ手をかざし、魔法で静かに溶かす。
ぽっかりと開いた出口から、子供たちは順番に牢の外へ出ていった。
「先頭は私と魔女さん。最後尾はシェナ。子供たちを私たちで挟む形で行きましょう」
「あぁ、それで問題ねぇ」
「異論なーし!」
私は全員の顔を見渡し、小さく頷く。
「────それじゃあ、作戦開始よ!」




