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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
〜第五章〜 シェナ√

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【シェナ5-5】賊

 


 ───────────────────



 皆と別れ、私とシェナは街の聞き込みへ向かった。


「シェナ、アルとメリアは大丈夫なの?」


「あぁ、二人なら平気だ。実はこの依頼が来るより前に、ルデンが想定してた危険性を俺に教えてくれてたんだ。だから、あいつらはいち早く安全な場所へ避難できてる。それに、一度攫われそうになった経験もあるからか、前よりずっと慎重に行動するようになったしな」


「そう……なら安心だわ」


 シェナ家族と街を巡ったあの日から、しばらく経った。

 それは、シェナが私に「好きだ」と伝えてくれた日でもある。


 けれど、あの日以降の彼は驚くほど普段通りで。

 まるで、あの告白が夢だったのではないかと思ってしまうほどだった。


(……もちろん、そんなはずないって分かっているけれど)


 そのせいで、私は自分の気持ちを伝えるタイミングを、すっかり見失ってしまっていた。


(今さらあの話を蒸し返して、気まずくなるのは嫌だし……)


 それなら、まだこのままの関係で────。


「ベリル?」


(───駄目ね。今はそんなことを考えている場合じゃないわ)


「街の人たちに、それとなく話を聞いてみましょうか」


「あぁ、そうだな」



 街の人々へ聞き込みを続けた結果、実際に犯行が行われたと思われる場所を特定することができた。

 現場へ向かって調査を始める。

 しかし、事件から時間が経っていることもあり、証拠は何一つ残っていなかった。

 賊の魔力も、攫われた獣人たちの魔力も、一切辿ることができない。

 つまり───賊へ繋がる手掛かりは皆無だった。


「……っくそ! 手掛かりがなさすぎる!」


 誰かが意図的に証拠を消したのか。

 それとも、最初から痕跡を残さない術を使っているのか。


「ここまで何も残っていないとなると……」


「あぁ。賊の中に、相当腕の立つ魔法使いか魔術師がいるな。そうなると話が変わってくる」


 理事長から命じられたのは、賊の情報収集と潜伏先の特定。

 だが、相手もそう簡単に尻尾を掴ませてはくれないらしい。


「向こうに優秀な魔法使いか魔術師がいるというのも大きな情報ではあるけれど……その分、捜索はさらに難しくなるわね」


「……っ」


「シェナ?」


 その時、不意にシェナが額へ手を当て、小さく身体をふらつかせた。


「大丈夫? 顔色が悪いわ。どこかで少し休憩を───」


「いや、少し目眩がしただけだ。今夜が満月だからかもしれねぇ。……つっても、昼間からこんなふうになるのは珍しいんだけどな」


「そう……満月なのね。それなら尚更、休憩を挟みながら行動しましょう。熱は───」


 私はそっと彼の額へ手を当てる。

 熱はない。平熱のままだった。


「大丈夫だ。熱が出るのは、月が昇って幼児化してからだからな。……今夜の俺は、まともに動けなくなる。その前に、昼間できることはやっておきたい」


 真っ直ぐな眼差しでそう言われてしまえば、反対することはできなかった。


「……分かったわ。でも、無理だけはしないで」


「あぁ、約束する。それより、これからどうする? もう少し聞き込みを続けるか?」


「そうね……───あ、一つ行きたい場所があるのだけれど」


「いいぜ。何か気になることでもあるのか?」


「ええ。東門の近くを調べたいの」


「東門……アルたちが攫われそうになった場所か」


「ええ。あれは今回の事件より前の出来事だったけれど……思えば、あの頃にはもう賊の計画は始まっていたんじゃないかと思って」


「……なるほど。その可能性はあるな。行こうぜ!」



 ───────────────────



 住人への聞き込みを続けながら、私たちは調査場所を東門付近へ移した。

 けれど、得られる成果は変わらない。

 それどころか、夕暮れが近付くにつれて、シェナの体調は目に見えて悪化していった。


「シェナ、今日のところは引き上げましょう?」


「……いや、まだ平気だ」


「そんな顔色で言われても……」


「…………」


 自分の身体の限界は、本人が一番よく分かっているのだろう。

 シェナは悔しそうに奥歯を噛み締め、やがて諦めたように息を吐いた。


「……じゃあせめて、そこの路地だけでも確認させてくれ」


 路地へ足を踏み入れた、その瞬間。

 前を歩いていたシェナの身体がぐらりと揺れ、そのまま壁にもたれかかった。


「シェナ!!」


「……っ、く、なん……だッ!」


 彼の身体が、みるみる小さくなっていく。


「そんな……! どうして!? 日が落ちるまで、まだ数時間はあるのに……!」


「……はぁ……はぁ……くそ、熱が上がって────」


「おぉ? ちょーどいいところに獲物(ガキ)発見〜♪」


「───っ!」


 あまりにも最悪なタイミングだった。

 どれだけ探しても見つからなかった賊が、今まさに目の前に現れた。

 しかも、一人ではない。前方に三人、後方に二人。

 狭い路地で、完全に挟み撃ちにされていた。


(こんな人数がいたのに……シェナも私も、まったく気配に気付けなかった!?)


 私は街へ入ってからずっと探知魔法を維持していた。

 それなのに、ここまで接近されるまで察知できないなんて。


 賊たちの首元には、紫色に妖しく光るペンダントが揺れている。

 おそらく、あれが気配遮断に特化した魔導具なのだろう。


(……とはいえ、強い魔力は感じない。五人程度なら十分相手ができる)


 数では劣っていても、魔法使いと一般人では戦力差が違いすぎる。

 あの刃物さえ警戒していれば───。


「……待て」


 前へ出ようとした私の腕を、シェナが掴んだ。

 そして耳元へ口を寄せ、掠れた声で囁く。


「(俺を……奴らに引き渡せ……)」


「なっ────」


「(今ここでコイツらを倒したら、潜伏先が分からねぇ……。俺が捕まれば……勝手にアジトまで連れて行ってくれる。だから────)」


(…………っ)


 自分を囮にするつもりなのだ。

 彼らしい、大胆な作戦。

 けれど、今にも倒れそうな彼を敵地へ送り込むなんて、私には───。


 けれど、ここで賊を全滅させてしまえば、子供たちの居場所は永遠に分からないかもしれない。


(だったら、私が取るべき行動は────)


「(その作戦────乗ったわ)」


「(ふっ……任せろ。お前は早く逃げ────)」


獲物(ガキ)一匹……と、女一人か」


「チッ。女はここで殺っちまうか?」


「いや、待て。───女、抵抗すればお前も、そのガキも命はねぇ。そこへ跪け」


 私は言われるまま、ゆっくりと地面へ膝をついた。

 ()()()()、怯えた表情も作って。


「!?」


 逃げない私を見て、シェナが目を見開く。


「おい、その女も縄で縛れ。ずらかるぞ」


「はぁ? 女まで連れてく気かよ」


「かなりの上玉だ。売れば相当な値が付くだろ」


 縄で拘束された私は、そのまま賊の一人に肩へ担ぎ上げられた。


「ベ……リル……ッ!」


「おら、大人しくしてろ! ガキも縛るぞ!」


「うわっ、なんだコイツ! すげぇ熱いぞ!? 熱でもあんのか!」


「ツイてるな。これなら暴れられてもそう簡単には逃げられねーだろ。楽できるぜ」


 シェナも拘束され、乱暴に貨物用馬車の荷台へ放り込まれる。

 口を布で塞がれ、さらに目隠しまでされた。


 荷台を覆う布が閉じられる音。

 そして、馬車がゆっくりと走り始めた。


(……荷馬車なら、街を出るには必ず門を通る。今は積荷検査も強化されているはず)


 やがて馬車が止まる。

 覆い布がめくられ、外の空気が流れ込んできた。

 積荷検査だ。


「───よし、問題ない。通れ」


(…………なるほど。衛兵の中にも、賊の協力者がいたのね)


 それなら、今まで疑問だったことがすべて繋がる。

 街中でこれほど大胆な誘拐が繰り返されていた理由。

 もっと早く、その可能性に気付くべきだった。

 衛兵もまた、人間。金を積まれれば、悪に手を貸す者もいる。


 隣では、シェナの呼吸がますます荒くなっていく。

 私は縄で縛られた拳を、そっと握り締めた。


(大丈夫───貴方は、私が必ず守るから)





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