【シェナ5-3】みんなでお出かけ
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お菓子を買って公園で食べたり、雑貨屋でお土産を選んだり────。
みんなで街を巡っていると、不意にメリアがショーウィンドウの前で足を止めた。
「メリア?」
メリアはショーウィンドウに飾られた一着のワンピースを、目を輝かせながら見つめている。
「その服、欲しいのか?」
シェナに声をかけられて我に返ったメリアは、しゅんと肩を落とした。
「……ううん。可愛いなって思っただけだよ」
「せっかくだし、買ってやるよ」
けれど、メリアの尻尾はだらんと力なく垂れたままだった。
「ううん……メリア、獣人だから……。それに、こんな可愛いお洋服、お貴族様じゃないのに着ちゃいけないよ……」
「……っ────」
その言葉に、シェナは息を呑み、奥歯を噛み締めた。
俯いた横顔には、深く傷ついたような、どうしようもない無力感が滲んでいる。
「……メリア────」
「────メリアちゃん、それは違うわ」
「……!」
「ベリルお姉ちゃん……?」
私はしゃがみ込み、メリアと目線を合わせてそっと手を握った。
「獣人でもいいの。貴族でなくてもいいの。────好きなお洋服を着ていいし、好きなものを好きって言っていいの。おしゃれをしたい気持ちや、何かを好きになる気持ちに、種族も生まれも関係ないんじゃないかしら?」
「でも……メリアがフリフリのお洋服を着てたら、変じゃないかな……。また……笑われちゃったりしないかな……」
「……もしかして、前に誰かに何か言われたことがあるの?」
「…………うん」
「そう……。でもね、それはメリアちゃんが悪いんじゃないわ。ただ、その人の心が幼かっただけ。種族や身分でしか人を見られない、少し可哀想な人だったのよ。そんな人の価値観に、メリアちゃんが合わせる必要なんてないわ」
「可哀想な人?」
「ええ。だって、私たちみたいに人間と獣人が友達になれることも、こうして一緒に街を歩いて、お買い物を楽しむことも、その人は知らないのでしょう? 種族や身分に囚われず相手を大切にできたら、もっとたくさん友達ができて、もっと素敵な思い出が増えるのに。それを知らないなんて、とってももったいないと思わない?」
「!」
いたずらっぽく笑ってみせると、メリアの表情がぱっと明るくなる。
「うん……うん! もったいないね! えへへっ」
「ふふ、でしょう?」
「…………ベリル」
「……シェナ兄。シェナ兄が話してくれた通りの人だね、ベリルお姉ちゃんは。人間だけど……人間ってことを気にしてる僕たちの方が恥ずかしいや」
「…………あぁ」
「ということで……メリアちゃんとこのお店に入ってみてもいいかしら?」
「お兄ちゃん……メリアね、ベリルお姉ちゃんとお洋服見たいの……だめ?」
「ふっ、ダメなわけあるかよ。せっかくだ、ベリルにいっぱい選んでもらえ」
「うん……!」
嬉しそうに店へ駆け込むメリアと、それを追うアル。
私も後に続こうとすると、その前にシェナが小さな声で呼び止めた。
「……ありがとな、ベリル」
「ふふ、何が? 私は私の思ったことを話しただけよ。それでメリアちゃんの気持ちが少しでも軽くなったなら、嬉しいけれど」
「……俺じゃ、メリアの気持ちを掬ってやれなかった。お前がいてくれて助かった」
「……!」
穏やかに微笑むシェナを見て、胸がドクンと鳴る。
(私は……シェナのこういう表情に、弱いのよね)
「シェナも……」
「ん?」
「シェナも────何かを自由に、好きになっていいんだからね」
「!」
驚いたように目を見開く彼へ、私はにこりと微笑む。
そして、そっと彼の手を取ると、一緒に店の中へ足を踏み入れた。
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時間が経つのは早いもので、皆で街を巡っているうちに、いつの間にか夕暮れが近づいていた。
「あ〜、楽しかった!」
「メリアもー!」
「僕も! リル姉、色んなところに連れてってくれてありがとう!」
「ふふ、どういたしまして。また機会があったら遊んでね」
「うん! 約束だよ、リルお姉ちゃん!」
私を〝リル〟という愛称で呼び、慕ってくれる二人。
そんな二人を最後にぎゅっと抱きしめると、尻尾がぶんぶんと嬉しそうに揺れた。
(ふふ、喜びが尻尾に出るところは、シェナとそっくりね)
「はぁ……お持ち帰りしたいくらい可愛いわ……シェナが羨ましい」
「……やらねぇぞ」
「あら、声に出ていた? ふふ、残念。シェナも、今日は素敵な時間をありがとう」
「いや、俺の方こそ。付き合ってくれてサンキュな」
「リル姉、またね!」
「バイバイー!」
二人に手を振り返し、シェナにも微笑みかける。
「それじゃあ、また学園でね」
「ああ。………………」
シェナたちと別れ、私は彼らとは反対の道へ歩き出す。
すると、少しして後ろから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「……っ、ベリル!」
振り返ると、シェナが息を切らしながら駆け寄ってくる。
「悪い、呼び止めて」
「ううん、平気。何か忘れ物?」
「……ベリルに、ちゃんと伝えとこうと思って」
「ん?」
シェナは一度息を整え、真っ直ぐ私を見つめた。
「……ベリル────好きだ」
「……っ」
その一言だけで、心臓がどくん、と大きく脈打つ。
真剣な眼差しを向ける彼から、目が離せなかった。
まるで、この場だけ時間が止まってしまったみたいに。
「……お前は人間で、俺は獣人だ。それに貴族でもねぇ俺が、お前を想うなんて間違ってる────ずっと、そう思ってきた。……今でも、その考えが全部消えたわけじゃねぇ。けど、それでも俺は……どうしようもなく、お前が好きだ。諦めたくねぇって思っちまう」
自分の鼓動が、耳の奥で響いている。
(お願い……今だけは静かにして。シェナの言葉を、一言も聞き逃したくないの……)
「お前が俺を仲間として大事に思ってくれてるのは分かってる。だから返事は考えなくていい。ただ……俺の気持ちだけは、知っていてほしかった」
そう言うと、シェナは一歩だけ私に近づき、くしゃりと私の頭を優しく撫でる。
名残惜しそうに手を離すと、少し距離を取って笑った。
「……はは、悪ぃな。呼び止めて。そんじゃ、また学園でな!」
そうして、とびきりの笑顔を私に向けると、少し離れた場所で待っているアルとメリアの元へ走っていった。
私は、その場から一歩も動けなかった。
まるで足が地面に縫い付けられてしまったみたいに。
(シェナが……私を、好き……?)
動揺と緊張で、息をすることさえ忘れてしまう。
彼の言葉は、ゆっくりと私の胸を満たしていった。
───彼に「好きだ」と言われて、心臓が弾けそうなくらい嬉しかった。
───彼に「返事はいらない」と言われて、胸が締め付けられるほど切なかった。
こんな気持ちになる理由は、一つしかない。
(私も……シェナのことが好き、なんだ……)
仲間としてではなく……一人の異性として、私は彼に恋をしていた。
「……返事、聞いてほしかったな」
火照った頬を、夕風が優しく撫でていく。
小さく零れた私の独り言は、静かに風の中へ溶けていった────。




