【シェナ5-2】お兄ちゃん
私の後ろに隠れ、不安そうにしている二人の頭を、ふわりと優しく撫でる。
二人は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに気持ちよさそうに目を細めた。
「偉かったわね、二人とも。アルくんも、メリアちゃんも……本当によく頑張ったわ」
「アルでいいよ。助けてくれてありがとう、人間のお姉さん」
「ありがと、お姉ちゃん!! お姉ちゃんのお名前は?」
「ベリルよ。ベリル・エーデルシュタイン」
「ベリル……? ベリルって、お兄ちゃんの────」
(お兄ちゃん?)
「アル!! メリア!!!」
「……!」
(……あれ? この声────)
「シェナ?」
「ベリル……!?」
慌てた様子で駆け寄ってきたのは、シェナだった。
「シェナ兄!」
「───ってことは、二人はシェナのご兄妹!?」
「あ、あぁ……。なんでこいつらとベリルが────」
「あ、それはね────」
私はシェナに、先ほど起こった出来事を順を追って説明した。
道に迷っていた兄妹を男が連れ去ろうとしていたこと。
私が偶然それを目撃し、助けに入ったこと。
一通り話し終えると────
「どうして俺が迎えに行くまで家で待ってなかったんだッ!!!」
シェナの怒鳴り声に、アルとメリアはびくりと肩を震わせた。
「ベリルが偶然気付いてくれなかったら、お前ら今頃、奴隷商に売り飛ばされてたかもしれねぇんだぞ!!!」
「……っ」
「大体、いつも言ってるだろ!! 知らねぇ奴について行くなって!! それが人間なら、なおさらだ!! 知らねぇ人間を安易に信用するんじゃねぇ!!」
「うぅ……ごめんなさい……お兄ちゃん……」
「ごめんなさい……。シェナ兄の話に出てくる人間は……みんないい人だったから……僕……」
「アルは悪くないの……! メリアが……きっと大丈夫だって思って……ついて行っちゃったの……」
「……こいつや、ルデンたちは別だ」
そう言って、シェナは私の方へ一瞬だけ視線を向けた。
「みんながみんな、いい人間じゃねぇ。お前らみてぇな獣人の子どもを攫って、売り飛ばそうとする奴だっている。……今回は運良く助かった。だが、次はねぇ。よく覚えとけ」
きつく叱られた二人は、目いっぱい涙を溜めながら何度も頷いた。
そんな二人を見つめていたシェナは、ふっと表情を緩めると、二人をぎゅっと抱き締めた。
「……無事でよかった……っ。本当に……。助けに行ってやれなくて、ごめんな……」
まるで壊れ物を扱うように、シェナは二人の頭を何度も優しく撫でる。
兄の温もりに安心したのだろう。
張り詰めていた糸が切れたように、アルとメリアは同時に泣き出した。
きっと、さっきまでは必死に気を張っていただけなのだ。
本当は、怖くてたまらなかったに違いない。
シェナは何も言わず、ただ優しく二人をあやし続ける。
(ふふ……すっごく、お兄ちゃんしてるわね)
そんな三人を微笑ましく見守りながら、私は二人が落ち着くのを静かに待った。
しばらくして落ち着いた二人は、改めて私にお礼を言ってくれた。
「ベリルお姉ちゃん、本当にありがとう!」
「ありがとう、ベリルお姉ちゃん!」
メリアがぎゅっと私に抱きついてくる。
「ふふ、どういたしまして」
頭を優しく撫でてあげると、少し離れたところでアルがそわそわとこちらを見ていた。
(ふふ、出遅れちゃったのね)
「アルもおいで」
「……!」
嬉しそうに駆け寄ってきたアルも迎え入れ、二人まとめてよしよしと頭を撫でる。
「…………」
(ん? シェナの尻尾が、なんだか落ち着きなく揺れているわ……)
ふと視線を向けると、どこか羨ましそうにこちらを見ているシェナと目が合った。
「……シェナも来る?」
冗談半分でそう声をかける。
「ふふ、なんてね。冗談────わっ!?」
次の瞬間、アルとメリアごと包み込むように、シェナが私を抱き寄せた。
(じょ、冗談だったのだけれど……まさか本当に来てくれるなんて)
「えへへっ。みんな一緒で嬉しいねー! あったかーい!」
「うん! あったかい! ……でも僕たち、おじゃま虫になっちゃってるよね。シェナ兄に悪いし……離れよう?」
「!?」
「?」
アルとメリアが私から離れると、それにつられるようにシェナも勢いよく身体を離した。
(みんながくっついてくれたおかげで暖かかったのだけれど……ふふ、残念)
「そういえば……どうして二人は街に来たの?」
「シェナ兄のお家まで行って、びっくりさせようと思ったんだ……」
「……お前ら」
「そう、サプライズしたかったのね。ふふ、本当に可愛いご兄妹ね、シェナ」
「……あぁ。けど、もう二人だけで街に来るのは禁止な? おばさんたちが伝書鳩で知らせてくれなかったら、俺と行き違いになるところだったんだぞ」
「はーい……」
「二人は街に来るの、今日が初めてなの?」
「うん!」
「それじゃあ、せっかくだし街を案内してあげたら? お兄ちゃん」
「お前な……」
「本当!?」
「……はぁ、仕方ねぇな」
「わーい! やったー!」
「ベリルお姉ちゃんも一緒に来てくれる……?」
「えっ、私も?」
「おい、メリア。ベリルを困らせるんじゃねぇ。こいつだって、何か用があって街に来てるんだから」
「ふふ、大丈夫よ。実は目的もなく街をぶらぶらしていただけだから」
「ほんとう!? メリア、もっとベリルお姉ちゃんとお話したい!」
「……本当に、いいのか? せっかくの休日なのに」
「ええ。貴方が迷惑じゃなければ、だけれど」
「迷惑なんて思うわけねぇだろ。こいつらもベリルに懐いてるしな。……悪い、付き合ってもらえるか?」
「ふふ、もちろん。こちらこそ、ありがとう」
私が微笑むと、シェナもどこか照れくさそうに、優しく笑い返してくれた。




