表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
〜第五章〜 シェナ√

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/147

【シェナ5-1】獣人兄妹


シェナルート 第五章



 


 交流祭が無事に幕を閉じてから────。

 ギルドの依頼も徐々に通常通りの量へ戻り、再び忙しい日々が始まっていた。


 交流祭の期間中に滞っていた依頼を片付ける必要もあり、この数日は特に慌ただしく感じる。

 それでも、昨日ようやくダイヤモンドの仕事に一区切りがついた。

 そのおかげだろう。

 今日は理事長から、久しぶりの休日をもらえた。


 ───というわけで。

 せっかくの休みを家で過ごすのももったいなくて、私は久々に街まで足を運んでいた。


(とはいえ、何か目的があって来たわけではないから……どこへ行こうかしら。今日はアッシュもいないし)


 適当に店を覗きながら歩く。

 目的のないウィンドウショッピングも、たまには悪くない。

 あちこち見て回っているうちに、気が付けば街の東門近くまで来てしまっていた。


(ずいぶん遠くまで来てしまったわね)


 中央通りへ戻ろうと踵を返しかけた、その時だった。


 ふと、少し先を歩く二人の子どもが目に入った。

 頭にはぴんと立った大きな耳。

 そして、左右にゆらゆらと揺れる立派な尻尾。


(……誰かに似ている)


 獣人の兄妹だろうか。

 二人は小さな紙切れを握り締め、何度も辺りを見回しながら道の端を歩いている。

 一目見ただけで、この街には慣れていないことが分かった。


(初めてこの街へ来たのかしら。迷子にならなければいいのだけれど……)


 少し心配になり、そのまま様子を見守っていると、一人の大柄な男が兄妹へ声を掛けた。


「…………」


 男は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべながら近付いていく。

 最初こそ警戒していた兄妹だったが、その笑顔に安心したのか、手にしていた紙を見せながら何かを尋ねているようだった。

 男は紙を確認すると、人気の少ない路地の方を指差し、そのまま二人を先導するように歩き始める。


「…………」


 ───怪しい。

 あまりにも、怪しすぎる。

 あの路地の先に、子どもたちの目的地があるとは思えなかった。

 そのまま進めば外周をぐるりと回り、街の外へ抜けられる道だ。

 まさか白昼堂々、この街で人攫いが行われるとは信じたくない。

 それでも────。


(……私の杞憂なら、それでいい)


 胸騒ぎを振り払えず、私は気配遮断の魔法を発動させる。

 そして、男と獣人の兄妹の後を、静かに追い始めた。



 ───────────────────


「う”っ……!!」


「お、おじさんっ! 何するの!? アルを蹴らないで!!」


「心配すんなァ! 殺しゃしねーよ!テメェらは大事な商品なんだからなァ!!」


 男の後を追って路地へ入ると、そこではすでに騒ぎが起きていた。

 獣人の女の子は、蹴り飛ばされた兄を庇うように前へ飛び出す。


「やめて……ッ! アルッ───!」


「うるせぇぞ、ガキッ!! 大人しくしやがれッ!!」


「きゃあっ!!」


 男は少女の尻尾を乱暴に掴み、そのまま壁へ向かって投げ飛ばした。


「……っ!!」


 咄嗟に浮遊魔法を発動する。

 少女の身体はふわりと宙に浮き、そのままゆっくりと地面へ降ろされた。


「……よかった、間に合った」


 男は一瞬驚いたように目を見開いたが、私が女一人だと分かると、馬鹿にしたように鼻で笑った。


「アァ? なんだ、テメェ」


 そんな男を一瞥することもなく、私は少女の元へ駆け寄る。


(怪我は……なさそうね)


 視線を兄の方へ向ける。


(お腹を押さえてはいるけれど……睨み返す気力は残っている。ひとまず命に別状はなさそう)


「大丈夫? 立てるかしら?」


「……っ」


 少女は怯えたように自分の尻尾を抱き締め、小さく震えていた。

 突然見知らぬ男に襲われたのだ。怖くないはずがない。


「う……メリア……ッ」


(……女の子は、メリアちゃんというのね)


「メリアちゃん。驚かせてしまってごめんなさい。一つだけ聞かせて。この男は、知っている人?」


 メリアは勢いよく首を横に振った。


「そう。じゃあ───今から二人を助けてもいいかしら?」


「……()()が……助けて、くれるの……?」


(……人間が、か)


 その一言に胸が少しだけ痛んだ。


「……お願い。アルを助けて……っ、お姉ちゃん!」


「ええ───任せて」


「アァ? 何言って───」


「邪魔」


「グァッ!!?」


 男がメリアにしたように。

 私は躊躇なく男を魔法で吹き飛ばし、壁際へ叩きつけた。

 死んではいないだろう。

 けれど、骨の二、三本は折れたはずだ。


「…………」


「……す、すごい……。お姉さん、一体何者───」


「まだ奥に二人残ってる」


「え?」


「オ、オイッ!! 何事だァ!? 奴隷が逃げたか!?」


「な、仲間がやられてるッ!! 女ァ! やったのはテメェかァ!?」


 路地の奥から、二人の男が慌てて駆け寄ってくる。

 私は静かに魔法を発動し、二人の進路へ薄く氷の膜を張った。


「あイタァッ!?」


「ゥアッ!!?」


 見事なくらい綺麗に足を滑らせ、二人は勢いよく転倒する。


(……なんて間抜けな光景なのかしら)


「……ぷっ」


「あははっ……あっ」


 思わず笑ってしまったことに気付いたメリアは、慌てて両手で口を押さえた。

 アルも肩を震わせながら必死に笑いを堪えている。


 その隙に私は二人をまとめて氷漬けにした。

 こうして路地には、見事にひっくり返った人間の氷像が二体完成した。


(……この近くに人の気配はないわね)


 どうやら賊は三人組だったらしい。


「よし。もう大丈夫よ」


「アル……っ!!」


「メリア……!」


 兄妹は互いの無事を確かめ合うように抱き締め合った。


「二人とも、大丈夫?」


 私はしゃがみ込み、二人と目線を合わせる。


「えっと……アルくん、と呼んでもいいかしら? その膝の擦り傷と、お腹の痛み、治してもいい?」


「……うん」


「ありがとう。少し触るわね」


 一言断ってから、私はアルへ治癒魔法をかける。

 専門の治癒師ではない私でも、この程度の怪我なら造作もない。

 淡い光が傷を包み込むと、擦りむけた膝は瞬く間に元通りになっていった。


「わ、すごい……」


「もう痛みはない?」


「うん……! ありがとう、人間のお姉さん!」


「ふふ、どういたしまして」


 ぴくぴくと嬉しそうに動く耳。ぶんぶんと大きく揺れる尻尾。


(……可愛い)


 思わず頬が緩んでしまう。


「……人間のお姉ちゃん。この人たち、死んじゃったの……?」


「いいえ。ちゃんと生きているわ」


 私は氷漬けになった男たちへ視線を向ける。


「裁きを下すのは、私の役目ではないもの。だから……今はこれで我慢してくれるかしら?」


「うん、大丈夫だよ」


「ありがとう」


 私は優しく微笑み、二人の頭をそっと撫でた。


「とりあえず、ここを出ましょうか。門の近くにいた衛兵さんたちに、この人たちを引き渡さないと」


「うん!」


 兄妹を連れて路地を出る。

 事情を説明すると、門番の衛兵たちはすぐに数名を呼び寄せ、男たちの確保へと向かった。

 これで、後のことは彼らに任せれば大丈夫だろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ