【ラルド5ー9‘ BADEND√】忘却
ラルドルート 【BADEND】
条件:ラルドの好感度が50以下であること。
【BE√】
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どれだけ彼の名を叫んでも、助けが来るはずなどなかった。
閉ざされた部屋に、私の声だけが虚しく響く。
やがて視界が歪み、何もかもが遠ざかっていく。
そこで、私の意識は途絶えた。
次に意識がはっきりとしたのは、帰りの馬車の中だった。
自分の足で馬車に乗ったのか。
それとも、誰かに抱えられて乗せられたのか。
それすらも、曖昧だった。
私はただ、呆然と座席に身を預け、流れていく窓の外の景色を眺めていた。
頭が……痛い。身体が……痛い。そして、心が────。
何も考えたくなかった。
このまま、もう一度意識を手放してしまいたかった。
けれど、馬車が揺れるたびに身体へ響く鈍い痛みが、否応なく私を現実へ引き戻す。
忘れたい。何もかも。
……そうだ。
全て、忘れてしまえばいい。
この痛みも。この気持ちも。今日起きたことも。
全部。
全てがなかったことになれば、私はまた彼の隣に戻れる。
何も知らなかった頃のように。何も失っていなかった頃のように。
「──好きよ……████」
唇から零れ落ちたその名は、ひどく掠れていた。
けれど、その音が誰の名だったのか。
もう、自分でも分からなかった。
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目を覚ますと、そこは寮の自室だった。
見慣れた天井をぼんやりと見つめていると、すぐ傍で息を呑む音がした。
「……っ、ベリル!?」
アシュリーが、弾かれたようにこちらへ身を乗り出す。
「っ、よかった……っ、よかったぁ……目が覚めて……っ」
次の瞬間、力いっぱい抱きしめられた。
「けほっ……」
「あっ、ご、ごめんね!? 大丈夫? 痛くない? 苦しくない!?」
慌てて身体を離したアシュリーが、不安そうに私の顔を覗き込む。
「アッシュ……どうしたの? 私……一体────」
「ベリル、寮の前で倒れたのよ!?」
アシュリーの声が震える。
「酷い熱で……三日も目を覚まさないし……。お医者様はしばらく安静にって言うだけで、何もしてくれないし……っ、ぅう……」
堪えきれなくなったように、アシュリーの瞳から涙が零れた。
「そう……」
私は自分の額へ手を当てる。
確かに少し身体は重いものの、熱はもう下がっているようだった。
「心配かけてごめんなさい、アッシュ。熱も下がっているようだし、もう大丈夫みたい」
「本当……?」
「ええ」
「ならいいんだけど……念のため、今日はまだ安静にね」
「ん、分かったわ。看病してくれてありがとう、アッシュ」
「ううん、全然気にしないで」
アシュリーは何度も目元を拭いながら、ようやく小さく笑った。
「殿下たちも心配してたから、早く元気になって顔見せてやんな!」
「ええ、そうする」
アシュリーの言いつけ通り、その日は一日しっかりと休んだ。
そして翌日、私は学園へ復帰した。
時計塔に顔を出すと、大好きなみんなが嬉しそうに迎えてくれた。
「……ベリル!!」
「リルちゃぁぁぁぁん……!」
「ベリル……! 大丈夫かい!?」
「セシアン、それにルデンも……ありがとう。心配かけてごめんなさい」
「熱はもう大丈夫なんですか?」
レドが心配そうに尋ねる。
「ええ、この通りもう元気よ! 本当は昨日から復帰できそうだったのだけれど、アッシュが念のため、って……」
「お前なぁ……病み上がりなんだから、あんま無理すんじゃねぇぞ? 元気になったならよかったけどよ!」
シェナが呆れたように言いながらも、その顔には安堵が浮かんでいた。
「あぁ、本当にな……心配したんだぞ」
「……?」
その声に、私は首を傾げる。
目の前に、一人の青年が立っている。
「……ベリル?」
名前を呼ばれた。
まるで、ずっと前から私を知っているかのように。
────けれど。
「ええと……ごめんなさい」
私は戸惑いながら尋ねる。
「貴方は────どなたかしら?」
「…………え」
目の前の男の表情が凍りついた。
息をすることすら忘れたように、ただ私を見つめている。
(この人は……なんで私の名前を親しげに呼ぶの?)
それに、なぜ、そんなにも酷く傷ついたような顔をするのだろう。
まるで、大切なものを失ったかのような。
絶望そのものを突きつけられたような。
(初めて会ったばかりなのに、変な人ね……)
その後、私はなぜか再び医者の元へ連れて行かれた。
診察の結果、どうやら私の記憶は一部抜け落ちているらしい。
といっても、失われているのはごく限定的なものだった。
ラルド・アメシスという、一人の人物に関する記憶。
高熱、あるいは、極度のストレス。
原因として考えられるものはいくつかあるらしい。
高熱以外の原因は、どれも全く身に覚えがなかった。
結局────。
季節が巡っても、私の記憶が元に戻ることはなかった。
時折、彼がこちらを見つめていることはあった。
声をかけようとして、けれど結局何も言えずに立ち去る姿も、何度か見かけた。
そのたびに、胸の奥が微かに痛む気がした。
けれど、その理由は分からない。
もっと彼と話をしていたら、何かが違ったのだろうか。
失ったものを、取り戻せたのだろうか。
……いいや。
もう考えるのはやめよう。
私には、もう関係のないことなのだから────。
【BADEND / また、一から】
〆




