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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
〜第五章〜 ラルド√

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136/147

【ラルド5ー9‘ BADEND√】忘却


ラルドルート 【BADEND】


条件:ラルドの好感度が50以下であること。


 


【BE√】

 ───────────────────



 どれだけ彼の名を叫んでも、助けが来るはずなどなかった。

 閉ざされた部屋に、私の声だけが虚しく響く。

 やがて視界が歪み、何もかもが遠ざかっていく。


 そこで、私の意識は途絶えた。





 次に意識がはっきりとしたのは、帰りの馬車の中だった。


 自分の足で馬車に乗ったのか。

 それとも、誰かに抱えられて乗せられたのか。

 それすらも、曖昧だった。


 私はただ、呆然と座席に身を預け、流れていく窓の外の景色を眺めていた。


 頭が……痛い。身体が……痛い。そして、心が────。


 何も考えたくなかった。

 このまま、もう一度意識を手放してしまいたかった。

 けれど、馬車が揺れるたびに身体へ響く鈍い痛みが、否応なく私を現実へ引き戻す。


 忘れたい。何もかも。


 ……そうだ。


 全て、忘れてしまえばいい。


 この痛みも。この気持ちも。今日起きたことも。


 全部。


 全てがなかったことになれば、私はまた彼の隣に戻れる。

 何も知らなかった頃のように。何も失っていなかった頃のように。



「──好きよ……████」



 唇から零れ落ちたその名は、ひどく掠れていた。


 けれど、その音が誰の名だったのか。

 もう、自分でも分からなかった。




 ───────────────────



 目を覚ますと、そこは寮の自室だった。

 見慣れた天井をぼんやりと見つめていると、すぐ傍で息を呑む音がした。


「……っ、ベリル!?」


 アシュリーが、弾かれたようにこちらへ身を乗り出す。


「っ、よかった……っ、よかったぁ……目が覚めて……っ」


 次の瞬間、力いっぱい抱きしめられた。


「けほっ……」


「あっ、ご、ごめんね!? 大丈夫? 痛くない? 苦しくない!?」


 慌てて身体を離したアシュリーが、不安そうに私の顔を覗き込む。


「アッシュ……どうしたの? 私……一体────」


「ベリル、寮の前で倒れたのよ!?」


 アシュリーの声が震える。


「酷い熱で……三日も目を覚まさないし……。お医者様はしばらく安静にって言うだけで、何もしてくれないし……っ、ぅう……」


 堪えきれなくなったように、アシュリーの瞳から涙が零れた。


「そう……」


 私は自分の額へ手を当てる。

 確かに少し身体は重いものの、熱はもう下がっているようだった。


「心配かけてごめんなさい、アッシュ。熱も下がっているようだし、もう大丈夫みたい」


「本当……?」


「ええ」


「ならいいんだけど……念のため、今日はまだ安静にね」


「ん、分かったわ。看病してくれてありがとう、アッシュ」


「ううん、全然気にしないで」


 アシュリーは何度も目元を拭いながら、ようやく小さく笑った。


「殿下たちも心配してたから、早く元気になって顔見せてやんな!」


「ええ、そうする」


 アシュリーの言いつけ通り、その日は一日しっかりと休んだ。



 そして翌日、私は学園へ復帰した。

 時計塔に顔を出すと、大好きなみんなが嬉しそうに迎えてくれた。


「……ベリル!!」


「リルちゃぁぁぁぁん……!」


「ベリル……! 大丈夫かい!?」


「セシアン、それにルデンも……ありがとう。心配かけてごめんなさい」


「熱はもう大丈夫なんですか?」


 レドが心配そうに尋ねる。


「ええ、この通りもう元気よ! 本当は昨日から復帰できそうだったのだけれど、アッシュが念のため、って……」


「お前なぁ……病み上がりなんだから、あんま無理すんじゃねぇぞ? 元気になったならよかったけどよ!」


 シェナが呆れたように言いながらも、その顔には安堵が浮かんでいた。


「あぁ、本当にな……心配したんだぞ」


「……?」


 その声に、私は首を傾げる。

 目の前に、一人の青年が立っている。


「……ベリル?」


 名前を呼ばれた。

 まるで、ずっと前から私を知っているかのように。


 ────けれど。


「ええと……ごめんなさい」


 私は戸惑いながら尋ねる。


「貴方は────どなたかしら?」


「…………え」


 目の前の男の表情が凍りついた。

 息をすることすら忘れたように、ただ私を見つめている。


(この人は……なんで私の名前を親しげに呼ぶの?)


 それに、なぜ、そんなにも酷く傷ついたような顔をするのだろう。

 まるで、大切なものを失ったかのような。

 絶望そのものを突きつけられたような。


(初めて会ったばかりなのに、変な人ね……)


 その後、私はなぜか再び医者の元へ連れて行かれた。

 診察の結果、どうやら私の記憶は一部抜け落ちているらしい。

 といっても、失われているのはごく限定的なものだった。


 ラルド・アメシスという、一人の人物に関する記憶。


 高熱、あるいは、極度のストレス。

 原因として考えられるものはいくつかあるらしい。

 高熱以外の原因は、どれも全く身に覚えがなかった。




 結局────。

 季節が巡っても、私の記憶が元に戻ることはなかった。


 時折、彼がこちらを見つめていることはあった。

 声をかけようとして、けれど結局何も言えずに立ち去る姿も、何度か見かけた。


 そのたびに、胸の奥が微かに痛む気がした。

 けれど、その理由は分からない。


 もっと彼と話をしていたら、何かが違ったのだろうか。


 失ったものを、取り戻せたのだろうか。



 ……いいや。

 もう考えるのはやめよう。


 私には、もう関係のないことなのだから────。




【BADEND / また、一から】







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