【ラルド5-11 HAPPYEND√】君想う、故に我あり。
※共通ルートシナリオも少しだけ入ってます。
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────それから月日は流れ、私たちは無事に、ダイヤ生の任期を終えた。
組織に入った当初は、なんて所に入れてくれたんだという気持ちでいっぱいだったけれど、今となっては、ゲルド理事長には感謝してもしきれない。
(ダイヤモンドでの当初の任期は一年間という話だったのに、結局三年もこき使───ではなく、活動してしまったものね)
───こんなに素敵な居場所ができるなんて。
───こんなに大切な友人ができるなんて。
───こんなに、愛しい人ができるなんて。
昔の私には、想像もつかなかっただろう。
───そして、今日、この日。
私たちは王立魔導学園の卒業を迎えた。
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図書館へ入った私は、迷うことなくいつもの場所へ向かった。
本棚の奥、大きなガラス窓の前に置かれた席。
人目につきにくく、訪れる学生も少ない、図書館の中でも隠れた穴場だ。
そして今日も、そこには見慣れた彼の姿があった。
窓から差し込む柔らかな光の中で、本を開いている。
その姿を見つけた瞬間、自分でも分かるほど、頬が緩んだ。
「ラルド、お待たせ」
声をかけると、ラルドはすぐに顔を上げた。
そして、私だと気づいた途端、その表情が、一瞬で柔らかくなる。
私だけに向けてくれるその顔が、たまらなく好き。
「ベリル、早かったな。友人との別れはもういいのか?」
「アッシュとは、またすぐに会う約束をしているから大丈夫」
彼の隣へ腰を下ろしながら答える。
「卒業パーティーの前に、成績表を燃やしてくるって」
「おい……」
ラルドは呆れたように眉を寄せた。
けれどすぐに、「あいつらしいな」と、楽しそうに笑う。
「ルデンたちとの待ち合わせまで、まだ時間があるし……時間までここにいるでしょう?」
「あぁ、そうだな」
ラルドは開いていた本へ栞を挟み、静かに閉じる。
「ここでの時間も、今日が最後だからな」
「ええ、そうね……」
図書館の中を、ゆっくりと見回す。
この場所で、私たちは何度も本を読み、勉強をして────時には何も話さず、ただ隣に座って過ごした。
「寂しいわ。この時間が、いつまでも続けばいいのにね……」
「……あー」
ラルドが、珍しく歯切れの悪い声を漏らした。
「どうかした?」
問いかけると、彼は少し言いづらそうに視線を逸らす。
「……それは困るなと思ってな」
「困る?」
「あぁ」
ラルドは一度、言葉を選ぶように間を置いた。
「それでは、明日からお前と共に王都で暮らすことができなくなってしまう」
「……!」
「この時間も捨てがたいが」
ゆっくりと、視線が重なる。
「それよりも、お前と過ごす明日の方を、俺は楽しみに思っているんだ」
そう言いながら、ラルドは私の髪を一房、指先でそっと掬い上げた。
そして、その髪へ、静かに口づけを落とす。
「!」
一気に頬が熱くなる。
「ふっ」
ラルドは、そんな私の反応を見て楽しそうに目を細めた。
「そんなに真っ赤になって……本当にお前は可愛いな」
「だ、だって……」
思わず髪を押さえる。
「急に髪にキスするんだもの。恥ずかしいわ……」
(恋人になってからの彼は、とても大胆になったわ……)
以前のラルドなら、こんなふうに、何の前触れもなく触れてくることなど考えられなかった。
今だって……恥ずかしくて、まともに顔を見られない。
そんな私を覗き込むように、ラルドが首を傾げた。
口元には、からかう時に見せる、意地の悪い笑みが浮かんでいる。
「キス以上のことも、していると思うが?」
「……っ!!!」
言葉の意味を理解した瞬間、頬に集まっていた熱が、耳まで一気に広がった。
(こ、この顔は、からかっている時の顔ね……!)
何か言い返そうとしても、恥ずかしさが先に立って、うまく言葉にならない。
そんな私を見て、ラルドは、愛おしそうに目を細めた。
そして────ちゅ、と、今度は唇へ、短い口づけを落とす。
「ラ、ラルドは意地悪になったわ……」
「心外だな?」
ラルドは悪びれもせず、柔らかく笑った。
「こんなに愛しているのに」
「もう……」
恥ずかしい。
けれど、嬉しい。
その気持ちを隠すように、私は小さく俯いた。
(でも……そっか)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(私、明日からラルドと……)
卒業後────ラルドと私は、学園での成績とダイヤモンドでの功績を認められ、城で王宮魔導師として、ルデンの臣下に加わることが決まったのだ。
ラルドは、魔導具や魔術の研究開発を担う。
私は、魔導師部隊を育成する指導者として働くことになっている。
それを機に、私たちは二人で、王都へ移り住むことを決めた。
(それを、楽しみにしてくれているなんて……)
嬉しくて、胸の奥がくすぐったい。
「私も、貴方と過ごす日々が楽しみ」
そう告げると、ラルドの表情がさらに柔らかくなる。
「王都に屋敷を建てることができて、よかったわよね」
「そうだな」
「ギルドの依頼で稼いだ三年分の報酬を、半分以上、屋敷を建てる費用に使ってしまったけれど」
「城から比較的近い、静かな立地に屋敷を構えることができてよかったな」
ラルドは満足そうに頷いたあと、少しだけ、不安そうに私を見る。
「……だが、本当によかったのか?」
「何が?」
「もう少し大きな屋敷を建ててもよかったんだぞ?」
「ふふ、気遣ってくれてありがとう」
私は小さく笑う。
「でも、本当に大丈夫」
確かに、アメシス家の屋敷や、私の生家であるエーデルシュタイン家の屋敷と比べれば、ずっと小さい。
けれど……
「二人で住むには、あのくらいで十分だし。むしろ、広すぎるくらいよ」
大きさよりも、二人で暮らせることの方が、ずっと大切だった。
「……それより」
ふと、胸に引っかかっていたことを思い出す。
「ラルドこそ、本当によかったの? 明日からラルドは……」
そこで、言葉が止まった。
────明日から、ラルドは、アメシス家の人間ではなくなる。
正確には、今日の卒業パーティーが終わった、その時点で。
ラルド・アメシスという名を手放し、彼はただのラルドとして、自分自身の人生を、生きていくことになる。
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───私と彼の想いが通じ合った、あの日。
ラルドはお義父様に、クォーツ様と私との縁談を白紙に戻し、自分との婚約を認めてほしいと直談判しに行った。
その際、クォーツ様を殴り飛ばしたことも、一切隠さず正直に話したという。
それについては、状況が状況だったこともあり、同意なく私に手を出そうとしたクォーツ様に非があると、お義父様も理解を示してくれた。
けれど────
「クォーツが気に入っている娘と、お前を結婚させるつもりはない」
その考えだけは、最後まで変わらなかったそうだ。
だからラルドは、私との婚約を認めてもらうため、自ら一つの条件を差し出した。
───アメシスの名を返上します。
その言葉は、アメシス家の養子であることを捨て、この家と絶縁するという宣言でもあった。
突然の提案に、お義父様はしばらく黙り込んだらしい。
けれど最終的には、その条件ならば、と承諾した。
後からラルドに聞いた話では、お義父様は以前から彼の処遇に頭を悩ませていたという。
本来、ラルドがアメシス家へ迎えられたのは、跡継ぎを確保するためだった。
しかし、その数年後、実子であるクォーツ様が誕生した。
その瞬間から、ラルドは、アメシス家にとって必要ではない存在になってしまったのだ。
追い出すこともできず、かといって跡継ぎにもできない。
利用価値を見極めながら屋敷へ置いていたものの、最終的には、家を出てもらうのが最も都合がいい───そう考えていたらしい。
……それでも。
その決断を後押ししてしまったきっかけが、私だったという事実だけは変わらない。
もし私と出会っていなければ。もし私との婚約を望まなければ。
ラルドはアメシス家に残り、別の道を歩むこともできたのかもしれない。
そう考えてしまうたび、胸の奥が、締めつけられるように痛んだ。
彼は一度も後悔した様子を見せなかった。
むしろ、「ようやく自由になれた」と穏やかに笑ってくれた。
それでも私は……彼から、大切な居場所を奪ってしまったのではないかという罪悪感だけは、どうしてもしばらく拭うことができなかった。
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「ふっ、俺がアメシスの人間でなくなることを、まだ気にしているのか? 俺からすれば、元々学園を卒業したら家を出るつもりでいたんだ。それに、あのままあの家にいたところで、俺は間違いなく都合よく飼い殺しにされていただろう。だから、遅かれ早かれ、俺はアメシス家を去っていたさ」
「……本当に、後悔はない?」
「無論だ。お前と生きる道を選ぶことができたんだ。後悔など、あるわけがない。例え貴族でなくなったとしてもな」
「ラルド……」
「それに、アメシスの名を返す代わりに、明日からはお前と同じ名を名乗ることができる。本当に……エーデルシュタイン卿には感謝してもしきれない」
「ふふ、父様も母様も、ラルドのことをとても気に入っているから……」
私の両親も、彼との婚約を心から喜び、快く受け入れてくれた。
交流祭での私たちの活躍を、姉のスピネルから事前に聞いていたらしい。
「娘を預けるにふさわしい男だ」と……そう言って、父も母も笑顔を向けてくれた。
さらに、元々正義感の強い父は、ラルドのこれまでの境遇を知ると、深く胸を痛めた。
そして、迷うことなく彼にこう告げたのだ。
『だったら、エーデルシュタイン家の婿になればいい』
その一言で、父はラルドを家族として迎え入れてくれた。
だから彼は、明日から───ラルド・アメシスではなく、ラルド・エーデルシュタイン。
私の夫として、新しい人生を歩み始める。
そんな彼の横顔を、私は愛おしく見つめた。
「……ありがとう。私と生きる道を選んでくれて」
「それは俺の台詞だ。俺がお前を愛することを、お前が許してくれた。……ありがとう」
そう言って彼は、そっと触れるだけの口づけを落とした。
───私だけの、愛おしい人。
「───好きよ……ラルド」
この先も、ずっと。
貴方と共に歩んでいきたい。
「俺も────愛している。永遠に」
深く重なる口づけに身を委ねながら、私は静かに瞼を閉じた。
【HAPPY END / 君想う、故に我あり】
〆




