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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
〜第五章〜 ラルド√

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【ラルド5-10 HAPPYEND√】プロポーズ

 


 連れて行かれたのは、少し離れた場所にあるラルドの私室だった。

 静かで、清潔で……先ほどの部屋とは違い、息苦しさを感じない。


 ラルドは私をソファーへそっと下ろす。

 もう少しだけ……彼の温もりに触れていたい。

 隣へ腰を下ろしたラルドの胸へ、私はそっと額を預けた。


「……!」


 ラルドの身体が、目に見えて強張る。


「べ、ベリル?(さすがに、これ以上は俺も理性が……)」


 戸惑う声が頭上から落ちてくる。

 けれど、今は離れたくなかった。


「……ラルド」


「な、何だ?」


 どこか緊張した返事に、胸が少しだけ温かくなる。


「……本当に、私と彼との仲を応援しているわけでは……ないのよね?」


「当たり前だ」


 ラルドは即座に言い切る。


「押し倒されているお前の姿を見た瞬間……義弟の首の骨をへし折りそうになったくらいだ」


 思わず顔を上げる。

 けれど、彼が冗談を言っているようには見えなかった。


「そ、それはやらなくてよかったけれど……でも、そっか……よかった……」


 安堵の息が零れる。


「貴方にだけは……他の男性との仲を応援されたくない……」


 ラルドの瞳が、わずかに揺れた。

 私は彼から視線を逸らさないまま、言葉を続ける。


「……私ね、今回の縁談の相手は、貴方だと思っていて……だから、私はこの縁談を受けたの」


「え……」


 今度こそ、ラルドは完全に固まった。


「そう、だったのか?(ま、待て。俺だから引き受けた……?)」


 彼の顔に、珍しく分かりやすい動揺が浮かぶ。


「(それは、その……つまり、お前は俺の婚約者になっても良いと……思っているのか?)」


 私を見たまま、目を瞬かせる。


「(ルデンやレド、セシアンやシェナではなく……俺と?)」


「手紙には、アメシス家の〝次期当主〟としか書いていなかったから……」


「あぁ……」


 ラルドはようやく納得したように息を吐いた。

 それから、少しだけ苦い笑みを浮かべる。


「そう……か。クォーツから聞いたか? 俺はアメシス家の養子なんだ」


 その言葉は、思っていたよりも淡々としていた。


「どんなに優秀な成績を収めようが、俺がこの家の当主になることは絶対にない」


 ほんの一瞬、彼の声に、自嘲が滲む。


「本当に……不毛な話だがな」


「……そうだとしても」


 私はすぐに首を振った。


「あの人がラルドを侮辱していい理由にはならないわ。ラルドはアメシス家のために尽くしているのに……その努力が報われないなんて、あんまりだわ……」


 悔しかった。

 彼が費やしてきた時間も、積み重ねてきた努力も、そのすべてを知っているわけではないけれど。

 それでも……彼の努力を誰かが踏みにじることが、どうしようもなく許せなかった。


「お前は……」


 ラルドは、少し困ったように……それでいて、どこか嬉しそうに笑った。


「まるで、自分のことのように悔しがってくれるんだな」


「だって……」


「俺には……そんなお前がいてくれるだけで────」


 その声が、柔らかくなる。


「それだけで十分すぎるくらいだ」


「ラルド……」


 彼はそっと手を伸ばし、私の頬へ触れた。

 大きな掌が、涙で濡れた肌を包む。

 自然と視線が重なる。

 ラルドの表情は、これまでに見たことがないほど、真剣だった。


「……俺は、お前の隣に堂々と立つ力を持ち合わせていない。貴族の血は流れていないし、魔力量も少ない。加えて、特出した才能もない」


 一つ一つ、自分を裁くように言葉を重ねる。


「そんな俺は……お前にふさわしい男には程遠いだろう」


「そんなこと……っ」


 胸が痛む。


「私はラルドが────」


 全て言い終えるより先に、ラルドの人差し指が、そっと私の唇へ触れた。

 言葉を遮るような仕草なのに、それは、ひどく優しかった。

 彼は申し訳なさそうに微笑む。


「────だから、お前に抱くこの想いを、必死に振り払おうとしていた。……だが、できなかったんだ」


 その声が、かすかに震える。


「俺以外に、お前にふさわしい人間がいると頭では理解していても……」


 ラルドの瞳に、熱が宿る。


「どうしても、他の誰にも渡したくはないと願ってしまう」


 胸の鼓動が、大きく跳ねた。


「俺は────」


 彼は一度、息を吸った。

 そして────。


「お前が好きだ」


「……!」


「俺は……お前と出会うまで、能力こそ全てだと思っていた」


 彼は、私から視線を逸らさないまま続ける。


「アメシス家に必要とされる魔法使いでなくてはならない、と」


 静かな声だった。

 けれど、その言葉の奥には、彼がこれまで背負ってきたものが滲んでいる。


「でなければ、俺が生まれてきた意味はないとすら思っていた。……だが、そんな俺の生き方を、生きる理由を、少しずつ、お前が変えてくれたんだ」


 彼の指先が、頬を優しく撫でる。


「お前がくれた言葉の一つ一つが、俺の枷を砕いてくれた」


 ラルドは、ほんの少しだけ笑った。


「────俺はアメシス家の人間としてではなく、お前の隣に堂々と立てる人間でありたい」


「……っ」


 自然と涙が溢れた。

 視界が歪む。それでも、彼の顔から目を逸らしたくなかった。

 少し緊張した声も。熱を含んだ眼差しも。私に触れる、優しい手の温度も。

 全部、全部、愛おしい。


「俺はまだまだ力不足で、お前にふさわしい人間ではないが……」


 ラルドは、強い意志を込めて言う。


「お前を愛するこの気持ちだけは、誰にも負けるつもりはない」


 その言葉に、胸が震える。


「手放すつもりもない」


 彼はまっすぐに、私だけを見つめていた。


「────これからも……どうか、俺のそばにいてくれないだろうか?」


「……ラルド」


 涙を拭ってくれる彼の手へ、自分の手を重ねる。

 温かい、この温もりを。

 ずっと離したくない。


「私も────」


 声が震えないよう、息を整える。


「貴方が好き」


 ラルドの瞳が、大きく見開かれた。


「ずっと、ずっと、伝えたかった」


 涙はまだ止まらない。

 それでも、この気持ちが彼にきちんと伝わるように。

 私は、めいっぱい微笑んだ。


「……っ」


 ラルドは一瞬、何も言えないように私を見つめていた。

 やがて、心から嬉しそうに、目を細める。

 彼の手が、私の頬を包む。

 ゆっくりと顔が近づいてきて、確かめるように、唇が重なった。

 触れるだけの、優しい口づけ。

 それだけで、胸がいっぱいになる。


 やがて唇が離れ、互いの息が触れ合う距離で、ラルドが囁いた。


「────ベリル、愛している」


 その言葉に応えるように、私はそっと彼へ身を委ねた。

 ラルドはもう一度、今度は先ほどよりも深く────けれど、どこまでも大切にするように。


 甘い口づけを重ねてくれるのだった────。




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