【ラルド5-6】セシアンは見た
────翌日。
「────は? ベリルに……縁談ーーーーー!!??!?」
食堂の一角に、アッシュの叫び声が響き渡った。
「ちょ、声! 声が大きいわ!!」
「あ、あぁ、ごめん。つい驚いて……」
アッシュはようやく声を落としたものの、驚きは隠せないらしい。
目を丸くしたまま、信じられないとでも言いたげに私を見つめている。
「しかも、その相手が眼鏡って……。あの男にもそういう感情があったのかー……」
「……え、そこ?」
私が思わず聞き返すと、アッシュは当然でしょうとばかりに頷いた。
「いや、そうでしょ。だって女性絡みの噂、聞いたことないんだもん」
言われてみれば、確かにそうだ。
ラルドは目立つ容姿をしているし、成績も優秀だ。
けれど、誰かと親しくしているだとか、女性から言い寄られただとか、そういった噂は一度も耳にしたことがない。
「それに、あんたはこの話、前向きに考えてんでしょ? 何を悩む必要があるのよー」
アッシュはじっと私の顔を覗き込んだ。
「だって好きなんでしょ? あいつのこと」
「なっ!?」
心臓が跳ねる。
「なんで知って────」
「そりゃあ、見てれば分かるっていうか……」
アッシュは何でもないことのように言った。
「あんた、あいつのことしょっちゅう目で追ってたわよ?」
「…………うそ」
思わず、声が小さくなる。
「……え、無意識?」
「~~~~~~!?!!?!」
一気に顔が熱くなった。
(は、恥ずかしい……)
自分ではまったく気づいていなかった。
そんなにも分かりやすくラルドを見ていたなんて。
しかも、それをアッシュにずっと見られていたなんて……!
「なんだなんだ、可愛いヤツめー」
「ア、アッシュ……ウリウリやめて……やめて……」
アッシュは面白がるように私の頬へ自分の頬を押しつけ、ぐりぐりと擦り寄ってくる。
逃げようとしても、肩をがっちり抱かれていて身動きが取れない。
「ま、確かにあいつがベリルに、事前に話さなかったのは気になるっちゃ気になるけど……」
ようやく私を解放すると、アッシュは腕を組んで考え込んだ。
「単にまだ確定してなかったから、話さなかっただけじゃない? あいつって、不確かな情報を流すようなタイプでもなさそうだし。タイミングがなかっただけだと思うわよ」
「そう……かしら」
「ん、ベリルの考えすぎ」
きっぱりと言い切られ、私は昨日から何度も考えていたことを振り返る。
確かに、ラルドは曖昧な情報を口にする人ではない。
昨日も、何かを聞こうとしていた。
もしかすると本当に、話すつもりはあったのかもしれない。
「……うん、確かに。そう、よね。少し考えすぎだったかも」
「そうそう」
アッシュは満足げに頷いた。
「ま、どーしても気になるってなら、本人に聞いてみたらいいんじゃない? 別に隠してる訳でもないんだし」
「ええ、そうね」
そうだ。
考えているだけでは、結局何も分からない。
ならば、本人に直接聞けばいい。
昨日、彼も私に自分の気持ちを話してくれたのだから。
「────にしても……」
アッシュが不意に、机へ突っ伏した。
「はぁーあ、ベリルが他の男のものになるなんて……つらいー……」
「えぇ?」
あまりにも大げさな嘆き方に、思わず笑ってしまう。
「ふふ、応援してくれてるんじゃないの?」
「応援はしてるけどさー、それとこれとは別なんだよねぇ」
アッシュは頬を机につけたまま、恨めしそうにこちらを見る。
「親友の恋人とか旦那とは仲良くできないっていうか……取られたって気持ちになるっていうか? 嫉妬とも違うんだけど……んー、なんて言ったらいいのかなぁ……」
しばらく唸ったあと。
「────あ、殺意?」
「そ、そこまで!?」
勢いよく身を引くと、アッシュは吹き出した。
「あははっ、殺らない殺らない! あんたの気持ちが一番だから!」
笑いながら手を振り、それから悪戯っぽく目を細める。
「ていうか、ベリルは思ってくれないの〜? あたしに恋人ができたら、あんたと遊ぶ時間が減っちゃうのよー?」
「それは……」
想像してみる。
アッシュが誰かと過ごすようになって、今までのように気軽に話せなくなったら。
一緒に食事をしたり、勉強したり、くだらない話で笑ったりする時間が減ってしまったら。
「本当だわ。なんだか嫌かも」
「あはは、でしょー?」
アッシュはぱっと顔を輝かせた。
「嬉しいわねぇ、ベリルもそう思ってくれて! たもーー、ほーんとすきーーー」
「わっ、アッシュ、くるしいってばー」
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「────と、いうリルちゃんたちの微笑ましいじゃれあいを、声をかけるタイミングを逃してつい見守ってしまったオレですが────」
少し離れた場所で、その一部始終を目撃していたセシアンは、固まったまま呟いた。
そして、
「リルちゃんに……えん、だん……だとッ???」
その顔から、みるみる血の気が引いていった。




