【セシアン5-7 HAPPYEND√】清純なる愛
※共通ルートシナリオも少しだけ入ってます。
────誰かが、ずっと、私の名を呼んでいる。
────誰かが、ずっと、私の手を握っている。
その心地良い声音も、その大きく優しい温もりも、私のよく知る人物のもの。
────私の、愛する彼のもの。
重く閉じた瞼を、ゆっくりと開ける。
(知らない、天井……)
────あれから、どうしたんだっけ?
セシアンの腕の中で力尽きたところまでは記憶がある。
(あの出血の量じゃ、助からないと思ってたのに……)
無意識にそっと、自分の脇腹に触れる。
「………………ん!?」
服をめくり、損傷箇所を確かめるが────
「傷が……ないわ…………」
腹部に空いた穴が、綺麗さっぱり消えている。もちろん、痛みもない。
(あれだけの損傷……どうして───はっ!?)
私の傷を完全に治したということは、あの時治癒を施していたセシアンが代わりに犠牲になったのでは────。
(そんな……っ、まさか─────)
最悪の考えに至り、目に涙が滲んでくる。
───そんな時、タイミング良く部屋の扉が開かれた。
中に入ってきたのは、なんと────
「…………え、」
────セシアンだった。
「セシアン……!」
(無事だったのね……良かった……! …………え、でも、それならなんで私は生きて───)
セシアンは、水の入ったコップを手にしたまま扉の前で立ち尽くしている。
(ん? なんでフリーズして────あっ!? まずい!! 服を上にまくったままだわ!?!)
傷を確認しようとして、胸が見えるギリギリのところまで服をめくり上げていたことを、すっかり忘れていた。
慌てて服を下げる────その前に。
水の入ったコップが床に落下した。
(あ、コップが割れ────)
「……リル…………ベリルッ!!!!」
「て─────わぁっ!?!」
ガバーーっと勢いよく私の胸に飛び込んできたセシアンによって、上半身が後ろに倒れそうになる。
しかし、セシアンが、それはもう強く抱きしめてくれたおかげで、何とかその事態は免れた────のだが。
「ぐ、ぐるし────」
「ベリル……っ、ベリルっ!! あぁ……良かった……よかったぁぁ───」
涙の交じった声で、私の名前を何度も呼ぶセシアン。
勢いよく抱きつかれたせいで、先程よりも服が盛大にめくり上がっている。
「……っ!?!!?」
「……っ、ごめんベリル! まだどっか痛────」
「はっ、離れないで!!!!」
私の身体を離そうとする彼をなんとか引き止めるべく、ぎゅーっと彼にしがみつく。
「べ、ベリル……!」
「い、今離れられたら、全部見えちゃうの!! だからまだ離れないで!?」
「見え……あぁ、なんだそういう────そういう!?!!?(なんか道理で柔らかいと────)」
「し、下向くのもダメ!!!!!!」
「ま、待ったベリル、その格好でそれ以上抱きつかれたら色々とまずいっていうか……!! み、見てないから落ちついて……!?」
セシアンに上を向いていてもらいつつ、服を整える。
ようやく落ち着いた私たちは、そっとお互いの身体から離れた。
「キミが無事で……本当に良かった」
「あの後……どうなったの? その……シレネは……?」
「あの女は……今は幽閉されてる。どんな裁きが下るとしても、二度と彼女はキミとオレの前には現れないよ。だから……そこは安心して?」
「そう……」
セシアンの前にも現れないのだったら、安心できる。
「あ、それで私……どうして生きているの? セシアンも無事のようだけれど……貴方が助けてくれたんでしょう?」
「オレ───っていうより、キミの精霊が助けてくれたんだと思う。ついでに、オレのことも」
「え……私の精霊?」
「あの時───オレの魔眼に、ベリルがキスしてくれたでしょ? 実はその時、もうオレの片目、見えてなかったんだ」
「えっ!?」
「でも────その瞬間、目の奥に見えないはずの光が見えて……キミの魔力の塊みたいなものが、オレの魔眼の中に入ってきたんだ。そしたら、急に見えなくなった目に光が戻ってきて───目の前に、光を纏った精霊が浮いてたんだ。……光魔法を操る精霊なんて、初めてみた。オレの普通の瞳の方では見えなかったから、キミの魔力と合わさったことで、この魔眼で精霊の姿を認識できるようになったんだと思う」
「私の精霊が、セシアンの目を見えるようにしてくれたってこと……?」
「うん、でもそれだけじゃなくてね。その光の精霊が、オレの魔眼の性質を変えてくれたんだ」
「性質って……魅了?」
「そう。……ねぇ、オレの目────見てて?」
そう言うと、彼は何故かサイドテーブルに置いてあった果物用のナイフで自分の手のひらを切り、その傷を魔眼で凝視した。
───その瞬間、ライトグリーンだった彼の片目が、一瞬で真っ赤に染った。
その色は、まるで私の瞳の色と同じ────。
「……っ!? な、目の色が!」
それだけではない。
彼の手のひらにできた傷が一瞬で塞がった。
それはまるで────。
「治癒の……魔眼!?」
本の中でしか見たことがない、この世界で最も希少とされる魔眼。
それが、治癒の魔眼である。
彼の手のひらの傷が完全になくなると、瞳の色が綺麗なライトグリーンに戻った。
「キミの魔力と共鳴して、魅了が消えたんだ。代わりに、キミを助けられる力を貰ったんだよ」
「そう……だったのね……。ふふ、けどやっぱり、貴方が助けてくれたんじゃない」
私は彼の手に自分の手を重ねて、するりと指を絡ませた。
「ありがとう、セシアン!」
私が微笑むと、彼は辛そうに眉を下げた。
「オレは……ベリルを傷付けただけだよ。オレがキミを好きにならなければ、こんなことにはならなかった……」
「……それ、あの時もそう言っていたけれど、私を好きになってくれたことを、後悔しているの? ───私はこんなに好きなのに……」
「うん、俺も好きだけど、でも────…………え?」
目を伏せていた彼と、ようやく目が合った。
「私も貴方が好きよ、セシアン」
チュッと彼に触れるだけのキスをする。
セシアンはしばらくフリーズしてから、ポロポロと涙を流した。
「!?!」
「……っ、ごめ、オレ……信じられなくて……」
「え!? ほ、本当よ?」
(って、彼の想いをずっと本気に捉えられなかった私が言えたことじゃないけれど────)
「ホントに……オレなんかのこと、好きでいてくれるの? オレを……選んでくれるの……?」
「オレなんか、じゃなくて、貴方がいいの。本当に本当に───大好きよ、セシアンっ!」
私はガバッとセシアンに抱きつく。
一瞬だけ驚いていた彼だったが、すぐにぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「ベリル……っ、好きだよ! ずっと、キミだけを愛してる!」
「うん……私も、貴方だけを愛してる」
彼の長い指で、軽く顎を持ち上げられたと思ったら、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
私は、彼に身を委ねるように目を閉じた。
甘く、酔ってしまいそうなキスの雨に、幸せを感じながら────。
───────────────────
※
────それから月日は流れ、私たちは無事に、ダイヤ生の任期を終えた。
組織に入った当初は、なんて所に入れてくれたんだという気持ちでいっぱいだったけれど、今となっては、ゲルド理事長には感謝してもしきれない。
(ダイヤモンドでの当初の任期は一年間という話だったのに、結局三年もこき使───ではなく、活動してしまったものね)
───こんなに素敵な居場所ができるなんて。
───こんなに大切な友人ができるなんて。
───こんなに、愛しい人ができるなんて。
昔の私には、想像もつかなかっただろう。
───そして、今日、この日。
私たちは王立魔導学園の卒業を迎えた。
───────────────────
時計塔に入った私は、ソファーで眠るセシアンの横に腰を下ろした。
スゥスゥと小さく寝息を立てる彼が愛おしくて、思わず彼の唇に口付ける。
すると、彼の舌が私の唇の形をなぞるように、ぬるりと動いた。
「〜〜〜っ!?!」
「おっと……」
唇を舐められたことに驚いた私は、危うくソファーから落ちそうになる。
実際は、私の身体をセシアンの腕が支えてくれたおかげで、落ちずに済んでいるのだが────。
「危ねー。ナイスキャッチ、オレ!」
「なっ、寝たフリをしていたの!?」
「だって、そーんな可愛いことしてくれちゃうんだもん。起きるに決まってるでしょ?」
身体を起こしたセシアンは、私のおでこにチュッとリップ音を立てた。
「本当……年々美人になっていくんだから……オレ、超心配なんだけど」
「貴方は年々、過保護になっていってるわよ」
「……嫌?」
「…………嫌じゃないから、困ってるの」
私は彼の唇の横に、短くキスをした。
「…………あーもう。なんでキミはそーいう…………。オレがおでこで我慢した意味、分かってる?」
そう言うと、彼は私を優しくソファーに押し倒した。
「……セシアン、みんながもうすぐ来ると思う」
「……………………キスも駄目?」
……そんな顔で首を傾げられたら、断れない。
「…………キス以上のことをしないなら」
「……もちろん、あいつらにベリルのかわいー姿は見せたくないし」
「もう……んっ───」
ついばむ様なキスが、次第に深くなっていく。
熱に濡れた彼の瞳が、私を捉えて離さない。
「可愛い、オレだけの愛しい人。これからも───ずっと、オレの傍にいてね」
(私だけの、愛しい人───どうか、いつまでも)
私は、こくりと頷き微笑んだあと、彼の言葉に答えるように、深いキスを返したのだった─────。
【HAPPY END / 清純なる愛】
〆




