【セシアン5-4】警告
※次回エピソードで【エンドルート】の分岐があります。
会話の内容が変化するため、目次から
【好感度が50以上ある場合はハッピーエンドルート、50以下の場合はバッドエンドルート】
のシナリオ(エピソード)に飛んでください。
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「フフ……ウフフフフフフフフ!!!」
シレネは、自分を置いて去って行ってしまったセシアンの背を、愛おしそうに見つめていた。
シレネは頬に手を当てるとため息をついて憂う。
「クスリの効きが悪かったのかしら……けど以前よりだいぶ落ち着いて話せた気がしますわ……! それにしても、セシアン様の様子がおかしかったわ。あの女のせいで、セシアン様が変わってしまった……? そうよ……あの女がワタクシからセシアン様を奪うため、彼に何かしたに違いありませんわ……!? 早くセシアン様をお救いしなきゃ……早く……早く彼からあの女を遠ざけないと─────」
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《Side ベリル》
リゴーンリゴーンと、時計塔が講義終了の鐘を学園に響かせる。
その鐘を合図に、学生たちはそれぞれ席を立っていく。
私の前に座るアシュリーも、「ん〜〜」と伸びをしてから振り返った。
「よーし、今日の講義終わった〜! ベリル〜、今日どーする? どっか行くー?」
「…………」
「……ベリル? おーい!」
「……! あ、ごめんなさい、何か言った?」
「や、この後どーするか聞いただけなんだけど、どした? 扉の方になんかあるの?」
「……いえ、気のせいだったみたい」
「そ?」
(…………)
───また、あの視線。
最近、誰かに監視されているような視線を感じることがよくある。
その視線には、悪意を感じるのだ。
しかし、未だにそれが誰からのものなのか掴めずにいる。
大抵は魔法で何とかなるけれど、ただ見ているというだけでは特定しようがない。
(気のせいであってくれれば一番いいのだけれど……気のせいだったらこんなに気にならないわよね)
ひとまず実害はないので、様子を見ることにする。
あまり酷いようなら、彼らにも相談してみよう。
「あ、そうだ、アッシュ。この後教授に呼ばれているんじゃなかった?」
「………………あ」
「ふふっ、忘れていたわね?」
「スーーーそうだったぁぁ。呼び出しとか……ついにあの教授を裏でハゲ大魔神って呼んでたのがバレたのか……? 他にも……うぅ、身に覚えしかない……」
「アッシュ……そんなこと言ってたの?」
「だっていっっつも難癖つけてくるんだもんあのハゲ───コホン、失礼」
アッシュは咳で誤魔化しつつ周囲に教授の姿がないかを確認し、ホッと息をついた。
「ふふ、程々にね」
(アッシュがいないとなると……今日は真っ直ぐ寮に帰ろうかしら。セシアンたちも今日は予定があると言っていたし、時計塔に寄っても誰もいないものね)
こうして一人で帰路を歩くのも随分久しい。
アッシュと帰ることももちろんあるが、ここ最近はセシアンと帰ることが多くなった。
ギルドの依頼をこなした後は必ず寮まで送ってくれるし、何も無い日も自然と帰りの約束をする。
私がセシアンと共にいる時間が長くなったこともあってか、彼が他の女性と一緒にいるところを見かけなくなった。
魔眼に魅了される女性たちが減ったというわけではないのだが、単純に彼が彼女たちの相手をしていないようだった。
彼の中で何か心境の変化でもあったのだろうか?
(最近といえば……以前よりも増して、セシアンに好きだと口説かれるのだけれど……そういうのは本当に好きになった相手に言えばいいのに……)
毎回からかわれるこちらの身にもなってほしい。
私の受け流しスキルばかりが磨かれていく。
それに────
(彼にからかわれることには慣れたはずなのに……その度、胸の辺りがモヤモヤするようになったのは何故なのかしら)
彼のことを想うと、上手く考えがまとまらない。
考えても考えても、なかなか答えを出せないので、諦めた私はそっとため息をついた。
「───フフフ……ため息などついて、一体どうなさったのかしら?」
「……っ、」
いきなり背後から声をかけられ、驚いて振り返る。
(いつの間にこんな背後に立たれて……? 全く気配がなかったわ……)
考え事をしていたにしても、そこまでぼーっとしていたわけではない。それなのに……。
(……あれ? この子、どこかで────)
この女子学生には、見覚えがあった。
「あら、思い出してくださいました? 以前シーラで一度お会いしましたわね」
「……!」
(そうだ、彼女はシーラでセシアンに言い寄っていた────)
そこまで思い出してハッとする。
(確か、セシアンが彼女の誘いを断る口実に私の名前を使ったって言っていた気が……? それで私は夜道に気をつけようと決意したような───)
私は密かに身構える。
まだ日は落ちていないし、人通りもある。
私もまさか本当に刺されるとは思っていないけれど……念の為。
そんな私の警戒をよそに、彼女は笑顔を浮かべながら、スカートの裾を摘んで優雅に屈んだ。
その作法は貴族のそれだった。
「ワタクシ、シレネ・スイセンと申しますわ。セシアン・モルガナイト様の婚約者ですの」
「え…………?」
(セシアンに、婚約者……? 彼女が……?)
「で、でも、そんな話、セシアンからは一度も────」
「何故彼があなたにそのようなことを話さなくてはならないのですか? セシアン様の婚約者が誰であろうと、あなたには関係のない話ですわよね?」
(そ、それは……確かにそう……だけれど……)
シレネは頬を染めながら微笑んだ。
「ワタクシは彼の婚約者であることを公にしても良いと申しておりますのに、彼ったら……ワタクシを気遣って周囲の方々にはお話になっていませんの。もしワタクシとの婚約が知られたら、それに嫉妬した女性の方々にワタクシが傷付けられてしまうことを恐れているのよ。フフ、お優しいでしょう?」
確かにセシアンならそういった配慮をするかもしれない。だが────。
「……シーラでの貴女たちは、とてもそんな風には見えなかったけれど───」
「あの時は……そう、喧嘩をしてしまいましたの。婚約者であろうと、時には喧嘩をすることもあるでしょう?」
(…………)
婚約者同士にしては、セシアンの彼女に対する態度に違和感を覚えたが、彼女の落ち着いた言葉と振る舞いは、嘘をついているには堂々としすぎていると感じた。
(本当に……セシアンの婚約者……なの? もしそうだとして───)
「その婚約者様……が、私に何か?」
「……」
シレネはハンカチで口元を押さえながら、辛そうに目を伏せた。
「単刀直入に申し上げますと……これ以上、セシアン様に関わらないでいただきたいのです。今までは、他のご令嬢とのお戯れを我慢してまいりました。ですが最近のあなたとセシアン様のお戯れは目に余ります。お父様が知ったらなんと仰るか……。最悪、この婚約が破棄されてしまうかもしれません。そうなれば、モルガナイト家にとって相当な痛手になってしまいますのよ」
「ま、待って。確かにここ最近彼と一緒にいることは多いけれど、それは大抵彼から誘って───……っ」
思わず、言葉を呑んだ。
なぜなら、シレネが殺意と言っていいほどの怒りに満ちた目でこちらを睨んでいるから。
(この視線……最近感じていた視線は彼女のもの───)
「……コホン。あなたとの戯れは、彼がワタクシに嫉妬してほしいからなんですの。あなたに好意があるフリをして、あなたが彼に本気になれば、よりリアリティが出るでしょう? ……フフ、本当に、困ったお方……ワタクシたちは身も心も愛し合った仲だというのに、まだワタクシの心を繋ぎ止めていたいだなんて。そんなことをしなくてもワタクシの心はすでにセシアン様のもの。そう何度もキモチを伝えているのに、まだ足りないだなんて。フフ、可愛らしい方でしょう?」
「……」
また、胸の奥にチクチクとした痛みを感じた。
「───とにかく……あなたと共にいることは、彼にとって良いものではありませんの。ですので、あなたから身を引いてくださいませ。これまでの戯れは水に流して差し上げます。今後は彼の誘いに乗らないでくださいませ。これはワタクシのためではなく、セシアン様のため……このままでは、彼は破滅してしまいますわよ」
「…………貴女が本当にセシアンの婚約者なら、その話は彼にすべきなのでは?」
「ええ、もちろん。彼にもあなたとの接触は避けるよう申し上げます。ですが尚もこの状況が続くようであれば……ワタクシはお父様にご報告せねばなりません。それは彼にとっても、モルガナイト家にとっても破滅を意味します。一時の遊びで、彼を貶めたくはないでしょう?」
「……一時の、遊び────」
……そんなことは分かっている。
彼が囁く愛が本気でないことなんて……分かっていたはず、なのに。
どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう?
「警告、いたしましたからね? ───あぁそれと、本日のことはセシアン様にはご内密に。それでは……ワタクシは失礼いたしますわ」
そう言い残し、シレネは足早に去って行った。
「…………」
私はしばらくこの場に立ち尽し、動けないでいた。
(セシアンには……婚約者がいる────)
この事が本当なら────。
それを考えるだけで、胸が張り裂けそうだった。
この想いの正体は、きっと────。
(私……セシアンのことが────)
婚約者がいてショックを受けたのも、彼に好きだと言われる度に胸が締め付けられたのも────きっと全部、彼を好きになっていたから。
この気持ちに気が付いたところで、もう、何も変わらないのかもしれない。
けれど────。
「セシアン……」
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