【セシアン5ー1】本当の気持ち
セシアンルート 第五章
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交流祭が無事幕を閉じてから────私の生活は一変した。
学園を歩けば、絡みつく大勢の人の視線。
例えばそれは、現在進行形でセシアンの隣を歩いているから、という理由だけではなく───
「ねぇ見て、エーデルシュタイン様と、セシアン様よ! 今日もお美しいですわ……」
「お聞きになられました? エーデルシュタイン様、先日の魔法式の試験で殿下たちを押え学内1位ですって!」
「まぁ、さすがですわ! 交流祭では大活躍されていましたものね!」
「…………」
───などといった、私に対して良い印象を口にする学生たちが増えたのだ。
「あはは、人気者だねぇリルちゃん♪」
「……それはどうも」
相変わらずコソコソと遠巻きに噂されている状況には変わりないのだが。
交流祭が終わってからは、妙な噂を流したり嫌がらせをしてくる学生はめっきり減り、こうしてセシアンの隣を歩いていても、特に何も指摘されなくなった。
それどころか────
「いやぁ〜リルちゃんと歩いてると、なんでか女の子たちに囲まれなくて済むから楽だなぁ〜」
……女性避けにされている始末。
「本当に、何故なのかしら? まぁ、私もその方が気を遣わなくて済むけれど」
「さぁ〜? なんでだろーねぇ……(ま、ホントは───オレらが恋人同士だっていう噂がどっかで流れてるから、みんな気を遣ってオレらの間に割り込めないだけだけど♪) 」
なんでだろう〜と言いつつ、顔を背け何かをボソボソと呟くセシアン。
「ん、何か言った?」
「んーん、なにも〜」
なんだか誤魔化されているような気がするのだけれど……まぁいいか……。
「そう? ……あ、そうだセシアン。この前言ってた猫ちゃん、あれから懐いてくれるようになった?」
「え、猫?」
きょとんとした表情で返され、私も首を傾げる。
「(あー……オレが適当に誤魔化すために作った話か……)」
「えっと、違った? ……犬ちゃんだったかしら?」
「あ〜! う、うん、あの猫ね! えーと、今も変わらず……かな! オレはめちゃくちゃ好きなんだけどね、うん。あはは……」
「そう……?」
「ま、まさか覚えててくれるとは思わなかったわ〜。大した話じゃないからそんな気にしないで!」
「でもあの時のセシアン、すごく辛そうな顔していたわよ……?」
それがずっと気になっていたのだ。
余程、その〝猫〟のことを気に入っているのだろう。
「そう……だった? あはは……(それはキミを想ってたからで───はぁ……そんなに顔に出てたんだオレ……気をつけねーと)」
「?」
「あー……誰かを好きになる、とか。オレには資格がないからさ。この魔眼のこともあるし?」
彼はあっけらかんと笑う。
「…………」
〝オレなんかが好きになっちゃいけない〟。
彼はこの間、そう口にしていた。その言葉が、強く心に残っていた。
「───何かを好きになるのに、資格はいらないんじゃない?」
「え……」
「まぁ確かに貴方の魔眼は厄介だし、それに負い目を感じていての言葉なのかもしれないけれど───貴方が好きを諦める理由にはならないわ。好きって気持ちは貴方の自由だもの」
「……!」
「貴方の好きは、誰も否定できないし、誰にも止められないわ。止めるとしたら、貴方自身でしょう?」
(私もずっと、そうだったから。周りの目を気にして自分の足に枷をつけていたのは、私自身だったのよね……)
「魔眼があろうとなかろうと、貴方は自由に好きを伝えていいし、いっぱい幸せになっていいのよ」
「……っ」
優しく微笑んでみせると、セシアンは驚いた表情から、泣きそうな───けれどこの上なく嬉しそうな表情を浮かべた。
「……あーもう、ホント……キミには敵わないや。……ありがとう、ベリル」
「……ふふ。吹っ切れた?」
「──うん。オレ……やっぱ諦めたくないや。オレのこと───好きになってほしい」
(……っ、)
とろんとした熱を帯びた瞳で見つめられ、何故か少し動揺してしまった。
それを誤魔化すように、私は明るいトーンで言葉を続けた。
「ね、猫は気まぐれだし、仲良くなるには時間がかかるかもしれないけれどね! ……でも少しずつ接していけば────」
「あ、あの! エーデルシュタインさん!」
「っ!」
突然、背後から名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねる。
「──ん?」
セシアンと共に振り返ると、以前実技魔法の講義でペアを組んだ男子学生が立っている。
「……えっと、私? なにかしら?」
(以前の講義で、何か問題でもあったかしら……)
男子学生は緊張しているようで、深呼吸をしてから口を開いた。
「あ、あの! 少し、お話したいことがありまして……その、お茶でもいかがかなぁ……と。こっ、この後、お時間ありませんか!」
(お茶……? そんなに積もる話が……?)
「ええと、少しなら────わっ、むぐっ!?」
大丈夫、と言おうとしたのだが、セシアンに腕を引かれ、後ろから抱きつかれる形で彼の腕に収まる。
ついでに、彼の手が私の口を塞いだ。
「むぐっ、んーー、んんーー!?」
「えっ……あの、」
「えっと、キミは誰? オレといる女の子に声掛けてくるなんて、いい度胸───コホン、驚いたよ〜。すんごい緊張してたみたいだけど、もしかしてオレの姿見えてなかった?」
「あ、いや、俺は彼女に話が───」
「ごめんねぇ、オレら今からデートなんだわ! 悪いけどまたあとでにしてくれる? あーいや、あとでもダメだな───」
セシアンは私の頬にキスし、チュッとリップ音を鳴らす。
「ベリルはオレのだから、ちょっかいかけないでね?」
「!?」
驚いて固まっている男子学生の返事を待たずに、セシアンはニコリと笑ってヒラヒラと手を振った。
「それじゃあね〜。ほら、リルちゃん行くよ〜」
「えっ、あ───ちょっ!?」
セシアンは上機嫌に鼻歌を歌いながら私の手を引く。この場から連れ去る、という表現が適切だろう。
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「ふぅ……ここまでくれば問題ないかな〜」
「えっと……セシアン?」
繋がれた手をじっと見つめると、セシアンはパッと手を離してバツが悪そうに目を逸らした。
「あー……ごめん、リルちゃん。強引に……」
「私は大丈夫だけれど……あの人、私に何か用があったんじゃ? 置いてきてしまったけれど、平気かしら……」
「あーたぶん、っつーか絶対、それは問題ねーよ。だってアイツ、リルちゃん連れ出したかっただけだから」
「連れ出す?」
「ったく……オレがいるの分かってて、声かけるかフツー!? つーかアイツ誰よ!?」
「あの人? 以前講義で一緒になったことがある方よ。……たぶん?」
「く……っ、そんな知り合い未満の奴まで狙ってんのか……」
頭を抱え唸っている彼を見て、首を傾げる。
(よく分からないけれど、本当に用があったならまた声をかけてくるはずだし、大丈夫よね)
それより────。
「ね、早く行きましょう? 日が暮れちゃうわ」
「……ん? 行く? どこに?」
「え? どこかに連れて行ってくれるんじゃないの? さっき、今からデートって……」
「え!!?! いや……言ったけど……いいの……!? だってあれはなんつーか……(リルちゃんをアイツに渡さないための口実っていうか…… )」
「えっと……違った?」
「(うっっっっわ、上目遣い可愛────て違う違う!!)」
セシアンはブンブンと盛大に首を横に振る。
「い、いやいやいやいや!!! 違くない! 違くないです!! ……その、ホントにオレと今からデートしてくれるの? つっても、もう夕方だから夕食食べに行くだけになっちゃうけど……」
「ええ、行きましょう? ふふ、お腹空いたわ」
ふわりと微笑むと、彼はパァーっと表情を明るくしてガッツポーズをした。
「やっっった! 何食べよっか!」
「そうね〜……」
セシアンから差し出された手の上に、自然と自分の手を重ね、彼の隣を歩く。
彼の大きな手に包まれ、心まで温かくなった。




