【レド5ー7】眷属
───────────────────
全てを話し終えたレドは、私の前で膝をつき、私の目から溢れてくる涙を優しく拭った。
「私のために、泣いてくださるのですね。……ふふ、貴女は本当に優しい人だ」
「……っ」
私は思わず彼を抱きしめた。
私の震える身体を、彼はそっと包み込み、私が泣き止むまで黙って背を撫でてくれていた。
私が落ち着いたのを確認したレドは、マグに温かい飲み物を入れ直してくれた。
「……ありがとう。……そしてごめんなさい、辛い話をさせてしまって」
「いいえ。こちらこそ、聞いてくださってありがとうございます」
「レドは……その……まだ奴隷紋で縛られているのよね?」
(だから、私に殺してほしいと……)
「ええ。私に直接奴隷紋をかけた術者は既に始末してあるので命令の重ねがけはされずに済んでいるのですが、ご丁寧に紋を消せない呪いまでかけていたらしく……私は一生、自死できない身体となっているのです」
「つまり、今でも血が欲しくなる……ということ?」
「そうですね。今までこなしてきた分の報酬を少しずつストックしてきたので今は大丈夫なのですが……いずれストックが切れたら、血を欲してギルドの言いなりとなるでしょう……。私の場合、生まれが極東なので血の入手がなかなか難しいのですよね。極東産の魔獣なんかを眷属にできれば一番手っ取り早いのですが───」
「眷属?」
「ええ、直接牙で噛んで吸血すると、その者を自分の眷属にすることができるのです。大抵の吸血鬼は眷属を作り血を補うそうです」
「へぇ……じゃあレドは、眷属を作る前に極東を離れてしまったから、血の供給源がギルドしかないということなのね」
「ええ。私がヘリオドールの人間であればこの国で餌に困ることもなかったのですが」
「同郷の血……それって、純粋な血でなければいけないの? 例えば……極東人とヘリオドール人の血だと効果が薄い、とか?」
「いえ、混血でも大丈夫です。少しでも極東の遺伝子が入っている血であれば、魔力は回復しますよ」
「そう、よかった! それなら、私が貴方の眷属になるわ!」
「…………はい?」
良いことを思いついたと両手を合わせた私に対して、レドは意味が分からなかったようでぱちくりとまばたきをした。
「前に話した気がするのだけれど……私の祖先には極東人がいるの! だから私でも貴方の眷属になれるということでしょう? そうなればずっと血に困らなくて済むじゃない? ギルドから報酬として血を貰わなくて済むなら、貴方は完全に自由になれるということでしょう!? もう……! 眷属のこと、もっと早く教えてほしかったわ!」
私のこの赤い双眸は、極東人由来でもある。我が家の家系図にも祖先に極東人がいたことを証明しているため、間違いないだろう。
「え……っ、いや、気持ちは嬉しいですが───って! 服を脱ごうとしないでください!!」
「え? 噛むのは首元ではないの?」
服のボタンを外したことで顕になった首元。
それを見たレドはゴクリと喉を鳴らしたけれど、すぐに頭を振った。
「に、人間は……ええと、そう! 眷属にはなれないのです!」
「え……そうなの?」
「え、ええ。なのでお気持ちだけ受け取っておきますね」
「……そう」
(せっかくレドの役に立てると思ったのに……)
シュンと肩を落としながら服を整える。
その様子に、レドは何故か安堵したようだった。
「じゃあ、もし血が必要になったら言って。眷属でなくても、吸血はできるのでしょう?」
「え……あー……そう、ですね。直接噛まなければ問題ないです」
(直接噛まなければ……? 噛むことに問題でもあるのかしら?)
少し言葉に違和感があったけれど、今は血の問題が解決したことを喜ぶことにしよう。
「もうすぐ暗くなってしまいますね。何か作りますので、お待ちいただけますか? 軽食になってしまうので申し訳ないのですが……」
「全然大丈夫よ。レドはまだ血を飲まなくて平気なの?」
「ええ、私は先日ベリルさんの血を舐めさせていただいたので、もうしばらくは持ちますよ」
「……!」
(そ、そうだったわ……)
あの時のことを思い出してしまい急に顔が火照ってしまう。
(今度血を飲む時は腕からにしてもらおう……)
夕食を済ませ、レドと話しながら暖炉の前で温まっていると、居心地が良くてふわぁ……と欠伸が出てしまう。
「明日は早めにここを出たいので、もうそろそろ寝ましょうか」
「ええ、分かったわ」
ブランケットを深く被り、椅子の背もたれに寄りかかる。
大きめの椅子なので、座った体勢でも一夜くらいであれば過ごせるだろう。
眠る体勢についた私を見て、レドは小さく笑みをこぼした。
「ふ……貴女をこんな所で寝かせるわけがないでしょう?」
そして、私の身体を横抱きに持ち上げる。
「ちょっ、レド!?」
レドは私をベッドまで運ぶと、その上にそっと下ろした。
「ベッドはベリルさんがお使いください」
「で、でも……貴方はどこで寝るの?」
「私は職業柄、どこでも眠ることができますので」
「そんな……それじゃあ貴方に悪いわ!」
「お気になさらないでください」
私をベッドに寝かせると、レドは私に毛布をかけようとする。
私はその手をギュッと掴んだ。
「な、なら! 一緒に寝ましょう!?」
「いっ……!? 一緒にって……。さすがにそれは…………」
「少し狭くなってしまうけれど、詰めれば二人入れると思うの! ……その、駄目……かしら?」
「……………………はぁ。その上目遣いはどこで教わってきたのですか」
「セ、セシアンが……こうお願いすれば、大抵許してくれると言って…………」
「あの男は……まったく…………」
レドは呆れたように言うと、小さく溜息をつきベッドの端に座った。
「その作戦の効果は保証しますが、私以外にはやらないと約束してくださいますか? 約束してくださるのなら……今日はこちらの端を使わせていただきます」
「ええ、分かったわ! 約束するっ!」
「…………」
ベッドの端に詰めると、レドが空いたスペースに身体を入れる。
彼は私に背中を向けた形で横になった。
「……では、おやすみなさい」
「ふふ、おやすみ、レド」
私も横になって、彼の背中を見つめる。
(……よかった)
レドは今、私の隣にいる。
彼がいなくなった時は、あんなに不安だったのに。
彼がそばにいてくれるだけで、私の心は簡単に満たされていく。
(レドの眷属に……なりたかったな……)
そうすれば、この先も私はずっと、彼の隣にいることができるのに─────。
そんな叶わぬ願いを思い浮かべながら、瞼を閉じた。




