【レド5ー6】レドの過去
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森を進んだ先の、山奥にある小さな一軒家。
念の為、と追っ手を撹乱させながら森を歩いたため、隠れ家に到着した頃には日が傾いていた。
家の中は簡易なベッドと机、椅子などの最低限の物しか置かれていないため、全く生活感がなかった。
本当に一時的な拠点として、臨時で使用されているのだろう。
「すみません、もう少し先にある隠れ家であればここより多少広いのですが……」
「全然大丈夫よ。気遣ってくれてありがとう」
「いえ。今日はここで休んで、明日安全を確認でき次第学園近辺までお送りいたしますので」
そう言いながら、レドは椅子を引くと私に座るよう促してくれた。
大人しく座って待っていると、彼は部屋の奥から温かい飲み物とブランケットを持ってきてくれた。
私が寒さを感じないよう、暖炉の用意までしてくれる。
至れり尽くせりで申し訳ない。
レドにお礼を言うと、彼はニコリと笑顔を返した。
「隠れ家って、いくつも持っているものなの?」
「ええ、そうですね。人にもよりますが、私の場合は郊外での任務も多かったので」
「任務って……従者としての? それとも……暗殺の?」
「……」
レドは私の隣の椅子に腰掛けると、手に持ったマグをぼんやりと見つめた。
「……暗殺の、ですね。私はもう何人も……何十人もの人間を、この手で殺めているのです」
「…………聞いてもいい? 貴方のこと───貴方がこれまで何をしてきたのか。どうして……暗殺者になったのか」
踏み込んだことを聞いてしまっている自覚はある。
彼にとっては知られたくない、無神経な質問だったとも思う。
けれど私は、それを理解した上で尚も聞いておかなくてはならないような気がした。
彼の過去を───。
「……そうですね。少し長くなるかもしれませんが……それでもよければ───」
レドは静かに口を開くと、思い出を探るようにぽつぽつと語り始めた───。
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《Sideレド》
何故、私が暗殺者の道を歩むことになったのか───。
それを知るには、私の出生以前まで遡る必要があります。
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俺の母、クロユリは───数多いる、魔王の娘の一人だった。
クロユリの母……俺の祖母にあたる人物だが、彼女は吸血鬼という種族の長で、吸血鬼としてとても強い力を有していた。
その能力を受け継いだ母クロユリは、魔王軍の戦術兵器として育てられてきた。
しかし、クロユリは兵器となるには優しすぎた。なぜなら彼女は、魔族でありながら人間を愛していたから。
どうしても人間を殺すことができなかったクロユリは、己の眷属を連れ魔族領を脱国し、ついに極東の地へと辿り着いたのだ。
極東人は皆義や情に厚く、魔族であるクロユリを受け入れ、極東に彼女の居場所を与えた。
そこで、クロユリは最愛の夫───俺の父と巡り会い、そして俺が産まれた。
俺たちは極東の地で、ずっと平和に暮らせると思っていた。
しかし、その幸せは突如砕かれることとなる。
それは、俺がまだ五歳の時だった───。
偶然極東まで来ていた行商人から、クロユリの居場所が魔族領の領主に漏れ、俺たち家族はあっさりと捕えられた。
人間だった父は俺と母の前で呆気なく殺され、怒りに狂った母は、父を殺した領主と刺し違えて死に───俺は、独りになった。
俺もその時共に死のうとしたが、そうする前に……奴隷紋によって自死を禁じられた。
奴隷紋には強制力がある。奴隷紋を刻まれては、主となった者の命令に逆らえなくなってしまうため、俺は自ら命を絶つことも許されなくなった。
孤児となった俺は、吸血鬼としての固有能力を買われ、魔族領の暗殺者ギルドへと売られた。
吸血鬼にはそれぞれ自分にしかない能力が存在する。
そのほとんどが遺伝的なもので、俺は母クロユリから『相手の魔力量を測る能力』と『血を摂取した者の居場所を特定する能力』を受け継いでいた。
幼少期から暗殺者として鍛えられ、厳しい鍛錬と非道で無惨な仕事を強いられた。
初めて人を殺したのは、6歳だった───。
何度逃げ出そうと試みたか分からない。
けれど、その度、己に刻まれた奴隷紋が血を欲した。
吸血鬼は同郷の者の血で腹と魔力を満たすのだ。
腹が満たされなければいずれ餓死するし、魔力が空になれば半魔であろうと生命力は保てない。
それが分かっているから、自死を禁じられている俺は、報酬のために暗殺任務をこなしていった。
───そして、ニ年の訓練を経て暗殺者として一人前になった私は、来たる暗殺任務のため……王家の人間に近づき、今に至るのです────。




