初めての依頼
しばらくして理事長のゲルドも合流し、1階の長テーブルで依頼の説明が行われた。
「皆、集まってくれてありがとう。活動拠点は気に入ってもらえたかな? 少し狭すぎるかと思ったんだが」
「いいえ、充分ですよ。素敵な部屋を用意してくださりありがとうございます、理事長」
ルデンの言葉にいち早く反応したのはセシアンだった。
「うんうん! 秘密基地みたいでテンション上がるわ〜」
「子供か、貴様は」
「はは、気に入ってくれてよかったよ。これからはここを好きに使ってくれたまえ。ではさっそく本題に移ろう。記念すべき第1回目の依頼だが、君たち、ここから南にある魔獣の森の中に、古い屋敷があるのは知っているかな?」
「はい、確か……名のある魔術師の旧魔術邸、でしたよね。名のある魔術師と言っても、50年以上前のですが……」
ルデンの言葉にゲルドは「そうだ」と頷いた。
「屋敷の持ち主は当時魔術家系として栄えていたカルミア家と言う。もちろん、屋敷を建てた御仁はすでに亡くなっているがね。彼が亡くなったあと娘が屋敷を継ぎ、さらにその息子……屋敷を建てた御仁の孫にあたる男に屋敷の所有権が渡ったそうなのだが、その男は魔法どころか、魔術もからっきしだったらしくてな」
「…………」
「……?」
ふと、ラルドの表情が一瞬曇った気がした。
その表情が妙に気になり視線だけ向けていると、その視線に気づいた彼と目が合ってしまい、お互い何事もなかったかのように視線を逸らす。
ゲルドがさらに話を続けた。
「屋敷を引き継いだものの、魔術邸として建てられたそれを活用することもできず、立地も魔獣の森ということもあって、結局50年以上放置。魔術邸ということもあり下手に取り壊せず、挙句今になって、所有権を放棄すると言い出した」
「あぁ、今年度から魔獣の森は正式にヘリオドール王国の領土となりましたからね。固定資産税を請求される前に手放そうというわけですか」
レドが言うと、続けてセシアンが───
「理事長のその言い方だと、少なくとも50年、その屋敷には人の出入りがなかったわけっしょ? 中は相当荒れてるだろうね〜……。所有権放棄するにしても、片付けとか誰がやんの」
───そう口にした。
「「…………」」
セシアンの何気ない言葉。
それを聞いて、彼以外が全てを察した。
「え、なに、みんなして同じ顔してっけど」
「はは、セシアンはとても冴えているね」
ゲルドがニコッと明るく笑う。
その笑顔からセシアン以外の全員が目を逸らした。
「え、どゆこと?」
「……貴様が今言っただろう、〝誰が片付けるのか〟と」
ラルドの言葉でようやく気がついた……いえ、気がついてしまったようで。
「………………………………え、まさか」
ゲルドはパンっと手を叩いた。
「では全員が察したところで改めて。君たちには魔獣の森に建てられた屋敷の調査、及び屋敷内の片付けを頼みたい。それがギルドからの依頼第1号だ」
理事長はニコッと爽やかな笑顔で告げた。
間髪入れずに、セシアンが声を上げる。
「はぁぁぁぁーー!? え、なんで!? いくらその息子が魔法使えなくても、片付けくらいできんだろ!?」
「それがそうもいかなくてねー。屋敷の中にはどんな貴重な魔術道具があるか分からない。それを魔法の知識がない一般人に、その価値を分からないまま処分させるわけにはいかないんだ。昔の魔術道具は今後の研究材料にもなる歴史遺産だからね。その点、君たちになら安心して任せられるよ」
「確かに。学生とはいえ、そこら辺の冒険者よりは魔法に関する知識を持っていますしね」
「それに、僕たちであれば道中の護衛もいらない。ギルド側としては人員も削減できて、雑用的依頼も処理できる。まさにこの依頼は僕たちが適任、ということですね」
ラルド、ルデンの様子に、セシアンは「げっ」と眉をひそめた。
「え、なに? みんな前向きにやる流れ??」
そういうこと!とゲルドは大きく頷いた。
「件の息子が屋敷を引き継いだ当時に所有権を放棄していてくれたら、まだ屋敷が綺麗な状態で調査できたのだがね……」
「あンの馬鹿息子ーーッ!!!」
「文句言っても仕方がないだろう」
セシアンの悲痛な叫びにラルドはやれやれといった感じでため息をついた。
「そう、これはもう正式にうちで引き受けた依頼だ。君たちには申し訳ないが、よろしく頼むよ。依頼の詳細と屋敷についてはこの資料にまとめてあるから、皆で目を通しておくように。さっそく明日から頼んだよ」
それじゃ、と有無を言わさず、言いたいことだけ言って早々に去っていった理事長を、私たちはただただ呆然と見送った。
「いや、ほんとに帰ったよあの人」
「まぁ理事長もお忙しい方だから」
ルデンが苦笑すると、セシアンは力なくしゃがみ込んだ。
「はぁ……まじでやんのかー。オレ作業着とか持ってねーよ」
「そうですね……今から用意しても間に合いませんし、多少の汚れは覚悟して行った方が良いでしょうね」
「多少で済めばいいがな」
「とりあえず、理事長から渡された資料にはそれぞれ目を通しておこう」
ルデンは資料を手に取ると、1人分しかなかった資料をあっという間に人数分に複製した。
(上級魔法をこんな簡単に……)
しかも、それに対して他のメンバーが驚くこともない。
出来て当然と言わんばかりに。
これが彼らの〝普通〟なんだろうか。
ルデンから資料を受け取り、全員で目を通す。
「屋敷の場所は……結構森深くまで入るね」
「ですね。道中倒せないほどの魔物が出たという報告はなさそうですが、安全を考慮し早めの出立が良いかもしれませんね」
レドの意見にルデンも頷く。
「そうだね。明日の集合は早朝8時、場所はこの時計塔前でいいかな?」
「異論なーし」
「問題ありません」
その提案にセシアン、ラルドも頷いた。
「ベリルとシェナも平気かい?」
「ええ」
私が頷くと同時に、時計塔の鐘が講義終了の鐘を鳴らす。
つられて窓の外を見ると、すでに辺りは夕陽で照らされていた。
もう夕方か〜なんて呑気に考えていると、突然シェナが慌てたように立ち上がり、そのまま荷物を持って部屋の入口へと向かおうとする。
「え、ちょ、どこ行くの?」
慌ててセシアンがシェナを引き止めると、彼は面倒くさそうに舌打ちした。
「……あ? 帰るんだよ」
「え、もう? まだ夕方だし、寮の門限までまだ結構時間あるけど……」
セシアンがそう言っている間にも、シェナは扉に手をかけ出て行こうとしている。
そんな彼の態度を見て、ラルドは流石に我慢ならないといったふうにガタッと音を立てて立ち上がった。
「おい、まだ話は終わってないだろう。せめて一声かけるとか───」
彼の言葉を遮るように、シェナは大きく、分かりやすくため息をついた。
「────勘違いするな。あんたらと行動するのはあくまで〝報酬〟のため。人間と馴れ合うつもりはねぇ。必要な情報は聞いた。他に話すことなんて無いだろ」
「なっ────」
「安心しろ、依頼には参加する。けど、それだけの関係だ」
そう言い残し、とうとうシェナは部屋を出て行った。
「なんなんだあいつ……」
「そういえば、前回の顔合わせの後も慌てたように帰っていきましたね」
(あぁ、そういえば、前回もこんな時間帯だったっけ)
「灰かぶり姫かな?」
「どうあれ、この後予定があったのかもしれないし、無理強いはできないよ。とりあえず集合時間と場所は伝えられたし、大丈夫じゃないかな。親睦を深めるためにも、もう少し皆で話したかったけれどね」
ルデンは眉を下げ、残念そうに微笑んだ。
その後、残ったメンバーで明日の予定を軽く確認し合い、今日はお開きになった。




