【レド5ー1】レドとルデン
レドルート 第五章
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交流祭が無事幕を閉じてから────学園での授業やギルドの依頼も徐々に通常通りに戻りつつあり、また忙しい日々が始まった。
いつもの日常────けれど、数日前に聞いてしまったレドと怪しい男のやり取りが、脳裏に焼き付いて離れないでいる。
今日も皆で時計塔に集まっているのだが、特に皆でやる仕事はないので各々別のことをしている状況だ。
チラリと横目でレドを見ても、彼は今日もいつもと何ら変わりない。
仲間たちに囲まれ、ルデンとも普段通り談笑している。
「…………」
(───いっそ、あの夜の出来事が全て夢だったと思えたなら……)
けれど、あの夜……ローブの男から向けられた殺意が、それを許してくれない。
あの時の殺意は、本物だった───。
人から殺意を感じたことがなかった私でも、一瞬だけ向けられたあれが、殺意というものなのだろうと理解させられた。
つまり、あの日見た冷酷無比なレドの表情も、本物だということで────。
(彼を疑いたくはない……けれど……)
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「上からの命令が下った。───第二王子を始末しろ。一週間以内に任務を遂行しろ。殺し方はお前に任せるそうだ、クロユリ」
「……了解」
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ふと気を抜くと、あの夜の映像が頭の中でフラッシュバックする。
ローブの男はレドをクロユリと呼称していた。
あの夜私が後をつけた彼は、本当に、彼と瓜二つの別人だったのではないか───そんな期待さえ覚えてしまう。
(…………)
いくら一人で考えても、レドに直接確かめでもしない限り、答えが出ようはずもない。
「んーっ、少し疲れたな。少し外の空気でも吸ってこようかな」
論文をまとめていたルデンが、伸びをしながら席を立つ。
「お供します、ルデン様」
(……っ!)
「わっ私も行く! っ……行きたい……のだけれど、いいかしら……?」
「ベリルも? もちろん構わないよ。ふふ、そんなに外の空気を吸いに行きたかったの? 早く言ってくれれば付き合ったのに」
「え、ええ、そうなの……! ありがとう……」
ちょうど都合よく捉えてくれたルデンに感謝しながら、ホッと息をつく。
その矢先───
「ははっ、最近のベリル、やたらルデンに懐いてんな」
「え……そ、そう?」
シェナの言葉にギクリと肩を揺らした。
「うわーーん! ルデンばっかりズルいよーう!」
「確かに、ここ最近は時計塔以外でもよく一緒にいる場面を見かけるようになったが……まぁ、単にうるさい外野がいなくなって、その機会も増えたのだろう」
「そ、そうなの! 前は時計塔以外で一緒になると騒がれてしまっていたから……。こ、交流祭以降その心配が無くなって楽になったわ」
ラルドの意見に乗っかって、あはは……と笑顔で誤魔化す。
(本当は……レドとルデンを二人きりにしたくないだけなんだけど……)
ローブの男がレドに指定した期間は一週間。
レドのことは信じているけれど、妙な胸騒ぎがして、ここ数日はレドとルデンをできるだけ二人きりにしないようにしている。
若干怪しく思われるほどに……。
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時計塔を出た私たちは、少し、その辺を散歩がてら歩くことにした。
「随分空気が冷たくなってきたね。ベリル、寒くない?」
「…………」
「ベリル?」
「……え、あ、ごめんなさい。何か言った?」
聞き返すと、ルデンは眉を下げ心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「……ベリル、最近何かあった? 元気がないようだけど……。もしかして、まだ嫌がらせが続いていたりする…?」
「あ、ううん! それはもう大丈夫よ! ごめんなさい、気を遣わせて。……ふふ、色んなことが急激変わったせいで、少し疲れているのかも」
「そっか、それならいいんだけど。……そういえば最近、レドも少し注意力が散漫になっていないかい? 何かあった?」
「私、ですか? いえ、特には……。申し訳ありません、ルデン様。気を付けます」
「いや責めてるわけではないからね? はぁ……君のそういう顔は、何かある時なんだけどなぁ」
「え……そうなの? いつもと変わらないように見えるわ」
「ふふ、レドは顔に出づらいからね。長い付き合いになれば、段々分かってくるよ」
「そういえば……今までに聞いたことがなかったけれど、二人はどのくらいの付き合いなの?」
「確か……初めてレドと会ったのは僕が6歳の頃だったから───付き合いはもう10年以上になるね」
「そんなに小さい頃から二人は一緒にいるの?」
「うん。王家主催の夜会で出会ったのがきっかけだね。レドは覚えているかい?」
「……もちろんです。ルデン様は、私が魔族との混血だと知って尚、お慈悲をかけてくださいました。そして、私を従者に選んでくださった。忘れるわけがありません」
「慈悲をかけたつもりはないって、もう10年以上言い続けているんだけどな。それに、従者にするならレドがいいって僕の方が我儘を言ってしまって、それを君が渋々了承してくれたって感じだったような?」
「ふふ、そうでしたか?」
「そうだったよ。だから、感謝するのは僕の方さ。ベリルたちと出会うまでは、心置き無く話せる友人は、レドしかいなかったから。レドがいなかったら、僕の性格は歪んでいたかも」
「ルデン様……勿体なきお言葉です」
「歪んだ性格のルデン……? ふふ、全然想像がつかないわ。少しだけ見てみたいかも。幼少期のレドはどんな感じだったの?」
「そうだなぁ……」と呟きながら、ルデンは顎に手を当てた。
「当時から凄く大人びてたかなぁ。僕と二つしか違わないのに、年の離れた兄と話をしている気分になるんだ」
(あ、それなら想像できるかも……)
「ふふ、当時から仲が良かったのね」
(なのに……)
と───あの夜の出来事のせいで、どうしても、そう思ってしまう。
何故、レドはあんな命令を受けて───。
「…………っくしゅん」
強い風が吹き抜け、肌寒さを感じた。
(……本当に、急激に冷えてきたわね)
みんなでシーラに訪れた時は、まだまだ暖かかったのに。
ダイヤ生になってからというもの、刺激的な日々がこうして目まぐるしく過ぎていく。
例年よりも、季節の移ろいが早い気がしてしまう。
「ベリルさん、私の上着でよろしければ、お貸しいたしますよ」
そう言って、私に優しく微笑みながら自身の上着を貸してくれるレド。
彼の穏やかな表情を見て、胸が締め付けられた。
(私……なんで彼のことを疑ってしまうんだろう。本人に確認したわけではないのだから、あの夜の彼がそっくりな別人、という可能性だってなくはないのに……)
そう信じたい反面、その可能性は限りなくゼロに近いということも理解している。
(あの夜の貴方は、一体なんだったの……? 今の貴方の笑顔は、信じていいの……? ──── 一体、どちらの貴方が本物なの?)
彼の優しい笑顔を───。
彼と過ごした日々を───。
私はずっと───信じていたかった。




