【ルデン5ー6】互いの想い
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《Sideベリル》
夕食を持ってルデンのテントへ行くが、彼の姿は見当たらなかった。
どうやら入れ違いになってしまったようだ。
(ここでまた私が外に出てすれ違っても嫌だし……このままここで待たせてもらおうかしら)
テントには簡易的なベッドしか置かれていないため、待っている間はその端に座らせてもらう。
先程ストレリチア殿下とお酒を酌み交わしたからか、ゆらゆらと揺れるロウソクの炎を見つめていたら、少し眠くなってきた。
(ルデン、もう少ししたら戻ってくるかもしれないし……ここで、眠るわけには───)
でも、少しだけ───。
上半身だけベッドに横になると、すぐに意識は深く落ちていった。
───。
─────。
「……ベリル、起きて? そんなに無防備に寝ていたら……キス、しちゃうよ?」
「…………ん……ル、デン……?」
名前を呼ばれた気がして、重い瞼を開ける。
視界には、ベッドの横で傅くルデンの姿が映った。
私は身体を起こし、眠気を覚まそうと目を擦った。
「ごめん、なさい……私寝てしまって……。今、何か言った?」
「……ううん、なんでもないよ。でも、男の部屋で無防備に寝るのは感心しないかな。僕もちゃんと、男なんだよ? 分かっている?」
「……ごめんなさい」
ルデンの言葉の意味を理解して、思わず彼から目を逸らす。
ルデンは眉を下げ微笑むと、私の頭をふわりと撫でた。
私の隣に腰を下ろしたルデンは、突然真面目な表情で私を見つめた。
「……ベリル。聞いてほしいことがあるんだ。今回の遺跡の調査の理由にも関わってくることなのだけど」
「……? ……ええ」
(ルデンが言いづらそうにしていたから何も聞かずに着いて来たけれど……遺跡についての情報や、その調査目的については全く何も知らないのよね……)
「…………今回調査に行く遺跡には、巨大な宝石が眠っているという伝説があるんだ。人工精霊のエネルギーになる、巨大石が」
「人工精霊……?」
聞き慣れない単語が出てきて首を傾げる。
「錬金術で人工的に造り出した精霊。人工精霊の持つ模造石も、人間に加護を与えることができる。つまり───魔法が使えない人間でも、人工精霊の加護があれば、魔力を扱うことができるんだ」
「そ、そんなことが……。つまり将来的には、誰もが魔法を使うことができる……ということよね?」
「そうだね。まだ実践運用は見込めない、実験段階だけれど。……でね、その運用実験の最初の被検体が────僕、なんだ」
「え…………?」
(それって、ルデンは────)
「……僕は、もともと魔力を持たないただの一般人。僕は、今も、人工精霊の力を借りて魔法を使用しているんだ。───模造石・キャッツアイ。それが僕の宝石の加護の名だ」
───キャツアイ。
以前シーラにて、ルデンが贈ってくれた首飾りの装飾にされていた石だ。
(だから……あの時のルデン、キャッツアイに思い入れがあるように語っていたのね……)
「…………幻滅、したかい?」
そう言いながら、彼は苦しそうに微笑んだ。
「え?」
「……僕は、自分の実力ではないのに、学園でダイヤモンドという組織に選ばれている。優秀な学生だと、誤った評価をされて───。僕の力は偽物なのに、あたかも実力があるように振舞って───。……僕は、君たちと肩を並べる資格はないのに───」
「…………」
私はルデンの額をピンッと指で軽く弾く。
突然のことで、ルデンは驚いたように弾かれた額を手で触れて、目を見開いた。
「そんなことを、ずっと気にしていたの?」
「……え」
「貴方にとっては重大なことなのかもしれないけれど、私たちからしたら、〝そんなこと〟でしかないわ。貴方と私たちとが肩を並べることに、資格なんていらないもの。それとも、王子と友人になるには、何か資格が必要だった?」
「……ううん、何も───」
私は彼の手を、自身の両手で包み込んだ。
「ふふ、それと一緒でしょう? 友人や仲間になるのに、資格なんて必要ないじゃない! それにね? ダイヤ生に選ばれたのは、紛れも無く貴方自身の実力よ。例え身体に魔力が宿っていても、それをどう使うか……どう活かしていくかって、その人次第だと思うの。精霊は魔法を使う最初のきっかけをくれただけ。その後のことは、全部当人の努力次第! ゲルド理事長が貴方をメンバーに加えたのは、貴方の努力と実力が、本物だと見抜いているからだと思うわよ」
「…………!」
「だから誰も、貴方のことを幻滅したりなんかしない。そんなヤツら、私が黙らせてやるんだから」
私は片手に光魔法を集めて炎の形を作って見せた。
ルデンの敵はこれでやっつける、と言わんばかりに。
「…………っ」
「? …………わっ!」
───突然、ルデンに引き寄せられ強く抱きしめられる。
ギュッと力を込められているのに、私を包む彼の腕はとても優しくて。
恥ずかしい気持ちもあるけれど、でも、離れたくなくて、離してほしくなくて───。
(……私、やっぱりルデンのこと、好きなんだなぁ)
心がポカポカと幸せな気持ちになった。
「……話を聞いてくれてありがとう。僕を…………受け入れてくれてありがとう」
私は彼の背中をさすりながら、笑みをこぼした。
「ふふ、どういたしまして。こちらこそ、秘密を打ち明けてくれてありがとう」
しばらく抱きしめ合っていたため、お互いの体温が混ざり合う。
「……ルデン、いい匂いがする」
(男の人なのに……首のところ、いい匂い……)
「〜〜〜〜っ!」
バッと勢いよく身体を解放される。
「ご、ごめんね、急に抱きしめたりして……!」
「ふふ、ルデンなら、いつでも大歓迎よ」
「その……僕から抱きしめておいて言うのもなんだけど、これ以上は僕の理性が持ちそうにないや……」
ルデンは片手で顔を押さえ、私から顔を背けた。
「ふふ、ルデンってば、私のことが好きなの?」
───なんて。
冗談を言ったつもりだった。けれど────。
「…………うん。僕は、ベリルが好きだよ」
私の手の上に、ルデンは自分の手を重ねた。
「……友人としても、仲間としても大好きだけれど────。一人の女性として、僕は君に好意を持っている」
「……っ!?」
熱で潤んだ瞳で、彼は私を見つめた。
その瞳だけで、のぼせてしまいそうになった。
「ベリルは、僕をどう思っている?」
「……! わたし、は………」
ルデンに距離を詰められ、ベッドがギジリと軋む。
重なった手の指が交互に絡まる。
それはまるで彼が私に、逃がさない、と言っているようだった。
「……私も、ルデンが好きよ…………だけど、私はただの貴族で───貴方は王国の王子……なのよ? 私では、貴方に釣り合わないわ……」
「……ふふ、さっき君は、王子と友人になるのに資格はいらない、って言ってくれたのに?」
「あ、あれは……友人で! ……もちろん本心で言った言葉だけれど───」
「じゃあ……もし僕が他国の姫と結ばれたりしても、いいの? 君は嫌だって思ってくれない?」
「……っそれは………嫌……嫌に決まってるじゃない……! 私だって……貴方の隣にずっといたいわ……!」
私の言葉を聞いたルデンは、私の頬に触れ、そっと唇を重ねた。
「僕も、ずっと、君のそばにいたい。君が他の男の元へ行くなんて……想像もしたくない」
「ル……デン…………」
「ベリル───僕の婚約者になってくれませんか?」
「……!」
「僕の妃になってくれるかどうかは、まだ決めなくていいよ。君が王家に入りたくないと言うのなら、僕は地位も身分も……全部捨てる。君がいれば、僕は他に何もいらない」
ルデンの真剣な表情と言葉が、彼の覚悟を表していた。
覚悟がなければ、ルデンはこんな発言はしない────。
(ルデンは、本気で私のことを愛してくれているんだ───)
「…………私も、貴方のことを愛してもいいの?」
「うん……僕のことを愛して欲しい」
「………ありがとう、ルデン」
私はルデンの手に優しく触れた───。
「私を───貴方の婚約者にしてください」
ルデンは泣きそうなくらい嬉しそうな表情を浮かべ、私の手を握り返した。
「……ベリル! うん……! うん……っ! ありがとう!」
ふわりと抱きしめられ、彼に身を委ねる。
「これからもよろしくね、ベリル!」
「こちらこそよろしくお願いします、ルデン」
ルデンは私に、触れるだけのキスをする。
彼と結ばれるなんて……本当に夢のようで。
夢ではないかと不安になった私は、何度も彼の温もりを確かめた。
私たちは互いの温もりに包まれながら、幸せを感じ続けたのだった────。
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