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かつての家の掃除が終わってなお日が高かったため実家に寄り、注文通りに掃除をしてとあるハプニングに巻き込まれてから帰路に着いた。
「いやぁ、アレはすごい反応だったね!」
「性別が変わっても苦手なものは苦手だからしょうがないよ」
「もう止めてよ、思い出したくもないんだから」
母が笑っている理由は各部屋の掃除を魔法で終え、最後にキッチンの掃除をした時の出来事だった。
床、壁、天井に張り付いているもの(地震対策用の吸着シートを除く)を全て無くした際に黒き卵を一緒に消し、それにびっくりしたらしき黒き楕円が桃香に急襲。
元々苦手だったが、身長が縮んだことで記憶よりも大きく見えたそれに鳥肌を爆発させた桃香により、ソレはこの世から塵も無く消滅させられた。
その時の桃香の必死さを思い出す母は笑いが止まらないのだ。
「でもアレは本当にビックリしたね」
「桃香の反応もそうだけど、まさか跡形も無く消えるとはね」
「あの時の桃香は、うん。声にならない悲鳴と共に鬼気迫ってたわね!」
「やめやめ!母さんは夕飯のメニューでも考えてて!」
「はいはい」
「あと30分くらいかかるけど、どこかに寄るか?」
「だいじょうぶ」
「了解」
母の口を無理矢理閉じさせ、嫌な記憶を消去するために同じく夕飯のメニューを考え始める。
(そろそろメニューのループとか考えた方が良いのかなー。いやでも、まだ和しか手付けてないから、流石に文句言われるかなぁ?でも洋中って、難しそうなイメージが強いんだよな。あ、でもハンバーグは洋か───)
「っ!?」
突然の知っている感覚。それはヤマトが変身した時のものだった。
「『変身』!!」
「うえっ!?」
「な、なにっ!?」
「急用出来たからまたね!『透明』『転移』!」
両親が突然の変身に理解できず見ているのも放って、自らの体を透明化、そして車外に転移した。
「『飛べ』!」
そのまま飛行を始めた桃香は、ヤマトの元へと急ぐ。
「お、おーい、桃香?いないのか?」
「・・・透明になって、外にテレポートしたってことかしら?」
「まあ、透明、転移って言ってたから・・・たぶん?」
「・・・はぁ、うちの末っ子は本当に魔法使いになったのねぇ。麗華ちゃんに後で写真持ってないか聞いてみましょ」
「母さんは相変わらず適応力が高いね・・・」
放置された両親はなんだかんだで理解、納得し、道を変えて自宅に帰るのであった。
ヤマトの変身を感知してからおよそ30秒ほどで現場にたどり着いた桃香が見たのは、前回と同じ結界と、その中で不利な状況に陥っていたヤマトだった。
「ヤマト君!今回の相手は、犬!?いや、狼か!」
成体の土佐犬と同等の大きさな狼が口を開けると、そこから衝撃波が飛び出した。
「GUAAA!!!」
「ぐぅ!!」
その前方に発せられた衝撃波から逃れることが出来ず、ヤマトは聴覚と脳にダメージを喰らう。
「ヤマト君、危ない!!」
「ぶァっ!」
ヤマトが耳を抑えて蹲った隙を見逃さずに狼は下からヤマトを突き上げて、ヤマトは無防備な姿を曝す。
その瞬間、桃香を弾き返すだけだった隔離結界の表面が溶け、桃香が中に入れるようになった。
そしてその変化を逃す桃香ではなく、全力で地を駆け、左手に刀、右手に腰元の払い棒を持ってそれをヤマトへと投げた。
「『結界』!そして、離れなさい!!」
起き上がれないヤマトに近づこうとしていた狼は乱入者を警戒して大きく距離を取り、唸る。
狼とヤマトの間に立った桃香は結界の後ろのヤマトを見て大きな怪我はしていないと安堵し、狼と対峙する。
(初めての実戦。でもシミュレーションは何回もしている。お前が戦わなければヤマト君は死ぬ。何のために練習した、気を張れトウカ!!)
「はぁっ!!」
覚悟を決めたトウカは刀を下段に構えて狼に突進する。
狼はその速さに少し面食らい、再び後ろに飛びながら、口から轟音を発した。
「GUAA!!」
「『土壁』!」
咄嗟に生成した土の壁で衝撃波を相殺し、壁の向こうが見えた時には大きく左前足を振りかぶりながら突っ込んでくる狼が見えた。
「っ!!(足が巨大化して!?)」
桃香を潰さんとばかりに振り下ろされる左足から、大きく横に飛んで避ける。
しかし見えてから避けるには時間が足らず、右腕に左足が触れた。
「くぅっ!(持っていかれ・・・てはいない。いや、むしろ軽傷も軽傷か)」
確かに狼の攻撃は桃香の右腕に当たったが、服と本人の防御を貫く事はできず、擦り傷が出来る程度であった。
そう、やはり前回の豹型しかり、この程度の敵からの攻撃では重傷を負うことは滅多に無いのだ。
(それでも、恐怖は完全には消えない・・・か。経歴を考えれば当たり前ではあるが、情けない)
少し震えている左手を右手で抑えながら自虐する。
これまでろくに喧嘩もした事の無い彼が、刀を持って戦うということに怯えてしまうのは仕方ないとも言えるだろう。しかし、同じように戦っている子供がいることを考えると情けなくなってしまうのだった。
その子供であるヤマトは相棒の術もあって聴力を取り戻し、戦えるまでに戻っていた。
「あ、相棒。あの人は・・・?」
「分からない。でも、この結界を張ってヤマトを守ってくれたからきっと味方だと思うよ」
「僕の味方・・・!(なら一緒に!)」
(情けない、ああ認めよう。情けない。なら後は開き直るだけだ。)
「ふぅ・・・行くぞ」
己の恐怖を自覚し、しかし社会で生きていく中で身につけた処世術で開き直る。自分の欠点を見つけたからと言って尻込みしてはやっていけないと学んだ。
桃香を警戒して観察していた狼も桃香の様子が変わった事に気づき、前傾姿勢に移った。
互いに重心を下げ、一瞬の隙を見極めんとする。
その隙が生じたのは、狼側であった。
突然横から飛んできた光弾に驚き、避けるために後ろに飛び、それを見た桃香は間合いを詰めた。
上段に振りかぶった刀を降ろす。
「(ありがとう、ヤマト君、)これで・・・!」
「T、RTGURAAAAA!!!!!」
己の死を見た狼の咄嗟の衝撃波はそれまでで一番強力なものであった。
その衝撃に狼側も少し吹き飛び体勢を崩したが、振りかぶった柄と手にもろに食らったことで刀が後ろに吹き飛ばされる。
「───『戻れ』!」
しかし桃香はそれを取りに行くこと無く、ヤマトが結界から抜けたため用無しになった払い棒を右手に戻しながら狼に一直線に向かう。
「『抜刀』」
桃香が持っているのはお払い棒のみ、だが桃香が右手で弧を描くように動かすと虚空の鞘から引き抜かれるように刀身が現れる。
そして一閃。
「全てを、『断つ』!!」
先とは変わり、下から両断される狼。
斬られた衝撃で宙に浮き、落ちる前に全身が崩れ消えた。
「・・・はぁ。(初勝利・・・か)、『戻って』」
狼が消えたのを見届けてから残心を解き、刀を手元に戻す。
(・・・・・・いや。考えない、考えない)
あの程度でこの苦戦っぷりで、この先自分が本当に戦い続けるられるかと一瞬考え、その思考に意味は無いと切り捨てる。
「あ、あの!」
「っ!はい」
そしてヤマトに与える(個人)情報を最低限にして帰らねばと、自然な別れ方を考え始めた。
「助けてくれて、ありがとうございました!刀、かっこよかったです!」
「いえ、そんなことは。では・・・失礼します。また、どこかで」
「あの!」
考えても何も出なかったので、さっさと退散することにしたのだった。
隔離結界が解けるのと同時にダッシュでその場を離れ、屋根伝いにパルクールしながら自宅に戻る。
桃香の予想ではあの場に居続ければ絶対に名前を聞かれていた。
しかしそれは今の桃香にとっては困ることだった。何故なら・・・。
(帰ったら南條と相談して考えるか・・・)
そんなもの考えてなかったからである。




