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車で近くのショッピングモールに来た二人はまず女性向けの巾着袋を購入した。
「別に普通のバッグとかで良くないか?」
「せんぱ、トウカちゃんの和装を考えたらこっちのほうが合いますよ、あと口調」
「あ、はい」
変身後にも使えるのを意識した南條によって巾着袋を手に入れ、モール内のベンチに座りながら軽く試してみる。
「・・・『収納空間』。よし、たぶん出来た」
「じゃあさっそくこれを」
南條は自分の長財布を巾着袋の口に入れる。
大きさ上、全部収まりきらずにはみ出るはずなのだが財布は巾着の中にするっと入っていった。
「おお、本当に成功してますね。見た目は普通の巾着袋ですよね、外も中も。てっきり口の部分が黒塗りになってたりするのかなって思ったんですけど」
「特にそういうことは無い・・・かな。取り出すときは巾着袋に手を入れながら念じれば掴めるようになる・・・よ」
男口調にならないように気を付ける関係上妙な間が発生しているが、これから先の必須事項なのでぎこちなくも喋り続ける。
「まあ、基本的にはトウカちゃんに出し入れしてもらうから私が触ることは少なそうですけど。あ、私のバッグにもこれを」
「やだ」
「ケチ」
「乱用したら良くない気がするから、ね」
「取ってつけたような理由のケチ」
「はい、じゃあ次の買い物いくよー」
巾着袋を手首に通したトウカは立ち上がって南條を引っ張る。
南條は変わらずブーブー言っていたが、売り場に着いた頃にはすっぱり諦めているのだった。
使用者であるトウカの意思を半分ほど無視して布団やパジャマ、歯ブラシなどの諸々を女子小学生らしいデザインで統一した南條達はモールの中のハンバーガー屋にて昼食を摂ることにした。
「お前人の話聞けよ」
「トウカちゃん口が悪いよ?ちゃんと初日みたいに、れーかお姉ちゃん♡って呼ばないと」
「・・・はぁ。流石にピンク系統に染め過ぎじゃない?」
「良いじゃないですか。可愛いし。トウカちゃんも自分の年齢を毎朝確認出来るでしょう?」
「言っても10歳くらいの子だったらもっと大人ぶる年齢じゃないのかな?」
「安心して下さい。10歳の大人ぶるってのは基本的に外向けなので、内面にまで大人ぶる子はほぼいません。小さい頃から慣れ親しんだ部屋にまだ執着を持っている時期なんですよ」
「・・・ふーん。お姉ちゃんにもそんな時期があったんだー?」
「年齢弄りは高値だと理解してますよね?」
「クーリングオフって知ってる?」
二人で馬鹿のような応酬をしながらさっさと食べ終わった二人は、午後の行動について相談を始めた。
「一応予定していた買い物は終わりましたけどこれからどうしますか?帰ります?」
「少し寄りたい場所がある」
「ほう?それはどんな?」
「これの交換」
服のポケットから白い封筒を出すトウカ。
それは父親から渡された、生前買った宝くじである。
「ああ、なるほど。ていうかそれだったら早めに言ってくださいよ。途中で宝くじ売り場通りましたよね?」
「落ち着いてから結果を見たかったからわざと最後にしたの」
「当たる自信がおありで?」
南條はあくどい越後屋のような素振りでトウカに尋ねる。
「予想が当たってれば、かなりの爆弾」
「・・・え、マジですか?本当に?」
トウカのフラットな表情に南條も素に戻る。
そしてトウカから宝くじを渡される。子供のトウカが出すと交換出来ない可能性があるからだ。
店を出て宝くじ売り場に着き、本当に当たるのかとドキドキしながらくじを渡す。
「・・・・・・っ!」
「・・・・・・ああ」
[[[高額当選おめでとうございます!]]]
当選金額を表示するためのパネルに表示される、初めて見る文字列。
一定金額以上が当たった人間のみが見ることの出来る表示である。
「おめでとうございます。こちらの券をみなも銀行の窓口にお渡し下さい」
「は、はい」
人生で最大級のドキドキと恐怖を感じながら宝くじを受け取る南條。
自分の手の中の紙が10億円の価値を持っているかもしれないと考えると、あの南條であっても緊張してしまうのだった。
売り場から離れてすぐに、くじをトウカに返す。受け取ったトウカはそのまま収納空間に入れた。
「お前、じゃなくてれーかお姉ちゃんビビリすぎじゃない?」
「さ、さすがにビビりますよ!あんな薄っぺらくて軽いものに10億円の価値があるんですよ!?」
「一応まだ確定してないけどね」
「先輩の予想は1等賞じゃないんですか?」
「前後賞込みの1等賞」
「やっぱりそうじゃないですかぁ!!」
南條には見えずトウカにのみ見えていた「準備金」という文字。
自分が生活費に困ることなく使命を全う出来るよう、彼女の上司が用意したものだとトウカは考えている。
正直1億円でも学生生活の終わりまで十分にやっていけると思われるが、何が起きるか分からないため余裕を見て10億円くらいポンとくれないかなー、とトウカは考えていた。
つまり1等賞だろうという考えの半分くらいは私利私欲、希望的観測で出来ている。
トウカにくじを預けているのに周囲を警戒していた南條に呆れながら駐車場に向かうと、妙な人達に出会った。
「お、いたいた〜」
全員が顔を隠した妙な人達である。
嫌な予感がしてトウカの前に出る南條。
「なんですか?私達の前を塞ぐようにして」
「いや、ちょっとお祝いをしたくてなぁ?」
「高額当選なんて滅多に見られたもんじゃねーからさぁ。俺達にもその宝くじ見せてほしーなぁ、って!」
「あやかりてぇー!」「金ホッシー!」
各々喚きながら、謎の踊りをしながらも包囲は解かない一行。
(見せて欲しいとは言っているけれど明らかに強盗目的。わざわざ顔が見えないようにして、こちらを囲んでる時点で疑う余地無し!先輩───)
強盗の危機から脱するために推定最強の人物に目を向けると、特に動じる事なくただ一言発した。
「『眠れ』」
崩れ落ちる男達。眠りについたばかりなのに既にいびきをかき始めるほどの熟睡具合である。
「えっ」
「ほら、今のうちに行くぞ」
「あっはい。って警備員とか」
「別にいらないだろ。あっ、でしょ。この格好で寝てるだけで職質物だと思うし」
「それはそうかも知れませんけど・・・ていうか変身しなくても行けるんですか」
「言ったでしょ。必要なのは助っ人の時だけだって」
「ああそういえば・・・」
熟睡する男達を放置して車に戻り、帰路につく。
世界を救うために戦う魔法少女が、そこらのチンピラに負ける訳が無かったと認識した一幕であった。
帰りの車の中。
「・・・やっぱり気になるんですけど、アレそのままで良かったんですか?」
「別に良いよ。南條が怪我してたら話は別だけど、俺を狙うくらいなら何も思わないし」
「先輩、もしかして喧嘩稼業をしていた時期が?」
「なわけあるかい。単純に、蟻に囲まれても何も感じないってだけー。ちょっと魔法を使えば終わりだし?」
「蟻ですか・・・」
少し巫山戯たように話すトウカだったが、これは本音なのだろうと南條は思った。
彼女にとっては既に、不良集団を相手する事が蟻を踏みつけるのと同等の難易度になっているのだ。
(あそこまで恐怖感を感じなくなるとは逆に怖くなるなー)
トウカは内心そんなことを思っていた。
悪い意味で魔女と人の違いを認識した南條はその意識を変えるために話題を変えた。
「そういえばあの宝くじどうするんですか?」
「どうって、あー・・・正直どっちでも良いと思ってる節はある」
「どっちとは?」
「さっさと南條の通帳に入れるか、俺の通帳が出来るのを待って受け取るか」
予想外の選択肢に南條は驚く。
「え?私のに入れる選択肢あったんですか?」
「もちろん。クレカさえ貰えれば買い物には困らないし。衣食住全部を頼り切りになるのも、家事全般を請け負うとはいえ良くないしな」
「いやぁ・・・いやぁ、10億円ですかぁ〜。何買っちゃいましょうかねぇ?」
自分の通帳に10億円が入ったときの事をつい思い浮かべて鼻の下が伸びる。
しかしトウカはそれに対して現実的な懸念を浴びせた。
「でもお前に渡すとお前周辺が煩くなりそうなんだよな」
「え?」
「よく言うだろ。宝くじ当たると知らない友人や知り合いや勧誘がいっぱいやって来るって」
「あ・・・」
「最悪俺の魔法で追い返してもいいけど、更に最悪なパターンは何故か会社に伝わった場合だからなぁ。後輩をニートにするのは心苦しい」
「別になりませんよ!!」
「家事全般を俺がやって、お金は10億円もある。こんな状態で本当に仕事探せるか?」
「ふ、フルリモートの仕事とか、良いですよね?」
堕落する気満々であった。
「うん。俺の通帳が開くのを待ってからにしよう」
「ええー!それなら何か凄い美味しいものとか奢ってくださいよー!」
「なんだよ凄い美味しいものって。高級焼肉か?」
「回らない寿司にしましょう、寿司。上々亭とかは行ったことありますけど、回らない高級寿司屋はないんです!」
「寿司屋のマナーなんて知らないし、大抵そういうのって一元お断りだろ・・・」
「だいじょーぶですって!先輩の魔法で記憶を捏造しましょう!」
「じゃあ先にお前の記憶を捏造して俺の椅子として生きるようにしてやろう」
「ひどい!後輩の人権は考えないんですか!?」
「どのくちがいうかぁ!」
最後にワーギャーと騒ぎながらの帰宅であったが、特に大きな問題なく着いたのであった。
実はこの買い物でとんでもない爆弾が購入されていたのだが、彼女がそれに気づくのは少し先の話である。




