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ブルーストーム シーズン2  作者: Fawole Oluwaseyi


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第9章:五尾

「うわぁ……」


訓練場に、一斉に漏れるような呻き声が響き渡った。カズキ以外の1年3組の生徒たちは、額に汗を浮かべ、無表情のまま、呆気にとられたような間抜けな目をしていたからだ。


一方、カズキの様子は対照的だった。目の前の赤髪の先輩を見つめる彼の瞳はキラキラと輝き、興奮で拳を固く握りしめていた。


「マジでこの人と訓練すんの?」ライトが不満げに呟く。


ミナトは満面の笑みを浮かべた。「なんだよ? 俺の指導を受けられることに感謝しろよな」


「いや、俺たちがこんな顔してるのは、別に先輩のせいってわけじゃなくて……」クラスメイトの一人が、気まずそうに苦笑いする。


「心配なのは、こっちの友達の方なんだよ……」ヒカルがそう付け加えると、全員が揃って「たらり」と汗を流すようなリアクションを見せた。


「えっ?」カズキは腕を組み、不服そうに鼻を鳴らした。「俺はただ、ミナト先輩の指導を受けられるのが楽しみなだけだよ。それに、めちゃくちゃカッコいいし!」


「間違いなく『第二のミツル』だね」アオイがくすりと笑う。


「おいっ!」ミツルが頬を膨らませて抗議する。


「それより……」アスカが前に出て、ミナトの頭を軽く叩いた。「1年3組の指導は、私たち全員でやるのよ。『五尾(ファイブ・テイルズ)』のメンバー全員で、でしょ?」彼女はミナトを厳しい視線で見据えた。


チエコ、シノ、ユラは数メートル後ろに立ち、アスカが熱血漢の友人をたしなめる様子を眺めていた。


ミナトは頭をさすりながら言った。「はいはい、わかってるよ」


そして彼は、ちらりとアオイに視線を向けた。アオイもまた、その視線を受け止めた。


ミナトはにやりと笑った。


不意の笑顔に意表を突かれ、アオイは瞬きをして、頬をほんのりと赤らめた。


「ほら、行くよ」とアスカはため息をつき、ミナトの耳を掴んで引きずっていった。


「痛っ、痛っ! アスカ、痛いってば!」ミナトは抗いながらも引きずられ、腕をバタつかせた。


アスカに引きずられていくミナトの姿を、クラスの面々は後頭部に冷や汗を浮かべながら眺めていた。


シノが眼鏡の位置を直し、ユラが首を振る一方で、その三人が近づいてくるとチエコは小さく笑みをこぼした。


そして彼女の赤茶色の瞳は後輩たちの方へと向き、やがてアオイの姿を捉えた。


アオイは視線を合わせると、小さく微笑み、挨拶代わりに片手を挙げた。


チエコは瞬きをして少し照れたような表情を見せたが、すぐにアオイと同じように小さく頷き返した。


シノが彼女の方をちらりと見やり、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。


アヤネはそのちょっとしたやり取りに気づき、アオイの方を向いた。


「いつの間にチエコ先輩とそんなに仲良くなったの?」と、彼女は片手を腰に当てて不思議そうに尋ねた。


アオイは挙げていた手を下ろした。「それは秘密」と、あっさりと答える。


「え~っ!?」アヤネは不満げな声を上げた。「いいじゃん~! 教えてよ! 知りたい~!」


アオイは口元にいたずらっぽい笑みを浮かべ、目を閉じながら一歩前に出た。「もうすぐ練習が始まるよ。行こう」


「ちょっと~! ずるいよ、アオイ~!」アヤネは頬を膨らませて抗議の声を上げた。


葵はふと足を止め、くすりと笑みをこぼした。


すると、明日香がパン、パン、パンと三回手を叩き、再びクラス全員の注目を集めた。


「それじゃあ、みんな!」と彼女は声を張り上げた。「二人一組になって!まずは徒手格闘の訓練から始めるわよ!」


「了解!」とクラス全員が応じた。


生徒たちはすぐに二人一組になり始めた。


葵は、腰に片手を当てたまま「五尾(ごび)」の他のメンバーと話をしている明日香の姿を眺めていた。


(今日は月曜日だし、いつもの訓練スケジュール通りなら……)葵は心の中で考えた。(本来なら、ジン先輩とミソラ先輩が訓練を指導してくれるはずだった。でも、今は二人の姿がない)


彼女はわずかに眉をひそめた。(そういえば、今朝の朝礼の後、ミソラ先輩の様子が気になったんだっけ。顔色が……悪かったような)


彼女の意識は、その日の朝、仲間たちと一緒にミソラと話した場面へと戻っていった。


…………..


「本当に大丈夫ですか、ミソラ先輩?」メイが心配そうな瞳で尋ねた。


「ええ」ミソラは頷いたが、その表情は言葉とは裏腹だった。「ちょっと疲れてるだけよ」


「ただ疲れてるってレベルには見えないけど」と静香が指摘した。


「ああ」ミツルも同意するように頷いた。


ミソラが弱々しく微笑んだその時、ジンが彼女の隣に歩み寄り、その肩にそっと腕を回した。


「ミソラ、保健室に行って休んだほうがいいんじゃないか」と彼は提案した。「動き回れるような状態じゃない」


ミソラは疲れた様子で彼を見た。「大丈夫だって言ってるでしょ――」


彼女の体がふらりと揺れた。ジンは即座に彼女の肩を支えた。


「お姉ちゃん!」アヤネが驚いて声を上げ、とっさに両手を差し出した。


「だ、大丈夫よ……」


「そう言うのはやめろ」ジンは眉間に皺を寄せた。


それ以上何も言わず、彼は片腕を彼女の膝裏に、もう片方を背中に回し、ひょいと彼女を抱き上げた。


彼女の頬は彼の首筋に寄り添い、上気した顔を彼に預けながら、小さく重い吐息を漏らしていた。 「ひどい熱だ……」彼は彼女をしっかりと胸に抱き寄せながら、つぶやいた。


彼は他の者たちの方を向き、「彼女を医務室へ連れて行って、そこで付き添うよ。心配しないでくれ」と言った。


「わかったわ」アヤネは頷いた。


「でも、今日の訓練はどうするんですか、ジン先輩?」と陸也が尋ねた。「先輩とミソラ先輩が指導役を務めるはずじゃ……」


ジンは視線を落とし、ミソラを抱きしめる腕に少し力を込めた。「わかってる……だが、この状態の彼女を放っておくわけにはいかない」


彼は仲間たちの方を振り返った。「『五尾(ごび)』に話して、今日の代わりを頼んでおく」


「本当ですか?」ヒカルが眉を上げた。「あの『五尾』に?」


「ああ」ジンは頷いた。「訓練の時間帯なら、彼らも空いているはずだ」


彼は踵を返し、歩き出した。「アラタ先生に連絡して、予定変更を伝えてくる。お前たちは教室へ向かってくれ」


「了解!」と彼らは声を揃えた。


ジンがミソラを抱えて去っていく姿を、彼らは見送った。


「ごめん……ね……」ミソラは目を閉じたまま、小さく呟いた。


「バカだな……」ジンは彼女をさらに強く抱き寄せながら呟いた。「謝ることなんて何もない」


廊下を進む彼の表情は、穏やかなものへと変わっていた。


「何があっても、自分の女の面倒を見るのが彼氏の務めだからな」


ミソラは彼に身を寄せ、その唇にうっすらと笑みを浮かべた。


二人が廊下の向こうへ消えていくのを見ながら、カズキはため息をついた。


「ミソラ先輩、あの夜戻ってきてから、あまり眠れてなかったみたいだね」彼はアヤネの方を向いて言った。


「うん」茶髪の彼女はため息をつき、観念したように目を閉じた。


「それに、雨も降ってたし……」ミツルが付け加えた。「ジン先輩に見つけられるまで雨の中にいて、風邪を引いちゃったのかも」


「それ、ありそうだな」ライトが頷いた。


ミツルは何かを思いついたように、突然口を丸く開けた。


「ねえ、ミソラ先輩の熱って、何かに似てない?」


「うん」他のメンバーも口々に同意した。


「アオイと同じだね」サヤカはニヤリと笑い、青髪の少女を小突いた。「雨の中に立ってたこととか……」


アオイは頬を赤らめ、すぐに視線をそらした。


「うるさいな……」彼女は呟いた。


...........................


葵が拳を緩めると、脳裏をよぎっていた回想の光景が薄れていった。


(無事だといいけど……)と彼女は心の中でつぶやく。


「葵」


「え?」瞬きをして隣に立つライトに目を向けると、彼の茶色い瞳には心配の色が浮かんでいた。


「大丈夫か? もう30秒も呼んでたんだぞ」彼は少し眉をひそめた。「部屋の真ん中で、パートナーがいないのはお前だけだ」


「え?」葵はもう一度瞬きをし、訓練場を見渡した。


他の全員がすでにペアを組んでおり、彼女だけが取り残されていたのだ。


「ご、ごめん」軽く頭を下げてクラスメイトの方へ歩き出すと、ライトもすぐ後ろについてきた。


全員の視線が再び「五尾(ごび)」に向けられる中、二人は足を止めた。


ライトは首の後ろをさすりながら、ちらりと葵を見た。「なあ……今回のスパーリング、俺と組まないか?」


葵は彼を見て、一瞬驚いたような表情を浮かべた。だがすぐに、にやりと笑みをこぼす。


「いいよ。でも、また私があなたの顔面をボコボコにしても泣かないでよね」


ライトの眉がぴくりと動く。「おい、あの時は俺が勝たせてやったんだ。その考えは今でも変わってないぞ」


「本当に?」葵はからかうように笑みを深めた。


ライトは何か言い返そうと口を開きかけたが、すぐに口を閉じ、視線をそらした。


「い、いや……そうでもないけど……」頬を赤らめながら、彼はつぶやいた。


葵はくすりと笑い、ふざけて彼の脇腹を小突いた。


「よし」アスカが声を上げ、訓練場全体に視線を走らせた。「全員ペアが組めたところで、次は少しやり方を変えるわよ」


全員の視線が一斉に彼女に集まる。


「一組ずつ、『五尾』のメンバーとスパーリングをしてもらうわ」


「えっ?」クラス中から驚きの声が上がった。


「俺たちを相手に?」誰かが呟いた。「全員で?」


「仲間割れをするわけじゃないんだな?」


「その通りよ」アスカは頷いた。「あなたたちは全部で三十人、つまり十五チームになるわ」


彼女は自信ありげな笑みを浮かべた。「『五尾(ごび)』のメンバーがそれぞれ、三チームずつの相手をするの」


「なるほど」リクヤは眼鏡の位置を直しながら頷いた。「そういう仕組みか」


「まさにその通り」シノが片手に小さなクリップボードを持って前に出た。「チエコが各チームを回って、くじを引いてもらう。引いた番号で、対戦相手となる『五尾』のメンバーが決まるんだ」


彼は横に視線を向けた。「チエコ」


「は、はい」彼女は恥ずかしそうに頷いた。


両手で小さな箱を抱えたチエコは、最初のチーム――並んで立っていた女子二人のペア――の方へと歩み寄った。


「こ、こ、これ……」彼女はどもりながら箱を差し出した。


「あ、ありがとう……」女子の一人が中に手を入れ、折りたたまれた紙切れを一枚取り出した。


彼女は紙を広げ、書かれた数字に目をやった。「七番」


チエコは頷き、次のチームへと向かった。


「こ、これ」


最初の男子が眉を上げた。「あのさ、チエコ先輩。俺たち相手に、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ」


「そうそう」相方の男子も頷き、からかうような笑みを浮かべた。「正直、事情を知らなかったら、背が低いからそんなに恥ずかしがってるのかと思っちゃうところですよ。でも、そんな必要ないのに」


彼らの言葉に、千恵子は息を呑み、目を見開いた。


志乃の眉がピクリと動く。「あのガキども……」


「志乃」由良が静かに声をかけ、それ以上何かを言うのを制した。


彼は由良をちらりと見て、ぐっと奥歯を噛み締める。「でも……」


千恵子は視線を落とし、紫色の前髪がその瞳にかかった。


最初に口を開いた少年が、慌てて言葉を継ぐ。「ち、違うんです、千恵子先輩! ただ……」


「先輩が本当に『五尾』の一員だなんて、どうしても信じられなくて」もう一人の少年も言った。「だって、すごく……大人しそうですから」


千恵子はゆっくりと顔を上げ、小さく微笑んだ。


「わ、わかるわ……」彼女は静かに言った。「確かに、大したことなさそうに見えるものね」


彼女が箱を差し出すと、二番目の少年が中に手を入れ、折りたたまれた紙切れを一枚取り出した。


彼がそれを広げる。「『1』だ」


千恵子の瞳が鋭く光った。「完璧ね」


その瞳に宿った突然の光に、二人の少年は背筋を凍らせた。


彼らの顔色が、わずかに青ざめる。


千恵子はそのまま彼らの横を通り過ぎ、何事もなかったかのように、残りのチームにも箱を差し出していった。


全員が番号を引き終えると、彼女は再び穏やかな表情に戻り、飛鳥たち「五尾」のメンバーの隣へと戻った。


飛鳥が彼女に視線を向ける。そして、千恵子の瞳にまだあの見覚えのある光が残っていることに気づいた。


その目つき、知ってる……


由良のこめかみに、小さな汗の粒が浮かぶ。彼女と戦うことになるチームには、同情を禁じ得ないな。


アスカはすぐにクラスへと意識を戻した。「全員番号を受け取ったわね。それじゃあ、始めましょう!」


「五尾」の視線が向けられると、生徒たちは背筋を伸ばし、その表情を引き締めた。


「対戦相手はこれよ!」アスカは興奮で淡い青色の瞳を輝かせながら告げた。「1番から3番のチームは、チエコと手合わせすることになるわ」


先ほどチエコをからかっていた男子二人は、即座に体をこわばらせた。ゆっくりと、彼らの視線が小柄で紫色の髪をした先輩へと向けられる。


チエコはただ微笑んでいた。


「4番から6番のチームは私と戦うわ」アスカはにやりと笑って続けた。「7番から9番はミナトと。10番から12番はシノと、そして13番から15番はユラと対戦よ」


彼女は腰に手を当てた。「以上!」


「ユラ先輩と戦うことになったね」メイはミツルに微笑みかけた。二人は第14チームだった。


「ああ」ミツルは頷いた。


「私たちはシノ先輩だね」サヤカがにっこりと笑い、隣でシズカが頷く。第12チームの二人だ。


「あーあ、ミナト先輩と手合わせしたかったな……」カズキが不満げに言った。


ヒカルは苦笑いを浮かべながら彼の肩を叩いた。第10チームの二人である。


「まあまあ、そう言うなよ」


「私たちはチエコ先輩だね」アヤネがリクヤに言うと、彼も頷いた。第2チームだ。


「そして私たちはアスカ先輩だね」アオイがライトの方を見ると、隣にいた彼も頷いた。第4チームだ。


「みんな、そこは分かったわね?」アスカはクラスに問いかけた。「よし! じゃあ、まずはチエコの試合から始めるわよ。第1、第2、第3チームは前へ出て」


三つのチームは指示に従った。


「頑張ってね、アヤネ、リクヤ!」メイが声をかけた。


「いけるよ!」サヤカが声援を送る。


リクヤは微笑んだ。「ありがとう」


アヤネは革の手袋をはめながら、にやりと笑った。「うん」


アオイは口元を歪めた。あの手袋を使う彼女を見るのは久しぶりね……。アヤネとリクヤが前へ出るのを見ながら、彼女はそう思った。


「あ、いいこと思いついた」突然アスカが口を開き、全員の注目を集めた。


彼女はにやりと笑う。「みんなでチエコを攻撃していいよ」


「全員で!?」第3チームの女子の一人が目を丸くした。


「一斉に?」チームメイトも同じように驚きの声を上げる。


「そう」アスカはチエコの方に視線を向けた。「それでいい?」


チエコは小さく頷いた。「もちろん」


アスカも頷く。「よし。位置について」


3つのチームは、訓練場の中心に静かに立つチエコから数メートルの距離に散らばった。チエコの表情は無表情そのものだった。


おいおい……冗談だろ? 第1チームの男子の一人が、疑わしげな目でチエコを見つめた。6人がかりで女の子一人を相手にするのか? 俺たちに比べて小柄だし。いくら彼女でも、それは不公平すぎるだろ。


二人目の男子は、他の生徒たちを見回した。俺の実力でも、自分より強い相手を6人同時に相手にするのは無理だ……。


彼の黒い瞳がアヤネの方へ向く。それに、俺たちには『六爪(シックス・タロン)』の一員がいるんだから……。


彼の口元に、薄い笑みが浮かんだ。楽勝だな。


「リクヤ」


「ん?」彼はアヤネの方を向いた。


「まだ攻撃しないで」と彼女は言った。


リクヤはまばたきをした。「え?」


葵の視線はその光景に釘付けになり、とりわけ千恵子に対しては、いつもより少し長く留まっていた。


飛鳥はチームの様子を注意深く見守り、やがて手を挙げた。


「始め!」


先頭の男子が構えを変え、足を踏ん張ると、チームメイトや第3チームの女子二人と共に前へと突進した。


「悪く思わないでくださいよ、先輩!」彼はそう叫びながら、拳を引いて殴りかかろうとした。


だが、彼女に届くよりも早く――


「うわっ!」


瞬く間に体がひっくり返され、彼の顔面が床に叩きつけられた。


誰もが呆気にとられ、口をあんぐりと開けた。


第1チームの二人目の男子は目を見開き、体を震わせながら千恵子の方へと視線を向けた。


彼女は微動だにしていなかった。


「一体どうなってんだ!?」と満が目を丸くする。


「今の……!」とヒカルも目を見開いた。


「速い」と葵が言葉を継ぎ、その唇に小さく不敵な笑みを浮かべた。


彩音もわずかに目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。その隣では、陸也の眼鏡が鼻筋を滑り落ちていた。


「な、何なんだ……」と二人目の男子が呟く。「どうやって……!?」


彼は辛うじて振り返った。だが次の瞬間、彼もまた床に叩きつけられていた。


「うっ……」


千恵子が彼を見下ろすように立っていた。紫がかった前髪が、赤茶色の瞳に薄い影を落としている。


彼女の視線がゆっくりと上へと移る。その眼差しを向けられ、二人の女子は動きを止めた。


自信が揺らぐ。だが、彼女たちは迷いを振り払うかのように、揃って千恵子へと突進していった。


チエコは彼女たちの視界から消えた。


「うわっ!」


「きゃっ!」


少女たちは瞬く間に倒され、ほぼ同時に床へと叩きつけられた。


1年生たちは呆気にとられ、言葉を失った。


「チエコは小柄だけど……」アスカは誇らしげな笑みを浮かべ、腕を組んで言った。「私たちの大半よりずっと速いのよ」


1年生たちが彼女の方を向く。


「サヨナキに入る前は、全国規模のレース大会に出場して、一度も負けることなく数々の金メダルを獲得していたの」


彼女の淡い青色の瞳が誇らしげに輝く。「彼女は『ファイブ・テイルズ』で一番の俊足よ。その速さはまさに無敵ね」


アスカの笑みがさらに深まる。「それに、その小さな体に騙されちゃダメよ。彼女、力も強いんだから」


アオイはチエコに視線を向けた。紫色の髪の少女はただ目を閉じ、小さく息を吐き出していた。


昨日と同じね……。アオイは、チエコが瞬時に駆け出し、木の上からチビを助け下ろした時のことを思い出し、かすかに口元を緩めた。


……速い。彼女の淡いラベンダー色の瞳が輝く。それに、強い!


チエコが目を開けた。倒れ込んだ1年生たちを見下ろすと、その瞳はたちまち恐怖で真っ白になった。


「あ! ご、ご、ごめんなさい!」彼女は慌てて手を振り、何度も頭を下げた。「本当に、そんなつもりじゃなくて! 怪我はしてない!?」


残りの1年生たちは、ただ冷や汗を流しながら彼女を見つめることしかできなかった。


またモードが切り替わったわね……とアオイは思った。


チエコはゆっくりと顔を上げた。「ごめんなさい。私、ただ……」


彼女の表情が急変した。何かの動きを察知したのだ。


チエコの瞳が鋭く光る。頭上を足が薙ぎ払うように通過するのと同時に、彼女は素早く身を低くしてしゃがみ込んだ。


横へと身をかわし、続いて放たれた素早いパンチを間一髪で避ける。


そして後方へ跳躍し、空中で身を翻して数メートル先へと着地した。


「不意を突くのが一番の策だったな」リクヤは足を下ろしながら、不敵な笑みを浮かべた。


「もっと周囲に気を配るべきですよ、先輩」アヤネは彼の隣に立ち、右のグローブのストラップを手首に締めながら、彼と同じように不敵な笑みを浮かべた。


予想外の反撃にチエコはわずかに目を見開き、頬をひと筋の汗が伝い落ちた。


「連携した奇襲か……」アスカは感心したように眉を上げ、呟いた。「悪くないわね」


彼女は頷いた。「第2班、合格よ」


アヤネとリクヤは驚いて彼女の方を振り返った。


「でも……俺たち、彼女に一回も触れてないよ」リクヤが指摘する。


「相手を一瞬でも躊躇(ちゅうちょ)させることができれば、それは立派な成果よ」アスカは微笑みながら説明した。


彼女は「五尾(ごび)」の仲間に向き直った。「シノ、記録しておいて」


「了解」黒髪の少年は頷き、クリップボードに何かを書き留めた。


「やった!」アヤネが歓声を上げた。


彼女とリクヤは興奮気味に笑い合って軽く抱き合うと、他のメンバーの元へと駆け戻っていった。


チエコは二人の背中をしばらく見つめていたが、やがて振り返り、仲間の元へと歩き出した。


「ごめんなさい……」シノの隣で足を止め、彼女は呟いた。


彼はちらりと彼女を見た。「なんで謝るんだ? 君は何も悪くないだろ」


彼は眼鏡の位置を直しながら視線を逸らした。その頬は、うっすらと赤く染まっていた。


「むしろ……」彼は言葉を切り、続けた。「……さっきの君、すごくかっこよかったよ」


チエコは瞬きをして彼を見上げ、それから優しく微笑んだ。


その笑顔にシノはたじろぎ、慌ててクリップボードに視線を戻した。頬の赤みはさらに増していた。


ミナトはその二人を見てニヤリと笑った。「シノとチエコが~、木の上で~、K-I……」


次の音を発する間もなく、彼の脇腹に強烈な拳が叩き込まれ、彼は訓練場の向こう側まで吹き飛ばされた。


「うるせえ、バカヤロー!!」シノは激昂した。恥ずかしさで目は白目をむき、頬は真っ赤に燃え上がっていた。


チエコもまた頬を紅潮させ、視線を落とした。


ユラは額に汗を浮かべ、ただ呆然と二人を見つめるしかなかった。この二人ったら……。


アスカは首を振りながらため息をついた。「次はミナトの番だったんだけどね……」


彼女は一年生たちの方を振り返った。


「よし。次の班に移りましょう。第13班、第14班、第15班、前へ」


三つの班が指示に従い、前に出た。


「倒してこいよ、メイ」ヒカルがニヤリと笑う。


「お前もな、ミツル」カズキが励ますように頷いた。


二人は友人たちに向かって微笑み返す。


「行こう」とメイが言った。


「ああ」ミツルも不敵な笑みを浮かべて頷く。


二人は向き直り、前へと歩み出た。


ユラは訓練場の中心へと足を踏み入れ、目の前に立つ六人の対戦相手と対峙した。その紫色の瞳は穏やかで、何を考えているのか読み取れない。


「ユラ先輩……」アヤネが呟いた。


「うん」アオイはユラから視線を外さずに頷いた。「以前スパーリングした時も強かったけど、中国武術も使うっていうのが気にかかるわね」


「え?」リクヤが彼女の方を向く。


アオイはユラを見つめ続けた。


「相手はメイとミツルよ。メイも中国武術を使うけど、ミツルはどちらかと言えば、強烈な打撃を主体とした格闘スタイルだから」


「ああ……」ライトは対戦チームを見ながらため息をついた。「不利かもしれないな……」


「いいえ、そうじゃないわ」


一同はシズカの方を向いた。


彼女は穏やかな表情で前を見つめ、その濃い紫色の瞳を戦う者たちに向けていた。


「メイは中国武術だけを使うわけじゃないの」彼女の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。「日本の武術も組み合わせているわ」


彼女の視線は、変わらず訓練場の中心に向けられていた。「だから、大丈夫よ」


「始め!」アスカが声を上げた。


「うおおっ!」第13班と第15班が一斉に突進する中、ユラは微動だにせずその場に立っていた。


彼女は落ち着いた動作でポケットに手を入れ、手袋を取り出す。


そして、迫りくる相手から視線を外すことなく、片方ずつ手袋をはめていった。


「沈め!」第15班の少年が叫び、彼女に向かって蹴りを放つ。


ユラは冷静に、左手首の手袋を締め直した。


直前で蹴りを横にかわし、相手の脚に掌底を叩き込む。


「なっ……!?」その衝撃で、少年はボールのように床を転がっていった。


「くそっ!」すかさず仲間のひとりが拳を振り下ろす。


ユラは上体を反らして拳を顔のすぐそばでやり過ごすと、滑らかな動きで横へと身をかわした。


さらに第15班の残りのメンバーが詰め寄る。3人の攻撃者がほぼ同時に打撃を繰り出した。


ユラはあくまで冷静だった。最初のパンチをすり抜け、2発目を身を翻してかわし、3発目は鋭い掌底でその軌道を変える。


正確かつ無駄のない動きで攻撃の間をすり抜け、どの打撃もわずかな差で空を切った。


「なんて……落ち着きだ」ヒカルが目を見開いて言った。


「メイと同じだ。むしろ恐ろしいくらいに……」カズキもまた、口をあんぐりと開け、瞳を揺らしながら付け加えた。


「あ」サヤカが瞬きをする。「そういえば、メイは……」


彼女が言葉を途切れさせると、皆の視線は訓練場の中心へと向けられた。


少し離れた場所に立つメイとミツルが、ユラが他の班を次々と圧倒していく様子を眺めていたのだ。


「ミツル」メイが静かに言った。その視線はユラに向けられたままだ。「あの時の訓練を思い出して」


「ああ」ミツルは頷き、ニヤリと笑って指の関節を鳴らした。


二人は一瞬視線を交わすと、同時に踏み込んだ。


ユラは残る相手の一人からの攻撃を冷静にいなし、その体を脇へと流す。


だがその時、彼女は気配を察知した。


メイとミツルが視界に入り、ユラの紫色の瞳がわずかに見開かれる。


二人の眼差しには、ある変化があった。


それは、決意。


不意に、ミツルが掌底を突き出した。ユラは間一髪で前腕を上げ、その一撃を受け止める。


ドォン!


衝撃で体が押し戻され、ユラの足が床を擦りながら数メートル後方へと滑る。


稽古場に静寂が訪れた。


「うそだろ……!」アヤネとリクヤが声を揃え、目を丸くして呆気にとられる。


「ミツルが掌底を使えるなんて知らなかった!」サヤカが感嘆の声を上げた。


「彼女が彼を鍛えていたんだよ」ライトが不敵な笑みを浮かべて明かす。


メイがユラへと踏み込む中、彼の視線は戦いから離れない。


二人は掌底、防御、そして反撃を矢継ぎ早に繰り出し、互いの動きに対して寸分の狂いもない反応を見せ合う。


ユラが突如として脚を突き出した。


メイも同じ動きを見せる。


中段の高さで二人の脚が激突し、交差して「X」の字を描く。


ユラは口元を歪めて笑った。「意外とやるじゃない。ここまで私と渡り合える相手とは、久しぶりだわ」


「とんでもない」メイはいつもの穏やかな笑みを浮かべて答える。「私はまだまだ未熟ですから」


二人は動かない。互いに脚を押し付け合い、相手を後退させようと力を込める。


その直後、メイが不意に身を翻して飛び退き、隙が生まれた。


「ミツル!」


「うおっ!」ミツルは即座に踏み込んだ。


彼は力強い掌底を次々と繰り出し、由良の足元を狙うローキックも織り交ぜていった。


由良は相手が踏み込んでくるたびに後退し、攻撃を紙一重でかわしながら反撃を繰り出す。


ミツルはそれらすべてを堅いガードで防ぎ、激しい攻防を続けた。


「いいじゃない」由良は再び不敵な笑みを浮かべた。「動きも速いね」


ミツルもまた、同じような笑みを返した。「いい師匠に恵まれたからな」


彼は再び踏み込み、拳を突き出した。


由良は横に身をかわし、その一撃を辛うじて避ける。だが、ミツルは即座に追撃を放った。


由良はとっさに前腕を掲げ、その攻撃を防ぐ。


「ぐっ……!」腕に衝撃が走り、彼女は片目をきつくつぶって顔をしかめた。


態勢を立て直す間もなく、今度はメイが由良の足元を狙って足払いを仕掛けた。


由良は素早く後方へ跳び、その足払いを間一髪で回避する。


数メートル離れた場所に降り立った彼女の息は、先ほどより少し荒くなっていた。頬を伝う一筋の汗。彼女の視線は、並んで立つ二人の戦士に向けられていた。


メイとミツルはしっかりと足を踏ん張り、その鋭い眼差しを由良に向けていた。



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