↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーストーム シーズン2  作者: Fawole Oluwaseyi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/17

第7章:帰宅の誘い

ライトは、自分の家がある通りとアオイの家がある通りをつなぐ交差点で、両手をポケットに突っ込んだまま待っていた。歩道を通り過ぎる人々の静かな話し声が、夕暮れ時の気配に溶け込んでいく。


視線は地面に落としたまま、唇をきゅっと結ぶ。胸の奥で心臓が大きく脈打っていた。


彼はスマートフォンを取り出し、再び画面を確認した。


返信はない。


まだ返事がない……。彼の表情に、わずかな不安がよぎる。もしかして……他に用事でも入ったんだろうか? 来られないのかな……。


心臓の鼓動が激しくなるにつれ、頬が熱を帯び、スマホを握る指に力がこもる。


正直なところ……彼女に両親と会ってもらうのを、すごく楽しみにしていたんだ。


ふと、母の明るい笑顔や、新聞の陰に隠そうとしていたものの隠しきれずに浮かべていた父の控えめな肯定の笑みが脳裏をよぎる。それから、今朝キッチンで母の手伝いをしている間、ずっとからかうような笑みを向けてきた兄のリュウの顔も。


その記憶に、彼の頬がほんのりと赤らんだ。


再びスマホに目を落とし、アオイとのメッセージ画面を開く。アイコンを見つめながら、親指を「通話」ボタンの上にかざした。


ライトはゆっくりと息を吸い込む。まさにボタンを押そうとした、その時――


「ライト!」


彼は動きを止めた。


茶色い瞳を見開いて顔を上げると、そこにはこちらへ走ってくるアオイの姿があった。走るたびに荒くなる息遣いで、彼女の唇は少し開いている。


「はぁ……はぁ……」


アオイは彼の数歩手前で立ち止まると、膝に両手をつき、息を整えようとした。


「ご、ごめんね。ちょっと用事に捕まっちゃって」


何度か呼吸を繰り返した後、ようやく彼女は背筋を伸ばした。その顔には、小さな汗の粒が光っている。


「長いこと待たせちゃって、ごめんね」


ライトは彼女を見つめた。一瞬、言おうとしていたことをすっかり忘れてしまった。


彼女の雰囲気が、いつもと違っていたからだ。


彼の視線はゆっくりと彼女の姿をなぞる。さりげなく青い縁取りが施された黒いスニーカーから、濃い青色の髪にきれいに留められたラベンダー色のヘアクリップまで。メイクにも目が留まった。そのせいで、彼女の淡いラベンダー色の瞳がいっそう明るく輝いて見えた。


きれいだ……。


その思いは、止める間もなく心に浮かんだ。彼は意図したよりも少し長く、彼女を見つめ続けてしまった。


アオイはそれに気づいた。


彼の視線を受けて少し身じろぎすると、彼女の頬は次第に熱を帯び、急に恥ずかしさを覚えた。


「ど、どうしたの?」


ライトは瞬きをして我に返り、しどろもどろに答えた。「い、いや! なんでもないよ!」


なんでこんなに素敵なんだろう?! 頬を赤らめながら、彼は心の中でそう思った。


「メ、メールの返事がなかったから、来ないのかと思ってたんだ」彼は気まずそうに首の後ろをさすりながら、視線をそらして呟いた。


「俺……」彼の声は次第に小さくなり、消え入るようだった。「君が忘れてるのかと……」


アオイの瞳が優しくなり、その唇に小さな笑みが浮かんだ。


「ライトとの約束をすっぽかすなんてこと、絶対にしないよ」


ライトは驚いて口を少し開け、彼女を振り返った。


アオイは茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべ、目を閉じた。


「そ、そうだよな」赤面したまま、彼はすぐに顔を背けた。「ほら、行こう」


「うん!」アオイは小走りで彼に追いつくと、前を見据えたまま彼の隣を歩き始めた。


しばらくの間、二人は無言で歩いた。夕暮れの空気の中には、時折聞こえる足音や、通り過ぎる人々の話し声が溶け込んでいた。


ライトは心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、もう一度彼女を盗み見た。


「君……その……」


「ん?」アオイが彼を見上げた。


「すごくきれいだよ」ライトは静かな声で言った。


葵は視線を足元に落とし、頬をほんのりと赤らめた。


「あ、ありがとう」彼女は柔らかな笑みを浮かべた。「今日の夕食は、ちょっと気合を入れてみたの」


ライトは小さく鼻で笑った。「無理なんてしなくてよかったのに」


「ううん」葵は首を横に振り、彼を見上げて微笑んだ。「だって、あなたの両親には、あなたがしっかりした友達と付き合ってるってところを見てもらわないとね?」


彼女の笑みは、茶目っ気のあるいたずらっぽい表情に変わった。「不良みたいな格好で会うわけにはいかないでしょ? 期待に応えなきゃ」


「だから言っただろ、そんなことしなくてよかったんだって」ライトがため息をつくと、葵はくすりと笑った。


やがて彼の視線は、彼女が体の前で抱えていた、きれいに包装された箱へと向けられた。


「それ、何?」と彼は尋ねた。


「ん?」葵は彼を見上げ、それから彼の視線を追った。「ああ、これ? あなたのご両親にちょっとした手土産を用意したの」


「本当?」ライトは眉を上げた。「わざわざそんなことしなくてよかったのに」


葵は彼の方を向き、わざと不満げな顔を作ってみせた。「だって、初めて会うんでしょ? ちゃんと挨拶して、自己紹介するためには何か必要じゃない」


彼女の言葉に、ライトの頬がほんのり赤らんだ。「そっか」


葵は再び視線を落とし、無意識のうちにギフトバッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。


「会うんだよね……」彼女の声は小さくなり、その表情にはわずかな不安がよぎった。「……初めてだから……いい印象を持ってもらわないと」


ライトは彼女の表情に浮かぶ不安に気づいた。


彼は歩みを止めて立ち止まると、優しく彼女の肩に手を置き、自分の方へと向き直らせた。


「葵」


彼の温かな表情に、彼女は目を見開いた。


「そんなに緊張しなくていいよ」彼は穏やかな声で言った。「うちの両親も、きっと君を気に入るはずだから」


話を聞きながら、葵の瞳がきらりと輝いた。


「君のことを話して以来、家族が会いたがっててさ。特に母さんが。でも、俺はずっとはぐらかしてたんだ」


彼の頬を、一筋の汗が伝い落ちた。「ついに待ちきれなくなったみたいで、夕食に君を呼ぶように言われちゃって」


彼の口元に、小さく笑みが浮かぶ。「母さんが家族の食事会なんて言い出すと、俺には断れないんだよね」


葵はまばたきをし、少し頬を膨らませたかと思うと、やがてくすくすと笑い出した。楽しげに目を細めながら。


「わ、笑い事じゃないよ!」ライトは頬を赤らめ、少し不満げに言った。


「わかってるよ。いいんじゃない?」葵は息を吐き、温かな眼差しを彼に向けた。「すごく可愛いと思うな」


ライトは息を呑み、頬を熱くした。彼はすぐに視線を前方に向け、再び歩き出した。


「行こうか、ブルーヘッド」


葵は苦笑いのような表情を浮かべた後、茶目っ気たっぷりの笑みを口元にのぞかせた。


「了解、シャドウ・ボーイ」


彼女は小走りで彼に追いつき、隣に並んで歩き始めた。二人は時折肩を寄せ合いながら、静かに言葉を交わしていく。


…………..


「着いたよ」ライトがそう言い、葵と共に門をくぐった。


「わあ……」シンプルながらも温かみのある二階建ての家を見上げ、葵は小さく口を丸くした。


「素敵な家だね」彼女は嬉しそうに目を輝かせて言った。


ライトは彼女をちらりと見て、口元に小さな笑みを浮かべた。


……都会の東京にある彼女の本当の家は、どんな感じなんだろう。


「行こう」


「うん」葵は静かに頷き、彼が玄関のドアを開けるのに続いて中へ入った。


「ただいま」ライトが声を上げた。


玄関で靴を脱いで中に入ると、葵は心臓を早鐘のように打たせながら、その後ろに続いた。


「あら、ライト!」キッチンのカウンター越しに顔を覗かせた恵子の表情が、すぐにぱっと明るくなり、彼女は急いでこちらへ歩み寄ってきた。


「母さん、こいつは友達の……」ライトが脇へ退くと、葵の姿が現れた。「葵だよ」


葵はすぐに頭を下げた。「は、はじめまして。お会いできて光栄です」


しかし、近づいてくるにつれ、恵子の足取りは次第にゆっくりとしたものになった。


葵が顔を上げる。


恵子は彼女の顔をはっきりと捉えた瞬間、その青い瞳を大きく見開いた。


思わず、小さな息を漏らす。


「え?」葵は瞬きをした。相手の突然の反応に、再び緊張が蘇る。


恵子は唇を少し開けたまま立ち尽くし、目の前の少女をじっと見つめ続けていた。


まさか……。彼女の思考が駆け巡る。この子は……本当にあの子なのか?


「母さん?」


恵子は激しく瞬きをした。「あ、ええ?!」


彼女は、眉をひそめて自分を見つめるライトの方を向いた。


そして再び葵に視線を戻す。少女は不安げに彼女を見つめていた。何か悪い第一印象を与えてしまったのではないかと、すでに心配しているような表情だった。


恵子の表情が和らぐ。その唇に、温かな笑みが広がった。


「ごめんなさいね。ちょっと……ぼんやりしちゃって」


彼女の目尻が優しく下がる。「あなたが葵ちゃんね」


葵は安堵の息を小さく漏らし、再び頭を下げた。


「は、はい! 桜庭葵と申します。小夜鳴(さよなき)高校の一年生で、ライトの友達でありクラスメートです、風早さん」


恵子は小さく笑いながら歩み寄り、安心させるように葵の肩に手を置いた。


「そんなに堅苦しくしなくていいのよ」


恵子が軽く会釈をすると、葵はゆっくりと背筋を伸ばした。


「ライトがお世話になっています。彼があなたに迷惑をかけていなければいいのだけれど」


葵は落ち着かない様子でそわそわと身じろぎし、もう一度お辞儀をした。「い、いえ、とんでもないです!」


「母さん……」ライトは頬を赤らめながら、うんざりしたように声を漏らした。


恵子は笑いながら姿勢を正した。「あら、だって確認しておかないと。家でもいつも心を閉ざしているような態度なんだから」


彼女はさらに口元を緩め、こう付け加えた。「それに、あなたが彼女に対してひどい態度をとっていたことも忘れてないわよ」


「わざわざ言わなくてもいいだろ、それ……」ライトは顔を覆い、恥ずかしさで消え入りそうな様子だった。


二人のやり取りに、葵は小さく笑みをこぼした。本当に、私のことを話してくれていたんだ……。


恵子は再び微笑むと、葵の方を向いて家の中へと促した。


「さあ、入って。中へどうぞ。ようこそ、こんな家だけど」


「ありがとうございます、風早さん」葵は丁寧に微笑んだ。


「いいのよ」恵子は温かい笑みを浮かべ、遠慮はいらないと手を振った。「恵子さんって呼んで。そうしてもらえると嬉しいわ」


葵はまばたきをし、頬を赤らめた。「わ、わかりました……恵子さん」


そのぎこちなくも丁寧な呼び方に、恵子はくすりと笑った。


葵は恥ずかしそうに視線を落とし、手にしたギフトバッグをぎゅっと握りしめた。


「わ、私……あの……これ、お持ちしたんです……」


葵が美しくラッピングされた袋を差し出すと、恵子の目はたちまち輝きを帯びた。


「あらまあ! 本当にありがとう。気を使わなくてよかったのに、わざわざ用意してくれて」


「い、いえ……」葵は頬を熱くした。「……どうしても、お渡ししたかったんです。恵子さんに」


彼女は温かい笑みを向けた。「こんなに素敵な息子さんを育ててくださって、ありがとうございます。ライトくんは、私にとって本当に素晴らしい友達なんです」


その言葉に、ライトは頬を真っ赤に染め、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。


恵子もまた頬を上気させ、嬉しそうに目を輝かせた。「なんていい子なの! 本当に可愛らしいわねえ!」


葵が反応する間もなく、恵子は彼女をぎゅっと抱きしめた。


「母さん、落ち着いてよ」ライトはため息をつきながら、母が愛情たっぷりに葵を抱きしめる様子を眺めていた。葵は驚いてまばたきをした後、くすくすと柔らかく笑い出した。


ケイコはすぐに彼女を解放したが、今度はその手を取って家の奥へと案内した。


「父さんは?」と、ライトは二人の後について歩きながら、あたりを見回して尋ねた。


「ちょっと出かけてるの。もうすぐ戻るわよ」とケイコが答えた。


「わかった」ライトは頷いた。


「おや~? ついにアオイちゃんが来たんだね~!」


突然聞こえてきた陽気な声に、ライトは呆れたような声を漏らした。


三人が振り返ると、家の別の場所からリョウがのんびりと歩いてきており、その傍らではジュンが嬉しそうに歩調を合わせていた。


アオイの目がすぐに輝いた。「ジュン!」


「ワン!」と興奮気味に吠えると、その犬は彼女に向かってまっしぐらに駆け寄ってきた。


アオイはすぐに膝をついて迎え入れ、ジュンは熱心に彼女の顔を舐めた。


アオイはくすりと笑った。「私も会えて嬉しいよ、相棒」


ケイコは何かを察したような笑みを浮かべてライトを見た。ライトはすぐに顔を背けたが、その頬はほんのりと赤らんでいた。


リョウはわざとらしく胸に手を当て、不満そうなふりをした。「へえ、俺は犬より格下ってわけか?」


彼は大げさなため息をついた。「先輩へのまともな挨拶すらないなんてね」


アオイは笑顔で彼を見上げた。「やあ、リョウ先輩。私も会えて嬉しいです」


リョウの顔がすぐにパッと明るくなった。「やった~!」


彼は一瞬言葉を切り、彼女をじろりと眺めた。「うわっ、アオイちゃん。すごく素敵だね~!」


彼の笑みがさらに広がった。「こんなにおしゃれした姿が見られるとは思わなかったよ。すごく可愛いね~!」


アオイが恥ずかしそうに頬を赤らめて視線を落とすと、ジュンが彼女の頬に鼻先をすり寄せた。


「リョウ……」ライトが呆れたような声を出した。


「何?」リョウは無邪気に笑った。「だって、すごく可愛いんだもん~!」


「はいはい、リョウ。そこまでにして」ケイコはくすりと笑いながらダイニングルームへと向かった。「テーブルの準備を手伝ってちょうだい」


「わかった、母さん」リョウも笑いながら彼女の後についていった。


葵は慎重に立ち上がると、一歩前に出た。「わ、私も手伝ってもいいですか?」


恵子はすぐに彼女の方を向き、首を横に振った。


「だめだめ、とんでもない!」


葵が何か言う間もなく、恵子は素早く彼女のそばに歩み寄り、優しく背中を押してライトの方へと促した。


「それより、あなたはしばらくライトと一緒にいるといいわ」


「えっ?!」ライトの頬が一瞬で赤く染まった。


「ああ、それがいいな」涼は顎に指を当て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。「弟よ、彼女を自分の部屋に連れて行ってやったらどうだ?」


「何言ってんだ、バカ!」その提案に、ライトの顔はさらに真っ赤になった。


「いいわね!」恵子は勢いよく親指を立てた。「こっちはどうせ騒がしくなるし、夕食の準備ができるまで二人は上で過ごせばいいわ」


「ちょっと待ってよ!」ただでさえ赤いライトの顔が、さらに赤くなった。「なんで母さんがそれに全面的に賛成するんだよ?!」


恵子は涼と面白がるような笑みを交わし、ただ肩をすくめた。


「大丈夫ですよ」葵がそう言うと、全員の視線が彼女に集まった。


彼女はライトをちらりと見てから、小さく微笑んで続けた。「それに、あなたは私の部屋に来たことがあるんだから、そんなに大騒ぎすることでもないでしょう?」


恵子は興味津々といった様子で目を丸くした。


「彼女の部屋に行ったことがあるの?!!」恵子は顔を輝かせ、甲高い声を上げた。


「あれは一度きりのことだろ!」ライトはパニックになって腕を振り回した。「あの時、お前が熱を出してたから! 薬とか届けに、アヤネたちと一緒に行っただけだって!」


「ああ……」リョウは何かを思い出したように指を鳴らした。「あの時、白い袋を持ってたのはそういうわけだったんだな。何が入ってるのかと思ってたよ」


いい加減にしろ、この無神経な馬鹿! ライトは白目を剥くような勢いで彼を睨みつけた。


彼は拳を握りしめる。「もう、本当に!」


呆れたように息を吐き出すと、ライトは優しくアオイの腕を掴んだ。


「行くぞ」


「あ、あの……っ!」ライトに促されて階段の方へ歩き出しながら、アオイは言葉を詰まらせた。


「んー……」リョウの瞳に悪戯っぽい光が宿る。「どうだ? レイナも誘ってみようか?」


その突然の提案に、ライトは足を止めた。彼はアオイの手を離すと、素早く弟の方を振り返った。


「一体どういうつもりだ!?」


「いや、なんとなく」リョウは無邪気な笑みを浮かべ、肩をすくめた。「レイナもいた方がいいんじゃないかと思ってさ~! だって――」


「だめだ! 絶対に!」ライトは即座に拒絶した。「この夕食はアオイのため、アオイのためだけのものなんだ。レイナを巻き込むな」


「なんで?」リョウの口元の笑みが深まる。「俺たちに散々からかわれるのが怖いとか?」


「リョウ!」ライトは頬を真っ赤に染めながら、唸るように言った。


リョウは吹き出した。「冗談だよ、弟くん」


ライトはもう一度低く唸ると、背を向けて階段を上り始めた。


「行くぞ、アオイ」


「う、うん」彼女は頷き、急いで彼を追った。


二人が階段の向こうへ消えていくのを、ケイコとリョウは見送った。


二人の姿が見えなくなった瞬間、彼らは悪戯っぽく笑い合い、無言のまま手首を絡め合わせて勝利のポーズを決めた。


..........................


自分の部屋へと向かう間も、ライトの頬はまだ赤らんでいた。


(嘘だろ……!?)心の中でパニックになる。(どうしてこうなったんだ!? あのバカ、リョウのせいで! 本当にムカつく!!)


リョウのニヤついた顔が脳裏をよぎり、思わず低い声で悪態をつく。


ふと葵の方を振り返ると、彼女は静かな興味を抱きながら周囲を見回していた。好奇心を湛えた笑みを浮かべ、家の中のあちこちに視線を走らせている。


(まあ、彼女は全く気にしてないみたいだけど)


ドアの前で立ち止まると、彼の口元に小さな笑みが浮かんだ。


「ここが……俺の部屋」そう小さく呟きながらドアを開け放つ。


「わあ……」葵は感嘆の声を漏らし、目を輝かせながら足を踏み入れた。


彼女の視線は、きれいに整頓された本棚や机、丁寧に整えられたベッドの上を巡っていく。


「大したものじゃないけど……」ライトは照れくさそうに首の後ろをさすりながら言った。


「シンプルで、きれいで、飾り気がない」葵は温かい笑みを浮かべて彼を見た。「あなたそのものね」


その言葉に、ライトの頬はさらに赤く染まり、心臓の鼓動が速まった。


「待って……飾り気がない?」彼は片方の眉を上げた。


「退屈って意味じゃないのよ」葵はすぐに言い直し、本棚の方へと歩み寄った。「シンプルで、好感が持てるってこと」


彼女は彼を振り返った。「そういうところ、好きだな」


ライトの心臓が跳ねた。葵が再び本棚に向き直り、心からの感嘆を込めて目を輝かせる中、彼の頬は真っ赤に染まっていた。


(彼女は本当に、自分が俺にどんな影響を与えてるか分かってないんだから……)


ライトは照れくさそうに笑い、首の後ろをさすったまま彼女に近づいた。


(今朝、念入りに片付けておいてよかった)彼は安堵の息を漏らした。(本当によかった……)


「ん?」


葵は、他の本に挟まれるようにして置かれた黒い本に目を留めた。彼女は慎重にそれを本棚から引き抜き、手の中で裏返してみた。


「これ、何?」彼女は表紙を見つめながら尋ねた。


「あ、えっと……」ライトは素早く彼女の隣に歩み寄った。「それは俺の、えーと……卒業アルバムで……」


葵は好奇心に瞳を輝かせながら、彼をちらりと見た。「見てもいい?」


気まずさからライトは眉をひそめ、こめかみを一筋の汗が伝い落ちた。


「…………」


葵の笑い声が、静かな部屋に柔らかく響いた。


ベッドの縁に背を預けて床に座り込んだ彼女は、他の生徒たちに混じって写るライトの中学時代の写真を見つめ、こみ上げる笑いを必死にこらえていた。


彼女が笑い続ける中、ライトは顔を背け、頬を赤らめた。


「あー、まあ、今は好きなだけ笑ってればいいさ」と彼はつぶやいた。


「でも、すごく面白いよ、ライト!」葵はくすくすと笑った。「ほら、お菓子を誰かに取られちゃったみたいな顔してる。この写真、ほとんど不機嫌そうな顔だもん」


「写真、苦手なんだよな……」葵がページをめくる横で、ライトはそうつぶやいた。


その時、彼女の視線がある二人の見覚えのある顔に留まった。


「ちょっと待って! これって、ミツルとリクヤじゃない?!」


「うん」ライトは頷いた。「小学校も中学校も一緒だったんだ。子供の頃からの友達だよ」


「そうなんだ……」葵は微笑みながら、再び写真に目を向けた。


そこにはミツルとリクヤの中学時代の写真が並んでいた。ミツルはいつものお調子者らしい笑顔でピースサインをしていたが、リクヤはもっと落ち着いた表情を浮かべていた。


「ミツルって、あのふざけた笑顔は昔から変わらないんだね」葵は微笑んでから、写真に顔を近づけた。「あれ……ここの瞳、黒いよ」


「そうなんだ」ライトは同意した。


葵は驚いた様子で彼を見た。「てっきり、深紅の瞳をしてるんだと思ってた!」


「あれはコンタクトだよ」ライトは答えた。「やめとけって言ったんだけど、高校生活の間は憧れのアイドルのスタイルを貫きたいって言っててさ」


「だから、メッシュの入った前髪と、ジン先輩みたいな深紅の瞳なんだね。なるほど」葵は柔らかく微笑みながら、再び写真へと視線を戻した。 「まあ、陸也は普通みたいだな。眼鏡もかけてるし」


ライトは頷いた。「ああ。でも、子供の頃の陸也は今より少しぽっちゃりしてたんだ」


「本当に!?」


「ああ」ライトはにやりと笑いながらページをめくった。そこには、幼い頃のライト、ミツル、そして今よりずっとふっくらしていたリクヤの3人が、カメラに向かって満面の笑みを浮かべている写真があった。


アオイは目を輝かせ、鼻で小さく笑ってからクスクスと声を立てた。


「このこと、あいつには内緒だよ」ライトは苦笑混じりに言った。「自分からはあまり話さないんだ。たぶん、アヤネにもまだ言ってないと思うし」


アオイはすぐに指で口元にチャックをする仕草をし、茶目っ気たっぷりに頷いた。


「秘密は守るよ」


彼女は再び写真に視線を戻した。その瞳は輝き、顔には明るい笑みが広がっていた。


ライトは彼女を横目で見つめ、頬をほんのりと赤らめた。


彼女の笑顔を見られて本当によかった――そう思いながら、彼自身も穏やかな笑みを浮かべた。今のこの関係……。


彼は彼女を見つめ続け、その顔全体を明るく照らすような穏やかな笑顔を静かに心に刻んだ。


この時間が終わってほしくない……。


「ん?」アオイは、ページの隙間から2枚の写真が滑り落ちるのに気づき、まばたきをした。「これ、何?」


彼女が慎重にそれらを取り出すと、見覚えのある写真だと気づき、目を大きく見開いた。


「あ……えっと……」ライトは言葉に詰まった。アオイが何かを察したような笑みを浮かべて自分を見上げてきたため、頬が熱くなるのを感じた。


「いい感じだね」彼女はクスクスと笑った。


「何が?」ライトは少し不服そうに言った。「ヒカルが、月守村で撮った写真を俺たち全員にくれたんだよ」


彼は視線をそらした。「俺……気に入ってるんだ」


「うん」アオイの笑みがさらに深まった。「でも、私が言ってるのはこっちの写真のこと」


彼女は2枚目の写真を掲げた。それは、月守村へ向かう電車の中で、彼女がライトの肩に寄りかかって眠り、ライトの頬が彼女の頭に触れている写真だった。


「ヒカルに写真を頼んだのは私だけど……」彼女の笑みは優しげなものに変わった。「あなたは興味なさそうだったから」


「だから何だよ?」ライトは鼻で笑いながら、よく見ようと身を乗り出した。「後で見せてって頼んだだけだろ。大したことじゃないし」


写真に目を落とすと、彼の表情が和らいだ。「俺もこれ、好きだな。……可愛いと思う」


葵が彼の方を向くと、二人の視線が絡み合い、彼女の瞳がきらりと輝いた。ライトは思わず息を呑み、頬をさらに赤らめた。


ほんの一瞬の間をおいて、葵は再び写真へと視線を戻した。


「うん、そうだね」彼女は頬をほんのりピンク色に染め、小さく微笑みながら呟いた。


彼女の素直な言葉にライトの鼓動が高鳴り、彼もまた口元に小さな笑みを浮かべた。


その時、開いたドアからリョウがゆっくりと顔を覗かせた。二人の様子を眺める彼の口元には、ニヤニヤとした笑みが広がっていく。


「よっ、二人とも~!」と彼は軽快に声をかけた。


「今度は何だよ?」ライトが眉をひそめる中、リョウは飲み物とお菓子の乗ったトレイを運びながら、目を細めた満面の笑みで部屋に入ってきた。


「母さんがこれ、持って行ってってさ~」彼は上機嫌な表情のまま歩み寄ってきた。「リラックスできるように、ちょっとしたおつまみでも食べなさいって」


「ありがとうございます、リョウ先輩」葵は笑顔でトレイを受け取った。


「どういたしまして~!」リョウは満面の笑みで、元気よくOKサインを出した。


「で、出てってくれ」ライトが呟く。


「はいはい、わかったよ」リョウはクスクスと笑いながらドアの方を向いた。


だが、出ていく前に、彼の視線は葵の膝の上に置かれた卒業アルバムに留まった。


「あれ、それってライトの卒業アルバムじゃない?」彼の顔に、再びニヤニヤとした笑みが戻る。


「おい!」


「うん」葵は全く動じることなく頷いた。「ライトの思い出がいっぱい詰まった、いい写真がたくさんあるの」


彼女の笑顔が優しくなる。「すごく素敵だよね」


彼女の言葉にリョウはまばたきをし、彼自身の表情も穏やかなものになった。「ああ」


すると、彼の笑顔が急にパッと明るくなった。「ねえ、後でライトの子供の頃の写真も見てみたらどうかな!」


「本当!?」葵の瞳が好奇心で輝いた。


「いや、そんなことないよ!」と、ライトは即座に反論した。


「本当、見る価値あるよ」リョウの笑みがさらに深まる。「それに、すごく可愛いんだ〜! 俺の弟、赤ちゃんの頃は最高に可愛かったからな〜!」


「誰も聞いてないだろ!」ライトは顔を赤らめながらリョウの肩を掴み、入り口の方へと押しやった。「ほら、出てって!」


「わかった、わかったよ」リョウはくすりと笑い、ライトと共にドアのそばで足を止めた。彼は弟の方を向き、いつものからかうような笑みを、穏やかな微笑みへと変えた。


「でも正直、お前、彼女をあんなふうに笑顔にできててすごいよな」


不意を突かれた言葉に、ライトは瞬きをした。


彼はちらりとアオイに視線をやった。彼女の視線は写真に戻っていたが、その顔には穏やかな笑みが浮かんだままだった。


彼の口元にも、小さな笑みが浮かぶ。「ああ」


リョウは優しく微笑んでから、背を向けた。「母さんの手伝いの続きをしてくるわ」そう言って、振り返ることなく手を振った。


ライトは彼が遠ざかっていくのを眺めながら、鼻歌交じりに呟いた。


「バカ……」小さな笑みを浮かべてため息をつくと、彼は部屋に戻り、アオイの隣に座った。


「何も食べないの?」手つかずのままのおやつを見つめながら、彼は尋ねた。


アオイは彼を見上げた。「あ、えっと……ライトが戻ってくるのを待ってたの。一緒に食べようと思って」


ライトは片方の眉を上げた。「でも、お前は客だろ」


「それでも……」アオイは少し恥ずかしそうに頬を膨らませた。


ライトはため息をついた。「バカだな……さっさと食べろよ」


彼はキャンディを一つ手に取ると、そっと彼女の口に放り込んだ。


アオイは驚いて瞬きをした。「ちょっと!」


お菓子を噛みながら言ったため、彼女の言葉は少しこもった響きになった。ライトはくすりと笑うと、自分も一つ口に入れ、飲み物を一口飲んだ。


アオイのふざけたような不満げな表情はすぐに笑顔へと変わり、彼女も自分のグラスを手に取って一口飲んだ。


「あ!」彼女の目が輝いた。「このオレンジジュース、おいしい〜!」


「当たり前だろ」ライトは笑った。「今夜お前が来るって聞いて、母さんが特別甘く作ったんだから」


彼は冷や汗をかきながら、ちらりと横に視線をやった。「……確かに、料理に関してはちょっと張り切りすぎたかもね」


葵はくすりと笑うと、再びジュースに目を向け、もう一口飲んだ。


ちょうど飲み干そうとしたその時、家の前に車が到着するエンジン音が室内に響いた。


「ん?」と声を漏らし、ライトは立ち上がって窓の方へと歩き出した。


「あ、父さんだ。ちょうどいいタイミングだね」


彼は、背の高い男性が前庭に車を停め、外に出てくる様子を眺めていた。


葵はすぐに立ち上がり、スカートの裾を整えながら、高鳴る胸の鼓動を感じていた。


「そ、それじゃあ、挨拶して自己紹介しなきゃ」


ライトは彼女の方へ歩み寄りながら、小さく笑みを浮かべた。「ああ。でも、そんなに堅苦しく考えなくていいよ」


彼は彼女の目の前で立ち止まり、表情を和らげた。「母さんと同じで、父さんも君に会えるのをすごく楽しみにしてるんだ」


葵は頷いた。「うん」


「行こうか」


葵がもう一度頷くと、二人は揃って部屋を出た。


.....................


「あ、おかえり、お父さん!」宗四郎が玄関のドアを閉めると、亮が満面の笑みで声をかけた。


「ああ」宗四郎は片手に白い袋を提げたまま、靴を脱ぎ捨てた。「母さんが卵が必要だって言うから、買ってきたんだ」


「あら、あなた」キッチンのカウンター越しに、恵子がくすりと笑った。「今すぐ必要ってわけじゃなかったのよ」


さっき独り言でつぶやいたのを、ちゃんと聞いていてくれたのね――恵子は目を細めて微笑んだ。だから、この人のことが大好きなのよね。


「まあ、どのみち補充は必要だったしな」宗四郎は一歩踏み出したが、ふと足を止めた。


「おや」視線を玄関の方へ向ける。「あれは誰の靴だ?」


顔を上げる。「ライトの友達の、アオイちゃん……もう来てるのか?」


「ええ」恵子は階段の方に目をやりながら頷いた。「ライト! お父さんが帰ってきたわよ。ご飯もできてるわ」


「今降りるよ!」ライトが声を返した。


宗四郎は目を閉じたまま、ふうと息を吐き、家の奥へと歩みを進めた。


「疲れたな。亮、これを冷蔵庫に入れるのを手伝ってくれ」


「わかった」亮が彼の方へ歩み寄ると同時に、ライトとアオイが階段を降りてきた。


「あ、お父さん」最後の段から降りながら、ライトが声をかけた。「おかえり」


「ああ」宗四郎はまだ目を開けないまま、そばに寄ってきた亮に白い袋を差し出した。


「こっちが友達のアオイ」ライトが脇に寄り、アオイを前に促した。


彼女は慎重に最後の段から降りると、丁寧に頭を下げた。


「こんにちは……はじめまして。ライトの友達でクラスメートの、桜庭アオイと申します」


「あ、どうも……」宗四郎はようやく目を開いた。


それと同時に、葵がゆっくりと顔を上げ、彼にその素顔をさらけ出した。


彼女の姿を目にした瞬間、宗四郎は動きを止めた。驚きに目を見開き、半ば開いた唇から小さく息が漏れる。


白い袋を握りしめていた指の力が、ゆっくりと緩んでいく。


遼がそれを受け取ろうと手を伸ばしたまさにその時、袋は宗四郎の手から滑り落ち、床へと落下した。


「え?」遼は驚いて瞬きをした。


「あれ?」恵子とライトも、戸惑った様子で顔を見合わせた。


宗四郎は何も答えなかった。驚きと懐かしさが入り混じったような表情を浮かべ、彼は葵を見つめながら、その茶色い瞳を揺らしていた。


葵もまた、彼の反応に戸惑いを隠せない様子で、ただ彼を見つめ返すことしかできなかった。


その濃紺の髪……淡いラベンダー色の瞳……それらは、宗四郎が何年も思い出すことのなかった記憶を呼び覚ました。


愛子……


彼が彼女を見つめ続ける中、部屋には静寂が満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。