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ブルーストーム シーズン2  作者: Fawole Oluwaseyi


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第12章:謝罪する勇気

「私はずっと、身の回りの物事に対して中立だった……」


広大で薄暗い空間に、幼い頃の彼女が一人佇む中、静香のモノローグが響く。彼女の周りでは、半透明の影のような人々が音もなく行き交っていた。まるで彼女の姿が見えていないかのように。


「何事にも動じなかった……」


影たちは通り過ぎていく。


「……流行も、務めも、何もかも」


幼い頃の彼女は静かに立ち尽くし、その表情は穏やかでありながら、何を考えているのか読み取れないものだった。


「一族の――『黒鉄(くろがね)一族』の部下たちからは、いつも『無関心な子供』だと言われていた」


暗闇に微かな風が吹き抜け、彼女の髪を優しく揺らした。


「両親はありのままの私を受け入れてくれたけれど……それでも私は変わらなかった」


幼い頃の彼女は、少しだけ視線を落とした。「私が心を向けたのは、好きなことだけ……」


彼女の手の中に、スケッチブックが現れる。


「……絵を描くこと」


場面が変わる。


誰もいない部屋で、彼女は優雅に身を翻す。自分にしか聞こえない音楽に合わせ、その動きは自然な流れを描いていた。


「……そして、踊ること」


暗闇が消え去っていく。


今の静香は、見慣れた小夜鳴(さよなき)高校の門の前に立っていた。リュックの肩紐を両手で緩く持ち、校舎を見上げている。


ふと、楽しげな笑い声が耳に届いた。


「ねえ、お姉ちゃん!」


ピンク色の髪をした人影が彼女の横を駆け抜け、数歩先で立ち止まった。


さやかが振り返り、風に髪をなびかせながら、静香に向けて茶目っ気たっぷりの満面の笑みを浮かべた。彼女は手を差し伸べる。


静香の濃い紫色の瞳が、わずかに見開かれた。


彼女の視線は、さやかの隣に立つ他の仲間たち――それぞれが明るい笑顔や悪戯っぽい笑みを浮かべた、新しい友人たち――へと移る。


そして、その視線は一人の少年に留まった。


和樹だ。彼は目を細めてとびきりの笑顔を見せ、無造作に両腕を頭の後ろで組んでいた。


静香の瞳の奥で、何かがきらりと揺れた。


ゆっくりと、彼女は手を伸ばす。その手が、さやかの手と重なった。


「ほら、行こう!」


さやかはすぐに身を翻すと、静香の手を引いて学校の方へと歩き出した。他の仲間たちもそれに続く。


静香は一瞬彼らの背中を見つめ、やがて小さく微笑んだ。


「でも、小夜鳴(さよなき)高校に入ってからは……」


記憶の断片が、次々と脳裏をよぎる。


葵たちと過ごした時間。笑い声。特訓。言い合い。


ささやかで平凡な瞬間が、いつの間にか彼女にとってかけがえのないものになっていた。


「……いろんな感情を、見せるようになったの」


また別の記憶が蘇る。


友人たちに囲まれ、一緒に笑い合う静香の姿。


「素敵な友達ができて……」


葵が彼女に向かって微笑む。


「……楽しかった」


記憶の中で、和樹の笑い声が響く。


「すごく、楽しかった」


場面が、再び切り替わった。


静香と一樹は広い空間に並び立ち、完璧なリズムに合わせてブレイクダンスを踊っていた。


回転し、ステップを踏み、笑い合う。


互いが次に何をするか言葉にする必要などなく、その動きは自然に溶け合っていた。


「ダンスのパートナーもいたんだ……」


一樹が手を差し出し、静香がそれに応える。


二人は満面の笑みを浮かべたまま、踊り続けた。


「……私と同じくらい、ダンスを愛する人が」


記憶はゆっくりと薄れ、それに伴って二人の笑い声も消えていった。


光景は闇へと溶け込んでいく。


「でも今は……」彼女の声は和らぎ、そこには微かな哀愁が滲んでいた。


……………..


「よし、みんな」


放課後を告げるチャイムが鳴る中、教室に新(あらた)の穏やかな声が響いた。


「続きはまた明日やろう」


「はい!」とクラス全員が声を揃える。


新は微笑みながら、机の上の私物をまとめ始めた。生徒たちが帰りの支度を始める中、ふと彼は顔を上げた。


「葵(あおい)? ちょっとこっちに来てくれるか」


「はい」葵は、それまで話し込んでいた彩音(あやね)のそばを離れ、新の机へと歩み寄った。


一方、静香は席に座ったまま、いつもの無表情な様子で静かに教科書を片付けていた。机の上に置いたリュックに、持ち物を丁寧に収めていく。


やがて、彼女の視線は教室の中をさまよった。


一樹は自分の机の横に立ち、ヒカルと楽しげに笑い合っていた。


静はしばらく彼を見つめていた。ふと和樹がこちらに視線を向けたとき、なぜか彼女の心臓がどきりと跳ねた。


二人の視線が重なる。


静は瞬きをした。頬がほんのりと赤らむ。


彼女はすぐに視線を逸らし、胸の高鳴りを落ち着かせようとした。


やがて、和樹が歩み寄ってきた。「よっ、静」


彼女は顔を上げて彼を見た。「……和樹」声はいつもより小さかった。


「悪いんだけど」和樹は気まずそうに首の後ろをさすった。「さっき言い忘れてたんだけど……」


彼は一瞬言葉をためらった。「今日は俺抜きでやってくれるか?」


静の表情は変わらなかった。


「放課後、湊先輩と出かけることになったんだ」


彼女の表情がわずかに曇る。「そっか……」視線が机に落ちる。「じゃあ……来ないんだね」


和樹は頬をかいた。「ああ、ごめん。湊先輩に誘われちゃって」


静は手元の本を見つめた。またダンスの練習をすっぽかすんだ……。


彼女の指が本の表紙をぎゅっと掴む。


一瞬、沈黙が流れた。そして――


「わかった」彼女は本をリュックにしまった。「いいよ」


声のトーンは、さっきよりも明らかに抑揚がなくなっていた。


「え?」和樹は瞬きをした。


静は立ち上がり、残りの本をリュックに詰めると、ジッパーを閉めた。


それを背負い、肩紐の位置を直す。


「じゃあね」彼女はそれ以上何も言わず、彼の横を通り過ぎた。


「静?」


彼女は立ち止まらなかった。


近くで様子を見ていたさやかが、すぐに席から立ち上がった。


「お姉ちゃん!」


静はそのままドアの方へ歩いていく。


さやかは少し頬を膨らませた。「お姉ちゃんってば!」


それでも反応はなかった。


さやかがリュックを肩にしっかりと背負い直しながら、和樹の横を通り過ぎた。


彼女はふと足を止め、彼を鋭い目つきで見つめた。


「本当にバカね」


そう言うと、彼女はくるりと背を向け、教室から出て行った。


「え?」和樹はまたしても瞬きをした。


彼は呆気にとられた表情のまま、しばらくその場に立ち尽くし、入り口の方を見つめていた。


そのやり取りを見ていた新(あらた)もまた、瞬きをした。


「今の、何だったんだ?」彼は怪訝そうに眉を寄せた。


机の横に立っていた葵は、小さく鼻歌のような声を漏らした。


彼女の視線は、まだ戸惑った様子でドアを見つめている和樹の方へと向けられた。


……………..


静(しずか)はリュックの肩紐を握りしめながら、廊下を歩いていた。


彼がこんなことをするのは、今日で二日目だ……。


彼女は小さく息を吐き、視線を落とした。私と一緒にいるより、湊(みなと)先輩と一緒にいる方が楽しいんだ……。


彼女の唇がかすかに震えた。だって……彼は、私が物心ついた頃からの憧れの人なんだから。


彼女はさらに視線を落とした。それに、今や二人は親しい仲だし……。


胸の奥に、鈍い痛みが広がった。もう、私みたいな人間は必要ないのかもしれない。


「お姉ちゃん!」さやかの声に、彼女は我に返った。


静が振り返ると、双子の妹が追いついてくるところだった。


「静……」


「あ、さやか」静は歩調を緩めて立ち止まり、穏やかな表情で妹の方を向いた。「ごめんね。さっき、待ってなくて」


さやかの琥珀色の瞳が優しく和らいだ。「お姉ちゃん……私、わかってるよ」


静は瞬きをした。


「和樹のことで、そんな風になってるんでしょ?」


静は黙ったままだった。


さやかは小さな拳を握りしめた。「言いたいことを言って、彼に立ち向かったっていいんだよ。彼のやってること、不公平だもん」


静は首を横に振った。 「いや、さやか。俺にはできない」


彼女は窓の方へ視線を移した。「どのみち、変わりはないわ」


その声は穏やかなままだった。「カズキはずっと、ミナト先輩に憧れてたから。それに、今はもう友達だし……」


彼女の唇に、かすかな笑みが浮かんだ。「ずっと尊敬していた人と、ようやく一緒に過ごせるようになったのよ」


サヤカは眉をひそめた。「でも、それにしたって……」


「それにね……」シズカは優しく言葉を遮った。「二人の予定に、私が割り込むわけにはいかないもの」


彼女はサヤカに視線を向けた。「男同士なんだから」


サヤカは片眉を上げた。「そうだけど、もし彼がずっとこんな調子だったら……」彼女は腕を組んだ。「……それって、あんたの予定の邪魔にもなるんじゃない?」


シズカは少しの間、彼女を見つめた。やがて、唇に薄い笑みを浮かべる。


「大丈夫よ、サヤカ」その声は柔らかく、安心させるような響きを帯びていた。「私は平気だから」


サヤカはわずかに目を見開いた。


彼女が何か言い返すより早く、シズカは向き直り、歩き出した。


数歩進んだところで、誰かとぶつかりそうになる。


「おっと。ごめんね」


シズカは顔を上げた。優しく微笑みかけてくる見覚えのある顔に、彼女は少しだけ目を見開く。


「ミナト先輩」彼女はすぐに姿勢を正し、軽く会釈した。「すみません。気づかなくて」


ミナトはくすりと笑った。「いいよ」彼は少し首を傾げる。「えーと……シズカちゃんだよね?」


「はい」シズカはもう一度会釈した。「失礼します」


彼女はそれ以上何も言わず、彼の横を通り過ぎていった。その表情は、いつもの何事も感じさせない無表情に戻っていた。


ミナトは、彼女が廊下の向こうへ消えていくのを見送った。


「あれ?」彼は頭の横をさすった。「なんか、様子がおかしかったような……」


サヤカが彼の方へ歩み寄ってきた。その視線は、まだ姉の姿を追っていた。


「ねえ、サヤカ」ミナトはピンク色の髪の少女に目を向け、片眉を上げた。「シズカちゃん、大丈夫かな?」


サヤカはゆっくりと、彼を見上げた。彼女の表情は、これ以上ないほど無表情だった。


「彼女との約束をすっぽかして、別の用事を優先させたあの男に聞いてみなよ」


彼女はくるりと身を翻し、妹の後を追って数歩歩き出した。「そうすれば分かるから」


ミナトは瞬きをした。「え、ええっ?」


サヤカは肩越しに振り返った。「カズキよ」


彼女はそう短く告げると、前を向き、静香を追って走り出した。


ミナトはしばらくその場に立ち尽くし、頭の横に添えていた手をゆっくりと下ろした。


彼は眉をひそめる。「カズキ……?」


姉妹が消えていった廊下の先を、彼はちらりと見た。


それから首を振り、歩き出した。


しばらくして、彼は1年3組の教室に到着した。


「よっ! カズキはいるか?」と声をかけながら、引き戸を開ける。


その少年はすぐにドアの方を向き、顔を輝かせた。


「ここですよ、ミナト先輩!」


カズキがバックパックを掴んで駆け寄ってくると、ミナトは微笑んだ。


「準備はいいか?」


「もちろん!」カズキはにっこりと笑った。


ミナトも笑い返したが、その表情は少し柔らかいものになっていた。


サヤカの言葉が頭をよぎる。カズキ。


彼の視線は、一瞬その少年に留まった。


やがて、彼はその思考を無理やり振り払った。「よし。行こうか」


………………


「うわーい! やった!」


誰もいないスケートボードパークに、カズキの弾むような笑い声が響く。彼はボウルの傾斜面(トランジション)を駆け抜け、足元でボードを滑らかに走らせていた。


夕日がパークを温かく照らし、黄金色の光がコンクリートにきらめく中、カズキは傾斜面から宙へと飛び出した。


彼は素早くいくつかのトリックを決め、軽やかに着地した。首にかけたヘッドホンが、その動きに合わせて小さく揺れる。


「今の見ました、ミナト先輩!?」カズキは笑いながら、ミナトの方へと滑り戻ってきた。


ミナトはボウルの縁にあるコーピング(縁のパイプ)に腰掛け、温かい笑みを浮かべて彼を見守っていた。


「見たよ」少年の熱意に感心し、彼は微笑みを絶やさなかった。「上手くなってるな、カズキ」


「本当ですか!?」カズキの目が輝く。


「もちろんさ」ミナトはくすりと笑った。


カズキはにやりと笑うと、再び地面を蹴って滑り出した。


だが、彼が滑り去っていくのを見ながら、ミナトの笑みは次第に消えていった。サヤカの言葉が頭をよぎったからだ。


――彼女との約束を放り出して、別の用事を優先したあいつに聞いてみなよ。


そして、すれ違いざまに見せたシズカの表情を思い出した。


彼女は明らかに、何かを気に病んでいる様子だった。


「カズキ?」ミナトの声が公園に響いた。


年下の少年は空中で回転して鮮やかに着地すると、ミナトの方へ滑り戻ってきた。


「ん、ミナト先輩?」


ミナトは彼を見下ろした。その表情は、先ほどよりも少し真剣なものになっていた。


「お前……もしかして……その前にシズカと約束してたのか?」


不意を突かれたカズキは、きょとんとして瞬きをした。


「あー……うん、してたよ」彼は何気ない様子で、再びボウルの中を滑り始めた。「でも、放課後は先輩と会うって伝えてあったし」


ミナトはしばらく彼を見つめた。「彼女、それでいいって言ってたのか?」


カズキは軽く笑い飛ばすように言った。「もちろん、いいよって」


ミナトは目を細めた。「で、本当に納得してるように見えたか?」


カズキの動きが緩やかになった。


ボードが少し転がった後、彼はその場に止まった。


ミナトの方を見る。何か答えようと口を開きかけたが、言葉は出てこなかった。


彼の表情がゆっくりと変わっていく。


「俺は……」彼は自分のスケートボードに視線を落とした。「……そうは思わないかも」


ミナトはため息をつき、首を振った。「おい……それはやめとくべきだったな」


カズキは眉をひそめ、ミナトを見上げた。「なんで? 何がいけないの?」


ミナトは呆れたような、信じられないものを見るような目を向けた。「誰かと約束したら、それを守るようにしなきゃダメだろ」


彼の表情が少し和らいだ。「特に、もう約束しちゃってたんならなおさらな」


カズキは瞬きをした。「でも……先輩と遊ぶって言ったし」


「わかってるよ」ミナトはこめかみを揉んだ。「だが、それこそが問題なんだ」


彼は和樹を見下ろした。「こう考えてみて。」


和樹は首を傾げた。


「例えば、君と約束したとしよう。放課後一緒に遊ぼうって約束したんだ。」


湊は自分を指差した。「そしたら、別の友達に誘われて、君を置いて行っちゃったんだ。」


彼は片方の眉を上げた。「どう思う?」


和樹はしばらく彼を見つめた。「えっと…」彼はゆっくりと頬を掻いた。「嫌な気持ちになると思う。」


「その通り。」湊は腕を組んだ。「君より他の人を選んだって思うだろう。負け惜しみを言うだろうね。」


和樹は考え込みながら、少し目を細めた。


「つまり…」彼の表情がゆっくりと変わった。「傷つくと思う。」


湊は頷いた。「そうだね。」


和樹は声を小さくしながら続けた。 「それに、ちょっと裏切られたような…」


彼の目が大きく見開かれた。「特に、もう約束してたのに。」


湊は意味ありげな視線を向けた。「やっと分かったな。」


和樹は凍りついた。ようやく事態を理解し、目はさらに大きく見開かれた。


「えっ…」彼は視線を落とした。「僕、今、湊が言った通りのことを…静香にしてしまったの?」


「うん。」湊は頷いた。


和樹はスケートボードを見つめた。「僕が負け惜しみを言ってる…」


「その通り。」


和樹はゆっくりと首を横に振った。信じられないという表情が顔に浮かんだ。


「ああ、なんてことだ…」彼は片手で顔を覆った。「僕は一体何をしてしまったんだ?」


湊は表情を読み取れずに彼を見つめた。


「そんなつもりじゃなかったんだ…」和樹は声を落として続けた。「ただ、君と一緒にいるのがすごく楽しかったんだ。それだけだよ。」


「わかってるよ……」とミナトは答えた。


カズキは彼を見上げた。


「でもな、約束はちゃんと守らなきゃダメだぞ、カズキ」


ミナトの表情が和らいだ。「特に女の子との約束ならなおさらだ。シズカだって、本当はお前と一緒に過ごしたかったはずだよ。どんな予定だったにせよ、きっと楽しみにしてたんだから」


カズキは罪悪感に苛まれるような息を漏らし、両手で顔を覆った。


ミナトは考え込むように「うーん」と唸った。「ちょっと聞いていいか? お前、彼女との約束をすっぽかして、もうどれくらい経つんだ?」


カズキはゆっくりと手を下ろした。「……もう、二日くらい……」


ミナトは目を見開いた。「はあ?!」


突然の大声に、カズキは身を強張らせた。


「丸二日も、彼女との約束をすっぽかしてたってのか?!」


カズキは肩を落とし、その青い瞳には罪悪感が滲んでいた。


ミナトは呆れたように溜息をつき、うなだれた。


やがて彼は姿勢を正し、傍らにあったスケートボードを掴んだ。決意を込めた表情でボードに飛び乗ると、トランジションを滑り降り、カズキの目の前で止まった。


「カズキ……」彼の前で止まると、ミナトの声は優しくなっていた。「……自分がしたことの埋め合わせ、ちゃんとしないとな」


カズキは視線を落としたままだった。


「お前が……」ミナトはニヤリと笑った。「……俺と一緒にいたかったって気持ちはわかるよ。俺がお前の大好きなラッパーで、憧れの存在だからな」


彼の笑みが少し消えた。「でも、だからといって他の友達を犠牲にしちゃいけない」


カズキはゆっくりと顔を上げた。


「いいか。俺が『MAN X』だって知る前……」ミナトは優しい笑みを浮かべて続けた。「……お前、よくシズカと遊んでただろ?」


和樹は頷いた。「ほとんど毎回だね」。一呼吸置いて、彼は続けた。「彼女は俺のダンスパートナーなんだ」


「二人でよく踊ってたんだな」湊は微笑んだ。


和樹は再び頷く。「ああ。お互いダンスが好きだって分かってからは、いつも集まって一緒に技の練習をしてたんだ」


彼の視線が胸元に落ち、その表情に柔らかな笑みが浮かんだ。


「最高だったよ。ブレイクダンスも、技の数々も……すべてが完璧に噛み合ってた。本当に楽しかった」


「あの頃は、すごく幸せだったんだろ?」


和樹は頷いた。「ああ……」


その事実を噛みしめるように、彼の笑みはさらに優しくなった。「幸せだったよ」


湊はにやりと笑って頷いた。「その通りだ」


彼は軽く和樹の方を指さした。「和樹、静香はお前を幸せにしてくれてたんだ……たとえお前自身が完全には気づいていなかったとしてもな」


和樹の頬が赤らんだ。彼は唇をきゅっと結び、視線を落とした。


「メールしなきゃ」彼は急いでスマホを取り出した。「それに、謝らないと」


「バカ」


バシッ!


湊は和樹の後頭部を軽く叩いた。


「痛っ!」和樹が叩かれた場所をさすっていると、湊は腕を組んだ。


「謝るなら直接だ。本当に誰かに謝りたいなら、相手の目を見て言わなきゃダメだろ」


彼は自分の目に指を二本向け、それから和樹を指した。


「真っ直ぐ目を見れば、相手に本当の気持ちが伝わる。メールなんかよりずっと、お前の謝罪に重みがあるって分かってもらえるはずだ」


彼の顔に、再び小さな笑みが浮かんだ。


「それに、そうすれば……」彼の表情が和らぐ。「……心の底から、本気で謝ってるってことが伝わるからな」


和樹の唇が震え、目尻に涙が滲んだ。


「そうだな……」彼は小さく呟いた。


ミナトは微笑んだ。「いつでも付き合うよ」


その表情が優しく和らぐ。「でも、他の人たちとの絆をおろそかにしちゃダメだぞ。約束はちゃんと守るんだ」


カズキはこぼれそうになった涙を拭い、感謝を込めた小さな笑みをミナトに向けた。


「はい。本当にありがとうございます……ミナト先輩」


ミナトはにやりと笑い、手を伸ばしてカズキの髪をくしゃくしゃとかき回した。「それじゃあ……」


悪戯っぽく笑みを深める。「これを超えられるか試してみようか! 俺の奥の手みたいなもんだからな!」


カズキが返事をするより早く、ミナトはくるりと身を翻し、再び滑り出した。


カズキは瞬きをした。すぐに我に返ると、スケートボードを掴み、地面を蹴って彼を追いかけた。


「あ、待ってくださいよ、ミナト先輩!」


………….


「うーん……」カズキは考え込むように唸り、スマホの画面を見つめていた。


彼はベッドにうつ伏せになり、足元の方を向いて寝そべっていた。部屋着姿だ。


画面にはシズカの連絡先が表示されており、通話やメッセージの選択肢のすぐ上に彼女の名前があった。


彼の指が、迷うようにその上をさまよう。


数秒間、彼は動けずにいた。さっきのミナトの言葉が頭の中で響いていたからだ。


「真っ直ぐ目を見れば、本当の気持ちが伝わる。ただのメッセージなんかより、ずっと誠意がこもってるって分かってもらえるはずだ」


そう言われたのは分かってるけど……カズキは思いを巡らせ、ミナトの言葉を徐々に頭の隅へと追いやった。


シズカの無表情な顔が脳裏をよぎる。


だが、その見慣れた、何を考えているか分からない表情の奥に、彼女の瞳に浮かんでいた傷ついた色が思い浮かんだ。


俺、かなりひどいことをしちゃったな。視線を落とす。怖い……もう友達でいてくれないかもしれない。


カズキはうなだれ、小さく溜息をつきながら、ぎゅっと目を閉じた。


「ずっとスマホを眺めてるね」突然、背後から小さな声が聞こえた。


「うわっ!」と和樹は叫び、スマホを両手の間で弾ませてしまった。何度か手元で取りこぼしそうになりながら、ようやくそれをしっかりと掴み直す。


「ふぅ……」


彼は少し苛立ったような表情で、肩越しに後ろを振り返った。


彼の背中には、小さな影が乗っていた。


「カズマ、こんなところで何してるんだ?」とカズキは尋ねた。「勝手に俺の部屋に入ってくるなって、何度も言っただろ」


その七歳の少年は兄の背中から降りると、小さな足音を立てて床に立った。


少し乱れた茶色い髪と、穏やかな青い瞳で兄を見上げながら、カズマはベッドの足元に立っていた。


「ずっと後ろにいたんだよ、お兄ちゃん」とカズマは無邪気に説明した。「でも、スマホにすごく集中してたから、ゲームでもしてるのかなって思って」


彼は首を傾げた。「だから、何してるのか見ようと思って登ってみたの」


好奇心に満ちた、柔らかな表情だった。「何か悩み事?」


カズキは瞬きをし、静かに息を吐いた。


「何でもないよ」彼は無理やり小さな笑みを浮かべた。「気にしないで」


カズマもまた、瞬きを返した。


そして、間髪入れずにこう尋ねた。「シズカって誰?」


「え、ええっ!?」カズキは言葉を詰まらせた。


カズマは全く動じることなく続けた。「僕が背中に乗ってからずっと、お兄ちゃんが見つめてた名前だよ」


彼は再び首を傾げた。「女の子の名前?」


不意を突かれたカズキは、弟の方を向いて瞬きをした。


「もちろん女の子の名前だよ、バカだなぁ」開いたドアの方から、別の声が聞こえた。


兄弟は二人ともそちらを向いた。


ドア枠に寄りかかっていたのは、肩まである茶色い髪と穏やかな青い瞳を持つ、十三歳の少年だった。片手に本を持ち、視線はまだそのページに向けられている。鼻梁には眼鏡がきちんとかかっていた。


「厳密に言えば、男女兼用の名前だけどね」彼は何気ない仕草で眼鏡の位置を直しながら付け加えた。「その人の性別によるかな。もっとも、現代では比較的珍しいし、主に女性に使われる名前だけど」


カズキとカズマは、二人して苦笑いのような表情を浮かべた。


「で、何用だ? コウヤ」カズキは呆れたように目を回しながら尋ねた。


コウヤは本から顔を上げたが、その表情は無機質で、何を考えているのか読み取れなかった。


「母さんが、夕飯だから二人を呼んできてって」彼はページをめくった。「最初にカズマの部屋へ行ったんだけど、あいつはいなかった」


彼の視線が弟の方へと向いた。「だから、ここにいるんじゃないかと思ったんだ」


彼は眼鏡の位置を直した。「案の定だったよ」


「なるほどな……」一樹は片眉を上げると、上半身を起こし、ベッドの端に足を下ろした。


光也はようやく本を閉じた。「それはさておき、なんでスマホに出ていたあの女の子の名前に、あんなに気を取られていたんだ?」


一樹の頬が即座に赤らんだ。「な、なんで急に話を変えるんだよ!?」


光也は彼をじっと見つめた。


「じゃあ、やっぱり女の子なんだ?」和馬は興味深そうに一樹を見上げた。


「い、いや! いや、そうなんだけど……その……」一樹は苛立ちまぎれに髪をかき乱した。「もういいよ! お前らには関係ないことだ」


和馬の瞳が好奇心で輝いた。「彼女、恋人なの?」


一樹の顔が一気に真っ赤に染まった。「はあ!? 違うよ!」


光也がわずかに眉をひそめた。「前に言ってた子だろ? ダンスのパートナーの」


「ああ、そうだよ」一樹はため息をつき、上気していた表情を徐々に落ち着かせた。


「今度は何をしたんだ?」光也は目を細めて尋ねた。


「え?」一樹は彼を見て瞬きをした。


「浮かない顔をしてるのは、彼女に何か悪いことをしたからだろ?」光也は腕を組んだ。


一樹は目を見開いた。


和馬が光也の方を向いた。「どうしてわかるの?」


光也は彼に視線を落とした。「だって、うちの兄貴が浮かない顔なんてめったにしないからさ。普段はダンスをしてるか、音楽を聴いてるかだろ」


彼の視線が再び一樹へと戻る。「それに、あの静香って子と付き合うようになってから……機嫌が良くなってたしな」


彼は眼鏡の位置を直した。「だから、つじつまを合わせただけだよ」


一樹は信じられないといった様子で弟を見つめた。


どうしてそんなにすぐにわかったんだ……? 彼は視線を落とした。俺は……静香と出会って、本当にそんなに変わったんだろうか?彼の胸の中で、心臓が静かに高鳴っていた。「俺は……彼女にひどいことをしたんだ」


兄弟たちの視線が、即座に彼へと戻った。


「約束を破って、別の用事を優先しちゃったんだ……」


彼の顔に、力ない笑みが浮かんだ。「彼女を傷つけた……だから、謝らなきゃいけない」


「それで?」コウヤは片眉を上げた。「なら、謝ればいいだろ」


カズキは首を横に振った。「そんなに簡単じゃないんだよ、コウヤ」


視線を床に落とす。「先輩の友達が、直接会って謝れってアドバイスしてくれたんだけど」


「その通りだね」コウヤは頷いた。


「でも……」カズキの声が震える。


「つまり……怖いのか?」カズマの声は穏やかだった。


カズキはためらいながらも、ゆっくりと頷いた。両手を組み、震える指の間にスマホを挟み込んでいる。


「怖いんだ……明日会ったとき、謝るチャンスさえもらえずに、話すことすら拒絶されるんじゃないかって」


声がさらに小さくなる。「本当に彼女を傷つけたし……それに……」


指に力が入り、スマホを強く握りしめる。「今の関係を失いたくないんだ」


彼は唾を飲み込んだ。「彼女を失いたくない」


コウヤはため息をつくと、歩み寄り、持っていた本の背表紙でカズキの頭を軽く叩いた。


「痛っ!」カズキは顔をしかめ、頭をさすった。「何すんだよ!」


「目を覚まさせるためだよ」コウヤは無表情のまま、本を脇に下ろした。「自分が悪かったってことは分かってるんだろ? なら、何が邪魔してるんだ? 彼女の目を見て謝るのを」


その青い瞳が、優しげに和らいだ。「兄貴はもっと強いはずだろ」


一呼吸置いて、彼は続けた。「それに、もし彼女との関係が本当に大切なら……ちゃんと向き合って、事態を正すんだ」


和樹は瞬きをし、唇をわずかに開いた。


光也はかすかに微笑んだ。「そんなに怖がらなくてもいいんだよ」


その笑みが少し深くなる。「彼女、お前にとって特別な人なんだろ?」


和樹は目を見開いた。


「なら、いけよ」と光也が付け加えた。


和馬は満面の笑みを浮かべ、両手を上げた。「そうだよ! いけるよ、お兄ちゃん!」


和樹の唇が震え、目に涙が浮かんだ。


すると突然、彼は破顔し、二人の弟を力いっぱい抱きしめた。


「お前ら、最高だよ~!」と彼は笑った。


「お兄ちゃん!」和馬がくすくすと笑う。


「おいおい! もういいだろ!?」光也は顔を赤らめ、目を白黒させた。「感傷的になるのはやめてくれよ!」


和樹はさらに大きく笑った。


やがて彼はベッドから立ち上がり、二人を抱き上げた。


「よし。ずいぶん気が楽になったよ」彼は二人を見下ろして微笑んだ。「ありがとうな」


和馬は嬉しさのあまり目を細め、満面の笑みを浮かべた。


光也は頬を赤らめ、さっと視線をそらして眼鏡の位置を直した。


「はいはい。もう降ろしていいよ」


和樹はにやりと笑った。「やだね」


彼は二人を抱えたまま、ドアの方へと向かった。


「このまま食堂に行くぞ」


「やった~!」和馬が両手を空に突き上げた。


「おい!」と光也が抗議する中、和樹は笑いながら、足を使って背後のドアを閉めた。

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