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ブルーストーム シーズン2  作者: Fawole Oluwaseyi


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第11章:強者と強者の激突

「いいスパーだったよ、二人とも!」ミツルは興奮気味に笑みを浮かべ、拳を突き上げて声を上げた。


「最高だったね」サヤカも腰に手を当て、にっこりと笑う。


アオイは隣に立つライトを見ながら微笑み、「ありがとう」と言った。


ライトはポケットに手を突っ込んだまま、ただ静かに頷いた。


「本当のチームって感じの連携だったね」メイが笑顔で指摘する。「あれは素直に感心したよ」


アオイとライトは互いに視線を交わしてから、メイの方を向き直った。


「俺たちは、ずっとチームだからな」ライトは肩をすくめて言った。


アオイも同意するように頷く。


「だね」ヒカルがクスクスと笑った。


ライトのこめかみに青筋が浮かぶ。「どういう意味だ?」


その表情を見て、他のメンバーも思わず笑い声を漏らした。


「勝利を祝うのはいいことだけど……」アスカは仲間たちを引き連れ、1年生たちの元へと歩み寄った。「……今日の勝ちで、自分たちの強さが限界に達したなんて思わないことね」


彼女が言葉を続けると、全員の視線が彼女に集まった。


「私たちとの試合は、勝ち負けが重要だったわけじゃない。今日スパーリングをした目的は、今の自分たちの立ち位置を知ること――そして何より、今の実力に固執しすぎないようにするためよ」


彼女はさらに不敵な笑みを深めた。「それはどんな戦いにおいても不可欠なこと。戦い終えた後の自分は、戦う前の自分よりも成長していなきゃいけない。すべての戦いから何かを学び、より強くなろうとすること――それが大事なのよ」


彼女がそう語る間、一年生たちはその言葉に勇気づけられ、次第に笑みを浮かべつつも、決意を秘めた表情で聞き入っていた。


「それが『ナイチンゲール』としての資質よ」と、ユラは無表情のまま付け加えた。「私たちは他のファイターとは違う存在でなければならない。そのことを常に心に留めておく必要があるわ」


「はい!」一年生たちが声を揃えて応じた。


アスカはにやりと笑った。「よし、それじゃあ」彼女は少し体を後ろに預けた。「今日のところはこれで終わりかな」


「ああ」シノは眼鏡の位置を直しながら、クリップボードを抱えて頷いた。「今日のスパーリングの分析データや統計は、ちゃんと更新しておこう」


アスカは頷いた。「よろしく。それを上層部に見せることもできるしね」


ミナトは何も言わなかった。その琥珀色の瞳は、他のクラスメートたちが続々と訓練場を後にする中、ライトと談笑するアオイに向けられたままだった。


彼は一歩踏み出し、その青い髪の少女の方へと歩み寄った。


「アオイ」彼は声をかけ、彼女の注意を引いた。


「あ、ミナト先輩」彼女は彼の方を向いた。


ライトは彼女の後ろに立ち、両手をポケットに突っ込んだままだった。


「この後、時間あるかなと思って」ミナトは少し照れくさそうに後頭部をかいた。「スケボーの技を教えたり……一緒に遊んだりできたらいいなと思ってさ」


アオイは驚いたように瞬きをした。その誘いは予想外だったようだ。


彼女の背後で、ライトは眉をひそめた。ミナトがアオイに露骨な関心を寄せているのを見て、胸の奥にわだかまりのようなものが生まれたのだ。


彼は視線を落とし、唇を真一文字に結びながら、ポケットの中で拳を強く握りしめた。


アオイは一度ライトの方を振り返り、それから再びミナトに向き直って、小さく微笑んだ。


「お誘いは嬉しいです、ミナト先輩……でも、行けません」


ライトは顔に驚きを浮かべながら、ふっと顔を上げた。


「今はスケボー、そんなに乗りたい気分じゃないんだ」と葵は続け、にっこりと笑った。「それに、ライトと一緒にやることがあるから」


ライトの心臓が大きく跳ねた。彼女のあからさまな嘘に、彼の頬はほんのりと赤らんだ。


ミナトはただ微笑んで、「いいよ、わかった」と言った。そして苦笑しながら付け加える。「あんなふうに突然、ずけずけと誘って悪かったね」


葵は微笑んだ。「ううん、大丈夫だよ」


その時、ふいにミナトの肩に腕が回された。


三人がそちらを向くと、アスカが彼に気安く寄りかかっていた。


「こいつ、後輩たちに迷惑かけてない?」アスカはニヤリと笑った。「あいつ、自分と同じくらいスケボーに夢中になってほしくて、いつもこうなんだから」


ミナトの頬が赤くなった。「あ、アスカ!」と彼はつぶやく。「ただ仲良くなりたかっただけだよ」


アスカはくすりと笑い、再び二人の方を向いた。


「二人とも、もう行っていいよ。今日の練習、お疲れ様。ライト、葵」


ライトは頷いた。「うん」


葵は軽く会釈した。「ご指導ありがとうございました、アスカ先輩」


ミナトが小さく手を振る中、アスカはにっこりと笑った。そして葵とライトは向き直り、並んでホールから出ていった。


「ミナト、バレバレだったよ」アスカは腕の中の少年に視線を向け、くすりと笑った。「私には隠せないからね」


「わかってるよ……」ミナトは呟いた。


一瞬うつむいた後、彼は顔を上げ、ライトと並んで歩きながら何気ない会話を交わしているアオイの背中を見つめた。


「でも……」ライトの方へ視線を移しながら、彼の口元に柔らかな笑みが浮かぶ。「彼が、彼女の関心を誰にも奪われたくないってことは、もっと明白だよね」


アスカは何かを察したような笑みを浮かべて頷いた。「そうだね」


「ねえ、もし迷惑じゃなかったら……」


二人が振り返ると、そこには嬉しそうに笑うカズキが立っていた。


「ミナト先輩、スケボーのレッスン、お願いしたいです」


「本当か!?」ミナトの目が期待に輝く。「やった!」


彼はアスカの手を離した。「楽しくなりそうだ!俺のロッカーに行こう。自分で作った予備のスケボーがあるから、それを使っていいよ」


「はい!ぜひお願いします!」カズキは興奮して拳を握りしめた。


ミナトはニカっと笑って入り口の方を向いた。「行こうぜ!最高に楽しい時間にするぞ~!カッコいい技も教えてやるからな」


彼は小走りで廊下を出ていき、カズキもその後を急いで追った。


「ありがとうございます!」カズキは弾むような足取りで声を上げた。


アスカは面白がるような笑みを浮かべて首を振ると、ユラ、シノ、チエコの方へと向き直った。


一方、シズカは入り口の向こうへ消えていくカズキの姿を見つめていた。


彼女の顔に浮かんでいたかすかな笑みは次第に消え、いつもの無表情な仮面の下で、その顔つきは沈んだものへと変わっていった。


「シズカ?」サヤカが彼女の視線を追いながら声をかけた。「大丈夫?」


シズカはまばたきをしてから、横にいるサヤカに視線を向けた。「ええ。大丈夫よ」


サヤカはただ彼女を見つめた。双子の姉のその言葉を、彼女はこれっぽっちも信じていなかった。


...............................


「別に、あんなことしなくてもよかったんだよ」

雲ひとつない青空の下、暖かい午後の日差しを浴びながら校門を抜けるとき、ライトはそう切り出した。


アオイはリュックの肩紐を握りしめながら、片方の眉を上げ、口元に小さく笑みを浮かべた。


「そうだね。でも、私がそうしたかったの」彼女は肩をすくめる。「それに、そろそろ帰らなきゃいけないし、ライトと一緒に歩けるしね」


ライトは瞬きをした。頬をほんのり赤らめて視線を逸らし、唇をきゅっと結ぶ。手はポケットに突っ込んだままだ。


「……まあ、別にいいけど」彼は呟いた。


アオイは手で口元を覆いながらくすりと笑い、楽しげに目を細めた。


ライトはもう一度彼女を盗み見た。その口元に、小さな笑みが浮かぶ。


二人は賑やかな通りへと足を踏み入れた。客を呼び込む露天商の声が響き、人々が屋台の間を行き交いながら、買い物をしたりおしゃべりを楽しんだりしている。


「今日はみんなで集まらないんだね?」アオイは背中で手を組みながら尋ねた。


「うん」ライトは頷く。「みんな用事があってさ。アヤネは保健室にいるお姉さんに会いに行くって言ってたし、リクヤもついて行ったよ」


「そっか」アオイは視線を落とした。「ミソラ先輩、大丈夫だといいけど」


「大丈夫だよ」ライトは彼女に視線を向けた。「なんたって、ジン先輩が一緒にいるからね」


「そうだね」アオイは頷き、彼の方を見た。「ミツルはどうなの?」


ライトは前を向いた。「ヒカルと一緒にどこかへ行ったよ」


「なるほど。メイもクロガネの双子と出かけるって言ってたしね」とアオイが付け加えた。


「みんな本当に出かけるんだな」ライトは呟いた。


「うん」アオイはくすりと笑った。「まあ、先週の中間テストの分を取り戻してるってことかな」


彼女は彼の方をちらりと見た。 「期末試験の準備はしてるか?」


「あれは夏休み前の七月だろ」と、ライトは目を閉じながら答えた。「少しは勘弁してくれよ」


「ライト、見て!」葵は前方を指さし、ぱっと目を輝かせた。


「ん?」ライトは目を開け、彼女の視線を追った。


通り沿いに小さな、入り口の開け放たれた店があり、ショーケースには焼きたてのこんがりとしたお菓子がずらりと並んでいた。


「たい焼き?」と彼は尋ねた。


葵の目がきらりと光る。「すっごく食べたかったの!」


彼女は小走りで先へ進むと、立ち止まって彼を振り返った。


「急いで、ライト!ほら!」


彼女が再び走り出すと、ライトは苦笑した。「わかった、わかったよ」


彼はのんびりとした足取りで彼女の後を追った。


二人が店に入ると、バターと砂糖の温かい香りがすぐに辺りを満たした。


カウンターの奥に並ぶ焼きたてのたい焼きを見て、葵の目は輝きを増した。こんがりと焼けた皮から、食欲をそそる香りが漂っている。


「いらっしゃいませ」店員が温かい笑顔で近づいてきた。「今日は何になさいますか?」


ライトはショーケースに目を向けた。「たい焼きをください」


「10個お願いします」と葵がすかさず付け加えた。


ライトは眉を上げた。


「何?」葵は肩をすくめた。「半分こするのよ」彼女はにやりと笑った。「私に5個、あなたに5個」


店員はくすりと笑った。「かしこまりました」


店員が注文の品を包み始めるのを眺めていたライトは、葵の方を向いた。


「本当に一人で5個も食べるの?」


葵の目が輝いた。「もちろんよ」


「でも、支払いは俺がするから」とライトが付け加えた。


「えっ?!」葵は目を丸くした。「なんであなたが払うのよ? 私が……」


「君に払わせるわけにはいかないよ」ライトは彼女の言葉を遮った。


葵は腕を組んだ。「じゃあ、私もあなたには払わせないわ」


ライトはため息をついた。「わかった。じゃあ、割り勘にしようか」


「それ、いいわね!」


しばらくして、店員が小さな茶色の紙袋を二つ持って戻ってきた。


「はい、どうぞ。焼きたてだよ」


「ありがとうございます」葵とライトは声を揃えて言った。代金を支払うと、二人は店を後にした。


「ん~っ!」葵は嬉しそうに声を漏らしながら、たい焼きを味わった。もう片方の手には、残りの分が入った紙袋がぶら下がっている。彼女は幸せそうに目を閉じ、美味しさを噛みしめていた。


「おいしい~!」


ライトは温かい笑みを浮かべて彼女を見つめていた。


少し先では、ある女性が露店で買い物をしていたが、そこへ黒いフードを被った人影が突然すり寄ってきた。


男は素早い動きで女性の脇から財布をひったくると、そのまま走り去った。


「あっ!」女性は目を見開き、悲鳴を上げた。「私の財布!」


通りを全速力で駆け抜けながら、その泥棒はにやりと笑った。やがて、盗品を抱えた六人の仲間が彼に合流する。


「こら、待て!」


「泥棒だ!」


「捕まえろ!」


その叫び声に、アオイとライトは即座に反応した。


振り返ると、通行人を乱暴に突き飛ばしながら、泥棒の一団がこちらへ向かって突進してくるのが見えた。


ライトはため息をついた。「まったく、きりがないな」


アオイは何も答えず、ただ咀嚼を続けたまま、迫りくる泥棒たちを見つめていた。


その瞬間、ライトが鋭く踏み込んだ。


彼は先頭の泥棒の首に腕を回して捕らえると、そのまま地面へと叩きつけた。


「ぐはっ――!」激しく地面に打ち付けられた泥棒は、白目をむいてぐったりと動かなくなった。


残りの連中は動きを止めた。


「なっ……!?」


別の泥棒が反応するより早く、ライトは足払いをかけてそいつを転倒させ、そのまま仲間の二人を巻き込むようにして激突させた。


「うわっ!」さらにもう一人の泥棒がライトに襲いかかった。


茶髪の少年はその攻撃を巧みに受け流し、相手の打撃の勢いを利用して即座に反撃を叩き込んだ。


葵は咀嚼を続けながら、その戦いの行方を見守っていた。


彼女は飲み込むと、「まったく……」と呟いた。


視線は、近くに立つ少年に向けられた。彼は目を丸くし、魅入られたような様子でライトの戦いを見つめていた。


葵は微笑んだ。「ねえ、坊や。これ、ちょっと持っててくれる?」


彼女は、残りのたい焼きが入った紙袋を少年に手渡した。


「え?」少年はまばたきをし、両手で袋を受け取った。「あの……」


葵は姿勢を正した。その唇に、不敵な笑みが浮かぶ。


そして、彼女は一気に踏み込んだ。


強盗の一人が、ライトの背後に忍び寄ろうとしていた。


葵は彼を先回りして迎撃し、その脇腹に蹴りを叩き込んでよろめかせた。


間髪入れず、彼女は敵の懐へと滑り込み、四人目の強盗に対して拳と蹴りの連撃を浴びせた。


袋を抱えた少年は、ただ感嘆の眼差しを向けるしかなかった。葵とライトは互いの動きを自然に補い合いながら、並んで戦っていたからだ。


…………。


「お邪魔しまーす!」


聞き覚えのある声に、ジンは即座に反応した。


彼は目を閉じたまま、苛立ちを滲ませて眉間をピクリと動かし、入り口の方へと顔を向けた。


「シーッ!」彼は唇に指を当てて囁いた。「寝てるんだよ、バカ」


リョウは後頭部を気まずげにさすりながら、部屋に入ってきた。


「悪い。うっかり忘れてたよ」


彼は歩み寄り、ミソラのベッドの脇に座ったまま、彼女の安らかな寝顔を見つめている、深紅と黒の混じった髪の少年の隣に立った。


リョウは優しく微笑んだ。「本当に、無理しすぎだよな」


ジンは心配そうに眉を寄せながら頷いた。


「ああ。誕生日の夜からずっと、寝てなかったんだ」彼は静かに息を吐いた。「本当に馬鹿だよな。自分のことなんて、これっぽっちも気にしないんだから」


彼はベッドの上にある彼女の手に、そっと自分の手を重ねた。「いつも、ハラハラさせられてばかりだよ」


リョウはジンの肩に手を置き、さらに柔らかな笑みを浮かべた。


「そうだな。だからこそ、お前が彼女をちゃんと見ててやる必要があるんだろ」


ジンはリョウの方を向いた。


「それが彼氏ってものだろ。彼女ってのは、本当に手のかかる存在だからな……」リョウはくすりと笑った。「でも、だからこそ愛おしいんだよな」


ジンの頬が赤らんだ。彼はミソラの方を振り返り、その寝顔を見つめながら、ゆっくりと温かな笑みを浮かべた。


「ああ」彼は静かに同意した。


リョウはにやりと笑った。


その時、突然ドアをノックする音がして、二人の視線はそちらに向けられた。


「失礼します」――入り口からアヤネの声が聞こえ、彼女が部屋に入ってくると、そのすぐ後ろにリクヤが続いていた。


「よっ、アヤネ」とリョウが声をかける。


茶髪の少女は足を止め、目を見開いた。


「リョウ先輩?」


「ここにいらっしゃるとは思わなくて!」リクヤは慌てて頭を下げた。


リョウは苦笑しながら手を振った。「ほら、そんなに頭を下げなくていいよ。こっち向いて」


リクヤはすぐに姿勢を正した。「はい!」


アヤネは部屋の奥へと歩み寄り、眠っているミソラの姿に視線を向けた。


彼女の口から、安堵の息が漏れる。


「よかった」と微笑んでから、彼女はジンの方を向いた。「ジン先輩、付き添ってくださってありがとうございます」


ジンは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。「いや、大したことじゃないよ。彼女がようやく休めているみたいで、俺も嬉しいしね」


「うん」と頷いたアヤネは、さらに近づくと、小さな白い袋を差し出した。「これ。彼女をここまで運んでから、まだ何も食べてないでしょう? だから、これを持ってきたんです」


ジンはまばたきをしながらその袋を受け取った。「ありがとう」


「その中にはミソラ先輩用の軽食も入っています。目が覚めたら食べられるように」リクヤは眼鏡の位置を直しながら付け加えた。「体力を回復させることも大切ですからね」


「本当に感謝してるよ」ジンは温かい笑みを浮かべた。


リョウはくすりと笑いながら手を伸ばし、年下の二人の髪をくしゃくしゃとかき回した。


「二人とも、よくやったな」


その親愛の情にアヤネとリクヤは頬を赤らめ、リョウが満面の笑みで手を離すと、二人もまた微笑みを返した。


ジンはふと何かを思い出した。「ああ、そういえば。『五尾』との稽古はどうだった?」


リクヤの表情がぱっと明るくなった。


「すごかったです! 初めて、あの人たちの手合わせを見ることができて」彼は興奮気味に拳を握りしめた。「すごく励みになりました」


リョウはくすりと笑った。「そうか」彼は口元を緩め、「そりゃよかった。みんな仲良くやってるみたいで何よりだよ」と言った。


その言葉に、一年生の二人は微笑んだ。


アヤネはジンの方に視線を向けた。「それじゃあ、私たちはこれで。お姉さんが目を覚ましたとき、あまり無理をさせないようにしてくださいね?」


ジンは頷いた。「ああ」


アヤネは優しく微笑んでミソラに一瞥をくれると、リクヤと共にドアの方へと歩き出した。リクヤは年上の二人に向かって軽く会釈をしてから彼女に続き、背後でドアを閉めた。


「あやね、すっかりお前に懐いたな、ジン」と、リョウはニヤリと笑いながら言った。「前はミソラと付き合う前、あいつ、お前のこと毛嫌いしてたのにな。今じゃまるで、最初から仲が良かったみたいだ」


ジンは気まずそうに苦笑いを浮かべ、目を細めながら、こめかみに一筋の汗を滲ませた。


……………


「あ~っ! いい運動になった~!」


アオイは満足げに息を吐き出し、頭の上で大きく背伸びをした。


ライトは片眉を上げた。「その前に、ちゃんとトレーニングしてたの忘れてないよな?」


アオイは彼を見上げた。「だから? それでも立派な運動でしょ」


彼女は視線を前方の通りへと向け、満足そうな笑みを浮かべて目を輝かせた。


「あのチンピラどもを片付けられてよかったね」


ライトは、先ほどアオイと共に盗っ人たちを撃退し、近隣の露天商から感謝の言葉やちょっとしたお礼の品まで受け取ったことを思い出した。駆けつけた警察に犯人たちを引き渡した際も、介入してくれたことへの感謝を告げられたのだった。


「ああ」と、彼は微笑んだ。


二人の間に静寂が流れた。聞こえてくるのは、自分たちの足音と、遠くから届く行き交う人々の話し声だけだ。頭上には淡い青空が広がり、通りには穏やかな風が吹き抜けていた。


「それで……」アオイが静かに切り出し、ライトの注意を引いた。


彼女は彼の方をちらりと見やり、ふっと柔らかな表情を浮かべた。「うちで、のんびりしてく?」


ライトは驚いて眉を上げた。彼は視線を逸らしながら、軽く咳払いをして、頬をほんのりと赤らめる。


「……ああ、いいよ。構わない」


アオイは嬉しそうに微笑み、歩調を速めた。


「さあ、行こう。シオもあなたに会ったらすごく喜ぶはずよ」


ライトはくすりと笑った。「ああ。あの子犬に会いたかったんだ」


「へえ、そうなんだ?」アオイはニヤリと笑った。


「おい、変な勘ぐりをするなよ、『青髪』」


二人は笑い合い、おしゃべりをしながらアオイの家へと向かった。


……………


アオイが玄関の鍵を開けてドアを押すと、ライトもすぐ後ろに続いた。


「シオ、ただいま」と彼女は声をかける。


「ワン! ワン!」と嬉しげな鳴き声が家の中に響き渡り、シオは階段を駆け下りてアオイの元へと急いだ。


アオイはすぐに膝をつき、子犬を抱きしめた。


「シオ~、ただいま」と彼女が笑うと、シオは嬉しそうに彼女の顔をペロペロと舐めまくった。


「よお、いい子だね」とライトが声をかける。


シオは彼の方を向き、興奮した様子でキャンキャンと鳴くと、アオイの腕から飛び降り、彼の元へと駆け寄っていった。


ライトは彼女をひょいと抱き上げ、笑い声を交えて挨拶した。


「俺も会えて嬉しいよ」彼はそう言いながら、優しく彼女の毛並みを撫でた。


二人の仲睦まじい様子を眺めながら、葵の胸には温かいものが広がり、その口元には柔らかな笑みが浮かんだ。


彼女はキッチンの方を向き、「何か食べるものを作るね。あなたはシオと遊んでて」と言った。


「了解」ライトはそう返事をすると、ちゃぶ台の脇にどっかと座り込み、シオと遊び始めた。


……………


「いただきます」


二人は感謝を込めて手を合わせると、食卓に並べられた料理に箸をつけた。


「いやあ、恐れ入ったよ、葵」一口食べて、ライトが言った。「料理の腕、さらに上がったね」


「ありがとう」葵は微笑みながら、卵焼きを一つ口に運んだ。「でも、こうして一緒に食べられてよかった。あなたの食欲も報われたってことだしね」


「ははっ、面白いこと言うね」ライトは苦笑しつつ、隣にシオを寄り添わせながらご飯を口に運んだ。


しばらくして、テーブルの上の葵の携帯電話が鳴り、二人の視線がそちらに向けられた。


彼女が携帯を手に取ってメッセージを開くと、その表情は和らぎ、思わずくすりと笑みがこぼれた。


「どうしたの?」ジュースを飲みながら、ライトが尋ねた。


葵が画面を見せると、ライトは身を乗り出した。そして、そこに写っていた写真を見て、危うくむせそうになった。


写真には、満面の笑みを浮かべるミナトと、同じように笑いながら「ロックンロール」のハンドサイン(メロイック・サイン)を掲げるカズキの姿があった。その隣には、二人がスケートボードで一緒に滑っている写真も添えられていた。


「へえ、カズキはそんなことをしに行ってたのか」ライトは鼻で笑った。「……しかも、あの人と一緒に」


アオイはくすりと笑った。「まあ、ミナト先輩はこの辺りじゃ一番の若手スケーターだからね」


彼女は口元を少し歪めて笑った。「それに、カズキの憧れの人でもあるし」


ライトは呆れたように目を回し、食事を続けた。「ああ、確かにそうだな」


「仲良くやってるのはいいことだよね」アオイはスマホをテーブルに戻し、再び箸を手に取った。「カズキもきっと、すごく喜んでると思うよ」


ライトは食事の手を止め、視線をテーブルに落としたまま固まった。


「そうだな」


アオイは彼の表情をうかがった。「気づいたことがあるの。あの日のこと……あなたとミナト先輩がスケボーで勝負した時。始まる前に、私をかばってくれた時、少し感情的になっていたみたいだったから」


彼女は小さく眉を寄せた。「どうしてだったの?」


ライトは少し身をこわばらせ、咳払いをした。「それは……えっと……大したことじゃないよ」


アオイは小さく「ふーん」と呟き、食事に戻った。ライトは彼女をちらりと見てから、静かに息を吐いた。


「俺が……あんなふうに振る舞ったのは……」彼の瞳が優しくなった。「俺に起きたのと同じことを、お前には経験してほしくなかったからだ」


アオイは不思議そうに彼を見た。「何があったの?」


「中学1年の頃だった」ライトは懐かしさを滲ませる声で話し始めた。「俺は……中学校のスケボーチームに入ってたんだ。ある……『知り合い』たちと一緒に」


アオイは話を聞きながら、片方の眉を上げた。


「3人いたんだ。俺をそのスケボーチームに誘ったのも彼らだった。でも、数週間もしないうちに俺が誰よりも上手くなって……」彼の表情が険しくなった。「それが、彼らには気に入らなかったんだ」


彼は唇をきゅっと結んだ。「それから……何かが起きて、連中は自分たちの目的のために俺を利用したんだ。用が済むと……まるで……」言葉を切り、視線を落とす。「……ただの『無価値なもの』みたいに、俺を放り捨てた」


弱々しい笑い声が漏れた。「その後、スケボーはやめてチームも抜けたんだ……あの頃の記憶に耐えられなくなったから」


その告白に葵の胸は痛み、箸を握る手に自然と力がこもった。


「だから、湊先輩の前だといつもあんなに張り詰めていたのね」と彼女は呟いた。「先輩のそばにいると、あの時のことを思い出してしまうから」


彼女は視線を落とした。「ごめんね、ライト」


ライトはきょとんとして瞬きをした。「なんで謝るんだよ? お前のせいじゃないだろ。実際、誰のせいでもなかったんだから」


彼はかすかに笑った。「むしろ、またスケボーができてよかったと思ってる。それも、湊先輩と一緒に」


こめかみを一筋の汗が伝い落ちる。「ただ……嫉妬してただけだよ」


葵が瞬きをすると、その唇にからかうような笑みが浮かんだ。「じゃあ……湊先輩のほうがスケボーが上手いから、嫉妬してたってこと?」


「チッ」ライトは舌打ちをして、顔を背けた。「そんな言い方すんなよ」


彼の頬がほんのりと赤らむのを見て、葵はくすりと笑った。


「別に、嫉妬することなんてないよ。スケートしてる時の君、すごく……かっこよかったし」


彼女は温かい笑みを浮かべた。「それに、あなたも楽しそうだった。それが一番大事なことだもんね」


ライトはまばたきをした。一瞬彼女を見つめた後、彼女と同じように小さく微笑んだ。


「ああ。そうかもな」彼は頷いた。


アオイの口元に、にっこりとした笑みが広がった。


「でも、ミナト先輩からもう少しレッスンを受けたほうがいいと思うな」


ライトのこめかみに、ピキッと青筋が浮かんだ。「たまに、本当にイラっとさせるよね、君って」


その言葉に、アオイは声を上げて笑った。


……………..


「お邪魔しました……それにご飯も、ありがとう」


日はすっかり沈みかけていた。夕暮れの空は落ち着いた灰色に染まり、一番星が顔を出し始めていた。


「遊びに来てくれて楽しかったよ」アオイは小さく微笑みながら答え、腕の中に心地よさそうに収まっているシオを抱きしめた。


「ワン!」子犬も同意するように、小さく鳴いた。


ライトは微笑むと、一歩近づき、優しくシオの頭を撫でた。


「またな、いい子だ」彼はそう言って、優しく彼女を撫でてやった。


「ワンッ!」と、シオは嬉しそうに鳴きながら尻尾を振った。


アオイとライトは顔を見合わせ、微笑み合った。


「おやすみ、ライト」アオイはにっこりと笑った。


ライトも同じように笑みを返し、頷く。「ああ。おやすみ」


そして、二人はほぼ同時に拳を突き出し、いつものように拳を合わせる挨拶(フィストバンプ)を交わした。


ライトは柔らかな笑みを浮かべたまま軽く手を振ると、くるりと背を向け、通りを歩き出した。


アオイも笑顔のまま手を振り返す。ふと視線を落とすと、シオが尻尾を激しく振りながら、彼女をじっと見上げていた。


最後に一度微笑んでから、アオイは家の中へと戻り、背後のドアを静かに閉めた。

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