9:「無自覚な、恋愛童貞」
月曜日の朝、イマイチの目覚めで逸乃を迎えにいく。
「おはよ……逸、今日なんか目つき悪いよ」
「あぁ、ゲームしてて寝不足」
嘘です。
「んー……テスト終わってからにしたらぁ?」
逸乃に言われると嫌な気しない。
「逸乃、教えるの上手いし、また教えてな」
これは本当。
中身の無い会話をしながら、頭ン中はタクと逸乃の距離を気にしていた。
「おはよぉ~逸乃ぉ」
カナが猫のように逸乃にすりよっては俺をチラ見するのが最近のルーティンになっている。
俺はそれどころじゃないっての。
「お……はよ……タク」
表情が見えないタクになぜか緊張して挨拶する。
「おはよ」
タクは読んでいた文庫本を閉じた。
「おはよ、タク、何読んでたの?」
逸乃はカバンを置いて、閉じた本に興味を示す。
「ホラ、AIシンと同じ著者の……」
「えー、それもおもしろいの?どんなあらすじ?」
逸乃、距離近いって。
タクと逸乃をジッとみていた俺を見ているカナに気づく。
「逸、大丈夫?」
ニヤニヤしながらカナ。
「昨夜ゲームしてたんだって~。カナも漫画読んでたんでしょ」
逸乃が代わりに答えた。
またカナと一緒にされた……けど返す言葉が見つからない。
タクと隣の席じゃ俺より話するよな。言い訳が思い浮かんだ。
おい、待て俺。しっかりしろ。
逸乃のことは俺の方が知ってるし、好きなのも俺が勝ってる……逸乃だって俺のこと……。ダメだ、また同じこと繰り返し考えてる。
「逸っ、先生きたよっ」
逸乃に言われ、ハッとして自分の席に戻る。
授業中、また先生にあてられた。
「考えてます」と答えると「答えを聞いている」と先生のため息と小さな笑いを誘発させた。
昼休みは恒例の弁当シェアタイム。
俺と逸乃のお弁当は俺の母さんの当番だった。
「じゃ~ん、今日は私も作ってみたんだ」
カナが弁当箱を開けた。
「オムライス……?」
逸乃の語尾に疑問符がついている。
お菓子作りが趣味らしいが料理はあんまりなんだろうな。
横目で俺も見たが。
「蓋にくっついてた」
……しかもキャラ弁だったらしい。正体不明のまま。
「カナも可愛いとこあるじゃん、食べてもいい?」
逸乃の言葉に嬉しそうに首を縦に振る。
カナのここだけ見りゃ可愛いけどよ。
タクの弁当はコンビニでもなくキャラ弁でもなく、ランチジャーに親子丼が入っていた。
「美味しそう」
カナが口走るとタクはスッと差し出す。
タクって何考えてんのかイマイチ掴めねぇんだよな。
俺は自分の弁当を食べ始める。
「今日はお母さんやっちゃね?」
逸乃が自分の弁当をタクに差し出す。
カナはすでにタクの弁当を口に運んでいる。
とにかく逸乃とタクの距離が気になる。
気にしてても考えててもどうにもならんけどな。
「今日帰りに寄り道しん?」
カナ企画か。
「私はいいよ、どこ行くと?」
もちろん俺もついて行く……。
「俺、図書館寄るから」
タクは行かないのか。
「図書館だったらすぐじゃん」
「いや、町の図書館」
あぁ、国道近くの。
「町の図書館なら俺も行く」
口から突いて出た。
逸乃とカナは「え?」って顔をしたが。
気になるならタクに聞けばいい、と咄嗟に二人になれる、と思いついた。
——放課後、4人で校門を出て、途中で女子と男子に二手に分かれる。
緊張が少しずつ大きくなる。俺は俺の為に行動するのみ。
男子二人並んで無言で歩いていたが、女子の姿が見えなくなるころで口を開いた。
「タクって……彼女いたんだ」
いきなりな話題投げ過ぎた。
一瞬、固まった気もしたが、動きだした。
「こないだの蒸し返すかよ、まぁ……聞きたいよな」
静かな口調にドキっとなりながらも、聞きたいです、ハイ。
「いや、中学生で彼女とかすげぇなって思って」
俺、あまり喋り過ぎるなよ。
「彼女……っていうか……彼女か」
はい?わかりにくいんですけど。
「もう少し説明くれん?」
「学年1個上の人で、付き合ってみないか、と言われて、付き合ったとは思うけど、半年弱で終わった」
なんそれ……。
「付き合ってはいた?」
確認してみる。
「そうだと思う。相手に俺が彼氏っぽくないからもう別れる、とか言われたから、彼氏期間はあったかと」
まぁ……お姉さんが覚えてるんだから何度か家にも来たんだろうな。
「なんなん?その曖昧な言い方。彼氏期間あったんなら恋愛関係はあったってこと?」
俺はそこが聞きたい。タクの恋愛観。
「恋愛……なかったかも」
え?
タクは目線を落とした。
「タク?なにそれ?」
「あんまり彼女のこと好きって気が、なかったっぽい」
さっきからスッキリしない答え方ばっかりされてるうちに図書館に到着。
一時休戦。
もちろん俺は図書館に用はないが、本を探すフリだけする。
タクは参考書と文庫本を返却して2冊ほど予め決めていたらしい参考書を借りてカバンに入れた。
「原田は?」
「思ってたのがなかった」
探してもいないのに。
図書館を出て、来た道を戻る。できるだけモヤモヤな荷物を減らしたい。
俺はとにかく前に進みたい。
「なぁ、逸乃のこと好きなん?」
しまった、ストレート過ぎた。
「ぶふっ」
タクは吹き出して笑った。
「わかりやすいな、そう思えるん?」
口元がゆるんでる。俺は真面目に聞いてんだぞ。
「逸乃とよう喋ってるっちゃ」
「それは共通する話題が原田や中野と違うだけだろ」
小さい溜息が混じっていた。
「そっかぁ」
いや、まだひっかかる。
「逸乃と喋るの楽しい?」
何聞いてるん俺。
「フッ……そうだな、話しやすい」
最初に笑いやがったな。で、またモヤるだろ。
「原田、今のところ心配することはない」
俺の心境読んだな?
「なんでそんなこと言えるんだよ」
「俺、女子を好きになることってあまり覚えがない」
「えっ……そっちのほう?」
「違う」
「あ、ごめん」
「よくわからんけど、タクだけにオタクで二次元が好きだからかな」
タクの表情が見えないが今の発言、笑うとこかな。
「逸乃のAI彼氏みたいな?」
「いや、そこまでは」
そこまでは?その含みも気になるが、タクは淡々と続けた。
「分かりやすく言えば、新河も中野も原田も、喋りやすいし一緒に居てて楽ってことだよ、お前みたいに本気でどうとかは、無い」
最初からそう説明しろよ。感情使い過ぎてどっと疲れた。
タクの家が近づいてきた、あとなんかもう一つくらい聞きたい。
「元カノと何か……何かしたん?」
うわ、また変なこと聞いた、俺のバカっ。
「ん~っ……キスはされた」
したんじゃんっ。タクが大きくリードしてる感。
タクは軽く手を挙げて家に向かい、俺は自分の家に向かった。
一人で歩いていると、さっきの会話を確認するようにリピートしてしまう。
……付き合ってと言われて、ふられた……キスはされた、全部自分の意思無ぇじゃん。
っつうか、恋愛に発展もしてないんじゃ?
あと……今のところ心配するな……今のところ?
今後はわからんってことか?
え、それ……進展する可能性があるみたいな言い方じゃん。
結局スッキリしねぇ。
いや、聞きたい事は聞いたんだ、落ち着け俺。
タクが悪いんじゃない、俺が動いてないからだ。動けば変わる。
なんせ逸乃のことをよく知ってるのは俺の方だ。
幼馴染は強いはずやろ。
俺はもっと自信をもっていい。
逸乃にもっとアピールすれば必ず王道の「幼馴染から恋人へ」の道は開けるっちゃ。
鼻息荒く決意した。
・・・・・・のに。
何か消え切らん。




