10:「幼馴染という距離」
「でさぁ、逸乃とぉ、まなカフェでね、レモネード飲んでさぁ、その後駅まで送ってもらったらね、ネッ」
カナが俺の弁当を食べながら昨日の逸乃とのデートの話を始めた。
何か意図があんだろ。
「レモネード、美味しかった~」
「いやいや逸乃、ホラ、駅前で違う学校の男子に声かけられたじゃん」
-なに!?
カナは俺の方をチラっと見る。
「あぁ……カナにでしょ?私ね、帰りにまた、まなカフェ寄って焼き菓子買ったんだ」
紙袋から予め切り分けた、独特の匂いのする焼き菓子を出す。
口いっぱいにご飯を詰め込んだカナは黙り込む。
「まなカフェのオーナーさ、漢方の話してたよね、面白かった」
ハイ、と俺とタクに差し出す。
なるほど、で、この匂いの焼き菓子か。
……俺とタクの分考えて買ってくれたんだ……ジワる。
「もぉ~逸乃ぉ、男子は私と逸乃に声かけてきてたんだって」
俺に嫉妬させようとしたんだろうけど、残念でした~逸乃は簡単じゃねぇんだよ、とホッとする。
ん、微妙な味だなコレ。
「ん、コレ美味い」
へ?タク?
「でしょ~私こういうの好きぃ」
「うん、美味いっ、この種みたいなヤツ」
慌てて参戦する。わからんけど、タクにもっていかれてたまるか。
「松の実とクコの実。俺、月餅好きやっちゃが」
「え~マジで?私も大好きなん」
待て待て待て待て待てって!また二人の世界かよ。
「ゲッペイってなに?」
カナも参戦。俺もわかんね。
カナのお陰で会話が分断され、広がらずに昼休みは終わった。
放課後になって帰る準備をしていると逸乃がクラスの女子に何か言われている。
「新河さん、今日、日直やったとよ!なんもしてないっしょ」
「嘘ぉ、黒木さん、ごめん、朝、先生に言われたときは覚えてた、1時間目の黒板は消したけど……」
そういや、俺もすっかり忘れてた。すぐに4人集まって喋り始めるからな。
「まぁ、今日はすること少なかったけど、日誌、書いといてよね」
「逸乃っ、今日はどこ寄っていく?」
カナがしれっと逸乃に声をかけて黒木さんに睨まれている。
「中野さん、授業中、グミ食べたりしてるでしょ、最低、匂いするし」
睨まれたままのカナに気づかず日誌を黙々と書いてる逸乃。
こういう女子には距離をとるべし、と近寄らず、逸乃を待つことにする。
「へいへい、すいませんでした~」
カナは相変わらずだ。
「気ぃすすまないんだけどさ、中野さんと新河さんって彼氏まだいないよね?」
俺の聴覚が敏感に反応する。
「なになになに?」
カナが好奇心のトーンで聞き返しているのがわかる。
「私の彼氏がさぁ、誰か友達紹介してくれって、言うからさぁ、新河さん、恋愛したいとか言ってたじゃん?」
なぁーにぃー!!
「え、ほんと?いいじゃんいいじゃん」
テンション上がるカナに少し怪訝そうな表情の黒木さん。
「黒木さん……彼氏いるんだぁ」
日誌を書いている手を止めて逸乃がそこにくいついた。
「うん、まぁね。二個上だからさ、3年生なんだけどね」
「へぇ、年上っちゃ~、え、優しい?いつから?どれくらい付き合ってると?デートとか楽しいと?」
逸乃のテンションがあがりだした。なんか嫌な感じ。
「待って、待って、待って!順番に話してあげるから、とりあえず日誌書いてしまってよ」
嬉しそうな黒木さん。
俺とタクは4人で帰ろうと思っていたが、女子3人が話始める様子をみて、諦めて先に帰ることにした。
「逸乃も女子なんだなぁ~小学ん時はずっと俺と一緒に遊んでたのに」
「どんな昔話だよ、もう高校生だろ」
鼻で笑って返された。
「だよなぁ……って俺ボーっとしてる場合じゃねぇ」
「みたいだな、ありゃグループデートとかじゃね?」
「それはまずい」
背中に悪寒が走った。
「原田、どーすんの?」
タクめ面白がってるだろ。
「どーするって、俺も参加するぅって言うとか?」
「お前バカなの?」
え、じゃどーしろってよ。
「……どうしようもねぇじゃん」
思いつかず黙り込む。
「原田、何もしてないじゃん、ただいつも一緒に居てるだけで」
う……確かに。どちらかといえばタクのほうが逸乃と距離縮めてる感あるかも。
「タクは逸乃のことどう思ってるん?」
「またかよ、こないだも聞いたじゃんそれ。友達だろ」
しまった、つい確認を。俺どうすりゃいいんだっけ。
「前カノん時はどうやって付き合い始めたん?」
「またそれかよ。向こうから付き合ってみようかって言われたの」
面倒くさそうに答えられた。これ以上聞くこと思いつかん。
「多分さ、新河に付き合ってくれってストレートに言っても、「え?付き合ってるじゃん」って言いそう」
語尾に含み笑いが入ってるぞ。
「言いそう、逸乃、俺のこと、幼馴染でしかないっちゃもん」
テンション下がるわ。タクも黙り込む。
「原田、俺ん家までついてくんな、ちゃんと帰れ」
「あ……はい」
横に並んでそのままタクの家に行くとこだった。
「原田、幼馴染最強なんじゃねぇの?二人きりになれる機会は多いっちゃないと?」
さらっと希望の光をあててくるタク。俺の味方なのか?
「そうだよな、逸乃とシンプルにもっと仲良くなるわ」
幼稚な言葉しか思い浮かばないダサい俺、言った自分に笑いがこみ上げる。
「それでいいんじゃね?逸乃が一番気楽にいられんのは原田なんじゃねぇの?」
……胸に大きな振動がキタ。
「そっ、そうだよな、逸乃にとって俺は十分な存在なはず」
「んじゃな、もう俺帰るからな」
「あぁ、明日なっ」
タクは振り返らずに歩き出した。
……タクの言葉が、妙に残った
「おかえりぃ、逸、弁当箱忘れんとださんね」
帰宅するなり母さんが台所から言ってきた。
「ん、母さんさ、逸乃のこと、どう思う?」
今更だからストレートに聞いた。
「相変わらず逸乃ちゃ~んって?」
笑わんでいっちゃが。
「うん、仲良くはしてる」
椅子に座って蒸かし芋のラップを剥がして食べ始める。
「可愛いなっちょるもんね、すぐにとられるよ」
笑って言う母さんに俺は平静を装いながら食べ続ける。
「手も洗わんと食べよるが……まぁ、逸もイイ男になったけん、勝負できるよ、母ちゃん楽しみにしちょくわ」
親バカかよ、と照れるのもあるが、俺の努力は母さんも知っちょるしな。
「うん、俺、逸乃ともっと仲良くなりたいとよ」
出された熱いお茶に手を伸ばした。
「いいねぇ、逸らしく、逸乃ちゃんを追いかけたらいいが。母さんはなんもせんけどねぇ」
それが一番いい。
俺はタクと母さんのさりげない一言に充分励まされた。
俺と逸乃は離れてもきちんと繋がった。
そして最強の「幼馴染」という実績がある。
良くも悪くも逸乃は同じ温度で俺と一緒に過ごしてくれる。
悪くない、俺が動けば間違いなく変わる。
そう信じたい。
……けど、具体的には、まだ何も思いつかん。




