11:「測定不能」の関係
「逸乃ぉ」
平日は逸乃ん家の玄関で名前を呼ぶのが、当たり前になってきた。
「ごめんねぇ、逸ちゃん、もうちょっと待っちょってね」
今朝も寝坊したんか、と思いつつおばさんからお弁当を受け取る。
「昨夜も遅くまで携帯に話しかけちょったから、早く寝らんね~言ったっちゃけどね」
ムム・・相手は「朔」だな、一度そいつとも話をしてみたい。
「逸、おはよ~」
なんか今日可愛いじゃん、っていつもか。
「先に、待たせてごめん、やろ?」
言いながらおばさんが俺に目で謝る。……苦笑。
2人で歩き出す。髪留めがいつもと違うっちゃ。
「逸乃、かわいい髪留めつけてんな」
お、さり気なく言えたな。
「あ~これね、神奈川にいた時に、兄ちゃんの彼女がくれたんよ」
「へ、へぇ……」
後に続ける言葉が出てこん。
「神奈川いた時ね、中華街行ったとよ、肉まん美味しかったぁ」
嬉しそうに話すけど、おばさんたち離婚したっちゃ……まぁ、逸乃がこっちに戻ってきたから良かったけど。
「言ったらお父さん、送ってくれるから、今度送ってきたら一緒に食べようね」
逸乃……めっちゃ嬉しいって。こんなん、普通に恋人っぽくない?
「なぁ、逸乃、またどっか一緒に遊びにいかん?」
おぉ、いい調子。
「うんうん、4人でゲーセンとか面白かったもんね、次どこ行こっか」
しまった、二人でっ、て限定して言わんといかんかったっちゃ。
……あ、そういや行きも帰りも二人きりだった。
帰りの途中で……寄り道……。
そうだ、”逸乃先生”だ、勉強教えて、でいいじゃん。
とりあえず部屋、今日帰ったら掃除しよ。
「何考えてると?」
「ええっ、やましいことは何もっ」
心臓が大きく跳ねた。
マジで、勉強教えてもらうだけ、二人で話したいだけ。
「カラオケとかもいいかも、あ、そういえばボーリング場、リニューアルしてた。延岡のイオンの前にある」
4人で遊ぶ時のことか、変な汗出た。
「ボーリングかぁ、子どもん時以来じゃね?」
懐かしい、嬉しい。
「そそ、あの頃はよくわからんでやってたよねぇ、カナとタクにも聞いてみよ」
だろうな、まぁ、4人で遊ぶのもいいけどな。
そういや黒木さんが言ってた件はどうなったんだろ……校門が見えた頃に手前でカナが待ってた。
「逸乃っ、おはよ」
すぐに逸乃の横に回って腕を組む。
……女子はいいよなぁ。
「ねね、土曜日、行くっしょ?篤美っちとさ」
昨日は黒木さんと言ってたがあの後、仲良くなったのか。
……逸乃、行くの?
「ん~どんな人かようわからんちゃけど」
迷ってるっぽいな。
「いいじゃん、私もいるし、篤美っちの彼氏も見たくない?」
「確かに!羨ましぃ、私も彼氏欲しいっちゃ」
逸乃の言葉で心拍数あがる。俺がいますよ~なんちゃって。
ただ、逸乃の参加動機がズレてる気がするが、……行くなとも言えない。
――で、今日の昼休みは俺とタクは二人で食べることに。
タクのキャラ弁と逸乃のおばさんがつくった弁当1個を二人が持って黒木さんの元へ行ったのだ。
「俺の弁当からおかず、とっていいぞ?」
「いい、結構量多い」
タクはカナと交換させられたチャーハンの上に二個分の目玉焼きがのってるだけで、キャラ弁違うっちゃろ、の弁当を黙々と食べ始めた。
「なぁ、タク、彼女いた時ってどこに遊びに行ってたん?」
「……またその話?」
すんまそ。
「いや、その、参考までに、ほら、俺、逸乃と……」
「ん~俺のは参考にならんって」
「タク先生、とりあえず……教えて?」
「誰が先生じゃ」
タクもノリいいじゃん。
「図書館とか、……俺の部屋で動画見たりゲームしたり、くらいだったかな」
「そんなもんかぁ、で、やっぱり、その……ドキドキしたりしてたん?」
「は?」
「き……キスした言うちょったが」
俺アホなこと聞いてる。
「だから、俺、あまり彼女に気ぃなかったって言っちょうが。……一回だけやし」
1回だけやったんか……。しかもうっかり答えたな。
「あ、そうか、フラれたんだっけ」
こっちもうっかり、口が滑った。
「まぁ、そうゆうことだけどよ。喋っても話合わんかったからええっちゃ」
ふーん……って待て。
逸乃とはめっちゃ喋ってんじゃん。
「目つきコワイって」
弁当箱に蓋をしてお茶を飲むタクを無意識に睨んでたようだ。
帰り、カナは用事があるから、とすんなり駅に向かい、タクと分かれて、すぐに逸乃と二人きりになった。逸乃は機嫌が良さそうだ。
「黒木さんとなんかあるん?」
グループデートするん?と聞きたがったが。
「あぁ、篤美ちゃんの彼氏と、その友達と遊びに行くとよ」
「へ、へぇ・・友達って、男子かな?」
明らかさぐってる質問。
「篤美ちゃんね、中学の時に告白してね、もう付き合って1年になるんだって!彼氏追いかけてこの学校きたんだって!」
あの……俺も逸乃追いかけてきたんですけど。
「で、どこ遊びに行くん?」
「でね、でね、めっちゃ仲良くて、毎日LINEしてるって、楽しいって!」
(聞いてねぇし)
「プリクラとか、写メで見せてもらったんだけど、イケメンだったよ」
誰の話してるっちゃが?黒木さんの彼氏の話だよね?
「ふふ……私もわかるけどね~朔がいるからそのへんは」
はいはい、AI彼氏ですね。
言ってる間に家近く。
今日は部屋の掃除、準備して明日声かけよう、と焦らないよう確認。
「じゃ、逸乃また明日な、寝坊すんなよ」
「はぁい、ついつい朔と喋ってたら長くなるとよ」
そう言って逸乃は振り返らずに自分の家の方向に歩き出した。
タクも朔もよっぽど逸乃と気が合うんだな。
……で、黒木さんのグループデートでまたライバル増えるんじゃねぇよな。
可愛い逸乃のことだからな、気に入られるに決まってる。
ただ、なんか逸乃の参加動機が……ま、仕方ないか。
俺は俺なりに、逸乃との距離、詰めていくしかない。




