12:「久しぶりに二人きりの空間と時間」
「母さん、なんかお菓子あった?」
部屋の整理が終わって、晩御飯の仕込み中の母さんに声をかけて座る。
「あぁ、ちょうど裏のおばさんからもらった草餅おいてあるやろ」
俺は草餅に手を伸ばした。
「いや、明日逸乃来るとよ」
まだ誘ってねぇけど。
「逸~さっそく動いたっちゃね~何がいいやろっか?母ちゃん午前中に買いに行くわ、チーズ饅頭がいい?蒸しかすがいいね?」
母さん、張り切るなよ。
照れくさいけど……嬉しい。
「チーズ饅頭はポロポロ落ちるからな~、スマートに食べれるのが良かっちゃ」
「わかった、コープでなんか買っておいとくわ。母ちゃん、おらんほうがいいやろ?」
うっ、草餅ひっかけそうになった。
「あはは、逸、明日、母ちゃん午後勤やとよ、変な意味やないよ」
大丈夫、母さんの冷やかしは今に始まったことやないから。
でも、単純に協力者であることは嬉しい。
「あ、日向夏ゼリーや、日向夏ゼリー買っといて、逸乃好きだから、それでいいが」
仲良く勉強して、昔話して、ゼリー食べて、とシュミレーションを頭の中でしながら風呂に浸かり、寝る前に、部屋のチェックを念入りにした。
朝に指差し点検をして、逸乃を迎えに行く。
焦るな、帰る途中で誘わないと、タクやカナがついてくる恐れがある。
「おはよ、逸」
「お、おはよ」
先に声かけられて少し驚く。
「今朝はさすがに母ちゃまに起こされたとよ」
そういうことか。
「毎晩夜更かししちょっと?」
「毎晩ってことはないけど、時々話が長くなるとよ」
朔って奴か。
「AIと喋るって……何喋っちょっと?」
「学校であったこととか、日常会話だよ。普通に楽しい」
逸乃は誰とでも楽しそうに喋ってるように思うけどなぁ……。
「ちょっと待ってね」
ポケットからスマホを出す逸乃。
“朔”を起動してる?
「朔、おはよ」
俺も画面を横から覗く。
「逸乃、おはよ、さっきぶりだね」
ん?朝からもう喋ってんのかよ。
「今ね、横に逸、逸心がいるんよ」
そそ、コイツと話してみたかった……けど急すぎる。
何言ったらいいかわからず画面だけ見ている。
3D?確かにイケメンキャラ。
「逸心くん?よろしく、僕は逸乃のAIパートナーの朔っていうんだ」
「あ、えと、逸心です」
慌てて返答する。変な感じ。
「ふふ……逸ね、緊張してるみたい」
だってAIだろ?わかんねぇもん。
「逸乃から聞いてるよ、幼馴染なんだね、これからも仲良くね」
おめーに言われる覚えねぇよ、と内心思いながら
「ああ」
とだけ返答した。機転がきかねぇな……俺。
また後で、と逸乃はスマホをポケットに戻した。
AIパートナー?仲良くね?……なんか彼氏っぽい感じなかったけどな。
所詮お人形さんじゃん、と思いつつ、逸乃のホクホクした顔を見るとモヤるんだよな。
校門にカナの姿はなく、教室でタクと珍しく喋っていた。
「おはよ、カナ、どしたの?」
逸乃も違和感あったようだ。
「逸乃、おはよ。違う学年の男子にLINE ID教えてとか言われて、面倒だったから通りすがりのタクと一緒に教室に入った。」
カナはモテるようだ。まぁ、見た目はわかりやすいよな。
「ねぇ、土曜日、何着ていくか決めた?」
黒木さんたちとのイベントのことか。終わるまで二人はこの話題か。
昼休みは昨日と同様、タクと口数少なく弁当を食べ、放課後も校門でそれぞれ別れる。
学校から出て数分歩いたところで思い出したように口火を切る。
「逸乃、今日の授業の一部でわかりにくいとこあったから、教えてくれん?」
「え?今?」
「あ、いや、歩きながらじゃなんだから、俺ん家に寄って……」
「あぁ、予定ないしいいよ」
よっしゃああ。逸乃は断らないと思ったとよ。
母さんが仕事に出て居ないので、俺が玄関のカギをあける。
「変わってないねぇ、おじゃましまぁす」
以前と変わらない様子で、逸乃は靴を脱いでスッと俺ん家に入る。
そして俺より先に俺の部屋に入る。
いつもそうだった、当たり前の風景だった。
「なんかサッパリしてるね」
カバンをおろして真ん中に置いたテーブルに肘をつく。
「うん、小学生以来だろ?そりゃ変わるわ」
照れながら俺もカバンをいつもの場所にひっかける。
「あっ、まだこのぬいぐるみあるっちゃ」
さり気にセッティングしておいた、懐かしいシリーズのグッズに手を伸ばす逸乃に満足する俺。
「祭りの時に逸が意地になって、取ったっちゃが。これに二人で頭並べて昼寝してたっちゃ」
もう嬉しくてたまらん。俺と逸乃は小学生の頃の話で盛り上がった。
「ふふ、ほんと面白かったよねぇ、あ、そういや何か教えなきゃいけなかったんじゃ?」
逸乃が気づいてしまった。
「そうだった、あ、ちょっと待って、飲み物とってくる」
喋り過ぎて喉乾いた。
母さんが用意しといてくれてるハズ、と台所に向かう。
……あれ?冷蔵庫に2つの日向夏ゼリーの缶。これ……飲むゼリーじゃん。
母さんを責めてはイカン、俺の言葉足らずだったんだ、と言い聞かせ、そのまま両手に持って部屋に戻る。
「逸乃、これ飲める?」
俺は飲んだことないが地元ではそこそこ人気のあるゼリー飲料だ。
「わ、懐かしい、日向夏ゼリー飲料!久しぶりに飲む」
喜んで手を出した逸乃の指先が俺の指先にも触れて小さく心臓が跳ねた。
可愛い、そしてこの、ドキッとした感覚が心地よい。
「あ、逸、振らないと飲めんちゃない?」
プシッと音を立てると同時に逸乃が言った。
「ここにも書いてあるんだけど、こうやって振らないと……」
逸乃が缶を振ってる姿がまた可愛くてジッと見てしまう。
同じ音がして逸乃が顎を上げてゼリーを飲む姿を引き続きじっと見る。
「うんうん……美味しい」
嬉しそうな逸乃にニヤける俺。
……って、俺も喉が渇いてるから飲もう。
「ぷふっ……ホラ、ね?」
逸乃が笑いだす。
そう、俺は振らずに開けたがために、中でゼリーがクラッシュしないままで、でてこないのだ。
あわてて上下に顔の上でふってもビクともしない。飲めない……。
「あるあるだよ、ゼリー飲料」
「はは」
カッコ悪……でも嬉しい。
「ストローがあれば飲めるよ」
俺は台所にストローを取りに行き、急いで部屋に戻る。
「どこがわからんかったと?」
夕方の暖色の景色に、机に肘をついて俺を見る逸乃にまた見惚れてしまう。
逸乃のこと……好きでよかった。
とりあえず缶にストローだけさして横に座る。
昨夜予習しておいた、付箋の貼った、わからないフリをするページを開いた。
「ん~これはね、こっちの公式使うとよ、わかれば簡単」
逸乃は俺のペンケースから3色ボールペンをだして赤で書きたした。
わかってる……俺はこうやって逸乃に近づきたかっただけ。
「わかった?」
「はっ、はいっ」
体があきらさまにビクっと動いた。
「びっくりし過ぎやが」
笑う逸乃。
俺はわかったフリをしてお礼を言う。
「そろそろ帰るね」
――はい、満足致しました。
逸乃を玄関から出て分かれ道まで見送って、部屋に戻る。
何とも言えない高揚感で俺は口元が緩みっぱなしだった。
難しくないじゃん、これで逸乃との距離はどんどん縮まるってこっちゃろ?
ニヤける俺に母さんは何も言わなかったし、ゼリー違いのこともあえて指摘しなかった。
翌朝も逸乃を迎えに行き、登校時には誘わずに、下校中に誘おう、と、たわいもない話をしながら学校に到着。
昼休みはやはり、タクと二人きりのランチタイムとなった。
「タク、俺昨日、逸乃と一緒に勉強した」
「ふーん」
いや、ふーん、じゃなくて。あ、言葉足らずだった。
「俺ん家で、二人きりで、俺の部屋で、勉強した」
……鼻息噴射。
「え、マジで?」
いいね、その反応。
「楽しかったっちゃ~」
「……で?」
ん?……で、って?何か足りないものありますか?
「フッ……凄いな」
息で笑ってるけど、何がおかしかった?
「高校生にもなって、男女二人きりで勉強して、感想が楽しかったって無邪気に言われて……小学生かよってツッコミしかでないんだけど」
「……」
俺、なにか間違ってる?わかんねぇ。
「完全に原田のこと幼馴染ってだけで、男として見てない感100だな」
「……」
「まぁ、原田のやり方やろ、いいんじゃない?」
男として見られてない……。
頭の中で何度も響くセリフだった。
帰りに逸乃と一緒に帰ろうとしたら、カナが連れ去ってしまった。
明日の作戦会議をするとかで。
そっか、明日はイベント「グループデート」の日だ。
俺は月曜日に報告を待つしかできない。
待つしか……これが一番しんどい。




