グループデート
逸乃がデートらしきイベントを遂行しているであろう当日は考えたくなくて、ゲームと動画を見て気を紛らわせていた。
日曜日は母さんが休みだから、と買い物につきあったらシャツを買ってくれた。
その後、自分からはチョイスしない「恋愛ドラマ」を見て何故か涙した。
「ずっと好きだった」という男の単純なセリフに感動が止まなかった。
そして、月曜日の朝、少しドキドキしながら逸乃を迎えに行った。
「逸ちゃん、ごめんね、もう来ると思うっちゃけど」
いつもと変わらない雰囲気で、同じようにおばさんから弁当を受け取る。
「逸、おはよ」
「ああ、おはよ」
逸乃も変わりなさげだった。
イベントのことは気になるがどう聞けばいいかわからん。
……でも聞きたい。
「土曜日……どこで遊んだと?」
口が開いた。
「あぁ、篤美ちゃんと遊びに行ったときのこと?日向のカラオケに行ったとよ」
へ……へえ。男女6人で部屋、貸し切りってやつか。
「そこね、ドリンクやスナックも出るし、結構楽しめたよ」
店の説明はどうでもいいが。
……楽しめた?
「私とカナでパンケーキ半分っこした」
そうかそうか、いや、そんなことどうでもいいんやて。
「その……男子も来ちょったと?」
気になってストレートに聞いてしまった。
「そうそう、なんかねぇ、ほんと、年上~って感じだった。篤美ちゃんの彼氏」
だから……人の彼氏はどうでも良いわ。
「逸乃は他の男子と何か喋ったん?」
なぜか唾を飲む。
「あぁ、何喋ったっけ。カラオケで騒いだりして何喋ってたか忘れちゃった」
「誰と喋ったん?」
「篤美ちゃんと、篤美ちゃんの彼氏と。ラブラブって感じやったよ」
なんか、聞きたい事じゃないんだよなぁ……。
「逸乃、おっはよ」
状況がよくわからないまま学校に着いてしまった。逸乃はカナにとられる。
教室に入ると、黒木さんは不機嫌そうな顔をしていた。
「おはよ、篤美ちゃん、土曜日、楽しかった」
逸乃が声をかけた瞬間、黒木さんはカナと逸乃を睨んだ。
「昼休み、反省会するから」
……と一言。
——え?反省会?
俺は気になって、どうやってその反省会の内容を聞き取ろうかと考えた。
最近弁当をタクの席で食べていたが、俺の席の方が黒木さんの席に近い。
チャイムがなるなり、タクに手を振る。
「タク、たまにはこっちこいよ、日向だからあったかいぞ」
強引にタクを呼んだら、察したのか、持参のコンビニ弁当を持って来てくれた。
逸乃とカナは弁当を交換する間がなかったようで、すぐに黒木さんの席に移動した。
俺とタクはアイコンタクトをして耳をすます。
聞き取れそうだ。
「いただきまぁす」
のんきなカナの声。
「まずは、カナ、フリードリンクだからって、飲みすぎ、で、トイレに立ちすぎ」
カナへのダメ出しからいきなり始まった。
「え?フリーだったから……。あと冷たいのばっか飲んでたらトイレ近くなって」
反省の色ゼロじゃん。
聞き耳をたてながらカナらしいと思った。
「あと、黙々と食べてなかった?何しに来たわけ?」
タクは笑うのをこらえているようだった。
「高山くんも、金岡くんも盛り上げようとしてんのにカナ食べて飲んで、おっさんみたいだったし」
俺も吹きそうになった。
リアルな光景が目に浮かぶ。
「そうそう、パンケーキ、美味しかったよね、あまり篤美ちゃん食べなかったね」
逸乃が加わる。
「あのねぇ……今回のイベントは、食べるのが目的じゃないのよ」
黒木さんが逸乃のほうに目線を移した。
「逸乃、私の彼氏にインタビューしすぎ、彼困ってたでしょうが」
え?逸乃なにやってんの……。
「めっちゃ良い人じゃん、イケメンで優しい感じで、モテそう」
「そりゃ、私の彼氏だからね……じゃなくて!高山くんも金岡くんも話足りないって言ってたって!」
黒木さんは逸乃とカナのダメ出しを続けていた。
二人の表情をチラ見すると、どうもわかって無さげ。
「また遊ぼうよって言われたけど、私的には迷うわ」
「なんか……ごめん」
謝るが、わかってないっぽい逸乃。
「多分ね、カナも逸乃も恋愛わかってないのよ」
黒木さん、少し上から目線じゃないかな?
「そうかなぁ……私、彼氏いてたよ」
おおっとぉ、まさかの爆弾発言。
まぁ、カナはモテるだろうからあるかもな。
「え?カナ、彼氏いてたんだ?いつ?どれくらいつきあってたの?」
逸乃のテンションに黒木さんがため息をついた。
「なんか話になんない。まず、誰かを好きになることからかもね」
2人は「へっ?」という顔をする。
「テスト終わったら、クラスマッチって球技大会あるんよ、それって、まぁまぁ恋が始まるイベントでもある、それにかけてみよう」
黒木さんが何か提案した。球技大会がなんで恋の始まりなんだ?
「彼氏が言うにはね、やっぱ、スポーツの大会とかイベントって、感情が動きやすいんよ、男子も女子も真剣勝負するし、応援とかで盛り上がるしね」
ほほぅ……それは確かに期待できそうなイベントかも。
「二人はズレてるけど、私がいろいろ教えてあげるわ。恋愛はほんとに楽しいし、やっぱり高校生活で大事なことだと思うんよね」
“ズレてる”は面白いが、二人はウンウンと頷いている。
もちろん、俺も恋愛は大事だと思ってるぞ。
黒木さんは反省会をうまくまとめたようだった。
俺はお茶を飲みながらタクに視線を戻した。
「何か思いついたのか?」
タクも俺が頷いてるのを見てたのか。
「イベントで距離縮めるっちゃが」
「フッ、おもしろそうだな」
鼻で笑いながら言う、タクの“おもしろそう”はどういう意味かわからんけど、俺は活用したい。
「タク、俺……スポーツ、あまり得意ではないんだが」
素直に言ったらタクは、声を出さずに肩を震わせて笑っていた。
いや、何かうまくやれる方法あるだろ。
「まぁ、テスト終わってから考えよう」
タクは目じりを拭いながら言った。協力してくれるっちゃ?
ただ、めっちゃウケてたな。
俺はテストと別の課題ができた。
次こそは……ちゃんと……何か残したい。




