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8:「タクの家]で余計なことを知る

「おーい、静かに。高校に入って初めてのテストの結果だ。良かった奴は更にそれ以上の結果を、反省すべき奴は次に活かせ。」

担任から受け取った、答案用紙をみて反省組の俺。

もちろん昼休みはこの話題になる。

「逸、どうやったと?」

俺の心配してくれる逸乃、……好き。

「ああ……次回はもう少し頑張ろうかな」

さり気なく反省組アピール。

「え、逸乃もタクも余裕やったん?」

カナ、お前こそどうだったんだよ。

今日も当たり前のように持ち寄った弁当は4人でシェアして食べることになっている。

俺、また()()()パン食べてるんだけど。

「おい、マジかよ」

タクがカナの答案用紙を見て静かに言った。

「は?赤点じゃないからいいじゃん」

開き直るカナ。

「カナ、赤点だと再テストになるよ?今度の期末は範囲広くなるっちゃ」

逸乃がサラっという。

……俺も他人ごとではない。チキン南蛮サンドに手を伸ばす。

「え~何回もテストとか最悪ぅ……」

俺の弁当箱から卵焼きを箸で刺して口にほおりこむ。

でけぇ口だな。ダシ巻き玉子の汁が若干とんだ気もする。

「中野、ギリギリが3教科もあるじゃん」

机にとんだ汁を拭き取りながら指摘するタク。

「カナ、ちょっとそれは心配、夏休みに補習とかで学校にくることになるよ?」

逸乃は優しく、厳しい現実を告げた。

さすがに効いたか、カナの顔色が変わった。

「ヤダヤダ、夏休みは逸乃と遊ばなきゃいけないし、バイトもしてみたいんだよー」

そういうことだけはちゃっかり予定してるんだ……って俺もヤバいんだ。

「んじゃさ、4人で勉強会するっちゃ」

逸乃……ナイスすぎる。

「えぇ~勉強会っ」

露骨に嫌な表情になるカナ。んじゃどーすんだよっ。

「タク、家、学校から近いし、駅の方向だったでしょ?いいでしょ?」

逸乃、強引じゃね?それ……。

タクの顔色を見るが相変わらず前髪で見えねぇ。

「ん~……まぁ、別に構わない……けど」

「じゃ、コープ寄ってお菓子買っていかなきゃ」

「カナ、飲み物だけにしとこ、お菓子食べだしたら勉強になんない」

鋭いツッコミを秒で返す逸乃。お、マジじゃん。

逸乃は友達想いだよなぁ、最高にいい奴。

「わかったぁ」

口をつぐんだ顔はわかってねぇ証拠だよ。


タクの家は学校から歩いて5分だ。

ただ、カナがコープで飲み物だけの約束なのに、お菓子売り場に寄ったので20分かかった。

「わぁ、さすが漁師さんの家、おっきいね」

目の前には古いながらも大きな平屋だった。

タクは玄関の引き戸を開けて俺たちに入るよう促す。

鍵かけてないところをみると家に誰かいるのかな。

「あ、そっちの部屋で父さん、寝てるから挨拶せんと奥まで行って」

「お邪魔しまーす」

抑えた声でカナが一番に玄関から廊下に入る。

ツンとアルコール臭が鼻を刺した。

逸乃も静かに靴を脱いでカナの後に続く。

縁側を抜けるとリフォームで継ぎ足したような間取り。

ドアには鍵がついている。

タクは鍵を差し込んでドアを開けた。

「入って」

3人続いて部屋に入ると、タクはドアを静かにしめて鍵をかけた。

「広っ……何部屋あるんっこの家」

カナはカバンをすぐに床に置いて室内を見渡した。

「あぁ、この部屋は兄貴と姉貴と3人で使ってたから」

確かに広い、で、本棚すげぇ。

「言っちょったね、お兄さんは社会人で出てるって。お姉さんは時々戻ってくるんだよね、キャラ弁美味しいっちゃ」

逸乃は本棚にも興味があるようだ。なんかタクといろいろ話してんだな。

「漫画もあるじゃん」

カナが本棚に手をのばす。

「カナ、勉強しよ」

逸乃が慌ててカナを引き留めた。

そうそう、勉強しにきたんだぜ。

タクが折り畳みの机を部屋の中央に設置し、4人で座る。

突然言われてもOK出せるくらい整理された部屋だな。

タクらしいって思えた。


「できたできた、これで終わっていい?」

座って15分しか経っていない。おいおい。

「カナ、まだ始めたとこじゃん。ここ間違ってる、これ解けなかったらほとんど解けないよ」

的確な逸乃にムッとするカナ。

「中野、ここは、これをこうやってすればわかりやすい」

タクがカナに教える。しぶしぶ続きをするカナ。

「これってこういうこと?」

俺も逸乃にくっついてみる。

「そそ、それでここまで解いてみて、見直ししたげるから」

あぁ……逸乃先生っ。勉強会イイじゃん。

最後の1問を解いてるところでカナが俺の鼻の穴にグミを差し込んできた。

「逸、これで頭が冴えるよ」

おいっ、もうサボってんじゃん。

「あははは、逸、鼻血みたい」

俺をみて笑う逸乃、嬉しいが勝つ。

カナは30分もたなかったようだ。

俺は鼻から何味かわからない赤黒いグミを口に移す。

「おぉ……海が見えるじゃん」

カナは完全に勉強する気無いな。

「2問間違い」

タクがカナのノートを開けた状態で戻す。

「上出来じゃん、休憩するぅ」

外を眺めるカナをわき目に、俺は逸乃先生目的でやり遂げたノートを献上する。

「OK、逸、見たげる」

採点する逸乃の横でタクは小さくため息をついてカナを諦めた。


「お邪魔しましたぁ~」帰りは声を張るカナ。

タクのお母さんが帰っていたようだ。

「ごめんねぇ、かまっちゃれんでねぇ」

気さくなおばさんって感じだった。

「また週末来てもいいですか?」

逸乃はタクではなくおばさんに許可をとった。

「いいよ、週末ね、今週末は拓弥もピアノ、なかったし、姉ちゃんが帰ってくるとよ、なんかおやつ作ってもらうっちゃが」

「ほんとですか?」

「おやつぅ」

遠慮がない女子二人。タクが返事する間もない。

おばさんは俺たちに手に提げていた袋から1個ずつ日向夏を手渡してくれた。

タクはカナを駅まで送り、俺と逸乃は逆方向の自宅に向かった。


「感じのいいおばさんだったっちゃ」

日向夏を嗅ぎながら逸乃。

「今度はキャラ弁作ってるお姉さんにも会うことになるっちゃが」

なかなか俺の口に入ることがないけど。

「ほんとだ……なんかお礼したいなぁ」

おぉ、逸乃らしく自然に気が利く。

しかし、逸乃はタクのこと、どんだけ知ってるんだ?

それとマイペースに事を運ぶのも昔と変わっちゃいないなぁ、とも。

でも悪くない。逸乃先生、と、赤点回避は大事だ。

逸乃と分かれて、自分の部屋で着替えながらふと思った。

タクと逸乃の距離近くなってね?

んで、朔ってたかがAIなんだが「彼氏」なんだよな?

カナはどーでもいいけど、俺と逸乃の間は変わってないんじゃ?

頭ン中、タクは逸乃のことどう思ってるんだろう、と考えるようになった。

そして逸乃の思う「彼氏」とはなんなんだ。


翌日の朝、いつものように俺は逸乃の家に寄って一緒に登校する。

もちろん一番気になることは聞けない。

教室について4人になっても、タクと逸乃が喋ってるのを見るとまたそれが気になる。

「おいっ、てよ」

「でっ、なんだよ」

カナに頭を人差し指でコツかれてムッとなる俺。

「逸ってどんくらい逸乃のこと好きなん?」

は?

挿絵(By みてみん)

露骨に今頃聞くかよ。俺答えなきゃなんねぇの?

「なぁんかさぁ、逸乃って誰にでも平等って感じだもんね~。私は逸乃のこと好きだから、逸よりも逸乃を応援するよ」

何言ってんだこいつ?

「カナ、どういうことだよ」

さすがに聞いた。

「逸乃は恋がしたいわけじゃん?それが逸でなくても、応援するってことだよ」

……なんか重たいものがズシッと上から肩に落ちてきた。

「だからぁ、私は逸乃が好きだから、逸乃を応援するってこと」

なんの宣言だよッ。

カナはニヤニヤしながら飲み干したカフェオレのパックをゴミ箱まで持って行った。

逸乃は楽しそうにタクと話している。……まさか?

一気にいろんな妄想が頭をよぎった。いや、無いない。


週末、学校は休みで、朝から集まることになり、逸乃とタクの家に向かっている。

逸乃の婆ちゃんに持たされた、野菜、ウチの母さんにも何かもたされて、勉強会なのかよ、な荷物である。

「おぉ、入れよ」

窓から姿が見えたのか、インターホン押す前に玄関からタクが出てきた。

「これぇ」

逸乃と俺で荷物を突き出す。

「気ぃつかわんでいいっちゃが」

タクは言いながら受け取り、台所に持って行った。

今日はアルコールの臭いはしない。

「姉貴がもうすぐしたら来るっちゃ、部屋で勉強始めよ」

渡り廊下を通って部屋に入る。

「あれ、早っ、カナ」

逸乃はカバンを降ろしてカナの横に座る。

いやいや、漫画読んでんじゃん。

勉強する気ほぼ無いじゃん。

呆れ顔で俺はカナを見ていたが、カナは俺を見て勝ち誇ったような顔をする。

「楽しい勉強するかなぁ~」

コイツなにか企んでんじゃね?


20分くらいしてカナは大きくため息をついた。

やっぱりな。

「ん~休憩」

後ろに寝転がったカナ。

「あとこれだけ解いてからにしよ?」

逸乃が優しく促す。

カナ蘇生、問題にとりかかる。あれ?復活した。

「数学はなんとかいけそう?」

逸乃先生はタクと目を合わせて言った。

んーまぁ、先生はこの二人だからな。なんかモヤるけど。

「休憩ぃ」

カナは寝転がって漫画の続きを読み始めた。

「次なにする?英語?公民?」

逸乃が俺にふってきた。どっちも嫌だけど、赤点はもっと嫌。

コンコンとドアのノック音

「姉貴ぃ?いいよ、開けても」

今日鍵はかけてなかったはず。

「いらっしゃい、とりあえずお茶入れてきた、お昼なにがいいと?」

お姉さんはお茶と切り分けた日向夏が入った皿をお盆ごとタクの机に置いた。

「お邪魔してます」

逸乃はぺこりと頭を下げ、俺も頭を下げた。

カナは寝転がったまま頭を下げる(横着だぞ)

「あぁ、なんでもいいっちゃ、なんでも食うよ」

雑に答えるタク。

「私、オムライス食べたい」

あつかましいなカナ、びっくりだぜ。

「ふふ、オムライス?いいよ作っても」

快諾、良い人っちゃ。

「キャラ弁、いつもみんなで食べてるんです、で、カナがオムライス気に入ってて」

優しい逸乃はナイスフォロー。それでもあつかましいんだぞ。

「嬉しいな~そう言ってもらえると。じゃ、オムライスと何かつくるからそれまで勉強ちゃんとするっちゃよ」

そう言って部屋から出て行った。

「私これ好き」

体を起こしてすぐ日向夏に手を出すカナ。

タクは素早くティッシュボックスに手をかける。

「良い感じのお姉さんやね」

逸乃、タクのお姉さんとまで仲良くなりそうで焦る。

「11時なったら勉強再開しよ?」

口いっぱいに日向夏を入れてるカナに逸乃が言った。

「お前ろくに勉強してねーじゃん」

「してるよームカつくなぁ」

「でっ……なにすん」

日向夏の皮を俺に投げてきやがった。

「ふふっ、逸とカナ仲良いじゃん」

がぁーん、逸乃には言われたくなかった。

タクは落ちた日向夏の皮を拾ってゴミ箱に投げ入れる。口元笑ってた?

いやいや、冗談じゃない、違う。

こんなラブコメっぽい展開、要らんっ。


勉強を再開し、1時間・・・いや45分くらいでカナが根を上げた。

まぁ、良い方だろう。

「リスニングとかもあるのかな?」

机の上を片付けながら逸乃が言った。

「どーだろね」

手際よくテーブルを拭いているタク。部屋のドアが開いた。

「あ、ごめん、手ぇふさがっててノックできんかったっちゃ」

お姉さんがお昼ご飯を持ってきた。

逸乃はスッと立ち上がり受け取る。

さすが逸乃……その動作にときめく俺。

「わ、凄っ、美味しそう」

カナも立ち上がって覗き込む。

「あと、取り皿とお茶のポットだけとりにきてもらっていい?」

「OK~」

カナと逸乃がお姉さんの後を追った。

机に置かれた大皿には、大きなオムライスと(せん)キャベツの上にチキン南蛮が盛り付けてあった。

「姉貴が好きなんだよ、両方とも」

いつものやつ……という表情をするタク。

「嬉しいなっ」

上機嫌で戻ってきたカナが皿を並べ、お姉さんも嬉しそうな顔をしている。

「逸乃ちゃん、さっき使ったお皿下げるからとってもらっていい?」

逸乃が日向夏が入ってた皿をお姉さんに手渡す。

「逸乃ちゃんってさ、ホラ、前付き合ってた麻衣さんに似ちょるね」

・・・・・・。

えぇっ!?

タクの動きが一瞬止まる。

ワンテンポ遅れて、お姉さんはそそくさと部屋を出て行った。

「食べよっ、美味しいねこれ、絶対っ」

カナも若干動揺しているが空気を動かす。

長く感じたが1分くらいの沈黙だったと思う。

「うんまぁ……オムライス大好き」

カナの一声で部屋の空気が一気に変わる。

「美味しい、このチキン南蛮、まさかタルタルソースも手作り?」

逸乃はタルタルソース好きだもんな。

「これは市販のやつ」

タクの返事でまた1分ほど沈黙。

「タク、彼女いてたんだ」

やめろ、カナ、掘り返すな。

「中学ん時の話」

黙々とオムライスを口に運ぶタク。

俺はチラ見してチキン南蛮を口に入れる。

出していい言葉が思いつかん。

微妙な空気ながらも、ぺろりとたいらげ、勉強再開。

何事もなかったかのように静かにお開きの時間を迎えた。

カナはタクから借りた漫画本を紙袋に入れて駅まで送ってもらい、俺と逸乃は逆方向に向かって歩き出す。

自然に二人きりになると気になっていたタクの元カノの話が出てしまう。

「中学の時って、早いよね」

ボソっと逸乃。

「ん、ああ、そうだな」

言葉に詰まる。

「私に似てるのかな」

うっ……そういえばお姉さんそう言ってたな。

急に大きな不安の波が押し寄せてきた。

2人ともそのまま喋らずそれぞれ帰宅。

独りになると頭ン中で俺と俺の会話が始まる。

タク彼女いてた、しかも逸乃に似てる?

……⁉

タクと逸乃最近めっちゃ仲良くない?

タクのお姉さん「逸乃ちゃん」って名前で呼んでた。

タクもしかして逸乃のこと……

逸乃、もしかしてタクのこと……まさか……ね。

勉強したこと半分ほどリセットしたような、不安にのまれた夜になった。

挿絵(By みてみん)


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