5:交流イベント「遠足」
今週半ば、新入生歓迎の「遠足」がある。
主に2年生が新入生に学校案内をするといった内容だ。
それに向けてHRで班分けをすることになった。
俺は逸乃と動きたい。
「先生」手を挙げたのは、またもや上西。
「グループ決めは平等にくじ引きでいいっちゃない?」
もちろん教室内はざわつく。
「はい」カナが手を挙げた。
「まだ学校きて不慣れだから自由に決めたいでーす」
いいぞ、カナ、教室に同意の空気。
「わかったぁ、楽しく参加してほしいからなぁ、今回は自由でいいかぁ」
時計をチラッと見て
「んじゃ1班6人な、20分までに決めろ~始め」
担任、ちょろくて助かる。
俺は即、逸乃の席に向かう。
当然、カナはタクの机の上に座っている。
——4人、当たり前みたいに瞬間決定。
あと二人……。目が合った女子二人に声をかけようとしたら逃げられた。
「あ、そこのご夫婦、こちらへ」
カナが男女ペアに声をかけている。
夫婦?と思わず心の中でツッコむ。
「ちょうどいいじゃん、気を使わなくて済むっぽい」
男女ペアは嬉しそうに二人で近づいてきた。
「俺ら一緒に行動したいけん、ええよ、この班で」
男子、黒木剛稔のほうが快諾した。
「幼馴染カップルで夫婦呼ばわりされてんのよ」
カナは俺の顔をチラ見して紹介した。
タクも続いて俺をチラ見したのがわかった。
・・・・・・いろんな意味で超イイじゃん。
HRも終わり、当たり前のようにカナが逸乃から弁当を受け取る。
いや、それ俺の弁当なんだけど。
「あれ?タク……」
弁当をだしたタクに逸乃が興味を持つ。
「姉貴が……」
「タク、お姉さんいるんだぁ」
カナはコンビニのおにぎりを、俺におしつけてタクの弁当の蓋を開けている。
非常識ギャルめ。
「うっわぁ……マジ?」
まさかのキャラ弁。おいおい、と思ったが普通にタクはキャラの説明を逸乃とカナにしていた。キャラの説明聞いてもわからんけど。
でも逸乃が嬉しそうだし可愛いからイイ。
俺をチラ見するタク。カナとも目が合う。
……なんのタイミングで見てんだよ。
カナと逸乃はキャラ弁を写メでとり、3つの弁当を3人でシェアして食べ始める。
おにぎりを食べる寂しい俺。
「遠足ってさ、2年生と交流あんだよね」
カナが逸乃にふってるのに俺をチラ見する。
「そー、あるかもなんだよねー」
逸乃が意味深発言。
「あるある!入学式んときにさぁ、トイレ聞いたらめっちゃ感じいい先輩いてさぁ」
時々ご飯粒をとばすカナ、それをさりげに拾うタク。
「先輩との恋もあるかと」
逸乃のセリフに飲み込み途中のご飯粒が鼻へと逆流する。
「ブフッ」
鼻が痛いのと同時に心臓にもツンとした感覚。
「だよねだよね~逸乃、恋するんだもんね~」
逸乃に言いながら俺を見てニヤニヤすんのよせ。
タクに出されたティッシュで鼻を拭いて落ち着く。
そうだった。逸乃「恋します」宣言してるんだった。(俺もしたけど)
ただ彼氏いるとか言ってたし……言いながら逸乃が2年生に案内されてるシーンを妄想する。
いや、先輩は男子とは限らない(希望)
当日、快晴の下、逸乃と俺が違う下心を実行する「遠足日和」。
雰囲気が違う逸乃に胸騒ぎ。
「いいねいいねぇ、逸乃その色付きリップ似合ってるよ」
自慢げにカナが俺をチラ見。
口元……リップ!?……。
俺は首が軋むような回し方で振り返り口元を凝視する…息が、止まった。
「露骨すぎ」ボソッと言うタクと、声出して笑うカナが俺を凝視。
俺の為ではない感が違うキュン撃ち。小さくうなる俺に
「別行動でいいっちゃろ?」
同じ班になった夫婦の夫が笑顔で。羨まし過ぎ。
縦に頷くと手をつないだ夫婦は躊躇なく俺たちの班から離れ、すぐに4人になった。
「どこから行こうか……」
逸乃に声掛けるも
「まずはスポーツ系兄さん見に行こう!」
カナが答えた。
なんで兄さん見に行かなきゃなんねんだよ……だよな
不純な目的、丸わかりだ。
俺とタクは2人の3歩後ろを歩いた。
体育館の入り口で一目見てわかる2年生が近づいてきた。
王道かよ、って感じの爽やかな筋肉青年二人がカナと逸乃にロックオン。
もれなく後ろの男子二人もついてますけどね。
スポーツ系という科目の案内を女子二人に案内する図。
一人は逸乃を違う目でチラチラ見ていた。いつものことだ、逸乃もわかってる。
「どーよ、逸乃」
カナは感想を急かすが期待はずれだったようだ。
いいぞ、逸乃は簡単じゃないんだ。
次に生活科に向かった。ここでは男女ペアの先輩が案内してくれた。
意外に男子多い。家事がデキる男が増えてるもんな。
カナや逸乃をチラ見する奴もいる。
「食品加工・ビジネス科」は人気が高く、同じ班の夫婦が体験でジャムの瓶詰をしている姿があった。
「私さぁ、この科に興味あってここ来たんだよね」
カナが案内のパンフを受け取って言う。
喫茶スペースに通されてハーブティーとスコーンを出された。
「意外」ボソっとタク。
「健一……あ、お父さんがね、キッチンカーしててさ、なぁんかへたくそでさ、私がやったほうが上手くいくんじゃないかって」
おいおい、コイツ意外にきちんと考えてる?
スコーンをボロボロ落としながら食ってんの気になるけど。
「へぇ、カナ、お父さん思いなんだぁ……お仕事手伝ったりしてるっちゃ」
「したことない」
即答で返され、笑うしかない逸乃。
「俺家が近いだけでここ選んだけど」
カナがこぼしたスコーンのカスをおしぼりで処理しながらタクが言う
……お前いつもさりげないな
「でも食い物関連の仕事って強いよな」
ぼんやりしてるカナとは対照的だな……って俺なんか逸乃目的でここ選んだだけ。
「でもカナはしっかりしてるよね」
そぉかなぁと照れ笑いするカナ、意外な一面見たような気もする。
この後、栽培ビジネス科を見に行った。農業や林業の後継者育成でも評価が高い。
「林業ってかっこいいっちゃがぁ、逸、二人でよう山に入ったよね」
懐かしい振りに、じわっと熱くなる俺。
猟や林業をしている人たちが幼い頃の俺たちにとっては特別にかっこよく映った。
瞬時に「猟銃を担いだ俺を、ザルいっぱいのシイタケを持つ若妻の逸乃が送り出す」を想像する。
「栽培ってロマンよね」
わかるようなわからないようなことを言う逸乃に誰もツッコミは入れなかった。
新入生のためツアーは体験もあり、不純な動機はさておき、なかなか充実した日になった。
……と思ったのはこの日の放課後までで、帰り際にモヤモヤ案件発生。
「さっきさ、LINE交換言ってきた男子いたぁ」のカナ発言。
え?いつの間に?さすが先輩方、大胆……まさか逸乃も?
「私も声かけられた」ええっ……
覗いたら逸乃が手に持ってるのは「ボランティアサークル」の案内だった。
ホッとしたが、イカンイカン、俺は逸乃から目が離せないからな。
カナはモテキャラだからその傍にいる逸乃も巻き添えくらうに違いない
……油断できない。そう思わされた一日の締めだった。




